原因薬剤を中止しただけでは改善しない症例が3割存在します。
2025年4月に日本呼吸器学会から発刊された「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版2025」は、2018年以来7年ぶりの大幅改訂となりました。この改訂の最大の背景は、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体といった新規薬剤が次々と登場し、薬剤性肺障害が臨床現場での重要課題として注目されていることにあります。 carenet(https://www.carenet.com/news/general/carenet/60727)
近年、わが国では年間100件を超える新薬が承認・上市されており、特に生物学的製剤や免疫関連薬剤の開発が続いています。これらの薬剤は従来の抗悪性腫瘍薬とは異なる機序で肺障害を引き起こすため、診断と治療のアプローチも変化してきました。 store.isho(https://store.isho.jp/search/detail/productId/2406705290)
第3版では薬剤性肺障害を「薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの」と定義しています。ここで重要なのは、投与中だけでなく投与終了後にも発症する場合があることです。つまり、服薬を止めた後でも注意が必要ということですね。 hokuto(https://hokuto.app/post/ahHzev2SdpNP2LbbjdjF)
改訂版では各種薬物療法の進歩に伴って遭遇する機会が増えた薬剤性肺障害に関する最新知見を反映し、日常診療での参考になるよう平易な記述を心がけています。第Ⅴ章では抗悪性腫瘍薬のセクションが大幅に拡充され、チロシンキナーゼ阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗体製剤、プロテアソーム阻害薬、mTOR阻害薬などが詳細に解説されています。 jrs.or(https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20250404092659.html)
日本呼吸器学会の公式サイトでは第3版の目次と会員向けダウンロードが可能
わが国の薬剤性肺障害の動向として、喫煙歴などリスク因子のある中高年男性に多く、原因薬剤は抗悪性腫瘍薬が過半数を占め、抗リウマチ治療薬、漢方等が次いでいます。薬剤とは医師が処方した薬剤のほか、一般薬、生薬、サプリメント、栄養食品、法律で禁止されているもの、添加物などすべてを含むため、問診時には幅広く確認する必要があります。 showa-kokyuki(https://www.showa-kokyuki.com/medical_treatment/215/)
発症のリスク因子としては以下が挙げられます: kcmc.hosp.go(https://kcmc.hosp.go.jp/shinryo/concept25.html)
📌 患者側の要因
- 高齢であること
- 過去を含めた喫煙歴(累積喫煙量)
- 既存の間質性肺疾患の合併(すべての薬剤に共通した最重要リスク因子)
- 低肺機能
- 低栄養状態
- 遺伝的な要因
📌 治療側の要因
- 放射線治療や肺の手術歴
- 抗悪性腫瘍薬の多剤併用療法
- 腎障害の存在
「既存の間質性病変」の存在がすべての薬剤に共通したリスク因子となっており、そのような患者への薬剤投与はリスクとベネフィットを十分勘案した上で行うべきです。つまり、投与前の胸部CT評価が必須ということですね。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b03_r01.pdf)
特に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による薬剤性肺障害は、ICI併用療法で頻度が増加し、時に致死的となるため注意が必要です。ICIは免疫系のブレーキを解除する機序のため、これまでのがん薬物療法と異なる特徴的な免疫関連有害事象が多彩な形で出現し、発現時期の予測が困難という特徴があります。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_14975)
代表的な原因薬剤として、抗悪性腫瘍薬、抗リウマチ治療薬、漢方薬(小柴胡湯など)、アミオダロン、ブレオマイシン、ブスルファンなどが知られています。 jsom.or(http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/cpg/pdf/typeB/20181130.pdf)
厚生労働省の薬剤性間質性肺炎の早期発見マニュアルには代表的薬剤のリスク因子一覧が掲載
✅ 診断の必須条件
1. 原因となる薬剤の摂取歴がある(投与終了後発症例にも注意)
2. 当該薬剤による類似病型の肺障害が過去に報告されている
診断プロセスでは、鑑別すべき疾患を除外し、血液検査などの検体検査、胸部画像所見、気管支肺胞洗浄(BAL)、肺病理組織所見などを総合的に評価します。 jrs.or(https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20250404092659.html)
バイオマーカーの活用
肺胞上皮特異的マーカーとして、KL-6、SP-A、SP-Dが測定されます。KL-6は5000kDa以上のMUCムチンに属する糖蛋白で、肺では主にII型肺胞上皮細胞から産生され、間質性肺疾患における血清KL-6の上昇は、II型肺胞上皮細胞の障害や産生を反映します。 kameda(https://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/kl6_1.html)
厚生労働省の特定疾患認定基準では、KL-6、SP-A、SP-D、LDH(乳酸脱水素酵素)それぞれの上昇のうち1項目以上の陽性を診断基準としています。これらのバイオマーカーは間質性肺炎を疑うきっかけや病態のモニタリング、治療反応性の評価に有用です。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.3103900276)
しかし現在臨床で用いられているSP-DやKL-6は間質性肺炎全般を検出するバイオマーカーであり、病態特異的ではないという限界があります。このため新規バイオマーカーの探索が進められており、lysophosphatidylcholine 14:0が薬剤性肺障害の急性期で明らかな低値を示し、回復期では上昇することが発見されています。 ho.chiba-u.ac(https://www.ho.chiba-u.ac.jp/dept/download_file/view/413c4ccf-bff8-4680-94c9-fab9f96f7e83/6071/)
血清キヌレニン(KYN)、キノリン酸(QUNA)、キヌレニン/トリプトファン比(KYN/TRP)なども新たなバイオマーカー候補として研究が進んでいます。今後の発展が期待されますね。 ho.chiba-u.ac(https://www.ho.chiba-u.ac.jp/dept/download_file/view/413c4ccf-bff8-4680-94c9-fab9f96f7e83/6071/)
薬剤リンパ球刺激試験(DLST)も検査項目に含まれますが、感度・特異度に限界があるため、他の所見と総合的に判断する必要があります。 med.m-review.co(https://med.m-review.co.jp/merebo/products/detail/978-4-7792-2882-7)
薬剤性肺障害の治療の基本は、原因薬剤の特定と速やかな中止です。無症状および軽症例では原因薬剤の中止のみで改善することもありますが、中等症以上ではステロイド投与が標準治療となります。 hokuto(https://hokuto.app/post/ahHzev2SdpNP2LbbjdjF)
1️⃣ 疑わしい薬剤の中止
2️⃣ 副腎皮質ステロイドの投与
3️⃣ 呼吸不全への対策
4️⃣ 全身管理
ステロイド投与の適応と用量
呼吸不全を伴う中等症もしくは重症の薬剤性肺障害や、軽症例であっても原因薬剤中止後に肺障害が増悪する場合には、副腎皮質ステロイドを投与します。ステロイドの用量や治療期間に明確なエビデンスはありませんが、プレドニゾロン換算で0.5~1.0mg/kg/日程度を初期量とし、漸減・中止する方法が一般的です。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=21835)
重症例ではメチルプレドニゾロン(mPSL)1,000mg/日を3日間投与するステロイドパルス療法を行った後、PSL 0.5~1.0mg/kg/日で維持する方法も用いられます。体重60kgの患者なら初期量30~60mgということですね。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b03_r01.pdf)
治療反応性の評価
治療効果の判定には、臨床症状(咳、息切れ、発熱など)の改善、胸部画像所見の変化、バイオマーカー(KL-6、SP-D など)の推移を総合的に評価します。特にKL-6は治療反応性の評価に有用とされています。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.3103900276)
原因薬剤中止のみで改善する軽症例もありますが、約3割の症例ではステロイド治療が必要になるため、経過観察中の注意深いモニタリングが欠かせません。定期的な画像評価が条件です。
薬剤性肺障害は多彩な臨床病型を呈します。主な病型として以下が挙げられます: jrs.or(https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20181206160524.html)
🔸 主要な臨床病型
- 間質性肺炎(非特異性間質性肺炎、急性間質性肺炎など)
- 肺水腫(非心原性肺水腫、急性呼吸窮迫症候群)
- 薬剤性好酸球性肺炎(EP)
- 気道系病変
- 肺血管病変(肺血栓塞栓症、肺胞出血、肺高血圧症)
- 肉芽腫性間質性肺疾患
- 過敏性肺炎
特に近年注目されているのが免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による薬剤性肺障害(ICI-P)です。ICIはPD-1、PD-L1、CTLA-4などの免疫チェックポイント分子を阻害することで、T細胞が過剰に活性化し、肺組織に炎症を起こします。 lung-dr(https://lung-dr.com/irpreview/)
ICI関連肺臓炎の特徴
ICI-Pの頻度は使用する薬剤や併用療法によって異なりますが、時に致死的となるため注意が必要です。2015年12月にニボルマブが非小細胞肺癌に対して初めて承認されて以降、現時点でニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブの計4剤が使用可能となっています。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15106/j_naika135_238)
ICIによる免疫関連有害事象(irAE)は、これまでのがん薬物療法と異なる特徴的な有害事象が多彩な形で出現し、発現時期の予測が困難という特徴があります。また、pseudo-progression(偽増悪)を呈し判断に苦慮するケースもあります。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_14975)
投与前評価のポイント
高リスク薬剤を投与する前には、胸部CT検査で既存の間質性病変の有無を確認し、KL-6などのベースライン値を測定しておくことが推奨されます。既存の間質性肺疾患がある患者では、リスクとベネフィットを十分に勘案し、代替治療の可能性も含めて慎重に判断すべきです。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b03_r01.pdf)
投与中のモニタリング
定期的な胸部X線検査や胸部CT検査、バイオマーカー測定により、早期発見に努めます。患者には咳、息切れ、発熱などの症状が出現した場合には速やかに受診するよう指導することが大切です。症状が出た際の自己判断は禁物です。
医薬品副作用被害救済制度の活用
申請には診断書、投薬証明書、受診証明書などの書類が必要となるため、薬剤性肺障害と診断した際には患者や家族に制度の存在を伝え、必要に応じて申請をサポートすることが医療従事者の役割です。救済給付の内容には医療費、医療手当、障害年金、遺族年金などが含まれます。
早期発見と適切な対応により、患者の予後を改善できる可能性が高まります。すべての薬剤が肺障害を起こしうるという認識を持ち、常に薬剤性肺障害を鑑別診断に入れる姿勢が求められますね。