骨密度が正常値(YAM80%以上)でも、椎体や大腿骨近位部に脆弱性骨折があれば、あなたはすぐに骨粗鬆症と診断して治療を開始しなければならない。
2025年8月、日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団の3団体が共同作成した『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版』が刊行されました。前回の2015年版から実に10年ぶりの全面改訂です。
今回の改訂では、『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0』の手順に準拠し、新たにClinical Question(CQ)を設定してシステマティックレビューを実施しました。エビデンスの評価・統合に基づいて推奨文が作成されており、透明性と信頼性が格段に向上しています。これは大きな変化です。
骨粗鬆症の患者数は現在、わが国で推定1,590万人にのぼるとされています。60代で有病率が急激に上昇し、70代女性では約37%、80代では42%が罹患しているとされる重大疾患です。大腿骨近位部骨折は骨折・転倒として介護が必要となった主な原因の第3位(13.0%)を占めています。こうした社会的背景が、今回の改訂の緊急性を後押ししました。
2015年版以降に登場した新薬(ロモソズマブ・ゾレドロン酸・アバロパラチド)の評価が追加されたほか、ASBMR/NOFが2024年に発表した「初期治療の治療アルゴリズム」を盛り込み、骨折リスクに応じた治療選択が体系化されました。医師・医療者にとって、改訂内容の全体像をいち早く把握することが求められます。
| 比較項目 | 2015年版 | 2025年版 |
|---|---|---|
| 作成手法 | 従来の委員会方式 | Minds GL作成マニュアル準拠・SR実施 |
| 骨密度評価指標 | YAM(%)のみ | YAM(%)+Tスコア(SD)の併用可 |
| 新規追加薬剤 | なし(テリパラチド酢酸塩等は追加済) | ゾレドロン酸・アバロパラチド・ロモソズマブ |
| 治療アルゴリズム | 記載なし | ASBMR/NOF 2024基準を導入 |
| 治療ゴール | 記載なし | Tスコア−2.5超えを目標として明示 |
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版の詳細(日本骨粗鬆症学会公式PDF)。
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会)
2025年版における原発性骨粗鬆症の診断基準は、基本的な枠組みは2015年版を継承しつつも、骨密度の評価指標においてTスコアの正式採用という重要な変更があります。つまり診断の選択肢が広がりました。
診断基準は大きく2つのルートに分かれます。
まず「脆弱性骨折に基づく診断」です。椎体または大腿骨近位部に脆弱性骨折がある場合は、DXA検査の結果がどうであれ、骨密度に関係なく骨粗鬆症と診断します。これは医療現場において非常に重要なポイントです。上腕骨近位部・橈骨遠位端・肋骨・骨盤などその他の部位の脆弱性骨折では、YAM80%未満(Tスコア−1.0以下)の条件も加わります。
次に「骨密度に基づく診断」です。脆弱性骨折がない場合、骨密度がYAM70%未満(Tスコア−2.5以下)であれば骨粗鬆症と診断します。従来のYAM(Young Adult Mean:若年成人平均値)による%評価に加え、SD(標準偏差)を用いたTスコア評価が2025年版で正式に併用可能となりました。
骨密度の測定はDXA(二重エネルギーX線吸収法)法を原則とします。測定部位は腰椎(L1〜L4またはL2〜L4)および大腿骨近位部が基本です。複数部位を測定した場合は、より低い値(%またはSD値)を採用します。高齢者で脊椎変形があり腰椎の測定が困難な場合は大腿骨近位部で代替します。それも困難であれば橈骨や第二中手骨を用いますが、その場合は%評価のみとなります。
重要な注意点として、低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患(骨軟化症・原発性副甲状腺機能亢進症・多発性骨髄腫など)を必ず除外してから診断します。DXA法だけでは骨軟化症と骨粗鬆症を区別できない点を、改訂ガイドラインは特に強調しています。スクリーニング検査として血清Alb・Ca・P・Cr・ALP、および必要に応じてPTH・25水酸化ビタミンD・骨代謝マーカーの測定が推奨されます。
市立甲府病院による骨密度検査結果の見方(YAM値・Tスコアの早見表)。
骨密度検査の結果の見方(市立甲府病院)
診断基準を正しく理解していても、実際の臨床現場では見落としが生じやすいポイントがあります。ガイドライン2025年版が特に注意喚起しているのが、椎体骨折の2/3が無症候性(不顕性)であるという事実です。
患者は腰背部痛を自覚せず、身長低下も気づかれないまま診察に訪れることが多くあります。しかし脊椎X線像を確認すれば、椎体変形が見つかるケースが少なくありません。椎体骨折がある場合、その後1〜2年以内に新たな骨折が発生する確率は骨折なし群と比べて約5倍に上昇するというデータがあります(J Bone Miner Res 2003; 18: 1547-53.)。これは大きなリスクです。
つまり、症状がないからといって「骨折なし」と判断することは大きな誤りになります。骨粗鬆症が疑われる患者には、症状の有無にかかわらず脊椎X線像の確認が必要です。ガイドライン2025年版でも「X線をみることが重要」と明記されています。
また、骨粗鬆症診断には多角的な骨折リスク評価が欠かせません。WHOが開発したFRAX®(骨折リスク評価ツール)は、年齢・性・骨密度・50歳以降の骨折歴・親の骨折歴・喫煙・アルコール摂取・ステロイド使用などの危険因子から、10年間の骨折発生確率を算出します。
FRAX®で算出した「主要骨粗鬆症骨折(MOF)の10年確率が15%以上」の場合、薬物治療開始の基準の一つとなります(75歳未満に適用)。ただし、グルココルチコイド使用・関節リウマチ・続発性骨粗鬆症の患者にはこの基準は適用されない点に注意が必要です。
糖尿病・COPD・慢性腎臓病(CKD)などの生活習慣病は骨折リスクを大幅に高めます。特に2型糖尿病では「罹病歴10年以上」「HbA1c7.5%以上」「インスリン使用」「閉経後女性のチアゾリジン使用」「重症低血糖リスク」などの条件下では骨折リスクが高く、原発性骨粗鬆症の診断基準を満たさない場合でも積極的な介入を検討することが推奨されています。
FRAX®(骨折リスク評価ツール)公式サイト。
FRAX® – 日本語版(University of Sheffield)
2025年版における最大の改訂ポイントの一つが、「初期治療の治療アルゴリズム」の導入です。米国骨代謝学会(ASBMR)/米国骨粗鬆症財団(NOF)が2024年に発表した治療アルゴリズムが盛り込まれ、患者の骨折リスクに応じた初期治療薬の選択が明確化されました。
薬物治療開始基準は以下のとおりです。
まず、脆弱性骨折がある場合:椎体骨折または大腿骨近位部骨折があれば即治療開始です。その他の部位の脆弱性骨折(肋骨・骨盤・上腕骨近位部・橈骨遠位端・下腿骨)でも、骨密度YAM80%未満であれば薬物治療を開始します。
脆弱性骨折がない場合:骨密度YAM70%以下(Tスコア−2.5以下)で薬物治療開始。YAM70%より大きく80%未満の場合は、大腿骨近位部骨折の家族歴または75歳未満でFRAX®の主要骨折10年確率が15%以上であれば開始を検討します。
そして今回の大きな変化が、高骨折リスク患者への骨形成促進薬の優先使用です。骨折リスクが非常に高い患者(大腿骨近位部・椎体の脆弱性骨折既往、または骨密度Tスコア−2.5以下など)には、従来の骨吸収抑制薬(ビスホスホネート等)を第一選択とするのではなく、ロモソズマブ(イベニティ®)・テリパラチド・アバロパラチドなどの骨形成促進薬を最初に投与することが推奨されます。これは臨床実践上の重要な転換点です。
骨形成促進薬は「ウィンドウ・オブ・オポチュニティ」の概念に基づき、未治療の患者や骨密度低下が著しい患者ほど骨密度増加効果・骨折抑制効果が高いというエビデンスがあります。ARCH試験では、ロモソズマブ12ヵ月投与後にアレンドロネートへ逐次移行した群は、アレンドロネート単独群と比較して椎体骨折の相対リスクが50%低下しました。
骨形成促進薬の投与後は骨吸収抑制薬(アレンドロネート・リセドロン酸・ゾレドロン酸・デノスマブなど)への逐次療法が推奨されます。「薬剤の効果維持には逐次療法が基本です」という考え方が今回のガイドラインで強調されています。
| 骨折リスク分類 | 主な条件 | 推奨される初期治療 |
|---|---|---|
| ⭐⭐⭐ 非常に高リスク | 大腿骨近位部・椎体の脆弱性骨折既往 | 骨形成促進薬(ロモソズマブ・テリパラチド等)→逐次療法 |
| ⭐⭐ 高リスク | その他部位骨折+YAM80%未満、またはYAM70%以下 | 骨吸収抑制薬(BP・デノスマブ等) |
| ⭐ 中等度リスク | YAM70〜80%未満+骨折危険因子あり | 骨吸収抑制薬またはFRAX®評価後に判断 |
骨粗鬆症ガイドライン2025の改訂ポイントと治療アルゴリズム詳解。
初めて治療ゴールを示した「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン」(CareNet)
2025年版では、2015年版以降に新たに保険承認された3薬剤(ロモソズマブ・ゾレドロン酸・アバロパラチド)の評価が追加されました。各薬剤の骨密度上昇効果と骨折抑制効果が、椎体骨折・大腿骨近位部骨折・非椎体骨折の3部位すべてに対して評価されています。
ガイドライン2025年版で特に注意が必要なのは、「処方を推奨する」と「処方を提案する」という推奨強度の違いです。「処方を推奨する」は椎体・大腿骨近位部・非椎体の3部位すべてに骨折抑制効果がある薬剤を意味します。「処方を提案する」はこの3部位のいずれかで骨折抑制効果が確認されていない薬剤です。多くの場合、大腿骨近位部への抑制効果が不明確な薬剤が「提案する」に分類されます。これは大きな違いです。
3部位すべてに骨折抑制効果があり「処方を推奨する(推奨強度1)」と評価された薬剤は以下の5種類です。
ゾレドロン酸(リクラスト®)は、年1回の点滴静注のみでよいという大きなアドヒアランス上のメリットがあります。経口薬の服用が困難な患者や、服薬管理が困難な認知症患者・高齢者に特に有用です。アバロパラチド(オスタバロ®)は2023年1月から使用可能になった副甲状腺ホルモン関連製剤(PTHrPアナログ)で、骨形成促進薬として18ヵ月を上限に使用します。
骨吸収マーカー(TRACP-5b・NTX・CTX・DPD)と骨形成マーカー(P1NP・BAP・ucOC)といった骨代謝マーカーは、治療効果の早期評価と投薬継続の判断に有用です。TRACP-5bとP1NPは特に時間・食事・腎機能の影響を受けにくく、臨床での使い勝手がよい点が注目されています。治療開始後3〜6ヵ月のマーカー変動を確認することは、骨密度測定の年1回よりも早期に治療効果を判定できる点で有益です。
骨粗鬆症治療に使用可能な薬剤と最新評価に関する資料(日本医師会・かかりつけ医向け研修資料)。
かかりつけ医に必要な骨粗鬆症への対応(日本医師会)
2025年版ガイドラインが整備されたことで、診断と治療の根拠が明確になりました。しかし臨床現場では、ガイドラインを理解しているだけでは不十分な場面があります。ここでは、検索上位の記事ではあまり触れられていない視点を整理します。
「骨密度測定をせずに治療開始できる」という原則の積極活用についてです。椎体または大腿骨近位部に脆弱性骨折がある患者は、DXA検査の予約・実施を待たずに薬物治療を開始できます。高齢患者では骨密度測定のための通院そのものが困難なケースも多く、この規定を知っておくことは、治療の遅延防止に直結します。「骨折部位が椎体か大腿骨近位部なら問題ありません。」DXAを待たずに治療介入することは、セカンドフラクチャー(再骨折)防止の観点から極めて重要です。
カルシウムとビタミンDの単独使用には注意が必要という点も見落とせません。2025年版ガイドラインのCQ2では、骨粗鬆症患者へのカルシウム700〜800mg/日・ビタミンD 15〜20µg/日(600〜800IU/日)の摂取が提案されていますが、エビデンスの強さはC(弱い)であり、「カルシウムやビタミンDを単独で使用しても骨折抑制効果は限定的」という評価です。一方でカルシウムとビタミンDを同時に摂取した場合は骨折リスクを低下させるとのエビデンスがあります(Tang et al. Lancet 2007)。結論はカルシウム+ビタミンDの組み合わせが原則です。
また、カルシウムサプリメントの過剰摂取は心血管イベントリスクを増加させる可能性が報告されており(Bolland et al. BMJ 2010)、食事からの摂取が優先されます。カルシウムを食事で十分に摂取できている患者に対してサプリメントを漫然と追加することには慎重であるべきです。これは意外ですね。
骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)の活用という観点も、2025年版で新たに明記されました。骨折急性期の整形外科治療後、骨粗鬆症自体への治療を受けていない患者が依然として多いのが現状です(全患者の約20%しか治療を継続していないとも言われています)。看護師・薬剤師・理学療法士が骨密度測定や薬物療法の開始を医師に橋渡しするOLSの仕組みを院内に構築することが、治療率向上に有効です。一度骨折が起きると、次の骨折リスクが急増することを考えれば、OLSの重要性は明らかです。
さらに、治療ゴールとモニタリングの継続についても整理しておく必要があります。ガイドライン2025年版で初めて示された治療目標は、Tスコア−2.5以下で治療を開始した場合は「Tスコア−2.5超え」を達成することです。骨密度は年1回の測定が目安とされていますが、治療中に骨密度が5%/年以上低下する場合は治療変更の検討が必要です。骨代謝マーカーの早期評価は必須です。
骨粗鬆症リエゾンサービスや骨折治療後の治療継続についての関連情報。
骨粗鬆症診療を充実させるリエゾンサービスについて(CareNet)