注射(静脈内投与)でのブチルスコポラミンの蠕動抑制効果は、わずか15分程度しか続きません。
ブチルスコポラミン臭化物(商品名:ブスコパン®)は、抗コリン薬の一種です。 副交感神経支配の腹部中空臓器の壁内神経節に作用し、アセチルコリンによる神経刺激伝達をブロックすることで、消化管・尿路・膀胱などの平滑筋のけいれんを鎮めます。rad-ar+2
つまり「収縮しろ」という命令を遮断するのが基本です。
これにより、鎮痙作用・消化管運動抑制作用・胃液分泌抑制作用・膀胱内圧上昇抑制作用などの多面的な効果が得られます。 適応は胃腸けいれん、胆管・尿管の疝痛、月経困難症など幅広く、臨床現場で頻繁に使用される薬剤の一つです。minacolor+1
内服の用法・用量は、成人に1回10〜20mg(錠剤1〜2錠)を1日3〜5回投与が標準です。 年齢や症状に応じて適宜増減できます。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=63037
投与経路によって効果発現時間は大きく変わります。これが重要です。
内服の場合、効果は30〜60分以内に現れることが多く、持続時間は約3〜6時間とされています。 一方、注射薬(静注・筋注・皮下注)の場合は静注で数分以内に作用が現れ、半減期は2〜4.5時間と報告されています。h-ohp+1
ただし、内視鏡検査などで活用される「蠕動抑制効果」に限定すると話が変わります。静注では蠕動抑制効果の持続時間が約15分程度と非常に短く、筋注では15〜40分程度とされています。 これはスクリーニング検査では問題になりにくいですが、長時間に及ぶ治療では途中で効果が切れ、追加投与が必要になることがあります。
| 投与経路 | 効果発現 | 持続時間(全般) | 蠕動抑制持続 |
|---|---|---|---|
| 内服 | 30〜60分以内 | 3〜6時間 | - |
| 静注 | 数分以内 | 半減期2〜4.5時間 | 約15分 |
| 筋注 | 15〜30分 | 2〜6時間 | 15〜40分 |
長時間の内視鏡治療では、蠕動が再出現しやすい点に注意が必要です。持続静脈内投与(持続静注)で総投与量を変えずに蠕動抑制効果を延長させる方法も研究されています。
禁忌を見落とすと、患者に深刻な害を与えるリスクがあります。禁忌が原則です。
添付文書上の絶対禁忌は以下の通りです。pins.japic+1
また、慎重投与が必要な患者群として、不整脈・潰瘍性大腸炎・甲状腺機能亢進症・高温環境下の患者などが挙げられます。 特に、甲状腺機能亢進症患者では心拍数をさらに増加させるリスクがあり、投与前の確認が不可欠です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063037.pdf
高齢者では前立腺肥大を合併していることが多いため、問診なしに投与するのは危険です。 慎重な問診が条件です。
参考)http://www.taiyopackage.jp/pdf/_rireki/Scopolamine%20Butylbromide_tab_L.pdf
参考:ブスコパン禁忌事項(松下記念病院ERカンファレンスブログより、臨床現場での禁忌整理に有用)
https://matsushita-er.blogspot.com/2019/05/blog-post_31.html
抗コリン作用に由来する副作用は避けられません。これは知っておくべきです。
主な副作用には、口渇・便秘・眼の調節障害(見えにくい)・頭痛・動悸・発疹・顔面紅潮・眠気・めまいなどがあります。 これらは抗コリン作用の延長で生じるものであり、投与前に患者への説明が推奨されます。ubie+1
重大な副作用として、ショック・アナフィラキシーが報告されています(頻度不明)。 悪心・嘔吐・悪寒・皮膚蒼白・血圧低下・呼吸困難・気管支攣縮などの症状が出現した場合は、直ちに投与を中止し適切な処置を行う必要があります。
過量投与時の症状は、口渇・眼の調節障害・せん妄・心悸亢進・血圧上昇などです。 過量投与が疑われる場合は、症状に応じた対症療法が基本となります。taiyopackage+1
注射剤の取り扱いにも注意が必要です。内視鏡的処置においては、誤って食道内に注射した事例が報告されており、縦隔洞炎等の重篤な合併症を引き起こす可能性があります。 投与部位の確認は必須です。
参考:ブチルスコポラミン臭化物注射剤の添付文書(副作用・禁忌の詳細)
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063037.pdf
ブチルスコポラミンは消化器症状だけでなく、緩和ケアの現場でも重要な役割を担います。意外ですね。
終末期において、患者が嚥下困難や意識低下によって分泌物をうまく排出できなくなると、「死前喘鳴(ゴロゴロという呼吸音)」が生じることがあります。 このような場面で、ブチルスコポラミン注射剤20〜100mg/日を持続皮下注または持続静注で投与することで、気道分泌物を抑制し症状を和らげる効果が期待できます。
参考)http://www.kanwa.med.tohoku.ac.jp/student/pdf/manual/2021/02.pdf
同様の場面で、スコポラミン注(ハイスコ®)も選択肢として挙げられますが、ブチルスコポラミンと異なり中枢性の鎮静作用が強いため、投与目的と患者状態に応じた使い分けが必要です。
緩和ケアチームや病棟看護師との情報共有がスムーズにいくよう、作用の違いを正確に把握しておくことが、患者QOL向上につながります。持続投与では定期的な評価が原則です。
参考:東北大学病院緩和ケアチーム 学生向けマニュアル(終末期の呼吸器症状へのブチルスコポラミン使用例)
http://www.kanwa.med.tohoku.ac.jp/student/pdf/manual/2021/02.pdf