腸内細菌がメナキノンを産生するのは常識です。しかし腸内細菌由来のメナキノンは、実はあなたのビタミンK必要量をほとんど補えていません。

ビタミンKは大きく2つに分類されます。植物由来のK1(フィロキノン:PK)と、微生物・発酵食品由来のK2(メナキノン類:MK-n)です。 MK-nの「n」はイソプレン単位の繰り返し数を示し、自然界にはMK-1からMK-14まで存在します。 katosei.jsbba.or(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=910)
MK-4は鶏肉や卵黄に比較的多く含まれ、MK-7は納豆に多く含まれています。 長鎖型のMK-10やMK-11は腸内細菌が主に合成するもので、チーズやヨーグルトなどの発酵食品にもMK-7・MK-8・MK-9が含まれます。 katosei.jsbba.or(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=910)
つまり同じ「メナキノン」でも、側鎖の長さによって供給源も生体内の役割も異なるということです。
| 種類 | 主な供給源 | 特徴 |
|---|---|---|
| MK-4 | 鶏肉・卵黄・体内変換(UBIAD1) | 組織中に最も高濃度に蓄積、SXR活性化・骨形成作用 |
| MK-7 | 納豆(納豆菌産生) | 血中半減期が長く、栄養補給に有利 |
| MK-10・MK-11 | 腸内細菌(大腸内) | 大腸での吸収性が低い、生理的寄与は限定的 |
腸内細菌によるメナキノン産生は、シキミ酸経路を経てナフトキノン骨格を合成する「既知のMen経路」と、一部の病原性細菌に見られる「新規経路」の2種類が存在します。 乳酸菌やバクテロイデス属などの腸内細菌は、既知のMen経路のみを使って長鎖メナキノンを産生します。 jbsoc.or(https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/81-02-04.pdf)
一方、胃潰瘍・胃がんの原因菌として知られる*Helicobacter pylori*や食中毒の原因菌*Campylobacter jejuni*などは、Men経路の遺伝子オルソログをもたないにもかかわらずメナキノンを合成できます。 これは「新規生合成経路」の存在を示す発見であり、この経路の阻害剤が抗菌薬開発のターゲットとして注目されています。 pfwww.kek(http://pfwww.kek.jp/acr2012pdf/part_b/pf12b313.pdf)
腸内細菌が主に産生するのはMK-10やMK-11です。 MK-7・MK-8・MK-9・MK-12なども僅かに合成されますが、その量は食事由来のビタミンKと比べると限定的とされています。 katosei.jsbba.or(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=910)
以下が主なメナキノン産生菌の例です。
jfrl.or(https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_vol5_no8.pdf)
jglobal.jst.go(https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201102274530991442)
腸内細菌が産生するメナキノンの大部分は大腸内で合成されます。しかし大腸の粘膜上皮は小腸と比較して脂溶性物質の吸収能が低く、長鎖型メナキノン(MK-10・MK-11)は特に吸収されにくい構造をしています。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4l.pdf)
厚生労働省の検討でも「腸内細菌や組織でのメナキノン類産生量は、生体の需要を充たすほどには多くないと思われる」と結論づけられています。 これが基本です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4l.pdf)
さらに重要な発見が2008年に報告されました。無菌マウスを用いた実験により、PKやメナジオン(MD)からMK-4への変換は腸内細菌の存在に依存しないことが科学的に証明されています。 つまり組織中で最も多いMK-4は、腸内細菌ではなく体内の酵素(UBIAD1)によって各組織で直接変換されているのです。 katosei.jsbba.or(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=910)
ビタミンK研究のパラダイムシフト(化学と生物・日本農芸化学会):MK-4の体内変換機序とUBIAD1の役割について詳しく解説されています
広域スペクトルの抗生物質を投与すると、腸内細菌叢が撹乱されてメナキノン産生量が低下します。 これが臨床的に問題となるのは、経口摂取が制限されている状況、つまり術後管理・絶食期間・経腸栄養期間が重なるケースです。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4l.pdf)
新生児では腸内細菌叢がまだ未熟なため、腸内細菌由来のビタミンK2産生量が成人より少ない状態にあります。 加えて母乳にはビタミンKの含量が少ないため、ビタミンK欠乏性出血症(VKDB)のリスクが生後早期に高くなります。これは意外ですね。 square.umin.ac(https://square.umin.ac.jp/transfusion-kuh/related/VitK2/index.html)
以下のような状況では、ビタミンK欠乏が臨床的な問題として浮上します。
square.umin.ac(https://square.umin.ac.jp/transfusion-kuh/related/VitK2/index.html)
square.umin.ac(https://square.umin.ac.jp/transfusion-kuh/related/VitK2/index.html)
入院患者の栄養管理において、長期抗菌薬投与とビタミンK摂取量のモニタリングを同時に行うことが、出血リスク管理の観点から重要です。特に静脈栄養(TPN)施行患者でビタミンK含有製剤を使用していない場合、低プロトロンビン血症が進行することがあります。確認が必要です。
厚生労働省ビタミンK食事摂取基準:抗生物質投与時のメナキノン産生低下と臨床的リスクについて記載があります
MK-4は単なる血液凝固補因子ではありません。骨形成においては2つの独立した機序を通じて作用します。一つはGGCX(γ-グルタミルカルボキシラーゼ)の補酵素としてオステオカルシンをカルボキシル化して骨石灰化を促進する作用、もう一つはSXR(核内受容体)のアゴニストとして骨形成関連遺伝子の転写を誘導する作用です。 katosei.jsbba.or(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=910)
重要なのは、SXRを介した転写活性はMK-4で最も強く、K1(フィロキノン)にはこの作用がないという点です。 つまり「ビタミンKはどれも同じ」という認識は正確ではありません。 katosei.jsbba.or(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=910)
これは使えそうです。
さらに近年の研究では、メナキノン類が脳神経幹細胞からニューロンへの分化を選択的に誘導する作用が発見されています。 マウス胎仔大脳由来の神経幹細胞にMK-4誘導体を1µM添加したところ、ニューロンへの分化がコントロール群の約2倍に増加したことが報告されています。 メナキノンが脳神経保護や再生医療に応用される可能性が今後さらに広がることが期待されます。 katosei.jsbba.or(https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=910)
| 作用 | 機序 | 対象組織 |
|---|---|---|
| 血液凝固 | GGCXの補酵素→凝固因子のGla化 | 肝臓・血管 |
| 骨形成促進 | オステオカルシンのカルボキシル化 | 骨芽細胞 |
| 骨吸収抑制 | SXRアゴニスト→骨形成遺伝子転写誘導 | 骨芽細胞 |
| 神経分化誘導 | 神経幹細胞→ニューロンへの分化促進 | 脳・神経前駆細胞 |
| 酸化ストレス保護 | 神経細胞の抗酸化保護 | 脳神経細胞 |