「甘草上限」という言葉が臨床で混乱を生む理由は、規制・通知の対象が一枚岩ではないからです。
厚生労働省の通知(昭和53年 薬発第158号)では、一般用医薬品(経口剤)についてグリチルリチン酸の一日最大配合量を200mg、甘草を5g(エキスは原生薬換算で5g)とする取り扱いが示されています。
また同通知には、医療用医薬品に対して「一日最大配合量がグリチルリチン酸として100mg以上、または甘草として2.5g以上」などの区分に応じ、偽アルドステロン症等の注意喚起を使用上の注意に追加記載する方針が記載されています。
一方で、医療従事者が実務で向き合うのは「医療用で一律の“上限値”として運用できるか」という別の問いです。
添付文書上の警告・禁忌・慎重投与・相互作用は、患者背景と併用薬でリスクが大きく変わるため、単純に“数値だけ”で安全域を断定しにくい、というのが現場の実感に近いはずです。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnut.2021.719197/pdf
したがって「甘草上限=200mg(または甘草5g)」を“絶対の安全ライン”のように扱うより、「どの規制枠の話か」「医療用か一般用か」「短期か長期か」「重複があるか」を切り分けて説明する方が、患者安全とコミュニケーションの両面で事故が減ります。
ここで意外に見落とされがちなのが、“配合量の閾値”が臨床判断の入口として使える点です。
通知では、医療用医薬品で「グリチルリチン酸として100mg以上」または「甘草として2.5g以上」の場合に、禁忌(アルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症)や、低カリウム血症・血圧上昇・浮腫などへの観察をより明確に求めています。
つまり“上限”というより、「このあたりから副作用注意を一段上げるべき」という実務的な警戒ラインとして読むと、現場で使いやすくなります。
参考:一般用医薬品の一日最大配合量(200mg/5g)と、医療用の使用上の注意追加区分(100mg・2.5g等)が確認できます。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6972&dataType=1&pageNo=1
偽アルドステロン症は、「アルドステロンが増えていないのに」高血圧、むくみ、低カリウム血症などを呈する病態で、甘草やグリチルリチンを含む医薬品が原因として典型的です。
患者向け情報としても、手足のだるさ、しびれ、つっぱり感、こわばりに加え、力が抜ける感じ、こむら返り、筋肉痛が進行する場合に注意するよう明記されています。
症状が進むと、致死性不整脈や横紋筋融解症に至りうる点が、医療側が強く意識すべき重症化ルートです。
医療者向けには、低カリウム血性ミオパチーによる四肢脱力と、血圧上昇に伴う症状が主要所見として整理されています。
さらに、血清カリウムの低下だけでなく、心電図異常(T波平低化、U波出現、ST低下など)を伴うことがあるため、“採血だけで安心しない”のがポイントです。
検査値の特徴として、低カリウム血症と代謝性アルカローシスに加え、レニン活性(PRA)と血漿アルドステロン濃度(PAC)が低値となる所見が整理されています。
甘草上限の議論で「意外に重要」なのは、発症タイミングが一定でないことです。
使用開始後10日以内から数年後まで幅があり、使用期間と発症の間に一定の傾向はないとされています。
それでも、投与開始・投与量変更時は1か月以内、維持期でも3~6か月に1回の血清カリウム値チェックや心電図測定が重要、という“運用の型”が明確に示されています。
参考:偽アルドステロン症の初期症状、検査、発生機序、定期検査頻度の目安がまとまっています。
https://www.pmda.go.jp/files/000245267.pdf
甘草上限が問題化しやすいのは、「単剤の処方」よりも「重複(併用)」の場面です。
偽アルドステロン症は、複数の医薬品の飲み合わせで起こる場合もある、と明記されており、服用歴把握に一般用医薬品も含めることが重要とされています。
つまり、処方箋の範囲内で“甘草の総量”を見ても、患者が市販のかぜ薬・胃腸薬等を追加していると簡単に想定を超えます。
相互作用としては、フロセミド、エタクリン酸、チアジド系利尿薬との併用で血清カリウムが下がりやすくなるため注意、という具体的な記載があります。
さらに医療者向けマニュアルでは、利尿薬に加え、低カリウム血症を惹起しうる薬剤群(例:副腎皮質ステロイド、β2刺激薬、甲状腺ホルモン薬、アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチン等)に言及しており、“甘草だけの問題ではなく、カリウムが落ちる設計が重なる”ことが重症化の構造です。
医師・薬剤師・看護師で共通言語にするなら、「甘草の重複+Kを下げる併用薬+高齢/低体重」がそろうと危険、という三点セットでアラート化すると実装しやすいです。
実務では、次のようなチェック項目が、外来でも病棟でも再現性が高いです。
甘草上限を“超えたら中止”のように単純化すると、短期で必要な漢方を躊躇したり、逆に“超えていないから安全”と誤認したりして、どちらも事故につながります。
医療者向けマニュアルでは、薬剤性の偽アルドステロン症の治療は「推定原因医薬品の中止が第一」と明確です。
原因薬中止後も、症状や検査異常が数週間残ることがある点は、フォロー計画を立てる上で重要です。
低カリウム血症に対してカリウム製剤を投与することは多い一方で、「尿中へのカリウム排泄を増すばかりで、あまり効果がないとされる」という記載があり、補正の戦略は病態依存になります。
同マニュアルでは、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)の通常用量投与が有効であることにも言及されています。
つまり“甘草をやめてKを入れる”だけでなく、“ミネラルコルチコイド様作用の経路を抑える”という治療設計が明文化されており、ここが一般的な低K補正と異なる臨床ポイントです。
早期発見の導線として、患者が自覚しやすい初期症状(しびれ、つっぱり、こわばり、進行する脱力や筋肉痛)を具体的な言葉で伝えることが推奨されています。
特に、受診が遅れて歩行困難・起立不能で入院に至る例が多いという記載は、患者教育の重要性を裏付けます。
外来の短い指導時間でも、「手足のだるさ+こむら返りが増える+血圧が上がる」は受診サイン、とセットで伝えると再現性が高いです。
甘草上限の“意外な落とし穴”は、同じ配合量でも患者ごとに反応が揺れる点で、ここを理解すると「数値の上限」に過度に依存しなくなります。
医療者向けマニュアルでは、甘草・グリチルリチンによる発生機序として、腎尿細管などのアルドステロン標的臓器にある11β-HSD2が、甘草由来成分(GAやその代謝産物)によって抑制され、コルチゾールがMRを介してミネラルコルチコイド様作用を発揮する、と整理されています。
この説明は、患者に「アルドステロンが高いからではなく、体内の仕組みが“アルドステロンみたいに振る舞う”」と説明する際の核になります。
さらに同マニュアルでは、初期の報告はGL 500mg/日以上の大量投与が多かった一方で、その後はGL 150mg/日以下の比較的少量でも発症例が多数を占めるようになった、と記載があります。
ここから臨床的に導ける教訓は、「上限未満でも起こり得る」なので、上限議論は“安全の保証”ではなく“警戒の設計”に使うべき、という点です。
また、経静脈投与ではGLからGAが生じにくく、注射用GL製剤は内服用に比べて発現しにくいとされる、という記載もあり、投与経路でリスクが変わるのは患者説明でも差別化ポイントになります。
この独自視点セクションの実務的な使い方は、「甘草上限を1本の数値に固定しない代わりに、患者差を前提として監視設計を厚くする」ことです。
具体的には、体表面積が小さい者や高齢者に生じやすい、とされている背景を踏まえ、同じ処方でも高齢・低体重では採血頻度や問診の粒度を上げるのが合理的です。
“甘草上限”という言葉を使うなら、「上限=一律の天井」ではなく、「上限=患者ごとに変わる実質的な耐用量を超えないように監視する設計思想」と再定義した方が、医療現場の安全文化に合います。

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