甲状腺機能亢進症の症状と診断・治療

甲状腺機能亢進症では動悸、体重減少、多汗など全身に多彩な症状が現れます。バセドウ病を含む原因疾患の早期診断と適切な治療が重要ですが、あなたはこの病態の臨床像を正確に理解していますか?

甲状腺機能亢進症の症状

💡 甲状腺機能亢進症の主要症状
🫀
循環器症状

頻脈、動悸、不整脈(心房細動)、高血圧などが出現し、重症例では心不全に至る

代謝亢進症状

体重減少、多汗、暑がり、疲労感、食欲亢進が特徴的で全身代謝が亢進する

🧠
精神神経症状

手指振戦、イライラ感、不安、不眠、集中力低下など精神的不安定性を呈する

甲状腺機能亢進症の全身症状と代謝変化

 

 

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンの過剰分泌により全身の代謝が異常に亢進する病態です。最も頻度の高い原因疾患はバセドウ病で、次いで機能性甲状腺結節(プランマー病)が挙げられます。患者は食欲が亢進しているにもかかわらず体重が減少するという特徴的な症状を呈し、これは甲状腺ホルモンによる異化作用の亢進が同化作用を上回るためです。pmc.ncbi.nlm.nih+3
体温調節機能も障害され、患者は常に暑く感じ、真冬でも発汗が著明となります。発汗は特に手掌や足底で顕著であり、手が常に湿って温かい状態が続きます。この多汗と暑がりは、甲状腺ホルモンによる熱産生の増加と末梢血管拡張が原因です。疲労感や全身倦怠感も高頻度に認められ、患者は常に体がジョギングをしているような状態にあるため、少しの活動でも息切れや疲労を感じやすくなります。kobe-kishida-clinic+4
消化器症状として、排便回数の増加や下痢傾向が見られます。これは腸管運動の亢進によるもので、1日に何回も便が出る、あるいは自然に便秘が治ったと感じる患者もいます。微熱が持続することも多く、体温は37.5℃前後を推移します。azumanaika+3

甲状腺機能亢進症の循環器症状と心臓への影響

循環器症状は甲状腺機能亢進症の主要な臨床像の一つであり、医療従事者が特に注意すべき所見です。甲状腺ホルモンは心臓の交感神経系に直接作用し、心拍数を増加させ、心筋の収縮力を増強します。その結果、安静時でも頻脈(1分間に100回以上)や動悸を自覚し、患者は常に心臓がドキドキする感覚に苛まれます。arai-ent+3
心房細動は甲状腺機能亢進症の重要な合併症であり、その頻度は年齢とともに上昇します。70歳以上では約10%に心房細動が合併し、特に男性に多いことが報告されています。心房細動を合併した場合、脳梗塞のリスクが著明に増加するため、抗凝固療法の適応を慎重に判断する必要があります。nagasaki-clinic+2
長期間にわたる甲状腺ホルモンの過剰状態が持続すると、高拍出量性心不全を発症することがあります。甲状腺ホルモンは心臓の仕事量を増大させ、心臓が常に全力で働かざるを得ない状態を作り出します。重症例では頻脈誘発性心筋症や拡張型心筋症、さらにはたこつぼ型心筋症を引き起こす可能性もあります。血圧は上昇傾向を示し、特に収縮期血圧の上昇が目立ちます。msdmanuals+4
甲状腺と心臓病の関連について詳細な情報(長崎甲状腺クリニック)

甲状腺機能亢進症の精神神経症状

精神神経症状は患者のQOLに大きく影響する重要な症候群です。手指の細かい震え(振戦)は甲状腺機能亢進症の特徴的な所見であり、小さな文字が書きにくい、箸が持ちにくいといった日常生活動作の障害をきたします。振戦は甲状腺ホルモンによる交感神経系の過剰刺激が原因で、重症例では上肢全体や下肢にまで及ぶことがあります。kanaji+2
精神症状としては、イライラ感、神経過敏、不安感、落ち着きのなさが高頻度に認められます。患者は些細なことで怒りっぽくなり、周囲から「性格が変わった」と指摘されることもあります。集中力の低下や記憶力の減退も見られ、仕事や学業に支障をきたす場合があります。phyathai+2
不眠も重要な症状の一つで、患者はよく眠れない、すぐに目が覚めるといった睡眠障害を訴えます。これらの精神神経症状は、甲状腺ホルモンが中枢神経系に直接作用することで生じると考えられています。筋力低下や脱力感も特徴的で、階段の昇降が困難になる、立ち上がるのに苦労するといった症状が出現します。kompas.hosp.keio+3

甲状腺機能亢進症に特徴的な眼症状

バセドウ病に伴う眼球突出は一般によく知られていますが、実際の発現率は全患者の約20~30%程度です。眼球突出は甲状腺眼症(バセドウ眼症)と呼ばれる自己免疫性の炎症により生じます。眼球を動かす外眼筋や眼窩内脂肪組織に自己抗体が作用し、炎症と腫脹が起こることで眼球が前方に押し出されます。izumikawa-clinic+4
甲状腺眼症では眼球突出以外にも多彩な症状が出現します。上眼瞼後退により目が見開いたような外観となり、目つきがきつく見える、目つきが変わったと周囲から指摘されることがあります。眼球結膜の充血や眼瞼の腫脹も認められ、患者は目が赤い、まぶたが腫れぼったいと訴えます。ts-itoeyeclinic+2
ドライアイの症状も高頻度に見られ、目の乾燥感、異物感、灼熱感を自覚します。眼筋炎により外眼筋の運動障害が生じると、物が二重に見える複視を呈することがあります。この複視は特に高齢者の甲状腺眼症で頻度が高いことが報告されています。重症例では視神経が圧迫され、視力低下、色覚異常、視野欠損といった深刻な視機能障害をきたす可能性があります。nagasaki-clinic+2
甲状腺眼症はバセドウ病だけでなく、橋本病や甲状腺機能が正常な場合でも発症することがあり、喫煙は重要な増悪因子として知られています。nichigan+1
甲状腺眼症のメカニズムに関する詳細(甲状腺眼症情報サイト)

甲状腺機能亢進症の年齢別・性別による症状の違い

高齢者の甲状腺機能亢進症は若年者や中年者と異なる臨床像を呈することが多く、診断が困難な場合があります。高齢者では甲状腺の腫大が目立たず、甲状腺が小さいために甲状腺疾患が見逃されやすい傾向があります。これはTSH受容体抗体(TRAb)に対する反応性が加齢により低下するためと考えられています。j-tajiri+1
症状面では、高齢者は若年者に比べて典型的な代謝亢進症状に乏しく、発汗、暑がり、頻脈、動悸といった症状が少ないことが特徴です。これは老化により身体が甲状腺ホルモンに対する反応を起こしにくくなっているためです。代わりに、体重減少と疲労感が最も目立つ症状となります。msdmanuals+2
高齢者では食欲低下が多く見られ、体重減少(るいそう)を起こしやすいという特徴があります。これは胃腸機能が加齢により低下しており、新陳代謝の亢進を上回る量の食事を摂取できないためです。そのため、悪性腫瘍による体重減少と誤診される事例も報告されています。nagasaki-clinic
精神面では、高齢者は若年者のようなイライラ感や興奮状態ではなく、むしろ抑うつ傾向を示すことが多いです。体の異常な代謝亢進に耐えられず、無気力や意欲低下を呈します。眼球突出の程度も小さい傾向にありますが、眼筋炎による複視の頻度は逆に高くなります。nagasaki-clinic
心房細動の合併率は年齢とともに上昇し、70歳以上では約10%に達します。高齢者では心不全のリスクも高く、循環器症状に対する慎重な管理が求められます。sugioka-clinic+2
女性は男性に比べて甲状腺機能亢進症の罹患率が高く、特に20~40歳代の女性に好発します。女性では月経異常(月経不順、無月経、過少月経)や不妊の原因となることがあります。kamata-yamada-cl+2

甲状腺クリーゼ:致死的合併症の臨床像

甲状腺クリーゼは甲状腺機能亢進症の最も重篤な合併症であり、多臓器不全や生体恒常性の破綻をきたす致死的な病態です。致死率は10%以上に達すると報告されており、適切な治療が行われない場合は致命的な転帰をたどります。近年の日本の全国疫学調査では死亡率が5.5%まで改善していますが、依然として緊急対応を要する医療上の重要課題です。pmc.ncbi.nlm.nih+5
甲状腺クリーゼの発症には、未治療または治療中断のバセドウ病患者に感染、手術、外傷などのストレスが加わることが引き金となります。特に上気道炎や肺炎などの感染症が誘因として最も多く報告されています。その他、放射性ヨード治療後、甲状腺手術後、薬剤の不規則な服用なども発症リスクとなります。medicaldoc+1
臨床症状は全身性症状、臓器症状、甲状腺基礎疾患関連症状の3つに大別されます。全身性症状として38℃以上の高熱(多くは39~40℃)、頻脈(130回/分以上)、多汗、ショック状態が出現します。循環器症状では心不全が前面に出ることが多く、頻脈性不整脈や心房細動を合併します。pmc.ncbi.nlm.nih+3
中枢神経症状は診断上重要な所見であり、意識障害を中心とした精神神経症状が特徴的です。患者は不穏、興奮、せん妄状態を呈し、大声で叫ぶ、暴力的になるといった異常行動を示すことがあります。進行すると傾眠、昏睡、痙攣に至ります。msdmanuals+1
消化器症状として、悪心、嘔吐、下痢、腹痛が高頻度に認められ、肝機能障害により黄疸を呈することもあります。血清ビリルビン値3mg/dL以上は重症度の指標となり、予後不良因子の一つです。pmc.ncbi.nlm.nih+1
日本甲状腺学会と日本内分泌学会が作成した診断基準(2016年版ガイドライン)に基づく早期診断と集中治療が予後改善に重要です。APACHE IIスコア12以上の重症例では、ガイドラインに従った治療を行うことで死亡率が著明に低下することが示されています。DIC(播種性血管内凝固症候群)を合併した症例は予後不良であり、早期からのDIC治療が必要です。pmc.ncbi.nlm.nih+2
甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017(日本甲状腺学会)

甲状腺機能亢進症の診断と検査方法

甲状腺機能亢進症の診断は、臨床症状と血液検査による甲状腺機能評価に基づいて行われます。まず動悸、発汗過多、体重減少、振戦といった甲状腺ホルモン作用過剰の症状を確認し、甲状腺腫大の有無を触診します。miyatake-clinic
血液検査では、遊離サイロキシン(FT4)、遊離トリヨードサイロニン(FT3)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定します。甲状腺機能亢進症では、FT4およびFT3が高値を示し、TSHは抑制されます。バセドウ病が疑われる場合は、抗TSH受容体抗体(TRAb)または甲状腺刺激抗体(TSAb)を測定します。japanthyroid+2
甲状腺超音波検査は、甲状腺の大きさ、内部構造、血流状態を評価するために重要です。バセドウ病では甲状腺内部の血流が著明に増加しており、カラードプラ法で確認できます。結節性病変の有無も評価でき、機能性甲状腺結節との鑑別に有用です。pmc.ncbi.nlm.nih+2
心電図検査は循環器合併症の評価に必須であり、頻脈、心房細動、ST-T変化などの所見を確認します。不整脈や心不全が疑われる場合は、胸部X線検査や心エコー検査も追加します。nagasaki-clinic+1
発熱と甲状腺の圧痛を認める場合は、CRP測定と甲状腺超音波検査により、亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎との鑑別を行います。甲状腺シンチグラフィは、放射性ヨードまたはテクネチウムの取り込みパターンにより、原因疾患の鑑別に役立ちます。miyatake-clinic+1
肝機能検査も重要で、甲状腺機能亢進症患者の15~76%に肝機能異常が認められることが報告されています。特に重症例では肝酵素上昇、黄疸が見られ、まれに劇症肝炎に進展することもあります。pmc.ncbi.nlm.nih
甲状腺疾患診断ガイドライン2024(日本甲状腺学会)

甲状腺機能亢進症の治療戦略

甲状腺機能亢進症の治療法は、抗甲状腺薬による薬物療法、放射性ヨード内用療法、外科的手術の3つが主体となり、患者の年齢、病態、合併症、妊娠の可能性、患者の希望などを総合的に判断して選択します。gifu-med.jrc+1
抗甲状腺薬治療はバセドウ病の第一選択となることが多く、メチマゾール(MMI)またはプロピルチオウラシル(PTU)が使用されます。これらの薬剤は甲状腺ホルモンの合成を阻害することで作用します。治療開始後、甲状腺機能が正常化すれば薬剤量を徐々に減量し、最小維持量で長期管理を行います。pmc.ncbi.nlm.nih+1
治療期間は通常2~3年以上必要であり、患者の約30~50%で寛解が得られます。しかし、薬物療法には副作用のリスクがあり、特に無顆粒球症、肝機能障害、皮疹などに注意が必要です。定期的な血液検査によるモニタリングが不可欠です。arai-ent+2
放射性ヨード内用療法は、放射性ヨード(I-131)を内服し、甲状腺組織を選択的に破壊する治療法です。高齢者、心疾患合併例、再発例、薬物療法が困難な症例に適応となります。治療後は多くの場合、甲状腺機能低下症となるため、甲状腺ホルモン補充療法が必要となります。pmc.ncbi.nlm.nih
外科的手術(甲状腺亜全摘術)は、甲状腺腫が非常に大きい場合、悪性腫瘍が疑われる場合、薬物療法や放射性ヨード療法が不適な場合に選択されます。手術には経験豊富な外科医による施行が望ましく、術後合併症として反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症のリスクがあります。pmc.ncbi.nlm.nih
甲状腺クリーゼの治療は集中治療室での管理を原則とし、抗甲状腺薬大量投与、ヨード剤投与、ステロイド投与、β遮断薬投与を組み合わせて行います。全身管理として、十分な輸液と電解質補正、積極的な体温冷却、誘因となった感染症などの治療が重要です。japanthyroid+2
補助療法として、β遮断薬は頻脈、動悸、振戦などの症状改善に有効です。ヨード剤は甲状腺ホルモンの分泌を急速に抑制しますが、長期投与では効果が減弱するため使用は限定的です。pmc.ncbi.nlm.nih
治療中は定期的な甲状腺機能検査(FT4、FT3、TSH)と肝機能、血球数のモニタリングが必要です。患者教育も重要であり、服薬アドヒアランスの向上、副作用の早期発見、ストレス管理、禁煙指導などを行います。medicaldoc+1
甲状腺機能亢進症の治療に関する詳細(岐阜赤十字病院)

 

 




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