自己免疫性肝炎は、免疫システムが自分の肝細胞を攻撃することで起こる慢性炎症性肝疾患です。中年以降の女性に好発し、男女比は1:6と女性に圧倒的に多いことが特徴です。
症状の特徴として、以下の点が重要です。
進行した場合の症状として、肝硬変に進展すると腹水、黄疸、食道胃静脈瘤の破裂による吐血や下血、肝性脳症などの重篤な症状が現れてきます。
早期発見のためには、中年女性で原因不明の肝機能異常がある場合、本疾患を疑うことが重要です。特に他の自己免疫疾患の既往がある患者では、より注意深い観察が必要となります。
自己免疫性肝炎の診断は、特異的な検査がないため、複数の検査所見を総合的に判断して行います。診断には国際自己免疫性肝炎グループ(IAIHG)の基準が用いられます。
血液検査における重要な項目。
簡易型スコアによる診断基準。
検査項目 | 基準値 | 得点 |
---|---|---|
ANA/SMA | 40倍以上/80倍以上 | 1点/2点 |
LKM抗体 | 40倍以上 | 2点 |
IgG | 正常上限超/1.1倍超 | 1点/2点 |
肝生検 | 適応像/典型像 | 1点/2点 |
ウイルス性肝炎の否定 | 可能 | 2点 |
6点以上で疑診、7点以上で確診となります。
肝生検の重要性。
肝生検は確実な診断と病気の進行度、治療効果の確認に不可欠な検査です。interface hepatitisと呼ばれる特徴的な組織像を確認することで、確定診断に至ります。
診断において重要なのは、他の肝疾患(ウイルス性肝炎、薬物性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎など)の除外です。特にC型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスの検査は必須となります。
自己免疫性肝炎の治療は免疫抑制療法が基本となり、標準治療により80-90%の患者で寛解が得られます。
第一選択薬:プレドニゾロン
プレドニゾロンは強力な抗炎症作用を持つステロイド薬で、自己免疫性肝炎治療の cornerstone です。
維持療法:アザチオプリン
アザチオプリンは免疫抑制薬として維持療法に使用されます。
軽症例での選択肢:ウルソデオキシコール酸
軽症例では、ウルソデオキシコール酸が使用されることもあります。肝機能の改善を助ける作用があり、副作用が少ないため、症状が軽微な患者では第一選択となる場合があります。
治療抵抗例への対応
標準治療に反応しない患者に対しては、以下の選択肢があります。
これらの薬剤は、より強力な免疫抑制作用を有しており、難治例での救済療法として位置づけられています。
プレドニゾロンによる長期治療は様々な副作用を伴うため、適切な対策が必要です。
主な副作用と対策。
患者教育の重要性
特に重要なのは、患者による自己中止を防ぐことです。副腎皮質ステロイドの自己中止は自己免疫性肝炎の再燃につながり、治療抵抗性になる場合が多いため、患者への十分な説明と理解が不可欠です。
定期的なモニタリング項目。
これらの項目を定期的に評価し、副作用の早期発見と適切な対応を行うことが、長期治療の成功につながります。
適切な治療により、自己免疫性肝炎患者の長期予後は健常人と同等とされています。しかし、生涯にわたる治療継続と適切な生活管理が重要です。
予後に影響する因子。
生活指導のポイント。
妊娠・出産への配慮
女性に多い疾患のため、妊娠・出産時の管理も重要な課題です。妊娠中も治療継続が必要であり、胎児への影響を考慮した薬剤選択と専門医との連携が必要となります。
社会復帰支援
国の指定難病であるため、医療費助成制度の活用や、職場での理解促進など、患者の社会復帰を支援する体制づくりも医療従事者の重要な役割です。
適切な診断、治療、長期管理により、多くの患者が良好な予後を得ることができる疾患であることを、患者・家族に伝えることが重要です。