樹枝状角膜炎は単純ヘルペスウイルス(HSV)による角膜上皮感染症で、非常に特徴的な臨床所見を呈します。最も重要な診断所見は、フルオレセイン染色で確認される樹枝状病変です。
主要症状 📋
樹枝状角膜炎の最大の特徴は、末端膨大部(terminal bulb)の存在です。これは病変の先端が先細りにならず、膨らんだ状態となっている所見で、他の疾患との重要な鑑別点となります。また、上皮内浸潤により病変辺縁部の上皮が盛り上がり、樹枝状の上皮欠損全体が明確に縁取られたような外観を呈します。
角膜知覚の低下も特徴的な所見で、これはヘルペスウイルスが三叉神経に潜伏感染していることと関連しています。病変部以外の上皮は正常であることも、診断の重要なポイントです。
樹枝状角膜炎の鑑別診断において最も重要なのは、アカントアメーバ角膜炎との区別です。両者は類似した樹枝状病変を呈するため、正確な鑑別が治療方針決定に極めて重要です。
樹枝状角膜炎(HSV)の特徴 🔬
アカントアメーバ角膜炎の特徴 ⚡
診断確定には、HSVの分離培養同定、蛍光抗体法によるHSV抗原の証明、PCR法によるウイルスDNAの証明などが有用です。特にPCR法は感度が高く、迅速診断に適しています。
コンタクトレンズ装用者で診療所に水道水を使用したケアの既往がある場合は、アカントアメーバ角膜炎の可能性を強く疑う必要があります。
樹枝状角膜炎の治療において、抗ウイルス薬の適切な選択と投与法が治療成功の鍵となります。現在の標準治療は、アシクロビル眼軟膏を基本とした外用療法です。
第一選択治療薬 💊
アシクロビル眼軟膏の副作用として、眼瞼結膜炎や下方の点状表層角膜炎(SPK)が報告されているため、投与量の適切な調整が必要です。正しく使用していても1週間以上効果が現れない場合は、他の原因や耐性株の可能性を疑います。
代替治療選択肢 🏥
海外では、ガンシクロビルゲルやトリフルリジン点眼薬も使用されており、これらは外用療法として効果的です。重症例や免疫不全患者では、静注によるアシクロビル投与(5mg/kg 8時間毎)が必要になる場合があります。
細菌感染予防の目的で抗菌点眼薬を併用することもあります。ただし、上皮型角膜ヘルペスに対してステロイド点眼薬は禁忌とされています。
樹枝状角膜炎は再発性疾患であり、長期的な管理戦略が重要です。ヘルペスウイルスは三叉神経節に潜伏感染し、免疫力低下時に再活性化します。
再発の誘因 ⚠️
頻回再発例では、再発抑制療法として長期の経口抗ウイルス薬投与が検討されます。アシクロビル400mg 1日2回、またはバラシクロビル500-1000mg 1日1回の投与により、再発頻度を減少させることができます。
再発予防のポイント 🛡️
再発を繰り返すと角膜混濁や視力障害を残す可能性があり、重症例では角膜穿孔により角膜移植が必要となる場合もあります。そのため、早期発見・早期治療と適切な長期管理が不可欠です。
樹枝状角膜炎の治療において、他の眼疾患との併発時や全身疾患を有する患者では、薬物相互作用や併用注意事項への配慮が重要です。特に実質型角膜ヘルペスへの移行例では、治療戦略が大きく変わります。
実質型への移行時の治療変更 🏥
実質型角膜ヘルペスでは、アシクロビル眼軟膏に加えてステロイド点眼薬の併用が必要になります。これは免疫反応による角膜実質の炎症を抑制するためです。しかし、ステロイド単独使用は上皮型の再発・悪化を招く可能性があるため、必ず抗ウイルス薬との併用が原則です。
1%酢酸プレドニゾロン点眼薬の使用法
併用薬剤への注意点 ⚕️
症状緩和のための補助療法 💡
羞明緩和のために、1%アトロピンまたは0.25%スコポラミンの1日3回投与が有効です。これらの散瞳薬により、毛様体筋の緊張を和らげ、疼痛軽減効果が期待できます。
治療抵抗性症例への対応 🔄
アシクロビル耐性株による治療抵抗性症例では、ガンシクロビルやトリフルリジンなどの代替薬が必要になります。また、薬物療法開始前に、樹枝状病変を囲む浮腫状の角膜上皮を綿棒で軽く除去することにより、治癒が促進される場合があります。
樹枝状角膜炎は、適切な診断と治療薬選択により良好な予後が期待できる疾患です。しかし、再発性という特徴を理解し、長期的な視点での患者管理が重要です。特に医療従事者は、患者への疾患説明において再発可能性や予防法について十分な情報提供を行い、定期的なフォローアップの重要性を伝える必要があります。
日本眼科学会の感染性角膜炎診療ガイドライン第3版では、エビデンスに基づいた標準的治療法が示されており、日常診療の参考となります。