抗コリン薬の種類を分類別に解説:副作用と注意点

医療現場で頻繁に使用される抗コリン薬の種類を分類別に整理し、それぞれの特徴と副作用リスクについて詳しく解説します。第一世代抗ヒスタミン薬から抗精神病薬まで、幅広い薬剤の抗コリン作用を理解することで、より安全な薬物療法が実現できるのではないでしょうか?

抗コリン薬の種類と分類

抗コリン薬の主要分類
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第一世代抗ヒスタミン薬

最も強い抗コリン作用を持つ薬剤群で、市販薬にも多く含まれる

🧠
抗精神病薬

定型・非定型問わず多くの製剤で抗コリン作用が問題となる

⚖️
リスクスケール評価

薬剤ごとにスコア化されており、合計点で副作用リスクを評価

抗コリン薬の基本作用メカニズムと分類体系

抗コリン薬は副交感神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を阻害する薬剤の総称です。これらの薬剤はムスカリン受容体を遮断することで作用を発揮し、M1受容体(胃や脳)、M2受容体(心臓)、M3受容体(平滑筋や腺)の3つのサブタイプに影響を与えます。

 

薬効分類別に見ると、以下のような種類があります。

  • 消化器系抗コリン薬:ブチルスコポラミン臭化物、チキジウム臭化物
  • 第一世代抗ヒスタミン薬:クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、プロメタジン
  • 抗精神病薬:クロルプロマジン、ハロペリドール、クロザピン
  • ベンゾジアゼピン系薬:ジアゼパム、ロラゼパム、アルプラゾラム
  • 抗てんかん薬:カルバマゼピン、フェノバルビタール

これらの薬剤は本来の治療目的とは別に、副作用として抗コリン作用を示すため、処方時には十分な注意が必要となります。

 

第一世代抗ヒスタミン薬の抗コリン作用と種類

第一世代抗ヒスタミン薬は最も強力な抗コリン作用を有する薬剤群として知られており、日本版抗コリン薬リスクスケールでは多くがスコア3の高リスク薬剤に分類されています。

 

主要な第一世代抗ヒスタミン薬と抗コリン作用強度

  • カルビノキサミン(スコア3)🔴:強い抗コリン作用
  • クレマスチン(スコア3)🔴:市販薬・医療用医薬品両方で使用
  • クロルフェニラミン(スコア3)🔴:ベンザブロックなどの総合感冒薬に含有
  • ジフェンヒドラミン(スコア3)🔴:ドリエルなどの睡眠改善薬の主成分
  • プロメタジン(スコア3)🔴:PL顆粒に含有される成分

これらの薬剤は眠気や鎮静作用だけでなく、口渇、便秘、尿閉、視力障害といった典型的な抗コリン作用による副作用を引き起こしやすく、特に高齢者では誤嚥性肺炎尿路感染症のリスクを高める可能性があります。

 

市販の総合感冒薬や睡眠改善薬には、これらの成分が高濃度で含まれているため、医療従事者は患者の服薬歴を詳細に聴取することが重要です。

 

抗精神病薬における抗コリン作用の種類と特徴

抗精神病薬は統合失調症や双極性障害の治療に欠かせない薬剤ですが、多くの製剤で抗コリン作用が問題となります。定型抗精神病薬非定型抗精神病薬では、抗コリン作用の強さに違いがあります。

 

定型抗精神病薬の抗コリン作用

  • クロルプロマジン(スコア3)🔴:フェノチアジン系で最も強い抗コリン作用
  • プロクロルペラジン(スコア2)🟡:制吐薬としても使用される
  • ハロペリドール(スコア1)🟢:ブチロフェノン系では比較的軽度

非定型抗精神病薬の抗コリン作用

  • クロザピン(スコア3)🔴:治療抵抗性統合失調症に使用、強い抗コリン作用
  • オランザピン(スコア1)🟢:比較的軽度だが注意が必要

抗精神病薬による抗コリン作用は、特に高齢者の認知機能に影響を与える可能性があるため、薬剤選択時には慎重な検討が必要です。せん妄や認知機能低下の原因として、抗精神病薬の抗コリン作用が見落とされることもあり、定期的な薬剤見直しが重要となります。

 

市販薬に潜む抗コリン作用薬の種類と注意点

意外に知られていないのが、日常的に使用される市販薬にも多くの抗コリン作用薬が含まれていることです。これらは処方薬との相互作用や、抗コリン作用の蓄積により予期しない副作用を引き起こす可能性があります。

 

市販薬に含まれる主な抗コリン成分
🛒 総合感冒薬

  • PL顆粒:プロメタジン含有(スコア3)
  • ベンザブロック:クロルフェニラミン含有(スコア3)
  • パブロン:フェニラミン含有(スコア3)

🛒 睡眠改善薬

  • ドリエル:ジフェンヒドラミン含有(スコア3)
  • ウット:ジフェンヒドラミン含有(スコア3)

🛒 胃腸薬

  • ブスコパン:ブチルスコポラミン臭化物含有
  • スクラート胃腸薬:アズレンスルホン酸ナトリウムとの複合製剤

これらの市販薬は容易に入手できるため、患者が複数の製剤を同時使用していることも多く、医療従事者は薬剤歴聴取時に市販薬についても詳細に確認する必要があります。特に高齢者では、市販薬による抗コリン作用の蓄積が、誤嚥性肺炎や尿路感染症、認知機能低下の隠れた原因となることがあります。

 

抗コリン薬リスクスケールによる評価法と種類別スコア

日本版抗コリン薬リスクスケールは、各薬剤の抗コリン作用の強さを0~3のスコアで評価するシステムです。このスケールを活用することで、患者の総抗コリン負荷を定量的に評価し、副作用リスクを予測することができます。

 

スコア別分類と代表的な薬剤
📊 スコア3(高リスク)

  • 第一世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど)
  • クロルプロマジン、クロザピン

📊 スコア2(中リスク)

  • プロクロルペラジン、レボメプロマジン
  • カルバマゼピン
  • アリメマジン

📊 スコア1(軽度リスク)

  • ベンゾジアゼピン系薬剤の多く
  • ハロペリドール
  • バルプロ酸、フェノバルビタール

リスクスケール活用のポイント

  • 合計スコアが3以上で副作用リスクが有意に上昇
  • 高齢者では合計スコア1でも注意が必要
  • 定期的な見直しにより不要な薬剤の減薬を検討
  • 市販薬も含めた総合的な評価が重要

このスケールを用いることで、医療チーム全体で患者の抗コリン負荷を共有し、より安全な薬物療法を実現することができます。特に入院患者では、複数診療科からの処方が重複することもあるため、薬剤師による総合的な評価と提案が重要な役割を果たします。

 

抗コリン薬による副作用は、適切な薬剤選択と定期的な見直しにより多くが予防可能です。医療従事者は各薬剤の抗コリン作用の強さを理解し、患者個々のリスクファクターを考慮した処方設計を心がけることが求められます。

 

厚生労働省公表の日本版抗コリン薬リスクスケール詳細資料