嚥下障害の症状と原因、診断から治療

嚥下障害はむせや食事時間の延長、誤嚥性肺炎など多様な症状を呈します。脳卒中や加齢が主な原因で、適切な診断と多角的な治療が必要です。あなたは嚥下障害の早期発見と対策をご存知ですか?

嚥下障害の症状と原因

嚥下障害の主な特徴
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水分摂取時の症状

水やみそ汁などの液体でむせやすく、飲み込むスピードが追いつかない

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食後の声質変化

食後に喉が「ゼロゼロ」と湿った感じの声がれが生じる

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誤嚥性肺炎リスク

不顕性誤嚥により無自覚のまま肺炎を発症する可能性がある

嚥下障害で出現する多様な症状

 

 

嚥下障害では食事中や食後に特徴的な症状が現れます。最も代表的な症状はむせであり、特に水物でむせやすいのは液体が喉に流れ込むスピードが速く嚥下動作が追いつかないためです。食べ物がのどにつかえる感覚や、食事の後に喉が「ゼロゼロ」する湿った感じの声がれも重要なサインとなります。medicalnote+2
食事中でなくても突然むせたり咳き込んだりする症状は、唾液でむせている可能性があります。飲み込んだ後も口腔内に食物が残っている、ご飯より麺類を好むようになる、食事の後にがらがら声になるなども嚥下障害の兆候です。食べるとすぐ疲れて全部食べられない、体重が徐々に減ってきた、毎日飲んでいた薬を飲みたがらないといった変化も見逃せません。nichiiko
特に注意すべきは不顕性誤嚥です。のどの感覚が鈍くなっていると食事中に誤嚥していてもむせなかったり、睡眠中に唾液が気管や肺に流れ込んだりすることで、嚥下障害を自覚しないまま誤嚥性肺炎を起こすことがあります。高齢者の嚥下性肺炎は発熱などの症状が軽度のこともあるため、夜間に咳き込むことがある、発熱を繰り返すといった症状も重要な判断材料になります。kishoku+2

嚥下障害の主要な原因疾患

嚥下障害の原因として最も多いのは脳卒中(脳梗塞・脳出血など)です。脳卒中により脳がダメージを負うと脳からの指令が正常に出ないため、食べ物を口に入れても喉の筋肉をスムーズに動かすことができません。実際に脳卒中の急性期では20~50%に嚥下障害が認められることが報告されています。neurotech+1
脳梗塞や脳出血などで嚥下を司る迷走神経や舌咽神経が障害されると、うまく咽頭や喉頭の筋肉に運動の指令を送れなくなるため嚥下障害を引き起こします。嚥下に関わる咽頭や声帯の動きには主に舌咽神経・迷走神経という2つの神経が関与しているため、こうした神経を巻き込んだ腫瘍や手術の後にも起こりやすくなります。hashiguchi-cl+1
加齢による機能低下も重要な原因です。加齢や脳梗塞・脳出血などの脳血管障害、神経筋疾患などによる嚥下障害が増加している状況です。パーキンソン病、進行性の神経筋疾患、サルコペニアなども原因になりえます。近年では、脳卒中後に発症した摂食嚥下障害であっても、サルコペニアの存在が嚥下障害の程度を重度にしているという報告もあります。noureha-shizuoka+4

嚥下障害の診断と検査方法

嚥下障害を診断するためには様々な方法があり、大きく分けて専門機器を使わない検査と専門機器を使う検査があります。jda
専門機器を使わない検査として、まず医療面接(問診)では患者さんやご家族から嚥下障害の原因や重症度、経過についての情報を集めます。視診および触診では嚥下に関係する様々な部位の形、動き、感覚を調べます。jda
スクリーニング検査として、反復唾液嚥下テストが最初に行われます。これは30秒の間に唾液を何回飲み込めるのかを計測し、飲み込めた回数が2回以下の場合、摂食嚥下障害の可能性が高くなります。この試験で特に問題が見られなければ、次の段階で改訂水飲みテストやフードテストが行われます。tyojyu
専門機器を用いた精密検査として、嚥下造影検査はエックス線透視室で行う嚥下障害を診断する精密検査です。また、鼻から喉にかけて内視鏡を挿入し、実際の嚥下の動作を内視鏡で観察する嚥下内視鏡検査も重要な診断ツールです。これらの検査により、嚥下機能の詳細な評価が可能となります。tabuchi-jibi+1

嚥下障害における誤嚥性肺炎のリスク

飲み込んだものが食道ではなく気管に入る誤嚥は、食べ物や唾液とともに入りこんだ細菌によって誤嚥性肺炎を生じる原因になります。通常、誤嚥するとむせる、咳き込むなどの症状がみられますが、のどの感覚が鈍くなっていると食事中に誤嚥していてもむせない不顕性誤嚥が問題となります。medicalnote
健常者でも睡眠中に無自覚に唾液などを誤嚥しているとされています。嚥下反射・咳反射の低下した高齢者の場合、睡眠中には約70%の方に「不顕性の誤嚥」がみられ、この不顕性誤嚥を繰り返すうちに肺炎を起こしてしまうという誤嚥性肺炎が多いです。nichiiko+1
誤嚥を誤嚥性肺炎に発展させない予防策として、3つの方法があります。一つは口腔内を清潔に保ち細菌の少ない口を保つこと、もう一つは誤嚥そのものを減らす工夫をすること、そして最後は体力をつけることです。たとえ誤嚥しても強い咳で吐き出す力や細菌感染に対する体力・免疫力があれば、肺炎のリスクは低下させられます。nutri
睡眠中の誤嚥によって発症する肺炎を予防する最も簡単な方法は、睡眠時に頭の位置を少し上げておくことで、10~30度くらいの角度を保つようにすると安心です。また適度な湿度や温度が保たれている口の中は肺炎の原因となる細菌が繁殖しやすいため、口腔内を常に清潔に保つことが大切です。otona-haienkyukin

嚥下障害のリハビリテーションと訓練

嚥下障害のリハビリには食べ物を使わない基礎訓練(間接訓練)と食べ物を使った摂食訓練(直接訓練)があり、患者の状態や体調に合わせながら組み合わせて行います。goshominami-clinic
間接訓練として、まず口腔ケア(口の中の清掃・衛生管理)は訓練を行う上での前提条件となります。咀嚼訓練ではガムやするめなどを使用して、噛むために必要な筋肉を鍛える訓練を行います。頭部挙上訓練は嚥下に必要な喉頭挙上を促すために、舌骨上筋群、喉頭挙上筋群の筋力強化を図るもので、仰臥位で足の先を見るように頭を上げます。tyojyu+1
嚥下反射訓練では、嚥下反射を促すために唾液を飲み込む練習(空嚥下)を行います。飲み込みが弱い方には、舌を前に突き出したまま空嚥下をする舌-突出嚥下法もあります。凍らせたスポンジで喉を刺激(アイスマッサージ)したり、氷を口に含んだり(氷なめ)などの冷却刺激を与えて嚥下反射を誘発することもあります。tyojyu
嚥下反射がなくなっている方を対象にチューブ嚥下訓練が行われます。これは「ごっくん」と飲み込む嚥下機能を、チューブを鼻や口からいれて刺激を与えることで改善させることが目的です。バルーン法は食道付近の筋肉が弱まり食べ物がうまく通らない方が対象で、食道の入り口を広げ食べ物が通るようにする目的で行われます。yoshijibika
日常的に行える訓練として嚥下体操があり、頸部の緊張をとり嚥下をスムーズにします。嚥下おでこ体操(頭部挙上訓練)は嚥下筋力強化に有効で、ペットボトルブローイングは嚥下改善、呼吸改善、鼻咽腔閉鎖機能・口唇閉鎖機能改善に役立ちます。発声訓練としてカラオケや朗読でなるべく大きな声を出すことは声門防御機構の強化につながります。jsdr

嚥下障害患者への栄養管理と食事指導

摂食・嚥下障害のある方への栄養管理では、栄養状態を良好に保つことが重要で、適切な栄養補給として1回の食事量や1日の食事回数を増減し調整します。食形態を通常の調理形態からソフト状、ペースト状、ゼリー状などに変更すると摂取栄養量が減少するため、少量で効果的に栄養を摂取する方法を考える必要があります。eiyou-hyogo
誤嚥を防ぐ安全な食事の提供として、個人の機能に合わせた食事形態の選択が求められます。とろみをつけるのか、食塊形成を助けるのか、スムーズな送り込み(嚥下)を助けるのかを検討します。食環境の整備も重要で、口腔ケア、口腔リハビリ、食事介助法、姿勢、食具、食べる速度、呼吸管理などについて他職種と連携した支援が必要です。eiyou-hyogo
高齢者や軽度な嚥下障害のある方への食事方法のポイントとして、まず口の中を確認し、食事をとる環境を整えることが大切です。姿勢を適切に保ち、よく噛むことを意識し、時間リズムを守ることも重要です。飲み込みにくく誤嚥しやすい食形態として、ぱさついたもの、まとまりのないもの、固形物と水物の混合したものは避けるべき食べ物です。nichiiko+1
食前食後の口腔・咽頭ケアは有用な対策の一つで、食事の環境を整え嚥下に意識を集中することも効果的です。食後の体位として、腹部を圧迫しないように2時間以上上体をおこしていることが推奨されます。十分な口腔ケアはきわめて大切で、口の中の常在細菌量を減らすことにより不顕性誤嚥による肺炎の発症を抑えることができます。nichiiko+1

嚥下障害における不顕性誤嚥への対策

不顕性誤嚥は通常の誤嚥と異なり、誤嚥してもむせなかったり呼吸苦が起こらないなど誤嚥の徴候が捉えられないため特に注意が必要です。健常者でも睡眠中に無自覚に唾液などを誤嚥しているとされています。nichiiko
不顕性誤嚥の対策として、十分な口腔ケアがきわめて大切です。口の中の常在細菌量を減らすことにより、不顕性誤嚥による肺炎の発症を抑えることができます。最も良い予防方法は口腔内をきれいに保ち細菌数を減らすことで、誤嚥したとしても肺炎を発症しないようにすることです。osumai-soudan+1
嚥下障害の原因となる薬剤(睡眠剤や鎮静剤など)を内服していれば、減量や中止を検討します。栄養状態や脱水の改善、日中の活動性を上げたり身体リハビリを積極的に行うなど、肺炎になりにくい体を普段から作っておくことも重要です。nichiiko
胃食道逆流による誤嚥が疑われるときは、食後2時間は横にならないようにしたり、就寝時に上半身を軽度挙上しておくと効果があります。肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの実施は、肺炎の発症を抑えたり肺炎が重症化するのを防ぐと言われています。nichiiko
不顕性誤嚥発症において、嚥下反射および咳反射感受性などの上気道防御反射の低下が重要な責任要因の一つです。ドーパミン作動性神経系およびその下位のサブスタンスP神経系になんらかの脆弱性を有する場合、上気道防御反射低下を招き誤嚥性肺炎を発症するリスクが増加します。簡単な指示がわかる場合は深呼吸が最も適用しやすい呼吸理学療法で、リラクセーションや胸郭可動域の維持、誤嚥物の排出促進に有効です。tyojyu+1

 

 




老化と摂食嚥下障害 「口から食べる」を多職種で支えるための視点 [ 藤本篤士 ]