ウイルス療法の費用と保険適用や助成制度

がん治療の新たな選択肢として注目されるウイルス療法の費用について、保険適用の範囲や高額療養費制度、自己負担額の実態、治療が受けられる医療機関まで詳しく解説します。医療従事者として知っておくべき経済的側面とは?

ウイルス療法の費用と保険適用

ウイルス療法の費用概要
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薬価

G47Δ(デリタクト注)は1瓶(1mL)あたり143万1918円で、保険適用対象の治療薬

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投与回数

1回あたり1mLを最大6回投与、総薬価は約860万円(6回分)

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自己負担額

3割負担で約280万円だが、高額療養費制度により所得に応じた上限額が設定される

ウイルス療法の保険適用状況と薬価

 

ウイルス療法で使用されるがん治療用ウイルスG47Δ製品「デリタクト注」は、2021年6月に国内で初めて厚生労働省から条件および期限付きで承認され、同年8月から保険適用の対象となっています。この治療薬の薬価は1瓶(1mL)あたり143万1918円に設定されており、公的医療保険が適用されます。治療は成人に対して1回あたり1mLを腫瘍内に投与し、原則として1回目と2回目は5~14日の間隔、3回目以降は前回の投与から4週間の間隔で、最大6回まで投与することができます。したがって、完全な治療コースを受けた場合、薬価だけで約860万円の費用がかかる計算になります。
参考)最新の治療法「がんウイルス療法」とは

現在、保険適用となっているのは神経膠腫(こうしゅ)という悪性脳腫瘍の治療に限定されており、手術や放射線治療などの従来の治療で効果が見られなかった小児を含む患者が対象です。この条件および期限付き承認は、7年の期限内に使用患者全例を対象に検証を行うことを条件としており、さらなるデータ収集を通じて有効性と安全性の評価が継続されています。
参考)革新的ながん治療「ウイルス療法」

ウイルス療法の自己負担額と高額療養費制度

ウイルス療法における患者の実際の自己負担額は、高額療養費制度の適用によって大幅に軽減されます。3割負担の場合、薬価だけで約280万円の自己負担が発生する計算になりますが、高額療養費制度により、所得に応じた自己負担限度額が設定されています。この制度は、家計に対する医療費の自己負担が過重なものとならないよう、医療機関の窓口で支払った医療費のうち、月ごとの自己負担限度額を超える部分について、事後的に保険者から償還される仕組みです。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001562875.pdf

日本の保険証をお持ちの方は高額療養費制度が適用されるため、大多数の方について自己負担上限額(年収、年齢により変動)で治療を受けることができます。例えば、70歳未満で年収約370万円から約770万円の場合、月額の自己負担限度額は約8万円程度に設定されており、これを超える部分は払い戻しの対象となります。入院の場合は医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめる現物給付化の仕組みも導入されており、外来でも同一医療機関で自己負担限度額を超える場合に現物給付化が適用されます。
参考)https://www.h.ims.u-tokyo.ac.jp/pdf/oncolytic_virus_therapy_qa.pdf

ウイルス療法の治療費の内訳と追加費用

ウイルス療法の総治療費には、薬価以外にもさまざまな費用が含まれます。初診料、再診料、検査費用、入院費用、手術費用などが発生し、これらも医療費全体に加算されます。特に神経膠腫の治療では、腫瘍内への投与という処置が必要となるため、手技料や施設使用料などの追加費用も考慮する必要があります。
参考)がん治療の費用について

自由診療で提供されている腫瘍溶解ウイルス療法の場合、保険適用外となり費用は大きく異なります。例えば、自由診療の腫瘍溶解ウイルス療法は330万円、腫瘍溶解ウイルス療法と免疫チェックポイント阻害剤併用療法では1クール368万5000円という価格設定がされている施設もあります。これらの自由診療は全額自己負担となるため、患者の経済的負担は保険診療と比較して非常に大きくなります。また、医療相談では1時間程度の予約枠が必要なため、1時間4万4000円(税込)の相談料を設定しているクリニックもあります。
参考)料金表 href="https://chuoclinic.jp/price-list/" target="_blank">https://chuoclinic.jp/price-list/amp;#8211; 【がん治療専門】がん中央クリニックグ…

ウイルス療法における副作用と安全性管理コスト

ウイルス療法の副作用管理にも一定のコストが発生します。主なリスクや副作用として、発熱、倦怠感筋肉痛、頭痛、寒気などの全身症状が現れることがあり、これらの症状は一時的なもので、解熱鎮痛剤を服用することで軽減できます。倦怠感は最も一般的な副作用であり、治療を受けた患者の半数以上に発生し、悪寒、発熱、インフルエンザ様症状、注射部位の痛み、吐き気なども、注射後数時間で現れることがあります。
参考)腫瘍溶解ウイルス療法 href="https://chuoclinic.jp/treatment08/" target="_blank">https://chuoclinic.jp/treatment08/amp;#8211; 【がん治療専門】がん中…

T-VECのような治療法には活性ウイルスが含まれているため、妊娠中や臓器移植患者、HIV感染者などの免疫不全患者への使用は推奨されず、これらの患者群には別の治療法を選択する必要があり、その分のコストも発生します。また、治療に関連して腫瘍溶解性ウイルスを投与、受領、および伝染させることにはある程度のリスクが伴うため、安全に関する指示に注意が必要です。医療従事者は、治療後の患者の注射部位、包帯、または体液との直接接触を避けるよう指示されており、個人用保護具の使用などの感染対策にもコストがかかります。長期生存例に遅発性の副作用は見られないとの報告もありますが、継続的なモニタリングと対応体制の維持にはコストが必要です。
参考)腫瘍溶解性ウイルス - AIMと免疫療法イニシアチブ

ウイルス療法を受けられる医療機関と地域差

ウイルス療法は全ての医療機関で受けられるわけではなく、限られた専門施設での提供となっています。保険適用のG47Δを用いた治療は、主に大学病院や特定の医療機関でのみ実施されており、東京大学医科学研究所附属病院、杏林大学医学部附属病院などが治療を提供しています。これらの施設では、ウイルス療法の専門知識を持つ医療チームが配置されており、安全かつ効果的な治療を提供するための体制が整備されています。
参考)前立腺がんに対するウイルス療法の臨床試験 開始へ

自由診療の腫瘍溶解ウイルス療法については、大阪がん中央クリニック、名古屋がん中央クリニック、土方クリニック宮田医院などの民間クリニックでも提供されています。大阪では、がん免疫療法を提供する連携医療機関として堂島リーガクリニックや田中クリニックなどがありますが、ウイルス療法の提供状況は各施設に確認が必要です。地域によって治療を受けられる施設の数に差があるため、患者が治療を受けるために遠方への移動が必要となる場合もあり、交通費や宿泊費などの間接的なコストも考慮する必要があります。訪問治療を提供している施設もあり、治療費に加えて5万5000円と交通費(実費、上限2万円)が追加される場合もあります。
参考)大阪がん中央クリニック|ステージ4・再発・転移のがんでも諦め…