骨折後の死亡率は男性37%、女性19.7%と男性が約2倍高い。
骨粗鬆症は依然として「女性の病気」というイメージが強く残っています。しかし実態を数字で見ると、推計患者数1,280万人のうち約300万人(全体の約4分の1)が男性です。女性の980万人に比べれば少ないとはいえ、これは決して無視できる人数ではありません。
問題は患者数だけではありません。治療機会の逸失が深刻です。2025年12月にJournal of Endocrinological Investigation誌で発表されたイタリアの実臨床データ(536例・14年間の後ろ向き研究)によると、骨粗鬆症関連骨折を有する男性患者の33.8%が、カルシウム・ビタミンD補充療法も骨作用薬も一度も受けたことがなかったと報告されています。骨折既往があるにもかかわらず、です。骨折がある時点でも5人に1人が未治療というのが実態です。
ケアネット:男性骨粗鬆症、治療機会を逸失する実態が明らかに(2025年12月)
つまり未治療が問題です。この見逃しの背景にあるのは、医療者側の「男性は骨粗鬆症になりにくい」という先入観と、スクリーニング機会の少なさです。骨量減少に関連する併存疾患を持つ患者が49.3%、骨密度低下を引き起こす薬剤を使用中の患者が43.8%という報告も同研究から出ており、リスク因子を抱えていても管理が不十分なケースが多いことがわかります。
医療従事者にとってのアクションポイントは一つです。男性患者でも「70歳以上」または「50歳以上でリスク因子あり(飲酒・喫煙・家族歴など)」であれば積極的に骨密度(DXA)測定を検討することが、ガイドラインで推奨されています。
男性骨粗鬆症の治療を優先すべき根拠として、最も重要な数字があります。大腿骨近位部骨折後1年以内の死亡率は、女性19.7%に対して男性37%と、男性の方が約2倍高いという点です。骨折はゴールではなく、そこからの転落が男性ではより急勾配になります。
オーストラリアのDubboコホート研究(JAMA 2009年)でも、大腿骨頸部骨折後の標準化死亡率比(SMR)は女性2.43に対し男性3.51と、死亡リスクの上昇幅が男性で顕著に大きいことが示されています。
さらに見逃せないのが骨折連鎖のリスクです。初回の大腿骨近位部骨折を起こした患者のうち、1年以内に反対側を骨折するケースが3〜4割に上るという報告があります。骨折1回で終わらないということですね。両側骨折になった場合は、片側骨折だけの場合より死亡率がさらに高くなることも確認されています。
日本骨代謝学会誌:男性骨粗鬆症(森聖二郎・東京都健康長寿医療センター)——骨折後の死亡リスク男女比較データを掲載
こうした事実を踏まえると、男性骨粗鬆症は「発見しにくいうえに、骨折してからの転帰が悪い」という二重のリスクを持つ疾患です。骨折後の二次予防として治療開始率を上げることが、現場での喫緊の課題といえます。なお、骨折後の骨粗鬆症治療率は全体でも37%(椎体骨折50%、大腿骨近位部骨折29%)にとどまっており、治療開始のきっかけとしての骨折を絶対に逃さない姿勢が求められます。
男性骨粗鬆症の薬物療法は、女性と同じ治療薬を用いることが基本です。ただし女性に比べてエビデンスの絶対数が少ない点は理解しておく必要があります。現時点での主要な選択肢は以下の通りです。
| 薬剤分類 | 代表薬 | 男性骨粗鬆症における主なエビデンス |
|---|---|---|
| ビスフォスフォネート(BP)製剤 | アレンドロネート、リセドロネート | 骨密度増加・椎体骨折リスク低減を示唆(アレンドロネート:白人男性241人試験) |
| RANKL阻害薬 | デノスマブ(プラリア) | 骨密度増加を確認。男性骨粗鬆症に保険適用あり |
| PTH製剤(骨形成促進) | テリパラチド(フォルテオ・テリボン) | 骨密度増加・椎体骨折リスク低減の可能性あり。男性骨粗鬆症適応あり |
| 抗スクレロスチン抗体 | ロモソズマブ(イベニティ) | 骨密度増加効果を確認。骨折抑制に関する報告は限定的 |
治療薬選択で注意が必要な点が一つあります。骨形成促進薬であるテリパラチドとBP製剤の併用は、相乗効果ではなく逆に有効性が減弱することが報告されており、男性骨粗鬆症でも同様です。PTH製剤が骨形成を発揮するためには、まず骨吸収が一定程度必要なためと考えられています。そのため、これらは原則として逐次使用が推奨されます。BP製剤先行→PTH製剤という順番が基本です。
また、男性骨粗鬆症における加齢時の骨量減少パターンは、主として骨形成の低下によるものです。女性(閉経後)は骨吸収亢進が主体ですが、男性は骨を作る力が落ちることで骨梁が薄くなります。このことから、骨形成促進作用を持つテリパラチドは男性骨粗鬆症に病態的にも合理的な選択といえます。理に適っているということですね。
男性骨粗鬆症の特徴として、続発性(二次性)骨粗鬆症の割合が高いことが挙げられます。男性骨粗鬆症患者の約50%が続発性であるという報告があり、これは女性の約20%と比べて際立って高い数値です。続発性が原則です。
主な原因疾患・病態として以下が挙げられます。
注目すべきは、糖尿病の骨折リスクです。糖尿病の患者では骨密度のT値が「正常」あるいは「骨量減少」レベルであっても、骨質劣化により骨折が起きやすい状態になっています。骨密度だけに注目するのは危険です。骨折歴・転倒リスク・基礎疾患の包括的評価が不可欠です。
続発性骨粗鬆症が疑われる場合は、血液検査(カルシウム・リン・副甲状腺ホルモン・25-OH-ビタミンD・性ホルモン・血清蛋白など)および尿検査(尿中Ca/Cr比、骨代謝マーカー)を実施して原因を特定します。50歳未満の男性で骨粗鬆症が疑われる場合は続発性の可能性が非常に高く、原因検索は欠かせません。
旭化成ファーマ「骨検」:男性と骨粗鬆症——続発性骨粗鬆症の原因と診断の流れを解説
医療現場では「骨密度でYAM80%以上なら正常=安心」という判断がされることがあります。ただし男性骨粗鬆症では、この判断が危険な場合があります。これは意外ですね。
男性骨粗鬆症の研究によると、骨密度が若年成人の80%以上の「正常」レベルであっても、大腿骨部骨折を起こすリスクが高いケースが確認されています(ダイヤモンド誌の研究報告)。これは男性と女性で骨折が起きるメカニズムが異なるためです。
男性の骨量減少パターンは「骨梁の菲薄化(薄くなる)」が主体であり、骨梁の数や連結構造は比較的維持されます。一方、女性は「骨梁の数が減少し、連結状態も失われる」パターンです。骨梁が数ごと消えてしまう女性型の方が骨強度への影響は大きく、これが女性の骨折頻度が高い理由の一つとされています。しかし男性でも、骨質の劣化(微細構造の変化)は進行しており、数値には現れにくい骨脆弱性が存在します。
つまり骨密度だけが条件です——という単純化は通用しません。FRAXなどのリスク評価ツールを用いた骨折リスクの総合的評価を組み合わせることが重要です。FRAXは10年間の主要骨粗鬆症性骨折リスクを計算するもので、年齢・体重・既往骨折・ステロイド使用・喫煙・飲酒・家族歴などを入力します。骨密度を入力しなくても計算できる点が特徴です。
FRAX(Sheffield大学):骨折リスク10年予測ツール(英語)——骨密度なしでも使用可能
さらに男性骨粗鬆症は、加齢に伴う骨量減少がエストロゲンの減少によって引き起こされているという事実も見落とされがちです。一見テストステロンが主因に見えますが、男性においても骨密度の減少は主として遊離エストロゲン値の低下と相関しています(Khoslaら2001年の4年間追跡研究)。テストステロンが骨に働く場合も、その多くはアロマターゼによってエストロゲンに変換された後に骨に作用するためです。この視点は、男性のホルモン評価を行う際に役立つ知識です。
男性骨粗鬆症は「見えにくく・骨折したら深刻」という疾患です。診療の現場で男性患者の骨健康に積極的に目を向けることが、骨折後の生命予後や生活の質を守る最初の一歩となります。治療開始の機会を逃さない意識が重要です。
日本骨粗鬆症学会:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(PDF)——最新の診断・治療基準を掲載