胆汁酸トランスポーター阻害薬の種類と一覧

胆汁酸トランスポーター阻害薬について、その種類、作用機序、効果、副作用を詳しく解説。現在使用可能な薬剤から将来的な応用まで、医療従事者が知っておくべき情報をまとめて紹介します。この薬剤の可能性をご存知ですか?

胆汁酸トランスポーター阻害薬の種類と一覧

胆汁酸トランスポーター阻害薬の概要
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世界初の薬剤

エロビキシバット(グーフィス錠)が世界で初めて開発された胆汁酸トランスポーター阻害薬として2018年に発売

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IBAT阻害作用

回腸末端部のIBATを阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制することで大腸内胆汁酸量を増加

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多様な効果

便秘改善だけでなく、糖・脂質代謝改善や肝腫瘍抑制など幅広い薬理作用を持つ

胆汁酸トランスポーター阻害薬の基本的な作用機序

胆汁酸トランスポーター阻害薬は、IBAT(ileal bile acid transporter:回腸胆汁酸トランスポーター)を特異的に阻害することで薬理作用を発揮します。胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され、胆嚢に蓄えられた後、食事に伴って十二指腸へ排出されます。

 

通常、排出された胆汁酸の約95%は小腸で再吸収され、門脈を経由して肝臓に戻る「腸肝循環」というシステムを形成しています。この再吸収過程で重要な役割を果たすのが、回腸末端部の上皮細胞に発現しているIBATです。

 

胆汁酸トランスポーター阻害薬はこのIBATを阻害することで。

  • 胆汁酸の再吸収を抑制し、大腸内に流入する胆汁酸量を増加させます
  • 大腸管腔内での水分分泌を促進し、便の水分含有量を増加させます
  • 大腸運動を促進し、腸管の蠕動運動を活発化させます
  • 便意を促進し、自然な排便を誘導します

このように、胆汁酸トランスポーター阻害薬は「便を柔らかくする作用」と「腸の動きを刺激する作用」の両方を併せ持つ特徴的な薬剤です。

 

エロビキシバット(グーフィス錠)の特徴と効果

現在日本で使用可能な胆汁酸トランスポーター阻害薬は、エロビキシバット水和物(商品名:グーフィス錠5mg)のみです。この薬剤は2018年4月18日に薬価収載され、EAファーマ、持田製薬から販売されています。

 

薬剤の基本情報

  • 一般名: エロビキシバット水和物
  • 商品名: グーフィス錠5mg
  • 薬効分類: 胆汁酸トランスポーター阻害剤(分類番号:2359)
  • 用法・用量: 1日1回5mg経口投与
  • 薬価: 80.2円/錠

商品名の由来
グーフィスという名称は、Good(優れた)とFeces(便)を組み合わせて作られており、良好な排便を促すという薬剤の効果を表現しています。

 

臨床効果
エロビキシバットは慢性便秘症患者に対して有意な改善効果を示しており、特に以下の点で従来の便秘薬と差別化されています。

  • 自然な排便パターンの回復: 薬理学的に自然な排便メカニズムを活用
  • 依存性の低さ: 刺激性下剤と異なり、耐性形成のリスクが低い
  • 両方向性の作用: 水分分泌促進と腸管運動促進の両方を実現

追加の薬理作用
便秘改善以外にも注目される効果として、エロビキシバットは血清コレステロールを約10%低下させる作用を有することが報告されています。これは胆汁酸がコレステロール代謝に深く関与していることに起因します。

 

胆汁酸トランスポーター阻害薬の副作用と注意点

エロビキシバットの使用にあたって注意すべき副作用と禁忌事項について詳しく解説します。

 

主要な副作用
臨床試験において最も頻繁に報告される副作用は以下の通りです。

  • 腹痛(23.2%): 大腸運動の促進による症状で、患者への事前説明が重要
  • 下痢(14.4%): 薬理作用による予想される副作用
  • その他の消化器症状: 下腹部痛、腹部膨満、悪心、軟便など

肝機能への影響
5%以上の頻度で肝機能異常(ALT増加、AST増加、γ-GTP増加など)が報告されており、定期的な肝機能モニタリングが推奨されます。

 

禁忌・慎重投与
以下の患者には使用が制限されます。

  • 重篤な肝障害患者: 胆汁酸合成能力の低下により効果が期待できない
  • 胆道閉塞患者: 胆汁酸分泌が阻害されているため効果不十分
  • 胆汁酸分泌低下患者: 作用機序上、効果が期待できない

使用上の注意点
医療従事者として把握しておくべき重要なポイント。

  • 投与初期の症状説明: 腹痛や軽度の下痢は薬理作用による正常な反応であることを患者に説明
  • 効果発現時期: 通常、投与開始から数日以内に効果が現れる
  • 用量調整: 症状に応じて医師の判断で用量調整を検討

日本消化器病学会による慢性便秘症診療ガイドラインでの位置づけについて
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/chronic_constipation.html

胆汁酸トランスポーター阻害薬の相互作用薬剤

エロビキシバットは特有の作用機序により、多くの薬剤との相互作用が報告されています。医療従事者として十分な注意が必要です。

 

作用が減弱する薬剤
以下の薬剤はエロビキシバットと併用時に作用が減弱する可能性があります。

  • 胆汁酸製剤: ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸
  • 機序:IBAT阻害により胆汁酸製剤の再吸収が阻害される
  • アルミニウム含有制酸剤: スクラルファート水和物、アルジオキサなど
  • 機序:消化管内で胆汁酸を吸着するため
  • 胆汁酸吸着薬: コレスチラミン、コレスチミド
  • 機序:胆汁酸を直接吸着することによる

エロビキシバットの作用が減弱される薬剤
同様に、以下の薬剤はエロビキシバット自体の効果を減弱させます。

  • アルミニウム含有製剤全般
  • 胆汁酸結合樹脂製剤

他剤の血中濃度に影響を与える薬剤
エロビキシバットのP-糖蛋白質阻害作用により、以下の薬剤の血中濃度が上昇し、作用が増強する可能性があります。

  • ジゴキシン: 心不全治療薬として使用頻度が高く、特に注意が必要
  • ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩: 抗凝固薬で出血リスクの増加に注意

血中濃度が低下する薬剤
機序は不明ですが、以下の薬剤の血中濃度低下が報告されています。

  • ミダゾラム: 麻酔・鎮静に用いられるベンゾジアゼピン系薬剤

臨床現場での対応策

  • 併用薬チェック: 処方前に患者の服用薬を必ず確認
  • 血中濃度モニタリング: 必要に応じてジゴキシンなどの血中濃度測定を実施
  • 投与間隔の調整: 相互作用薬剤との投与時間をずらすことを検討
  • 定期的な効果判定: 併用薬の効果に変化がないか継続的に評価

胆汁酸トランスポーター阻害薬の将来的な応用可能性

現在、胆汁酸トランスポーター阻害薬は便秘治療薬として承認されていますが、最新の研究では従来の適応を超えた幅広い治療効果が期待されています。

 

糖・脂質代謝異常への応用
近畿大学を中心とした研究グループの報告によると、IBAT阻害薬エロビキシバットは糖代謝・脂質代謝異常の改善に有効であることが明らかになっています。この研究では。

  • 胆汁酸シグナル伝達経路を介した代謝改善: 血中胆汁酸の量的・質的変化により代謝調節
  • 腸内細菌叢の変化: 胆汁酸分画と腸内細菌叢の相互作用による代謝改善
  • 新しい治療ターゲット: メトホルミンや肥満手術の作用機序との共通点

肝腫瘍抑制効果
名古屋大学の研究チームは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルマウスを用いて、エロビキシバットの肝腫瘍抑制効果を世界で初めて報告しました。

  • 肝臓内胆汁酸の低下: 血液中・肝臓内の胆汁酸濃度減少による腫瘍発生率低下
  • 腸内細菌叢の大幅な変化: グラム陽性菌の割合低下と腫瘍抑制の関連性
  • 新たな発癌抑制メカニズム: 胆汁酸を介した革新的な治療アプローチの可能性

臨床応用への展望
これらの研究成果は以下の臨床応用につながる可能性があります。

  • 糖尿病治療への応用: 既存の糖尿病治療薬との併用療法
  • 脂質異常症治療: コレステロール低下作用を活用した脂質管理
  • 肝癌予防: NASH患者における肝癌発生リスク軽減
  • メタボリックシンドローム: 包括的な代謝異常改善アプローチ

国際的な新薬開発動向
日本以外でも胆汁酸トランスポーター関連の新薬開発が進んでいます。

  • Prucalopride: セロトニン受容体4刺激薬
  • Plecanatide: グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト
  • Mizagliflozin: SGLT1阻害薬の便秘治療への応用

今後の研究課題

  • 長期安全性の確立: より長期間の使用における安全性プロファイル
  • 最適な使用方法: 患者背景に応じた個別化治療戦略
  • 他疾患への適応拡大: 基礎研究で示された効果の臨床応用

胆汁酸トランスポーター阻害薬の研究は現在も活発に進められており、便秘治療を超えた包括的な代謝調節薬としての発展が期待されています。医療従事者としては、これらの新しいエビデンスを継続的に把握し、患者の状態に応じた最適な治療選択を行うことが重要です。

 

IBAT阻害薬の最新研究動向について詳しく知りたい方は以下の学術論文をご参照ください
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/naika