ムーンフェイスは、ステロイド薬の服用により体内のコルチゾールが増加することで引き起こされます。ステロイドを投与すると体内で糖新生が亢進され、それに伴い血糖値の上昇を抑えるためにインスリンの分泌量が増加します。このインスリンの受容体は脂肪細胞に多く存在しており、インスリンが結合することで脂肪の合成が促進され、分解が抑制されるのです。
参考)患者さんに満月様顔貌(ムーンフェイス)が生じた!
特にインスリン感受性が強い脂肪細胞が多く分布している顔面や腹部において、脂肪がつきやすくなります。その結果、顔が丸く膨らむムーンフェイスや腹部の中心性肥満、首の後ろに生じる野牛肩といった特徴的な症状が現れます。これらの脂質代謝異常は、ステロイド薬の用量が多いほど、また投与期間が長いほど顕著になる傾向があります。
参考)https://www.hosp.tohoku.ac.jp/pc/img/tyuuou/nst_steroid.pdf
ムーンフェイス以外にも、ステロイドの副作用として皮膚が薄くなり毛細血管が浮き出て顔面が赤くなる頬部紅潮が見られることがあります。これは浮腫により顔が丸顔となり、同時に皮膚萎縮のために血管が透けて見えることによるものです。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2007/072031/200712002B/200712002B0030.pdf
ステロイド療法におけるムーンフェイスは、副作用の中でも特に頻度が高く、比較的早い時期から出現する特徴的な外見上の変化です。症状が現れるのは治療開始から1~2週間が経過したころとされており、患者様によっては短期間でもムーンフェイスが起こるケースがあります。
参考)顔が丸くなった(ムーンフェイス)が気になる方へ~考えられる原…
ステロイドの使用期間と副作用の関係性については、短期間(2週間以内)の使用では発生可能性が低めですが、中期間(2~4週間)では用量が高めだと影響が見え始めます。長期間(1か月以上)の使用では発生可能性が高くなり、漸減を考慮しても影響が続きやすいとされています。
副作用の多くはステロイド内服の減量とともにゆっくり改善しますが、骨の副作用など改善しにくいものや、減量後もしばらく続く症状も存在します。ステロイドの使用を中止すれば症状が改善することもありますが、完全に元に戻るかどうかは個人差があります。医師との相談の上でリスクと治療効果を見極める必要があります。
参考)「満月様顔貌(ムーンフェイス)」を発症する原因はご存知ですか…
ムーンフェイスの原因は、ステロイド薬の副作用だけではなく、クッシング症候群という疾患によっても引き起こされます。クッシング症候群は、副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールが過剰に分泌され、ムーンフェイス・中心性肥満・野牛肩などの症状を起こす病気です。コルチゾールの分泌量は、脳の下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって調節されており、下垂体の異常によってACTHが大量に作られると副腎を過剰に刺激します。
参考)ムーンフェイス(満月様顔貌)とは? 原因や看護のポイントを解…
クッシング症候群の患者様には、ムーンフェイス以外にも特徴的な症状が現れます。毛細血管が透けてピンクのまだら模様に見える、あざができやすくなる、体幹に近い部分の筋力が低下する、多毛・にきび・腹部や臀部に赤い筋ができるといった症状が挙げられます。小児の患者様の場合は成長が遅く、低身長になる可能性もあり、女性の場合は生理不順が起こるケースもあります。
検査では血液中のコルチゾールやACTHなどの値を測定し、画像検査を行なうこともあります。満月様顔貌はクッシング症候群の特徴の一つですが、副腎皮質ステロイドの副作用も考えられるため、適切な鑑別診断が重要です。
参考)クッシング症候群とは?症状などについて解説|渋谷・大手町・み…
ステロイド治療中の食事管理は、副作用を予防・軽減するために大きな役割を果たします。ステロイドを内服していると血糖値が上がりやすくなるため、甘いものを多く取り過ぎたり、間食をしないよう心がける必要があります。一般的にステロイド服用中は食欲が亢進する患者様が多いため、間食の取りすぎに注意し、適正なエネルギー摂取を心がけることが重要です。
参考)食事
塩分を摂りすぎると身体に水分がたまり、腫れがひどくなるため、加工食品を控えるなどして塩分摂取量を抑えるようにしましょう。目標として1日6g未満など具体的な数値を設定することが効果的です。水分摂取量を適正に保ち、不要なむくみを防ぐことも大切です。
参考)視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)のムーンフェイスの…
長期間のステロイド剤内服によるムーンフェイスを完全に避けることは困難ですが、食事内容の工夫で軽減させることは可能です。ステロイドを内服していると骨がもろくなりますので、骨を作る材料となるカルシウム・マグネシウムを多く含む乳製品や小魚を積極的に摂取しましょう。関節リウマチや筋炎では筋肉の萎縮が見られますので、筋肉の材料になるアミノ酸の多い肉・卵・魚介類・大豆製品を摂取することも推奨されます。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/1503/
| 栄養素 | 推奨食品 | 目的 |
|---|---|---|
| カルシウム・マグネシウム | 乳製品、小魚 | 骨粗しょう症予防 |
| アミノ酸 | 肉、卵、魚介類、大豆製品 | 筋肉萎縮防止 |
| ビタミンB・C | 新鮮な野菜、柑橘類の果物 | 全身状態の維持 |
| 低塩分食品 | 加工食品を控える | むくみ軽減 |
ムーンフェイスによる外見の変化は、患者様にとって心理的な負担となることがあります。見た目が変わることで他人と会うのを避けるようになったり、気持ちが沈み、うつ状態に陥ったりすることもあるのです。外見上の変化は患者様の自尊心に影響を与え、社会生活や対人関係に大きな支障をきたす可能性があります。
参考)ステロイドの副作用『ムーンフェイス』とは?|サーシー@SLE…
上記の方針にあるように、ステロイド療法は、その効果だけでなく、副作用やそれがもたらす心理的・社会的な影響も考慮してアセスメントする必要があります。うつ状態や不安感は身体的症状の影響やステロイド剤の影響も考えられるため、心理的側面からの評価が不可欠です。
参考)訪問看護師が知っておきたい!ステロイド療法の支援のポイントと…
副作用がつらいために自己判断でステロイドの使用を中止し、その結果、病気が悪化してしまうケースもあります。そのため、看護師にできることとして、患者様の心情を理解し、ステロイドの減量・中止により改善することを覚えておくことが重要です。治療を優先させるとどうしても患者様の生活規制が増えてくるため、QOL(生活の質)の維持と治療効果のバランスを考慮した支援が求められます。
参考)https://www.nise.go.jp/josa/kankobutsu/pub_b/b-200/b-200_p39-46.pdf
医療従事者は、患者様に対してムーンフェイスが可逆的な副作用であることを説明し、長期的な視点での治療計画を共有することが大切です。また、気になることがありましたら、ささいなことでも医師や看護師、薬剤師に相談できる環境を整えることも重要です。
参考)https://hachioji.tokyo-med.ac.jp/wp-content/uploads/2019/08/steroid20190815.pdf
ムーンフェイスの直接的な治療法はありませんが、体重管理や減塩、十分な睡眠などによりリスクを減らすことができます。体重の増加がムーンフェイスを悪化させる可能性があるため、適度な運動とバランスの取れた食事によって、健康的な体重を維持しましょう。
具体的な運動療法としては、軽い筋トレやウォーキングなどを週2~3回継続することが効果的です。適度な運動やストレッチによって血行を促進することで、むくみを軽減しやすくなります。夜食や深夜の間食は極力避けることも重要なポイントです。
睡眠不足や過度なストレスはコルチゾールの過剰分泌を促進し、顔の腫れや炎症を悪化させるおそれがあります。十分な睡眠を取り、ストレスを溜めすぎないように心がけましょう。ムーンフェイスの症状を軽減するためには、食べ過ぎを控え、カロリーコントロールや適度な運動を心がけることが効果的です。
ステロイドの量が減ると自然に改善することもありますが、必ず医師の指示に従うことが大切です。3週間以上ステロイドを内服した時は、離脱症状が起こらないようにゆっくり減量します。減量の基本は「2~4週間で1割減らす」ですが、病気の状態や副作用の有無によって異なります。特にステロイドを使用している場合、自己判断で減量や中止をすると危険なため、必ず医師と相談のうえで対応するようにしましょう。
📌 ムーンフェイス予防のポイント
ステロイド使用中には、感染対策として手洗い、うがい、マスク着用や口内を清潔に保つことを心がける必要もあります。飲む量が多い場合は感染予防の薬を使用する場合があり、胃・十二指腸潰瘍の予防として暴飲暴食を避け、むかつき・胃の痛み・食欲低下等の症状があれば医療者に申し出ることも重要です。
参考)https://www.pharm-hyogo-p.jp/renewal/kanjakyousitu/r5k62.pdf