骨粗鬆症治療薬を処方している医師でも、RANKリガンドを「骨を壊すシグナル」としか認識していないケースが約7割を占めるという報告があります。
RANKリガンド(RANKL:Receptor Activator of Nuclear factor-κB Ligand)は、TNFスーパーファミリーに属するサイトカインです。
遺伝子名はTNFSF11で、別名として「ODF(Osteoclast Differentiation Factor)」「TRANCE(TNF-Related Activation-Induced Cytokine)」「OPGL(Osteoprotegerin Ligand)」とも呼ばれます。これだけ別名が多いのは、異なる研究グループが独立して発見したためです。意外ですね。
RANKLは膜結合型と可溶型の2種類が存在します。膜結合型は細胞表面に発現し、直接細胞間の接触を通じてシグナルを伝達します。一方、可溶型はタンパク質分解酵素(マトリックスメタロプロテアーゼなど)によって切断されて血中に遊離し、遠隔部位にも作用します。
構造的には317アミノ酸からなるII型膜貫通タンパク質です。三量体を形成して受容体であるRANK(Receptor Activator of Nuclear factor-κB)に結合することで生物活性を発揮します。三量体形成が条件です。
RANKLが結合する受容体RANKは、破骨細胞前駆体・成熟破骨細胞の細胞表面に高発現しています。RANKL-RANK結合が起きると、細胞内でNF-κBやMAPKなどの複数のシグナル経路が活性化され、最終的にNFATc1(破骨細胞分化の「マスターレギュレーター」とも呼ばれる転写因子)が誘導されます。
RANKLを産生する細胞は多岐にわたります。主な産生源は以下の通りです。
骨代謝における役割を整理すると、RANKLは破骨細胞の分化・活性化・生存という3つすべてに関与しています。つまり「壊す細胞を増やし、動かし、長生きさせる」わけです。
正常な骨リモデリングでは、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成がバランスを保っています。このバランスを制御するのがOPG(オステオプロテゲリン)です。OPGはRANKLのデコイ受容体として機能し、RANKへの結合を競合的に阻害します。
| 分子 | 役割 | 骨への作用 |
|------|------|-----------|
| RANKL | 破骨細胞を活性化 | 骨吸収を促進 ⬆️ |
| RANK | RANKLの受容体 | 破骨細胞側に発現 |
| OPG | RANKLをブロック | 骨吸収を抑制 ⬇️ |
このRANKL/OPG比が骨代謝の方向性を決定します。骨粗鬆症ではRANKL/OPG比が上昇していることが多く、エストロゲン低下もこの比を上げる方向に働きます。骨粗鬆症とエストロゲンが密接に関連する理由はここにあります。
RANKLを治療標的とした薬剤の代表がデノスマブ(製品名:プラリア®、ランマーク®)です。
デノスマブはヒト型抗RANKLモノクローナル抗体で、可溶型・膜結合型の両方のRANKLに高い親和性で結合し、RANKへの結合を阻害します。これは骨粗鬆症治療における画期的な作用機序でした。これは使えそうです。
骨転移においてがん細胞が骨破壊を引き起こす「悪循環(Vicious Cycle)」にもRANKLが深く関与しています。乳がん・前立腺がん・肺がんなどの骨転移巣では、腫瘍細胞自体やその周囲の間質細胞がRANKLを過剰産生します。
これによって破骨細胞が過剰活性化され、骨吸収が進むと骨基質中に蓄積されていたTGF-βやIGF-1などの成長因子が放出されます。これらが腫瘍細胞の増殖をさらに促進するという「悪循環」が形成されます。
骨転移患者におけるSRE(骨関連事象:骨折・脊髄圧迫・高カルシウム血症など)の発生率は治療なしでは約50〜60%に上るとされます。デノスマブ投与によってSREリスクを有意に低減できることが複数のPhase III試験で示されています。
医療従事者が特に注意すべき点として、デノスマブ中止後のリバウンド現象があります。急激な中止によって骨吸収が急増し、多発椎体骨折のリスクが高まることが報告されています。中止時には他の骨粗鬆症治療薬への切り替えを計画することが必須です。
参考リンク(デノスマブの適正使用に関する情報)。
日本骨粗鬆症学会:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(RANKLおよびデノスマブに関する項目を含む)
RANKLは骨代謝だけでなく、免疫系・乳腺・体温調節にも関与します。これが見落とされがちな点です。
免疫への関与として、RANKLは胸腺上皮細胞に作用してT細胞の中枢性免疫寛容(自己反応性T細胞の除去)に関わることが知られています。また、RANK-RANKL系は樹状細胞の分化・生存にも関与し、免疫応答の調節に一定の役割を果たします。
乳腺においては、RANKLは妊娠・授乳時の乳腺上皮の増殖・分化に不可欠です。ここが特に重要で、RANKLシグナルがプロゲステロンによって誘導され、乳腺幹細胞の増殖を促進することが明らかになっています。この経路は乳がんの発生とも関連しており、RANKL/RANK系が乳がんリスクの一因となる可能性が研究されています。
デノスマブの副作用として感染症(特に蜂窩織炎・肺炎)リスクが増加するのは、こうした免疫調節機能への影響が背景にある可能性があります。骨粗鬆症治療で使用する場合も、免疫系への影響を念頭に置いた患者管理が必要です。免疫への影響が条件です。
一般的にリウマチ治療ではTNF-α阻害薬やIL-6阻害薬が主役として語られますが、実は関節破壊の直接の実行犯はRANKLを介した破骨細胞です。
関節リウマチの滑膜組織では、活性化T細胞・FLS(線維芽細胞様滑膜細胞)・マクロファージがRANKLを大量産生します。この過剰なRANKLシグナルが局所の破骨細胞を活性化し、関節軟骨下骨の侵食・骨びらん(erosion)を引き起こします。
注目すべきは、サイトカイン阻害療法(TNF-α阻害薬など)で炎症が抑制されても、骨びらんが完全には修復されないケースがあることです。これは炎症と骨破壊が完全に連動していないことを示しており、RANKLを直接ターゲットにした追加介入の意義につながります。
現在、関節リウマチに対するデノスマブの有効性を示す臨床研究が進んでいます。まだ保険適用外ですが、骨びらん抑制効果は複数の試験で確認されています。厳しいところですね。
炎症マーカー(CRP・MMP-3など)の改善と骨破壊マーカー(TRACP-5b・NTXなど)の改善が必ずしも一致しない場合、RANKLを介した破骨細胞活性化が継続している可能性を考慮する必要があります。
これらの骨代謝マーカーをRANKL系の理解と組み合わせることで、炎症とは独立した骨破壊進行の早期発見が可能になります。結論は「炎症と骨破壊を別々のモニタリング軸で管理する」です。
参考リンク(関節リウマチと骨破壊に関する最新情報)。
日本リウマチ学会関連:関節リウマチにおける骨びらんとRANKLシグナルの関係についての解説ページ