悪性胸膜中皮腫は、胸膜の中皮細胞から発生する悪性腫瘍で、アスベスト曝露から30~40年の潜伏期間を経て発症することが特徴的です。初期症状として最も多いのは胸水貯留で、患者の約90%に認められます。
主要な症状には以下があります。
診断プロセスにおいて、胸部単純X線写真では片側性の胸水貯留や胸膜肥厚として認められることが多く、健診で偶然発見されるケースも少なくありません。CT検査では、胸膜の不規則な肥厚やびまん性の胸膜病変が特徴的な所見となります。
確定診断には病理学的検査が必須です。まず胸腔穿刺による胸水細胞診を実施しますが、診断確定率は約60%程度です。より確実な診断のためには、胸腔鏡下胸膜生検または経皮的針生検が必要となります。
国立がん研究センター希少がんセンターの悪性胸膜中皮腫に関する詳細な診断プロセス
悪性胸膜中皮腫は病理組織学的に3つの主要な型に分類されます。
上皮型(Epithelioid type)
肉腫型(Sarcomatoid type)
二相型(Biphasic type)
生存期間中央値は組織型により大きく異なり、上皮型では15-20ヶ月、肉腫型では6-8ヶ月、二相型では10-15ヶ月程度とされています。
EORTC(ヨーロッパがん研究治療機構)による予後スコアリングシステムでは、以下の因子が重要な予後因子として挙げられています。
腫瘍壊死の有無も独立した予後因子として報告されており、腫瘍壊死を認める症例では生存期間中央値が7.0ヶ月と、認めない症例の15.5ヶ月と比較して有意に予後不良です。
悪性胸膜中皮腫の治療は、病期、組織型、全身状態を総合的に評価して決定されます。
手術療法
切除可能と判断される早期症例(主にI-III期の上皮型)では、以下の術式が選択されます。
P/D術は肺を温存するため、EPPと比較して術後合併症が少なく、近年主流となっています。
化学療法
標準的一次治療として、ペメトレキセド(アリムタ)とシスプラチンの併用療法が確立されています。奏効率は約40%で、生存期間中央値は12-14ヶ月程度です。
シスプラチンが使用困難な症例では、カルボプラチンとペメトレキセドの併用が代替選択肢となりますが、日本では適応承認が得られていないことに注意が必要です。
集学的治療
手術適応症例では、術前化学療法→手術→術後化学療法(±放射線療法)の集学的アプローチが推奨されています。この治療戦略により、生存期間の延長が期待されます。
切除不能症例や再発症例では、全身化学療法が治療の中心となります。二次治療以降では、ゲムシタビン、ビノレルビン、イリノテカンなどが使用されることがありますが、エビデンスは限定的です。
近年、悪性胸膜中皮腫の治療において免疫チェックポイント阻害薬の有効性が注目されています。
免疫チェックポイント阻害薬
特にニボルマブとイピリムマブの併用療法は、従来の化学療法と比較して有意な生存期間の延長が報告されており、一次治療としての選択肢となっています。
新規治療法の開発
バイオマーカーによる治療選択
これらのバイオマーカーに基づく個別化治療の確立が期待されています。
悪性胸膜中皮腫は希少がんであり、患者・家族への包括的支援が重要です。
ピアサポート活動
患者会「中皮腫患者と家族の会」では、同じ病気を持つ患者同士の情報交換や心理的支援を提供しています。特に「無治療という選択」を含む多様な治療選択肢について、患者の実体験に基づく情報共有が行われています。
アスベスト被害救済制度
症状緩和と生活の質の維持
定期的フォローアップ
無治療を選択した患者の事例では、3年半にわたり画像上ほとんど進行なく経過している報告もあり、患者の価値観に基づく治療選択の重要性が示されています。
多職種チーム医療
これらの包括的アプローチにより、患者のQOL向上と治療継続が可能となります。医療従事者は、患者・家族の多様なニーズを理解し、個別化された支援を提供することが求められます。