ギャップ結合コネキシンの構造と機能

ギャップ結合を形成するコネキシンは、細胞間コミュニケーションに重要な役割を担う膜貫通タンパク質です。心筋や神経組織での電気信号伝達、内耳でのイオン恒常性維持など、多様な生理機能を制御しています。コネキシン異常は難聴や心疾患などさまざまな疾患を引き起こしますが、その分子機構とは?

ギャップ結合コネキシンの構造と機能

この記事のポイント
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基本構造

コネキシンは6分子が集合してコネクソンを形成し、2つのコネクソンがギャップ結合チャネルを構成します

生理機能

イオンや小分子の細胞間輸送を担い、心筋の同期収縮や神経シグナル伝達に必須の役割を果たします

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臨床的重要性

遺伝子変異により難聴、心疾患、皮膚疾患など多様な病態が生じ、治療標的として注目されています

ギャップ結合コネキシンの分子構造と組織化

 

 

コネキシンは4回膜貫通型の膜タンパク質で、細胞質ループ(CL)と2つの細胞外ループ(EL-1、EL-2)を有する特徴的な構造を持ちます。分子量は26~60kDaの範囲にあり、平均380アミノ酸長で構成されています。ヒトでは21種類、マウスでは20種類のコネキシン遺伝子ファミリーが同定されており、そのうち19種類がオーソログ遺伝子として保存されています。

 

参考)コネクシン - Wikipedia

コネキシン分子は6量体を形成してコネクソン(ヘミチャネル)となり、細胞膜に配置されます。隣接する2つの細胞膜上のコネクソン同士が細胞外領域で結合することで、1つのギャップ結合チャネルが形成されます。このチャネルの中央には直径約1.5~2nmの親水性の孔が存在し、この孔を通じて分子量1kDa以下の小分子が細胞間を移動できます。

 

参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) ギャップ結合

個々のギャップ結合チャネルは数十から数百個が集合して斑点状の構造を形成し、これが機能的なギャップ結合として作用します。全体構造は和楽器の「鼓」に似た形状をしており、膜面に垂直な方向に細胞間を貫通しています。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj/52/1/52_1_25/_pdf

ギャップ結合コネキシンの多様なアイソフォームと組織分布

コネキシンは分子量に基づいて命名されており、心筋では主にCx40、Cx43、Cx45が発現しています。心房筋や心室筋などの作業心筋ではCx43の発現が最も多く、洞房結節や房室結節の中心部ではCx45が主要な構成因子となっています。細胞間伝導速度はCx43>Cx40>Cx45の順に速いことが知られています。​
消化器系組織では、胃組織にCx26、Cx32、Cx43が発現し、腸組織ではCx26、Cx31、Cx32、Cx36、Cx37、Cx40、Cx43、Cx45、Cx57など少なくとも10種類のコネキシンバリアントが特徴づけられています。内耳組織ではCx26が重要な役割を担っており、これをコードするGJB2遺伝子の変異は遺伝性難聴の主要な原因となっています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4570182/

コネキシン間の相互作用には選択性があり、すべてのコネキシンが互いにヘテロ型ギャップ結合を形成できるわけではありません。例えば、Cx40はCx43と通信できないことが報告されています。このようなコネキシンの組み合わせの多様性により、組織特異的な伝導性、サイズ・電荷選択性、開口電位などの性質が異なるギャップ結合が形成されます。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2120441/

ギャップ結合コネキシンによる細胞間物質輸送機能

ギャップ結合チャネルを介して通過できる物質には、無機イオンの他に、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、Ca²⁺、イノシトール三リン酸(IP₃)、アデノシン三リン酸(ATP)などの小分子が含まれます。これらの物質の透過性は、細胞内pH、Ca²⁺濃度、cAMP、環状グアノシン一リン酸(cGMP)などによって動的に調節されています。​
心臓組織では、ギャップ結合が低電気抵抗の経路として機能し、電気信号(活動電位)が心筋細胞に迅速に伝わることで、心房や心室単位での同期収縮を可能にしています。心筋細胞の介在板には特によく発達したギャップ結合が存在し、細胞間の電気的結合を維持しています。

 

参考)ギャップ結合(Gap junction)とは|細胞の結合装置…

血管のない組織、例えば目の水晶体や角膜では、ギャップジャンクションを介して栄養分や老廃物の移動が行われています。また、神経組織においてもギャップ結合による電気的シナプスが形成され、神経細胞間の迅速な情報伝達に寄与しています。

 

参考)コネクソン - Wikipedia

トーアエイヨー医療関係者向けサイト:心臓におけるギャップ結合の構造と機能についての詳細な解説

ギャップ結合コネキシンの精密な調節機構

ギャップ結合チャネルの機能は複数の機構によって精密に調節されています。化学的調節では、カルシウムイオン(Ca²⁺)がコネキシンの特定ドメインと相互作用することでチャネルの孔をブロックします。細胞内の酸性化(pHの低下)もコネキシンのC末端ドメインの変化を引き起こし、チャネル活性を低下させることが知られています。

 

参考)https://dmd.nihs.go.jp/jisedai/saisei/saisei18_S.pdf

一方、アルカリ性pH(例えばpH8.0)ではコネキシンチャネルが開き、細胞内カルシウム濃度の上昇を生じさせます。細胞外カルシウム濃度の変化もチャネルの開閉を制御し、mMオーダーの細胞外カルシウム存在下ではコネキシンチャネルが閉じることが報告されています。

 

参考)301 Moved Permanently

タンパク質のリン酸化は、ゴルジ体からのコネキシンの輸送、特定領域へのコネクソンの蓄積、不必要なチャネルの分解など、複数の方法で細胞間コミュニケーションを調節します。
神経伝達物質、成長因子、生理活性化合物などの体液性因子による調節も重要で、アドレナリンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質は神経細胞のギャップ結合に作用し、活動電位の伝播を引き起こします。​

ギャップ結合コネキシン遺伝子変異と疾患発症メカニズム

コネキシンをコードする遺伝子の変異は、機能や発達の異常につながり、多様な疾患を引き起こします。最も頻度の高い遺伝性疾患として、GJB2遺伝子(Cx26をコード)の変異による難聴があり、先天性難聴の約50%を占めています。新生児の約2,000人に1人が遺伝性聴覚障害を発症し、これは先天性疾患の中で最も高頻度に発生する疾患です。

 

参考)https://med.juntendo.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00028690.pdfamp;n=%E9%81%BA%E4%BC%9D%E6%80%A7%E9%9B%A3%E8%81%B4%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%82%92%E8%A7%A3%E6%98%8E%E3%80%80%EF%BD%9E%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%97%E7%B5%90%E5%90%88%E8%A4%87%E5%90%88%E4%BD%93%E3%81%AE%E5%8A%87%E7%9A%84%E5%B4%A9%E5%A3%8A%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E9%9B%A3%E8%81%B4%E7%99%BA%E7%97%87%E6%A7%98%E5%BC%8F%E3%82%92%E7%99%BA%E8%A6%8B%EF%BD%9E.pdf

Cx26変異による難聴は、内耳におけるカリウムイオンの恒常性維持の障害が原因と考えられています。蝸牛支持細胞に発現するCx26で構成されるギャップ結合の機能不全により、内耳の正常な機能が損なわれます。順天堂大学の研究では、患者由来のiPS細胞を用いて遺伝性難聴を再現することに成功し、新薬開発への道が開かれています。

 

参考)耳鼻科疾患分野

心臓領域では、Cx40やCx43の体細胞変異が特発性心房細動患者の心房筋で同定されています。コネキシン異常は心不全、心肥大、不整脈虚血性心疾患などの病態形成に関与することが報告されています。その他にも、皮膚疾患、白内障、神経障害、がんなど、コネキシン異常に関連する疾患は多岐にわたります。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7040059/

順天堂大学医学部:コネキシン26変異遺伝性難聴の発症メカニズムと治療への応用研究

ギャップ結合コネキシンヘミチャネルの独立機能

従来、コネキシンはギャップ結合を形成する構成要素として認識されてきましたが、近年の研究により、単一細胞膜上でヘミチャネル(半チャネル)として独立した機能を持つことが明らかになっています。ヘミチャネルは細胞質と細胞外環境を直接連結し、自己分泌・パラ分泌シグナル伝達において低分子が通過する経路として作用します。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4122521/

健常な細胞では、ヘミチャネルは通常閉じた状態で細胞の恒常性を維持していますが、病態生理学的プロセスでは活性化され、毒性のある膜孔として機能することがあります。開口したヘミチャネルは損傷関連分子パターン(DAMPs)の放出を促進し、炎症性疾患の病態形成に重要な役割を果たします。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8869213/

ヘミチャネルを介したATPの細胞外放出は、細胞間シグナル伝達の重要なメカニズムとなっています。また、脳微小血管内皮細胞では、Cx43ヘミチャネルがIP₃/Ca²⁺、ATP、活性酸素種(ROS)/一酸化窒素(NO)を介して放射線誘導性DNA損傷を非照射細胞に伝播することが報告されています。

 

参考)日本放射線影響学会 THE JAPANESE RADIATI…

最近の研究では、分子透過メカニズムがイオン伝導とは独立しており、トランスポーターや担体様の機構で分子輸送が行われることが示されています。これは、ヘミチャネルが単なる受動的な孔ではなく、より複雑な輸送機構を持つことを示唆しています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11331127/

ギャップ結合コネキシンを標的とした新規治療戦略

コネキシンは多様な疾患において治療標的として注目されており、いくつかの治療戦略が開発されています。Cx43模倣ペプチドは、虚血性心疾患、虚血再灌流障害、心不全、肥大型心筋症、不整脈原性右室心筋症などの心疾患に対する治療候補として報告されており、一部は臨床試験に進んでいます。

 

参考)https://www.mdpi.com/2308-3425/8/5/52/pdf

がん治療の領域では、コネキシン遺伝子の発現や機能回復を標的とした化学予防・治療法の開発が進められています。特にCx43の機能回復は、中皮腫や子宮内膜癌、腎臓癌などの難治性がんに対して抗腫瘍効果を示すことが報告されています。大豆由来のBowman-Birk protease inhibitorなどの天然物質によるコネキシン機能回復が、がん化学予防物質として期待されています。

 

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/234ef9779683445d4dc1042490a2c956dcd4cd7f

炎症性疾患に対しては、ヘミチャネルの阻害が有効であることが示されています。約30種類の炎症性疾患や障害の動物モデルにおいて、ヘミチャネルの遮断により炎症の軽減、組織損傷の減少、臓器機能の改善が認められています。てんかん治療においても、アストロサイトのCx43ヘミチャネルを標的とした治療戦略の研究が進められています。

 

参考)CareNet Academia

Nature Reviews Drug Discovery:コネキシンを標的とする治療法の最新レビュー

ギャップ結合コネキシン研究の最新技術と今後の展望

近年のクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)技術とX線結晶構造解析の進歩により、複数のコネキシンアイソフォームの高解像度構造が明らかになっています。これまでにCx26とCx43が精製、再構成され、機能解析と構造解析が行われています。これらの構造研究により、4本のヘリックスからなる膜貫通バンドル、ジスルフィド結合した細胞外ループのαβフォールド構造、ギャップ結合チャネル形成時の細胞外ギャップを越えた水素結合ネットワークなどが解明されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11117596/

患者由来のiPS細胞を用いた疾患モデル細胞の開発は、遺伝性難聴などのコネキシン関連疾患の病態解明と創薬研究に大きく貢献しています。異常なギャップ結合を持つ患者細胞を培養系で再現できることにより、薬剤スクリーニングの判定基準が確立され、新規治療薬の開発が加速されることが期待されています。

 

参考)患者iPS細胞で遺伝性難聴を再現|ニュース&イベント|順天堂…

ゲノム編集技術を用いたコネキシン変異ノックインマウスの樹立により、in vivoでの病態解析が可能になっています。これらのモデル動物は、コネキシン症候群の詳細な病態メカニズムの解明と、臓器特異的な治療戦略の開発に重要な役割を果たすことが期待されます。

 

参考)家族性心臓伝導障害の遺伝子解析と新規疾患の同定|研究について…

コネキシン種類 主な発現組織 関連疾患 臨床応用
Cx26 内耳、皮膚、肝臓 遺伝性難聴、皮膚疾患 iPS細胞モデル、創薬研究
Cx43 心筋、脳、多くの臓器 心不全、不整脈、がん ペプチド治療、がん治療
Cx40 心房筋、血管内皮 心房細動、伝導障害 ゲノム編集モデル研究
Cx45 洞房結節、房室結節 心臓伝導障害 ノックインマウス研究

今後のコネキシン研究では、個々のアイソフォームの臓器特異的機能の解明、ヘミチャネルとギャップ結合の独立した役割の理解、コネキシンの非チャネル機能の探索が重要な課題となっています。これらの基礎研究の進展により、遺伝性疾患から後天性疾患まで、幅広い疾患に対する効果的な治療法の開発が期待されます。

 

参考)コネキシンを標的とする治療法