メフルシド錠25mg「日医工」は2023年4月6日より供給停止の状態が継続しています。日本製薬団体連合会の供給状況調査において、出荷量の状況は「C.出荷停止」、製造販売業者の対応状況は「⑤供給停止」に分類されており、出荷再開の見込みは立っていません。
参考)https://drugshortage.jp/drugdata.php?drugid=58273
この出荷停止の背景には、日医工が直面した深刻な品質管理問題があります。2021年3月3日、富山県は日医工に対して医薬品医療機器法に基づく業務停止命令を下しました。処分の理由は、製品が品質試験で不適合となった際に適切な対応を取らず、承認された製造方法と異なる方法で製品を作り直していた事例が複数発覚したためです。主力の富山第一工場では32日間の医薬品製造停止、24日間の医薬品製造販売業としての業務停止が命じられました。
参考)日医工、主力工場で品質おざなり 業務停止で社長減俸 - 日本…
富山県による日医工の医薬品不正製造事例の再発防止に関する報告書(業務停止命令の詳細と背景)
この品質管理問題は氷山の一角であり、日医工は2020年から複数回にわたり製品の自主回収を実施し、35品目を回収していました。こうした一連の問題により、同社の信頼性は大きく損なわれ、経営再建を余儀なくされました。
参考)【日本】日医工、221品目の販売中止。ジェネリック供給懸念が…
日医工は業績不振と債務超過の状況に陥り、事業再生に向けて大規模な製品ラインナップの見直しを実施しました。2023年3月1日、同社は第2弾として221品目の販売中止を発表し、その後7月には第3弾として258品目の販売中止を案内しました。これらの販売中止品目には、出荷停止案内済みの製品とその規格揃え品目、市場における存在感の低い品目などが含まれていました。
参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/files/20230301cI1.pdf
メフルシド錠25mg「日医工」も、この経営再建プロセスの中で供給停止が決定された製品の一つです。同社の供給状況一覧によれば、2023年から2025年にかけて継続的に供給停止状態が維持されており、在庫消尽後は完全に市場から姿を消すことになります。
参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/significant/data/20241031.pdf
メフルシドは非チアジド系利尿薬に分類されますが、作用機序はチアジド系利尿薬と類似しています。遠位尿細管において「Na⁺–Cl⁻共輸送体」を阻害することで、ナトリウムと水分の再吸収を抑制し、利尿作用を発現します。
参考)医療用医薬品 : メフルシド (メフルシド錠25mg「日医工…
薬理学的には、メフルシドの降圧機序はナトリウム摂取量によって異なると考えられています。ナトリウム高摂取下では主にナトリウム利尿作用によって圧-利尿曲線の傾きを増加させ、降圧作用を示すとされています。臨床試験における有効率は、本態性高血圧症で67.6%(605例/895例)、腎性高血圧症で68.9%(51例/74例)と報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00061826.pdf
KEGGデータベースによるメフルシド錠の詳細情報(作用機序と薬物動態)
通常の用法用量は、成人1日25~50mgを朝1回投与、または朝・昼の2回に分けて経口投与します。メフルシドの主代謝物はラクトン型とそれが開環したヒドロキシカルボン酸型であり、これらの代謝物もメフルシドと同様の作用を有していることが報告されています。
参考)メフルシド錠25mg「日医工」の効能・副作用|ケアネット医療…
日医工製品の大規模な出荷停止と販売中止は、医療現場に深刻な影響を及ぼしています。日本製薬団体連合会の調査によると、2024年3月時点で出荷調整、供給停止となった医薬品は全体の23.9%(4064品目)に達しています。
参考)https://www.m3.com/clinical/news/1208315
特に利尿薬は心不全、高血圧、浮腫性疾患の治療において必須の薬剤であり、供給不足が患者の治療継続に直結する問題となっています。ある病院では院内採用医薬品の150品目以上が供給停止・出荷規制となっており、処方日数などに制限を設けざるを得ない状況が報告されています。
参考)いよいよ薬不足が深刻になってきました | 京都市上京区の胃カ…
メフルシド錠25mg「日医工」の供給停止により、同剤を継続使用していた患者は代替薬への切り替えを余儀なくされました。しかし、後発医薬品の供給停止や出荷調整の頻発が継続していることにより、代替後発医薬品の入手も困難な状況となっており、先発品への切り替えや他の利尿薬への変更が必要となるケースが増加しています。
参考)https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2025/250926_2.pdf
メフルシド錠25mg「日医工」の供給停止を受けて、医療従事者は適切な代替薬を選択する必要があります。メフルシドの先発品である「バイカロン錠25mg」(田辺三菱製薬)は薬価10.4円/錠で、後発品のメフルシド錠と同等の作用を有しています。
参考)商品一覧 : スルホンアミド系利尿薬
チアジド類似利尿薬としては、他にインダパミド(商品名:ナトリックス)も選択肢となります。インダパミドは尿中へのカリウム排泄がチアジド系よりも少ないという特徴があり、低カリウム血症のリスクが懸念される患者に有用です。
参考)高血圧の薬(利尿薬)
より強力な利尿作用が必要な場合は、ループ利尿薬への変更も検討されます。フロセミド(ラシックス)、トラセミド(ルプラック)、アゾセミド(ダイアート)などが選択肢となりますが、ループ利尊薬は腎機能を悪化させにくい反面、降圧作用は比較的弱いという特徴があります。ただし、フロセミド注射剤についても一部メーカーで出荷停止が発生しており、注射剤の選択にも注意が必要です。
参考)https://www.hospital.or.jp/site/news/file/1754269653.pdf
厚生労働省による医薬品の安定供給に関する対応方針(代替薬選択のガイダンス)
代替薬選択においては、患者の腎機能、電解質バランス、併用薬、心血管リスクなどを総合的に評価することが重要です。特にチアジド系利尿薬は慢性腎不全患者では効果が乏しく、eGFR 30mL/min/1.73m²未満では効果が期待できないため、腎機能低下例ではループ利尿薬の使用を検討する必要があります。
参考)|利尿薬|くすり事典|よくわかる腎移植
| 代替薬剤 | 分類 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| バイカロン錠25mg | チアジド類似薬 | メフルシドの先発品 | 薬価がやや高い(10.4円/錠) |
| ナトリックス(インダパミド) | チアジド類似薬 | K排泄が少ない | 本態性高血圧症のみ適応 |
| ヒドロクロロチアジド | チアジド系 | 標準的チアジド薬 | 電解質管理が必要 |
| ラシックス(フロセミド) | ループ利尿薬 | 強力な利尿作用 | 腎機能低下例に有用 |
| ルプラック(トラセミド) | ループ利尿薬 |
生体利用率が高い |
浮腫のみに適応 |
薬剤の切り替えに際しては、患者への十分な説明と、切り替え後の血圧、電解質、腎機能のモニタリングが不可欠です。特に高齢者では脱水や電解質異常のリスクが高いため、慎重な経過観察が求められます。
参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/file/20200/interview/20200_interview.pdf