ダルテパリンヘパリン違い作用機序副作用透析適応

ダルテパリンとヘパリンは同じ抗凝固薬ですが、分子量の違いにより薬理作用や適応、副作用のリスクが異なります。医療従事者として、両者の相違点を正確に理解し、患者の状態に応じて適切に選択できているでしょうか?

ダルテパリンとヘパリンの違い

ダルテパリンとヘパリンの主な違い
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分子量の違い

ヘパリンは平均分子量12,000~15,000、ダルテパリンは約5,000で低分子化されています

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作用機序の特徴

ヘパリンは抗Xa・抗IIa作用、ダルテパリンは主に抗Xa因子作用が中心です

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モニタリング方法

ヘパリンはAPTT・ACTで監視可能、ダルテパリンは抗Xa活性測定が必要です

ダルテパリンとヘパリンの分子量と構造

 

 

ダルテパリンと未分画ヘパリンの最も根本的な違いは分子量にあります。未分画ヘパリン(UFH)は平均分子量が12,000~15,000の多糖類で、5,000Daから40,000Da以上の様々な長さの糖鎖が混在しています。一方、ダルテパリンは低分子量ヘパリン(LMWH)に分類され、平均分子量は約5,000です。

 

参考)ダルテパリンNa静注5000単位/5mL「日医工」の効能・副…

低分子量ヘパリンは、未分画ヘパリンを酵素的または化学的に解重合した後、ゲル濾過によって得られる分子量1,000~10,000(平均4,000~5,000)の分画です。ダルテパリンは酵素処理によって製造され、パルナパリン、レビパリン、エノキサパリンなどの他の低分子量ヘパリンとは分解方法や分子量分布が異なります。

 

参考)https://www.jsth.org/publications/pdf/tokusyu/19_2.187.2008.pdf

この分子量の差は、後述する作用機序や臨床効果の違いに直接影響します。分子量約5,000を境界として、抗凝固作用のメカニズムが大きく変化することが知られています。

 

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062883.pdf

ダルテパリンとヘパリンの作用機序の違い

両薬剤の抗凝固作用はアンチトロンビンIII(AT III)との相互作用が主要な機序ですが、凝固因子への影響が分子量によって異なります。未分画ヘパリンは抗Xa因子作用と抗IIa因子(トロンビン)作用の両方を発揮します。ヘパリンがAT IIIを介して抗トロンビン作用を発揮するためには、分子量が少なくとも5,000以上必要です。

 

参考)https://www.suzuka-u.ac.jp/wp-content/uploads/2018/01/12-01-suzuki.pdf

対照的に、ダルテパリンは平均分子量が約5,000であるため、抗Xa因子作用は未分画ヘパリンと同等に保たれていますが、抗トロンビン作用は軽微です。ダルテパリンの抗Xa活性と抗トロンビン活性の比率は高く、出血との相関性が示唆される活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長作用は弱いという特徴があります。

 

参考)https://med.kissei.co.jp/dst01/pdf/if_fr.pdf

この選択的な作用により、ダルテパリンは抗血栓作用を維持しながら出血助長作用が弱いとされ、治療域が広くなったため患者ごとの用量調整の必要性が減少しました。実際、動物実験ではダルテパリン投与群は未分画ヘパリン投与群に比べて止血時間が有意に短時間であったことが報告されています。​

ダルテパリン透析における適応と使用法

ダルテパリンの適応疾患として、血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析)と播種性血管内血液凝固症(DIC)の治療が承認されています。血液透析においては、ダルテパリンは回路内の血液凝固を防ぎ、円滑な透析を可能にします。

 

参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/8757/

血液透析患者に対しては、外循環開始時に約1,000国際単位を単回投与し、その後毎時約500国際単位の速度で持続注入します。これにより血中濃度は0.29~0.44国際単位/mLに維持されます。ダルテパリンの半減期は健康成人で約1.5~1.8時間と報告されています。

 

参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=00PRB00000LNObp2AH

DICの治療においては、通常成人に1日量75国際単位/kgを24時間かけて静脈内に持続投与します。汎発性血管内血液凝固症患者に1日量約3,900国際単位を5日間静脈内持続投与した場合、0.09~0.11国際単位/mLの血中濃度が維持されたとの報告があります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/98/7/98_1640/_pdf

ダルテパリンとヘパリンの副作用の違い

重篤な副作用として、両薬剤とも出血のリスクがありますが、ダルテパリンは出血傾向が軽減されているとされます。頭蓋内出血、消化管出血、後腹膜出血等の重篤な出血が報告されており、観察を十分に行い異常が認められた場合には投与中止など適切な処置が必要です。

 

参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=00P5F000017Me8ZUAS

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は、ヘパリン治療の重篤な免疫介在性合併症です。HITは抗血小板第4因子/ヘパリン抗体が血小板やマクロファージのFc受容体に結合し、細胞内活性化を引き起こすことで血栓塞栓症を生じます。低分子量ヘパリンは未分画ヘパリンと比較してHIT発症リスクを約10%低減させるとされていますが、ダルテパリンでもHIT発症例が報告されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6246020/

HIT発現時に出現するHIT抗体は100日程度で消失~低下すると報告されています。著明な血小板減少とそれに伴う血栓症(脳梗塞肺塞栓症深部静脈血栓症等)やシャント閉塞、回路内閉塞を伴うため、血小板数の測定と慎重な観察が必要です。

 

参考)https://www.nippon-zoki.co.jp/mtassets/files/ta01_001.pdf

低分子ヘパリンは未分画ヘパリンと交差免疫反応を示すため、HIT発症時の代替薬剤としては適していません。また、ダルテパリンはヘパリンに比べてヘパリン起因性血小板減少症や脂質異常症への影響が少ないとされています。

 

参考)透析に使用される抗凝固薬の種類と特徴を知ろう

ダルテパリンとヘパリンのモニタリング方法

未分画ヘパリンは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)によりモニタリングされ、APTTが投与前の1.5~2.0倍の治療域となるように投与量が調整されます。また、血液透析や体外循環中は活性化凝固時間(ACT)が用いられます。ACTはセライト、カオリン、ガラス粒などの活性化剤と全血試料を混合して凝固を活性化させる検査法で、ベッドサイドでリアルタイムに測定可能です。

 

参考)https://www.jsth.org/pdf/oyakudachi/202208_30.pdf

対照的に、ダルテパリンを含む低分子量ヘパリンは抗トロンビン作用がほとんどないため、APTTの延長が少なくACTによる抗凝固モニタリングができません。低分子量ヘパリンのモニタリングには、chromogenic anti-Xa assay(抗Xa活性測定)が用いられます。

 

参考)https://morichan.mish.tv/ja/videos/OCR0XYK9MPqNjz4THReZKirA

Chromogenic anti-Xa assayでは、検体中のヘパリン類を過剰量のアンチトロンビン試薬と結合させ、そこに過剰量Xa因子を加えてATにより阻害させます。ATによって阻害されずに残存したXa因子を特異的な発色性合成基質と反応させ、遊離した発色基を検出して抗Xa活性を測定します。この方法は直接抗Xa薬のモニタリングにも応用されます。​
APTT試薬は主に活性化剤とリン脂質によって構成されており、標準化されていないため試薬間差が観察されることにも注意が必要です。​

ダルテパリン臨床応用における特殊な考慮事項

ダルテパリンは未分画ヘパリンに比べて薬物動態が予測可能で、皮下投与時の生物学的利用能が高く、半減期が長いという利点があります。これにより1日1~2回の投与で効果が得られ、頻回の検査による用量調整が不要となります。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1936420/

禁忌として、高度な出血症状を有する患者(DICを除く)、HIT の既往歴のある患者、本剤に過敏症の既往歴のある患者、重篤な肝障害のある患者には投与してはなりません。重篤な肝障害患者では血中濃度が上昇するおそれがあるためです。

 

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065648.pdf

抗凝固作用を急速に中和する必要がある場合は、プロタミン硫酸塩を投与しますが、ダルテパリンの抗Xa活性は完全には中和されません。動物実験での反復投与試験において、高用量で対照薬(ヘパリン)に比べて軽度の骨多孔症が見られたとの報告もあります。​
低分子量ヘパリンの製造には様々なヘパリン解重合法が用いられるため、異なるLMWH製品は生物学的・臨床的に区別され、米国FDAなどの規制機関では異なる薬剤として扱われています。したがって、異なる低分子量ヘパリン間での治療的代替や後発品への交換は推奨されず、患者ケアを損なう可能性があります。​
日本血栓止血学会による「ヘパリン類の適正使用」ガイドラインでは、ヘパリン類の臨床使用における詳細な推奨事項と注意点が記載されています
日本透析医学会の「抗血液凝固薬の使い分けと適正用法」では、透析治療における各種抗凝固薬の選択基準が解説されています
日本血栓止血学会誌の「抗凝固薬モニタリング」特集では、ヘパリン類のモニタリング方法に関する最新の知見がまとめられています