筋力が「平均以上」の高齢者でも、フレイルと診断されるケースが約3割存在します。
ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、「運動器の障害により移動機能の低下をきたした状態」を指します。骨・関節・筋肉・神経など運動器全体の機能低下が対象となる点が特徴です。つまり、単なる筋力低下だけを指す概念ではありません。
診断には「ロコモ25」や「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」が広く用いられています。ロコモ25は25項目の質問票で、合計スコアが7点以上でロコモ度1(移動機能の低下が始まっている状態)、16点以上でロコモ度2(移動機能の低下が進行している状態)、24点以上でロコモ度3(移動機能の低下が大きい状態)と判定されます。2020年の改訂でロコモ度3が新設された点は、多くの臨床現場でまだ十分に浸透していない情報です。
立ち上がりテストでは、片脚または両脚で決められた高さの台から立ち上がれるかを評価します。40cmの台から片脚で立てない場合はロコモ度1相当の目安となります。40cmは一般的なパイプ椅子の座面とほぼ同じ高さです。これはイメージしやすいですね。
2ステップテストでは、できるだけ大股で2歩歩いた距離を身長で割った「2ステップ値」を算出します。1.1未満でロコモ度1、0.9未満でロコモ度2の目安となります。外来で時間をかけずに実施できるため、スクリーニングとして有用です。
ロコモは日本独自の概念であるため、国際的な診断基準との比較・連携には工夫が必要です。日本整形外科学会のロコモチャレンジ推進協議会が公開している資料では、評価ツールの詳細な使用方法が確認できます。
日本整形外科学会 ロコモチャレンジ推進協議会:ロコモ度テストの詳細・評価方法
サルコペニアの診断基準は、アジア人に対応したAWGS2019(Asian Working Group for Sarcopenia 2019年改訂版)が現在の標準となっています。AWGS2019では、①筋肉量の低下、②筋力の低下(握力:男性28kg未満・女性18kg未満)、③身体機能の低下(歩行速度1.0m/秒未満、または5回椅子立ち上がりテスト12秒以上、またはSPPBスコア9点以下)の3要素で診断されます。
重要なのは「サルコペニア(probable)」という概念が導入された点です。これは、握力低下または身体機能低下のみで確認できる段階で、筋肉量測定がなくても介入を開始すべき状態を意味します。つまり、DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)やBIA(生体電気インピーダンス法)が使えない環境でも診断を進められるということです。
筋肉量の測定には、DXAによる四肢骨格筋量(ALM)と身長の二乗で割った骨格筋量指数(SMI:男性7.0kg/m²未満・女性5.7kg/m²未満がカットオフ)が基準となります。BIAは簡便ですが、水分変動の影響を受けやすく、浮腫のある患者には過大評価が生じやすい点に注意が必要です。これは臨床でよく見落とされる点ですね。
握力測定は安価かつ再現性が高く、外来でも実施しやすい評価項目です。利き手の握力が28kg(男性)または18kg(女性)を下回った場合はスクリーニング陽性と判断し、次のステップへ進みます。握力計1台あれば実施可能です。これは必須の評価ツールです。
AWGS2019の詳細な評価フローは、日本サルコペニア・フレイル学会の公式資料に掲載されています。アルゴリズムを印刷して診察室に掲示しておくだけで、見落としを大幅に減らせます。
日本サルコペニア・フレイル学会:診断基準・ガイドライン・教育資材の一覧
フレイルは「加齢に伴う身体的・精神的・社会的脆弱性が増大し、ストレスへの回復力が低下した状態」です。Friedらが提唱したCHS(Cardiovascular Health Study)基準を日本人向けに改訂したJ-CHS基準が標準的に用いられています。J-CHS基準の5項目は、①体重減少(6か月で2kg以上または体重の3%以上)、②疲労感(ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする)、③活動性の低下、④歩行速度の低下(1.0m/秒未満)、⑤握力の低下(男性28kg未満・女性18kg未満)です。
3項目以上該当でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定されます。プレフレイルの段階での介入が、要介護状態への移行を最も効果的に抑制できます。早期発見が原則です。
ロコモ・サルコペニア・フレイルの三者は概念が重複しており、実臨床では同時に複数の診断が成立するケースが少なくありません。国内の研究では、地域在住高齢者において三者が重複している割合が最大で約20〜25%に上るとの報告もあります。どういうことでしょうか?これは、1人の患者が3つの診断基準を同時に満たしうるということです。
さらに見落としやすい点として、フレイルには「社会的フレイル」「認知的フレイル」といった身体機能以外の側面も含まれます。社会的フレイルは「外出頻度が週1回未満」「他者との交流が月1回未満」などで評価されますが、身体評価のみに集中すると完全に見逃してしまいます。これは意外ですね。
フレイルの評価ツールとして、5項目の質問で簡便にスクリーニングできる「基本チェックリスト」(厚生労働省作成)も活用できます。介護予防事業の窓口で使用されているため、地域連携の観点からも把握しておくと臨床に役立ちます。
厚生労働省:基本チェックリスト(フレイル・介護予防スクリーニング)の様式と活用方法
三者に対する介入の核となるのは、レジスタンス運動と栄養管理の組み合わせです。単独の運動介入または栄養介入と比較して、複合介入は筋肉量・筋力・身体機能のすべての指標で優れた改善効果を示すことが複数のメタアナリシスで確認されています。これが基本です。
運動面では、週2〜3回のレジスタンス運動(スクワット、カーフレイズ、ヒップアブダクションなど)が推奨されています。負荷量は1RM(最大反復重量)の60〜80%が有効とされており、運動継続期間は最低12週間以上が効果発現の目安です。12週間はおよそ3か月です。
栄養面では、タンパク質摂取量が特に重要です。日本人の高齢者では体重1kgあたり1.0〜1.2g/日のタンパク質摂取が推奨されており、体重60kgの人であれば60〜72g/日に相当します。これは一般成人の推奨量(0.8g/kg/日)よりも明らかに多い量です。食事だけで確保が難しい場合は、ロイシン強化プロテインサプリメントやBCAAの補充が有効な選択肢となります。
見落とされがちな点として、ビタミンD欠乏がサルコペニアのリスクを高めることが知られています。血清25-OH-D濃度が20ng/mL未満の状態では筋力低下リスクが有意に上昇するとの報告があり、骨折リスクとも連動します。日本人高齢者の約半数がビタミンD不足(20ng/mL未満)に該当するというデータもあり、これは見逃しやすい数値です。
タンパク質摂取のタイミングも重要です。運動直後30〜60分以内(いわゆる「ゴールデンタイム」)にホエイプロテインなどの速吸収型タンパク質を摂取すると、筋タンパク合成が促進されることが示されています。患者指導の際には、摂取量だけでなく摂取タイミングも具体的に伝えることで、介入効果を最大化できます。これは使えそうです。
日本老年医学会:フレイルに関する診療ガイドライン・高齢者の栄養管理指針
臨床でしばしば見落とされるパターンとして、「外見上活発に見えるが、実際にはフレイルが進行しているケース」があります。これは「ロバストフレイル」とも呼ばれ、日常的な活動は継続しているように見えながら、体重減少・疲労感・握力低下がすでに基準を超えているケースです。意外ですね。
こうした患者は自覚症状に乏しいため、本人からの申告を待っていると介入時期を逃してしまいます。定期的な握力測定と体重変化のモニタリングを診療の中にルーチンとして組み込むことが、早期介入の鍵となります。測定する習慣が条件です。
また、「ロコモはあるがフレイルではない」という状態も存在します。これは運動器に問題があっても、社会活動・認知・栄養状態が保たれているケースで、適切なリハビリ介入により改善の余地が大きい群です。この群をフレイルと混同して過度な活動制限をかけると、逆に廃用症候群を招くリスクがあります。
さらに特筆すべきは、サルコペニア肥満(Sarcopenic Obesity)の問題です。体重やBMIが正常〜過多であっても筋肉量が低下しているケースで、見た目の体格から「サルコペニアではない」と判断してしまう誤りが生じやすいです。日本の地域在住高齢者を対象とした研究では、サルコペニア肥満の割合が男性で約10%、女性で約8%に上るとの報告があります。BMIだけで判断するのは禁物です。
こうした複雑なパターンを見極めるためには、体組成計(BIA機器)を用いた筋肉量の直接評価が有効です。最近は診療所規模でも導入しやすい機種(体重計型のBIA機器で15〜30万円程度の製品もあります)が増えており、フレイル外来や整形外科外来での活用が広がっています。導入コストを含めた費用対効果の観点から、外来診療の流れに組み込めるかどうか検討する価値があります。
日本老年医学会:サルコペニア・フレイルの診断ツール一覧と評価フロー(医療従事者向け資料)