ANCA陰性でも結節性多発動脈炎は否定できず、見逃すと1年以内に死亡率67%に達します。

結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)は、中型から小型の筋型動脈の壁に壊死性炎症を生じる全身性血管炎です。直径約50〜150μmの筋型動脈が主な病変の場でありながら、毛細血管・細静脈・細動脈には炎症が及ばないことが疾患の定義上の特徴となっています。2012年Chapel Hill Consensus Conference(CHCC)では「中小動脈の壊死性血管炎で、糸球体腎炎や細動静脈・毛細血管の血管炎を認めず、ANCAとは関連しない」と定義されました。
動脈が炎症により内腔狭窄や動脈瘤を形成することで、支配臓器に虚血・梗塞・出血が多発します。脳・心・腎・腸管・末梢神経など複数の臓器が同時または連続して障害されるため、初診時は原因不明の発熱や不明熱として見られやすい疾患です。これは臨床的に非常に重要な点です。
日本での患者数は2020年度全国疫学調査によると約2,200人と推計される希少疾患で、指定難病(指定難病42番)に該当します。平均発症年齢は52〜55歳前後で、中高年に好発します。難病情報センターの旧来データでは男女比が3:1で男性優位とされていましたが、最新の2020年疫学調査では男女比はほぼ1:1と報告されており、以前の認識とは異なります。
| 項目 | データ |
|---|---|
| 推定患者数(2020年) | 約2,200人 |
| 平均発症年齢 | 52〜55歳 |
| 男女比(最新) | ほぼ1:1 |
| 指定難病番号 | 第42番 |
| 無治療5年生存率 | 約13% |
| 治療後5年生存率 | 約80% |
PANは顕微鏡的多発血管炎(MPA)と歴史的に混同されてきた疾患です。PANとMPAの比率は日本では1:20程度とされており、PANはきわめて希少な疾患に分類されます。大学病院の専門科でも典型的なPANは年に数例程度しか経験しない疾患であることを念頭に置く必要があります。
参考情報:難治性血管炎の疫学・診断基準に関する最新データ(難病情報センター)
難病情報センター:結節性多発動脈炎(指定難病42)
臨床現場では2つの診断基準・分類基準が使用されています。正しく運用するためには、それぞれの目的を理解することが基本です。
厚生労働省2006年改訂認定基準(指定難病申請基準)
この基準は指定難病としての医療費助成申請のための認定基準です。主要症候10項目、組織所見、血管造影所見から構成されており、判定は以下のように行われます。
- ✅ Definite(確実):主要症候2項目以上+組織所見(中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎)
- 🔶 Probable(疑い)(a):主要症候2項目以上+血管造影所見(腎内小動脈の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞)
- 🔶 Probable(疑い)(b):主要症候のうち①(発熱+体重減少)を含む6項目以上
主要症候10項目は次のとおりです。
| 番号 | 主要症候 |
|------|---------|
| ① | 発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6か月以内に6kg以上) |
| ② | 高血圧 |
| ③ | 急速に進行する腎不全、腎梗塞 |
| ④ | 脳出血、脳梗塞 |
| ⑤ | 心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全 |
| ⑥ | 胸膜炎 |
| ⑦ | 消化管出血、腸閉塞 |
| ⑧ | 多発性単神経炎 |
| ⑨ | 皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑 |
| ⑩ | 多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下 |
ACR1990年分類基準(臨床研究・国際比較用)
一方、米国リウマチ学会(ACR)の1990年基準は、臨床研究やデータベース構築を目的とした分類基準であり、10項目中3項目以上を満たす場合にPANと分類します。この基準には網状皮斑や精巣痛・圧痛、B型肝炎の存在なども含まれています。重要なのは、この基準はあくまで「研究上の分類」であり、個別患者の診断ツールとして設計されたものではない点です。
つまり原則は厳守です。厚労省基準は患者の行政手続きのために、ACR基準は研究の均質性確保のために作られており、両者を混同すると診断の信頼性が損なわれます。
参考情報:順天堂大学病院・PANの診断基準詳細
順天堂大学病院 膠原病・リウマチ内科:結節性多発動脈炎
PANの診断で最も注意が必要なのは、「特異的マーカーが存在しない」という事実です。これが鑑別を難しくする最大の要因です。
ANCA陰性は特徴だが、安易な否定は危険
ANCA関連血管炎(MPA・GPA・EGPA)ではMPO-ANCAやPR3-ANCAが診断マーカーとなりますが、PANにはANCAを含む特異的自己抗体がありません。血液検査で得られるのは、白血球増加(10,000/μL以上)、血小板増加(400,000/μL以上)、赤沈亢進、CRP強陽性といった非特異的炎症所見のみです。
見落としやすいポイントとして以下が挙げられます。
- 🔴 糸球体腎炎がない:腎が犯されても毛細血管に炎症が及ばないため赤血球円柱は出現しない。検尿異常が目立つ場合はMPAやGPAを疑う
- 🔴 ANCA陰性でもPANは否定されない:ANCA陽性ならPANの診断は積極的に疑うべきではないが、陰性だからといってPANが除外されるわけではない
- 🔴 多発性単神経炎の認識が遅れやすい:末梢神経障害は80%程度に出現するが、初期は知覚異常にとどまり気づかれにくい
鑑別すべき主な疾患
厚労省基準では以下の鑑別疾患が明示されています。
| 疾患名 | PAN との主な違い |
|--------|---------------|
| 顕微鏡的多発血管炎(MPA) | MPO-ANCA陽性、糸球体腎炎を伴う |
| 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) | PR3-ANCA陽性、上気道肉芽腫病変を伴う |
| 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA) | 好酸球増多、気管支喘息を先行する |
| 川崎病 | 小児に多く、冠動脈瘤が典型的 |
| 膠原病(SLE、RAなど) | それぞれの特異的自己抗体を持つ |
| ADA2欠損症 | 若年発症、遺伝性、家族歴が手がかり |
特に注意が必要なのは分節性動脈中膜融解(Segmental Arterial Mediolysis:SAM)と線維筋性異形成(Fibromuscular Dysplasia:FMD)です。いずれも血管造影上の動脈瘤や狭窄所見がPANと酷似しますが、炎症所見に乏しく、全身性疾患でもありません。CRPが正常に近い場合や炎症反応が低い場合には、これら非炎症性疾患との鑑別が必要です。
参考情報:ANCA関連血管炎との鑑別を含む詳細な診断の考え方
難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班:結節性多発動脈炎の診断
確定診断(Definite)に必要な組織所見の取り方と画像診断の選び方は、診療の実際において特に迷いやすいポイントです。
組織生検の実際
確定診断には症状のある部位(皮膚・神経・筋・腎臓など)からの生検で「中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎」を証明することが必要です。組織学的には病期が4段階に分類されており、Ⅰ期(変性期)→Ⅱ期(急性炎症期)→Ⅲ期(肉芽期)→Ⅳ期(瘢痕期)と進行します。Ⅰ・Ⅱ期では全身の強い炎症症候が主体で、Ⅲ・Ⅳ期では侵された臓器の虚血症候が前景に出ます。
生検部位の選択が重要です。皮膚病変(皮下結節、潰瘍)があれば皮膚生検が比較的容易で診断率も高く、第一選択となります。末梢神経症状があれば腓腹神経生検も有用です。腎生検は原則として大量の糸球体腎炎像がない限りあまり優先されません。
画像診断の使い分け
生検に適した部位がない場合や生検が困難な場合、血管造影所見がProbableの診断根拠として活用されます。
| 検査 | 特徴 |
|------|------|
| 血管造影(DSA) | 腹部大動脈分枝(腎・腸間膜・肝動脈)の多発小動脈瘤・狭窄・閉塞を検出。確定力が高い |
| CT血管造影(CTA) | 侵襲が低く、動脈瘤や臓器梗塞所見を確認しやすい。近年は第一選択になりつつある |
| MR血管造影(MRA) | 造影剤不使用も可能。腎機能低下例で有用 |
| 腎動脈超音波 | 低侵襲で外来でも施行可能だが感度に限界がある |
腹部のCTA・CTAの所見として、腎・腸間膜・肝動脈領域に複数の小動脈瘤(数珠状の拡張)や不整狭窄が認められた場合、PANを強く示唆します。大きさはしばしば数mm単位の小さなものであるため、読影時に見落とさないよう注意が必要です。これは画像診断の重要なポイントです。
皮膚型PAN(皮膚動脈炎)の場合は、症状が皮膚に限局し、全身性臓器障害や異常動脈造影所見を伴わない例が該当します。全身型PANとは異なる疾患と見なされており、予後は全身型よりも良好です。ただし、皮膚型であっても全身型への移行がまれに報告されているため、定期的なフォローアップが必要です。
参考情報:慶應義塾大学病院のPAN診断の詳細解説
慶應義塾大学病院KOMPAS:結節性多発動脈炎(PAN)
診断がついたあと、次に重要なのが「どこまで重症か」を正しく評価することです。治療強度の選択に直結するため、重症度評価の見落としが患者の予後を大きく変えます。
厚労省の重症度分類
指定難病の医療費助成対象は、以下のいずれかに該当する「重症例」です。
- 臓器障害(腎・肺・心・眼・耳・腸管・皮膚軟部組織・神経)のいずれかが基準値以上
- 治療に伴う合併症(感染症・骨壊死・糖尿病・消化性潰瘍など)があり入院治療を必要とする
Five Factor Score(FFS)2009年改訂版による予後予測
臨床的に重要なのがFFS(Five Factor Score)です。5年生存率の予測に使用するスコアリングシステムで、以下の5項目それぞれ1点として合計します。
| 予後不良因子 | 内容 |
|------------|------|
| ① 年齢65歳超 | 高齢発症は予後不良 |
| ② 心症状あり | 心筋梗塞・心不全など |
| ③ 消化管症状あり | 出血・穿孔・梗塞・膵炎 |
| ④ 腎不全 | 血清Cr≧1.70mg/dL(150μmol/L) |
| ⑤ 耳鼻咽喉症状なし | 上気道病変が保護因子となる |
スコアが高いほど予後が悪く、5年生存率は0点で91%、1点で79%、2点以上で60%と報告されています(Medicine (Baltimore). 90(1):19-27, 2011)。2点以上は「予後不良群」として積極的な免疫抑制療法の適応になります。
ここで医療従事者が見落としやすい点があります。FFSの5項目に該当しなくても、多発単神経炎の急速な進行や四肢の虚血・壊疽があれば、臨床的に重症と判断すべきケースがあります。スコアのみで治療強度を決定するのはリスクがあり、総合的な臨床判断が原則です。
また、GCや免疫抑制薬の長期投与による日和見感染症(ニューモシスチス肺炎・CMV感染症・深在性真菌症など)が生命予後に直結します。免疫抑制療法中のST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤)によるニューモシスチス肺炎の予防は標準ケアとして組み込む必要があります。感染管理が生命予後を守る最後の砦です。
治療選択の参考として、日本循環器学会の血管炎診療ガイドラインも重要な文書です。
参考情報:血管炎症候群の診療ガイドライン(日本循環器学会)
JCS2017 血管炎症候群の診療ガイドライン(PANは50〜53ページ参照)