ANCA関連血管炎の症状と治療薬を解説

ANCA関連血管炎は全身の血管に炎症を起こす指定難病で、腎臓や肺、神経などに多彩な症状が現れます。近年承認されたアバコパンを含む治療選択肢は増えているのでしょうか?

ANCA関連血管炎の症状と治療薬

ANCA関連血管炎の基礎知識
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疾患概要

全身の細血管に炎症を起こす自己免疫疾患で、3つのタイプに分類される

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患者数

国内約20,000人(6,000~7,000人に1人)の希少疾患

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治療法

寛解導入療法と寛解維持療法の2段階アプローチ

ANCA関連血管炎の3つのタイプと症状の特徴

ANCA関連血管炎は、抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与する血管炎症候群で、主に3つのタイプに分類されます。

 

顕微鏡的多発血管炎(MPA)
日本で最も患者数が多く、全体の半分以上を占めています。発症時の平均年齢は71歳と高齢者に多く、女性にやや多い傾向があります。主に以下の症状が現れやすいとされています。

  • 腎臓症状:血尿、蛋白尿、クレアチニン値上昇
  • 肺症状:息切れ、空咳、血痰
  • 神経症状:手足のしびれ、筋力低下

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
40~60歳の発症が多く、男女差はあまりありません。特徴的な症状パターンとして、以下の3つの部位に症状が現れることが多いです。

  • 上気道(目・鼻・耳・のど)
  • 腎臓

特に「鞍鼻(あんび)」という鼻すじの途中がくぼんだような変形が現れることがあり、診断の手がかりとなります。

 

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
40~70歳の女性にやや多く、気管支喘息や難治性の鼻炎・副鼻腔炎を有する患者さんで、好酸球が増加した後に続いて起こることが多い疾患です。

 

  • 神経症状が現れやすい
  • 皮膚、消化器、心臓、肺に症状が現れやすい
  • 心筋梗塞などの心疾患を合併することもある

ANCA関連血管炎の全身症状と局所症状の詳細

ANCA関連血管炎では、全身の細い血管が傷つけられるため、多彩な症状が現れます。症状の現れ方は患者によって異なりますが、以下のような症状が特徴的です。

 

全身症状
ほとんどの患者さんに現れる全身症状として、以下が挙げられます。

  • 発熱(微熱が持続することが多い)
  • 全身倦怠感
  • 食欲低下
  • 体重減少
  • 体の各部の痛み

臓器別の局所症状
腎臓の症状
最も重要な症状の一つで、急速進行性糸球体腎炎を呈することがあります。

  • 血尿(初期は尿の見た目は変わらず、検査で発見される)
  • 蛋白尿
  • むくみ
  • 血清クレアチニン値の上昇
  • 重症化すると透析が必要になる場合もある

肺の症状
間質性肺炎や肺胞出血により以下の症状が現れます。

  • 息切れ
  • 痰がからまない咳(空咳)
  • 血痰
  • 呼吸困難

皮膚の症状
主に下肢に現れることが多く。

  • 赤色~紫色の斑点(紫斑)
  • 手足に網目状の模様
  • 皮膚の潰瘍

神経の症状
多発性単神経炎による症状が特徴的です。

  • 手足のピリピリする痛み
  • ジンジンするしびれ
  • 筋力低下(スリッパが脱げやすい、転びやすい、物がつかみにくい)
  • 細かい作業が困難(字がうまく書けない、箸がうまく使えない)

その他の症状

  • 耳:難聴、耳痛
  • 鼻:鼻閉、黄色い鼻水、鼻血
  • 目:視力低下、充血、眼球突出
  • のど:のど痛、声がれ
  • 消化器:腹痛、血便

ANCA関連血管炎の治療薬と寛解導入療法

ANCA関連血管炎の治療は、「寛解導入療法」と「寛解維持療法」の2段階に分けて行われます。現在の医学では完治は困難であり、血管の炎症を消失させる「寛解」の達成とその維持が治療目標となります。

 

寛解導入療法の基本方針
血管の炎症の勢いが強い時期に、強力な治療を行って炎症を鎮める治療です。症状の程度に応じて治療強度を決定し、多くの場合入院治療となります。

 

主要な治療薬
ステロイド薬(副腎皮質ステロイド)
ほぼ全ての患者さんの治療で第一選択薬として使用されます。

  • プレドニゾロン換算で0.6~1.0mg/kg/日が一般的
  • 体重50kgの患者では30~50mg/日
  • 速やかな効果を期待する場合は点滴投与
  • 免疫機能抑制作用と抗炎症作用を有する
  • 副作用:感染症、糖尿病、骨粗しょう症

免疫抑制薬
ステロイド薬と併用されることが多い薬剤群です。

静注用ヒト免疫グロブリン製剤
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で、神経障害が改善されない場合に点滴で使用されます。

 

重症度別治療戦略
ANCA関連血管炎による急速進行性糸球体腎炎の治療では、以下の因子により重症度を判断します。

  • 治療開始時の腎機能(血清クレアチニン値)
  • 年齢
  • 肺病変の有無
  • CRP値

軽症例では経口ステロイド単独治療を考慮し、重症度が増すごとにステロイドパルス療法、シクロホスファミドを併用します。治療開始後8週間までに経口ステロイド量を20mg/日未満(プレドニゾロン換算)に減量することが推奨されています。

 

アバコパンによる新しい治療選択肢

2021年9月、ANCA関連血管炎の治療薬として補体C5a受容体阻害薬のアバコパン(商品名:タブネオス)が日本で承認されました。これは従来のステロイド中心の治療に代わる新たな選択肢として注目されています。

 

アバコパンの作用機序
アバコパンは補体C5a受容体阻害薬であり、選択的C5a受容体拮抗作用によってC5a-C5a受容体シグナルを介した好中球のプライミングを抑制します。これにより好中球によって誘発されるANCAを介した血管炎の増幅を緩和し、ANCA関連血管炎の病態を改善させます。

 

ADVOCATE試験の結果
アバコパンの有効性を示した国際共同第III相試験(ADVOCATE試験)では、331例の患者が無作為化され、以下の結果が得られました。

  • 26週時点での寛解:アバコパン群72.3% vs プレドニゾン群70.1%(非劣性を示すが優越性なし)
  • 52週時点での持続的寛解:アバコパン群65.7% vs プレドニゾン群54.9%(優越性を示した)
  • 重篤な有害事象:アバコパン群37.3% vs プレドニゾン群39.0%

臨床使用上の特徴

  • 顕微鏡的多発血管炎(MPA)および多発血管炎性肉芽腫症(GPA)が適応
  • 1日2回、30mgを経口投与
  • 全例がシクロホスファミドまたはリツキシマブとの併用療法を受ける
  • ステロイドの副作用軽減が期待できる

日本での使用経験
日本のANCA関連血管炎で多数を占める急速進行性糸球体腎炎を呈する顕微鏡的多発血管炎に対するアバコパンの使用経験は限られていましたが、実臨床での報告では3例すべてで治療開始から1~3ヶ月間の観察期間で腎機能および尿所見、炎症反応の改善を認めたとされています。

 

ANCA関連血管炎患者の予後改善と医療費助成

ANCA関連血管炎の診断と治療における課題として、早期診断の困難さと長期的な予後管理があります。この疾患特有の社会的支援制度と予後改善のポイントについて解説します。

 

早期診断の重要性
ANCA関連血管炎は患者数が非常に少なく、特徴的な症状もあまりないため、早期診断が困難な疾患です。ある調査では、約半数の患者が診断確定までに3カ所以上の病院を受診していたという結果が報告されています。

 

早期発見のポイント。

  • 原因不明の血尿や蛋白尿
  • 持続する微熱や全身倦怠感
  • 多臓器にわたる症状の組み合わせ
  • 血液中のANCA測定が重要な診断の鍵

指定難病としての医療費助成制度
ANCA関連血管炎は厚生労働省により指定難病とされており、一定以上の症状がある患者は医療費助成制度の対象となります。

  • 医療費の自己負担額に上限が設定(月額0~30,000円)
  • 上限額は患者の世帯収入によって決定
  • 申請は居住地の都道府県・指定都市の窓口へ

長期予後の改善策
適切な治療により多くの患者で寛解が得られますが、再燃のリスクもあるため、長期的な管理が重要です。
治療継続のポイント:

  • 自己判断による服薬中断は絶対に避ける
  • 症状が改善しても定期的な専門医受診を継続
  • ステロイドの急な中断は体調悪化のリスクがある

感染症対策

  • 治療薬の影響により感染症にかかりやすい
  • 手洗い・うがい、マスク着用の徹底
  • 医師指示による感染症予防薬の服用・吸入
  • ワクチン接種の適切な実施

生活習慣の改善:

  • ストレス管理
  • 規則正しい生活
  • 適度な運動
  • 心身の良好な状態の維持

新たな治療展開
近年の研究では、改善された疾患活動性のバイオマーカーの臨床適用や、再発リスクの高い患者の特定、長期予後について議論するツールの開発などが課題として挙げられています。

 

また、アバコパンの52週以降の安全性と臨床効果については今回の試験では検討されておらず、長期的なフォローアップデータの蓄積が今後の課題となっています。

 

まとめとして
ANCA関連血管炎は希少疾患でありながら、適切な診断と治療により予後の改善が期待できる疾患です。アバコパンという新たな治療選択肢の登場により、ステロイドの副作用を軽減しながら効果的な治療が可能となってきています。医療従事者として、この疾患の多彩な症状を理解し、早期診断につなげることが患者の予後改善に直結することを認識することが重要です。

 

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