抗コリン薬は副交感神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を阻害する薬剤の総称です。これらの薬剤はムスカリン受容体を遮断することで作用を発揮し、M1受容体(胃や脳)、M2受容体(心臓)、M3受容体(平滑筋や腺)の3つのサブタイプに影響を与えます。
薬効分類別に見ると、以下のような種類があります。
これらの薬剤は本来の治療目的とは別に、副作用として抗コリン作用を示すため、処方時には十分な注意が必要となります。
第一世代抗ヒスタミン薬は最も強力な抗コリン作用を有する薬剤群として知られており、日本版抗コリン薬リスクスケールでは多くがスコア3の高リスク薬剤に分類されています。
主要な第一世代抗ヒスタミン薬と抗コリン作用強度。
これらの薬剤は眠気や鎮静作用だけでなく、口渇、便秘、尿閉、視力障害といった典型的な抗コリン作用による副作用を引き起こしやすく、特に高齢者では誤嚥性肺炎や尿路感染症のリスクを高める可能性があります。
市販の総合感冒薬や睡眠改善薬には、これらの成分が高濃度で含まれているため、医療従事者は患者の服薬歴を詳細に聴取することが重要です。
抗精神病薬は統合失調症や双極性障害の治療に欠かせない薬剤ですが、多くの製剤で抗コリン作用が問題となります。定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬では、抗コリン作用の強さに違いがあります。
定型抗精神病薬の抗コリン作用。
非定型抗精神病薬の抗コリン作用。
抗精神病薬による抗コリン作用は、特に高齢者の認知機能に影響を与える可能性があるため、薬剤選択時には慎重な検討が必要です。せん妄や認知機能低下の原因として、抗精神病薬の抗コリン作用が見落とされることもあり、定期的な薬剤見直しが重要となります。
意外に知られていないのが、日常的に使用される市販薬にも多くの抗コリン作用薬が含まれていることです。これらは処方薬との相互作用や、抗コリン作用の蓄積により予期しない副作用を引き起こす可能性があります。
市販薬に含まれる主な抗コリン成分。
🛒 総合感冒薬。
🛒 睡眠改善薬。
🛒 胃腸薬。
これらの市販薬は容易に入手できるため、患者が複数の製剤を同時使用していることも多く、医療従事者は薬剤歴聴取時に市販薬についても詳細に確認する必要があります。特に高齢者では、市販薬による抗コリン作用の蓄積が、誤嚥性肺炎や尿路感染症、認知機能低下の隠れた原因となることがあります。
日本版抗コリン薬リスクスケールは、各薬剤の抗コリン作用の強さを0~3のスコアで評価するシステムです。このスケールを活用することで、患者の総抗コリン負荷を定量的に評価し、副作用リスクを予測することができます。
スコア別分類と代表的な薬剤。
📊 スコア3(高リスク)。
📊 スコア2(中リスク)。
📊 スコア1(軽度リスク)。
リスクスケール活用のポイント。
このスケールを用いることで、医療チーム全体で患者の抗コリン負荷を共有し、より安全な薬物療法を実現することができます。特に入院患者では、複数診療科からの処方が重複することもあるため、薬剤師による総合的な評価と提案が重要な役割を果たします。
抗コリン薬による副作用は、適切な薬剤選択と定期的な見直しにより多くが予防可能です。医療従事者は各薬剤の抗コリン作用の強さを理解し、患者個々のリスクファクターを考慮した処方設計を心がけることが求められます。