アルコール性肝障害とアルコール性肝炎の違い:症状・病態・検査値を徹底解説

アルコール性肝障害は脂肪肝から肝硬変まで幅広い病態の総称であり、アルコール性肝炎はその中の重篤な炎症型です。両者の違いを理解し、適切な対応ができていますか?

アルコール性肝障害とアルコール性肝炎の違い

アルコール性肝障害とアルコール性肝炎の関係性
🏥
アルコール性肝障害は総称

脂肪肝、肝線維症、肝炎、肝硬変などすべての病態を含む包括的概念

⚠️
アルコール性肝炎は重症型

肝細胞の変性・壊死を伴う炎症が強い病態で、発熱や黄疸などの急性症状を呈する

📊
病期による分類が重要

肝障害の進行度と可逆性により、治療方針と予後が大きく異なる

アルコール性肝障害(Alcoholic Liver Disease:ALD)は、過剰な飲酒が原因で起こる様々な肝臓疾患の総称です。この概念には、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変、肝細胞がんが含まれます。一方、アルコール性肝炎は、アルコール性肝障害の中でも特に炎症が強い病型であり、肝細胞の変性・壊死を主体とする急性増悪を特徴とします。

 

参考)アルコール性肝炎 (あるこーるせいかんえん)とは

アルコール性肝障害全体とアルコール性肝炎の最も重要な違いは、病態の範囲と重症度です。アルコール性肝障害は軽度の脂肪肝から不可逆的な肝硬変まで連続した病態スペクトラムを示すのに対し、アルコール性肝炎は飲酒量増加を契機に急激に発症し、発熱、腹痛、黄疸、白血球増加などの明確な臨床症状を伴う重症型です。

 

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E6%80%A7%E8%82%9D%E9%9A%9C%E5%AE%B3/contents/150817-000004-KEOSKJ

両者の鑑別は医療従事者にとって極めて重要です。なぜなら、単純な脂肪肝であれば禁酒により1ヶ月程度で可逆的に改善する可能性が高い一方、アルコール性肝炎、特に重症型では禁酒後も肝腫大が持続し、死亡率が20~50%に達するためです。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/55/1/55_22/_pdf

アルコール性肝障害の病態分類と進行段階

 

 

 

アルコール性肝障害は、病理学的特徴に基づいて明確に分類されます。アルコール性脂肪肝は、肝小葉の30%以上にわたる脂肪化が主体で、その他の顕著な組織学的変化を認めない最も初期の病態です。この段階では無症状であることが多く、画像検査で肝腫大や脂肪肝と診断されますが、可逆性の病変であるため禁酒により速やかに改善します。

 

参考)アルコール性肝障害診断基準 2011年版

アルコール性肝線維症では、中心静脈周囲性線維化、肝細胞周囲性線維化、門脈域から星芒状に延びる線維化のいずれか、もしくは全てが認められます。この段階では炎症細胞浸潤や肝細胞壊死は軽度にとどまりますが、肝臓へのダメージが蓄積しており、改善には時間を要します。

 

参考)https://plaza.umin.ac.jp/jasbra/sub-kijyun.html

アルコール性肝硬変は、線維化が進行し肝臓が硬く縮んだ不可逆的な状態です。禁酒をしても元には戻らず、門脈圧亢進症による食道静脈瘤、腹水、肝性脳症などの重篤な合併症を引き起こします。肝硬変患者では、腹水の蓄積により細菌性腹膜炎のリスクが高まり、食道静脈瘤破裂による消化管出血は生命を脅かす事態となります。

 

参考)https://www.tokunaga-cl.jp/wp-content/uploads/2022/12/%E3%81%A8%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E6%80%A7%E8%82%9D%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%97%E3%81%A6-%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%89.pdf

日本肝炎情報センター - アルコール性肝障害診断基準の詳細な病理学的分類

アルコール性肝炎の病理学的特徴と臨床像

アルコール性肝炎の病理組織学的診断には、特徴的な4つの所見が重要です。第一に小葉中心部を主体とした肝細胞の著明な膨化(バルーン化)、第二に種々の程度の肝細胞壊死、第三にマロリー体(アルコール硝子体)の出現、第四に多核白血球の浸潤です。定型的アルコール性肝炎ではこれらすべてを認めるか、マロリー体または白血球浸潤のいずれかを欠くものとされ、非定型的アルコール性肝炎では両者を欠きます。

 

参考)アルコール性肝疾患 - 02. 肝胆道疾患 - MSDマニュ…

臨床的には、アルコール性肝炎は飲酒量増加を契機に発症し、著明な肝腫大、腹痛、発熱、黄疸を呈します。
血液検査ではAST優位の血清トランスアミナーゼ上昇、末梢血白血球数の増加、ALP(アルカリホスファターゼ)やγ-GTPの上昇が特徴的です。重症アルコール性肝炎では、脳症や消化管出血、感染症、腎不全などを合併し、極めて重篤な経過をたどります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/3/109_471/_pdf

日本で開発されたJapan Alcoholic Hepatitis Score(JAS)は、アルコール性肝炎の重症度評価に有用です。2011年度の全国調査では、中等症26例中4例(死亡率15%)、重症33例中17例(死亡率52%)が死亡しており、重症例では消化管出血、腎不全、播種性血管内凝固症候群DIC)の合併率が高いことが報告されています。

 

参考)アルコール性肝炎重症度スコアの有用性の検証と治療介入による予…

済生会 - アルコール性肝炎の症状と診断基準の詳細

アルコール性肝障害と肝炎の検査値の違い

アルコール性肝障害の検査値パターンは、病態により特徴的な違いを示します。一般的に、AST(GOT)とALT(GPT)の比が重要な鑑別点となり、アルコール性肝障害ではAST>ALTとなることが多いのに対し、非アルコール性脂肪肝炎や慢性肝炎ではAST<ALTとなる傾向があります。

 

参考)お酒の飲み過ぎだけじゃない!?肝機能検査のAST、ALT、γ…

γ-GTPは飲酒習慣を反映する特異的な検査項目です。日本人間ドック学会によると、γ-GTPの正常値は50 IU/L以下とされ、アルコール性肝障害の診断には極めて有用です。γ-GTPの上昇とAST・ALTの上昇が同時に認められる場合、アルコール性肝障害や脂肪性肝炎の可能性が高いと判断されます。

 

参考)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/2016120600012kannshougai.pdf

検査項目 アルコール性脂肪肝 アルコール性肝炎 アルコール性肝硬変
AST/ALT比 AST>ALT(軽度上昇) AST>ALT(中等度~高度上昇) AST>ALT(150単位以下が多い)
γ-GTP 上昇 著明な上昇 上昇(線維化マーカーも上昇)
白血球数 正常 増加 減少傾向(脾機能亢進)
ビリルビン 正常 高値(黄疸) 高値
血小板数 正常 正常~軽度低下 低下

アルコール性肝炎の特徴的な所見として、AST・ALTが50~400 IU/Lの中等度上昇を示し、AST/ALT比が1.5以上、さらにビリルビンが51.3 μmol/L(約3.0 mg/dL)を超える高ビリルビン血症を呈することが挙げられます。急性肝炎では両者とも500単位以上の高値を示しますが、アルコール性肝炎では通常そこまでの上昇は見られません。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10442237/

肝炎情報センター - アルコール性肝障害の検査値と診断基準

アルコール性肝障害の可逆性と不可逆性の境界

アルコール性肝障害における可逆性と不可逆性の理解は、治療戦略の決定において極めて重要です。アルコール性脂肪肝は可逆的な病変であり、禁酒により1ヶ月程度で改善が期待できます。脂肪肝では肝細胞に脂肪が蓄積していますが、肝細胞自体の構造は保たれているため、アルコール摂取を中止すれば肝臓は元の状態に戻ることが可能です。

 

参考)脂肪肝(アルコール性脂肪肝) - 医療法人誠恵会のなか内科

しかし、すべての脂肪肝が良好な予後を示すわけではありません。断酒しても約10%は悪化するという報告があり、特に高度な肥満を伴う脂肪肝の場合、約10%がアルコール性肝炎と同様に慢性肝炎から肝硬変、肝癌にまで進行する可能性があります。

 

参考)https://hmakino.lomo.jp/liverdisease.htm

アルコール性肝線維症の段階では、肝臓へのダメージが蓄積しており、改善には相当の時間を要します。線維化は肝臓組織の瘢痕化を意味し、この段階では完全な可逆性を期待することは困難です。禁酒により進行を止めることはできますが、既に形成された線維組織の完全な消失は限定的です。

 

参考)アルコール性肝障害の重症度について教えてください。 |アルコ…

アルコール性肝硬変に至ると、病態は完全に不可逆的となります。肝臓は硬く縮み、禁酒をしても元には戻りません。肝硬変では肝細胞の広範な壊死と線維化により、肝臓の正常な構造が失われ、門脈圧亢進症、腹水、食道静脈瘤、肝性脳症などの重篤な合併症が不可避となります。

 

参考)アルコール性肝硬変と「余命」:宣告に絶望しないために知ってお…

アルコール性肝炎に関しては、軽症から中等症の場合、禁酒により改善の可能性がありますが、重症型では禁酒後も肝腫大が持続し、予後不良となることが多いです。特に腎不全や凝固障害を合併した重症例では、たとえ禁酒しても死亡率が50%を超えることが報告されています。

 

参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/143031/201412040A/201412040A0007.pdf

Ubie - アルコール性肝障害の可逆性と重症度に関する詳細

アルコール性肝障害診断における独自の視点:病態の重複と移行

医療従事者として理解すべき重要な点は、アルコール性肝障害の各病態は必ずしも明確に区分されるものではなく、しばしば重複や同時進行が見られることです。例えば、背景肝が脂肪肝、肝線維症、あるいは肝硬変であっても、アルコール性肝炎の病理組織学的特徴を満たせば、アルコール性肝炎と診断されます。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3321494/

フランスの大規模研究では、アルコール依存症やアルコール性肝障害で入院した患者1,604例の肝生検結果を解析し、正常肝14%、線維化を伴わない脂肪肝29%、線維化±脂肪肝20%、肝硬変を伴わない脂肪肝炎8%、肝硬変43%という分布が報告されています。この結果は、アルコール性肝障害患者の約半数近くが既に肝硬変の段階に達していることを示しており、早期発見と介入の重要性を強調しています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4933837/

さらに注目すべき点は、アルコール性肝障害が他の肝疾患と重複することです。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)やC型肝炎ウイルス(HCV)感染と併存することで、肝障害の進行が加速し、重症度が増すことが知られています。このような複合病態では、単純な禁酒だけでは不十分であり、基礎疾患に対する包括的な治療アプローチが必要です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9599689/

アルコール性肝炎の発症機序においては、遺伝的要因も重要な役割を果たします。全ゲノムスキャンにより新たな病態メカニズムが同定されており、アルコールに対する個人の感受性が大きく異なることが明らかになっています。同じ飲酒量でも、ある患者は脂肪肝で留まり、別の患者は急速に肝硬変へ進行するという個体差の背景には、宿主の遺伝的リスク要因が関与していると考えられています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4887335/

アルコール代謝の過程で生成されるアセトアルデヒドは、直接的な肝細胞障害を引き起こし、活性酸素種の産生、小胞体ストレス、ミトコンドリア機能障害を誘導します。さらに、腸管由来の微生物成分が肝臓への炎症反応を増強し、核内因子κB(NF-κB)経路の活性化を介して炎症性サイトカインが放出され、線維化が促進されます。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6671387/

  • アルコール性肝障害の約20%が肝疾患へ進行し、女性では発症率が高い傾向にある
  • 肝細胞のアポトーシスと壊死の両方が病態に関与し、壊死が優位になることで炎症が増強される
  • 栄養状態、特に飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸のバランスが肝脂肪蓄積に影響する
  • アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の阻害により、脂質代謝異常が生じる

日本肝臓学会 - アルコール性肝炎重症度スコアの有用性検証と治療介入の論文(PDF)

アルコール性肝障害の病態・経過・予後