ウィルソン病は常染色体劣性遺伝で遺伝する胆汁中への銅排泄障害による先天性銅過剰症です。ATP7B遺伝子の変異により銅の胆汁中への排泄が阻害され、全身臓器に銅が沈着して組織障害を引き起こします。
症状・障害臓器から病型は以下のように分類されます。
肝型
神経型
精神症状
眼症状
興味深いことに、神経症状が先行する場合、初期には統合失調症と誤診されるケースが約10年続いた症例報告もあります。これは精神症状が主症状として現れることがあるためで、若年者の精神症状では本疾患の可能性も考慮する必要があります。
ウィルソン病の診断は、症状と検査所見を点数化したスコアリングシステムを用いて行われます。
主要な検査項目
血清セルロプラスミン値
尿中銅排泄量
肝銅含量
遺伝学的検査
症状による得点
診断カテゴリーは合計点数で決定され、4点以上でDefinite(確定診断)、3点でPossible(疑診)となります。
セルロプラスミンは銅結合蛋白であり、ATP7B遺伝子変異により銅の取り込みが障害されるため血中濃度が低下します。ただし、新生児期や炎症時には偽陰性となる可能性があるため、複数の検査を組み合わせた総合的な診断が重要です。
ウィルソン病の治療は、病型と重症度に応じた薬剤選択が重要です。現在使用される治療薬は以下の3種類です。
D-ペニシラミン(メタルカプターゼ®)
塩酸トリエンチン(メタライト250®)
酢酸亜鉛(ノベルジン®)
病型別治療薬選択指針
軽症~中等症肝型
重症肝型(非代償性肝硬変~肝不全)
神経型・肝神経型
神経症状を有する患者では、D-ペニシラミンにより神経症状の一時増悪が起こる可能性があり、長引くと不可逆的になる恐れがあります。そのため、神経型では塩酸トリエンチンが第1選択となります。
各治療薬には特有の副作用があり、適切なモニタリングが必要です。
D-ペニシラミンの主な副作用
塩酸トリエンチンの副作用
酢酸亜鉛の副作用
副作用管理のポイント
定期検査項目
服薬指導の重要性
すべての治療薬は空腹時服用が原則です。特に塩酸トリエンチンとD-ペニシラミンは、食事と同時摂取により効果が著しく減弱するため、食前1時間以上前または食後2時間以降の服用が必須です。
D-ペニシラミンには抗ピリドキシン作用があるため、ビタミンB6の併用投与が推奨されます。また、重篤な副作用出現時には速やかに代替薬への変更を検討する必要があります。
ウィルソン病は早期診断と適切な治療により予後良好な疾患ですが、生涯にわたる治療継続と生活管理が必要です。
予後改善因子
低銅食療法の実際
治療開始時には銅摂取量を1.0mg/日以下(乳幼児は0.5mg/日以下)に制限します。治療により症状が安定すれば1.5mg/日まで緩和可能です。
避けるべき高銅含有食品
妊娠・出産への対応
女性患者では妊娠・出産が可能ですが、妊娠中も治療継続が必要です。胎児への影響を考慮し、通常は酢酸亜鉛への変更または減量が検討されます。
社会的支援
ウィルソン病は指定難病171として医療費助成の対象となります。患者数は約3,000人と推定されており、専門医との連携による長期管理が重要です。
未診断患者への対策
世界的にウィルソン病患者の約半数が未診断のまま死亡していると推定されます。医療従事者は以下の場合に本疾患を疑う必要があります。
ウィルソン病友の会による患者支援活動も行われており、患者・家族への情報提供と心理的支援が提供されています。
厚生労働省指定難病情報センター:ウィルソン病の詳細な診断基準と重症度分類
ノーベルファーマ:ウィルソン病の症状と治療法に関する患者・医療従事者向け情報
治療の成功には医療従事者と患者・家族の連携が不可欠であり、継続的な教育と支援体制の構築が求められます。