男性ホルモン薬は大きく分けて、男性ホルモンを補充する薬剤と、男性ホルモンの作用を阻害する薬剤に分類されます。前者は性腺機能不全や造精機能障害などに使用され、後者は前立腺肥大症や前立腺癌の治療に用いられます。
男性ホルモン補充療法薬の分類:
抗男性ホルモン薬の分類:
これらの薬剤は、アンドロゲン受容体への結合や、テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換過程に作用することで効果を発揮します。特にDHTは前立腺肥大や男性型脱毛症に関与する重要なホルモンであり、その制御が治療の鍵となります。
男性ホルモン補充療法薬は、主に性腺機能不全や造精機能障害による男子不妊症、再生不良性貧血などに使用されます。
主要なテストステロン製剤:
これらの注射剤は長時間作用型で、通常2-4週間間隔で筋肉内注射を行います。血中テストステロン濃度を生理的レベルに維持することが治療目標となります。
蛋白同化ステロイド:
蛋白同化ステロイドは、筋肉や骨の蛋白質合成を促進する作用があり、筋萎縮や骨粗鬆症の治療にも応用されます。ただし、肝機能障害や脂質代謝異常などの副作用に注意が必要です。
補充療法では、治療開始前に前立腺特異抗原(PSA)値の測定や前立腺の触診を行い、前立腺癌の除外診断を行うことが重要です。また、定期的な血液検査によりヘマトクリット値の監視も必要となります。
抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンの作用を阻害することで、前立腺疾患や男性型脱毛症、多毛症などの治療に用いられます。
5α還元酵素阻害薬:
これらの薬剤は、テストステロンをより強力なDHTに変換する5α還元酵素を阻害します。前立腺肥大症の治療では、前立腺のサイズを縮小させる効果があり、効果が現れるまでに数ヶ月かかることが特徴です。
抗アンドロゲン薬(前立腺肥大症適応):
抗アンドロゲン薬は、精巣でのテストステロン産生を抑制し、血中のテストステロンが前立腺細胞に取り込まれることも阻害します。その結果、肥大した前立腺が縮小し、排尿障害が改善されます。
その他の特殊用途薬:
シプロテロンアセテートは、性同一性障害の治療やホルモン依存性前立腺癌の治療に使用されることがあります。強力な抗アンドロゲン作用を有し、中枢性の男性ホルモン分泌抑制作用も併せ持ちます。
男性ホルモン薬の適応疾患は多岐にわたり、それぞれの病態に応じた薬剤選択が重要です。
主要適応疾患:
前立腺肥大症の治療では、症状の重症度や前立腺の大きさ、患者の年齢や併存疾患を考慮して薬剤を選択します。軽度から中等度の症状では、α1アドレナリン受容体遮断薬が第一選択となることが多く、前立腺が明らかに肥大している場合は5α還元酵素阻害薬や抗アンドロゲン薬の併用を検討します。
性腺機能不全の診断では、複数回の血中テストステロン値測定に加え、黄体化ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の測定も重要です。原発性性腺機能不全では LH・FSH が高値を示し、続発性では低値となります。
薬剤選択の際の考慮事項:
男性ホルモン薬の処方においては、適切な副作用管理が治療継続の鍵となります。薬剤の種類により異なる副作用プロファイルを理解し、予防的対策を講じることが重要です。
テストステロン補充療法の主要副作用:
多血症は最も頻度の高い副作用で、治療開始後3-6ヶ月で出現することが多く、定期的なヘマトクリット値の監視(55%以下に維持)が必要です。必要に応じて用量調整や瀉血療法を検討します。
抗アンドロゲン薬の特徴的副作用:
5α還元酵素阻害薬では、薬剤中止後も性機能障害が持続する「ポストフィナステリド症候群」が報告されており、処方前の十分な説明と同意が必要です。
副作用管理のための監視項目:
特に高齢患者では、心血管疾患のリスク評価が重要で、治療開始前に心電図や心エコー検査の実施を考慮します。また、抗アンドロゲン薬を処方する際は、皮膚からの吸収があるため、妊婦や小児が薬剤に触れないよう十分な指導が必要です。
薬剤師との連携により、患者への服薬指導を徹底し、副作用の早期発見と適切な対応を行うことで、安全で効果的な男性ホルモン薬物療法を実現できます。定期的な外来フォローアップでは、症状の改善度評価とともに、生活の質(QOL)の向上についても評価することが重要です。