ホスホジエステラーゼ阻害薬一覧と作用機序と適応疾患の使い分け

ホスホジエステラーゼ阻害薬は11種類のファミリーに分類され、それぞれ異なる作用機序と適応疾患を持つ重要な治療薬です。心不全、肺高血圧症、勃起不全など多岐にわたる臨床応用がありますが、どのように使い分ければ良いのでしょうか?

ホスホジエステラーゼ阻害薬の一覧と分類

📋 PDE阻害薬の主な分類
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PDE3阻害薬

心不全治療に使用される強心薬(ミルリノン、シロスタゾール)

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PDE4阻害薬

COPD治療や皮膚疾患治療に用いられる抗炎症薬(ロフルミラスト)

🩺
PDE5阻害薬

勃起不全や肺高血圧症治療に広く使用される血管拡張薬(シルデナフィル、タダラフィル)

ホスホジエステラーゼ阻害薬のファミリー分類と基質特異性

 

ホスホジエステラーゼ(PDE)は、細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMP(環状アデノシン一リン酸)やcGMP(環状グアノシン一リン酸)を加水分解する酵素です。哺乳類においてPDEスーパーファミリーは11種類(PDE1~PDE11)に分類され、それぞれ基質特異性や組織局在が異なります。
参考)ホスホジエステラーゼ - Wikipedia

PDE4、PDE7、PDE8はcAMP選択的に作用し、PDE5、PDE6、PDE9はcGMP選択的に作用します。一方、PDE1、PDE2、PDE3、PDE10、PDE11は両基質に対して活性を持つ二重基質酵素です。特にPDE2Aは脳部位に高発現しており、前頭皮質、海馬、線条体、扁桃体など学習・記憶形成に重要な領域に多く存在しています。
参考)https://core.ac.uk/download/pdf/236176856.pdf

PDE阻害薬は細胞内でcAMPやcGMPの分解を抑制してその濃度を高めることで、様々な生理作用を発揮します。結果的に細胞内カルシウム濃度を調節し、心筋収縮力の増強や血管拡張などの効果をもたらします。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00082.html

ホスホジエステラーゼ阻害薬PDE3阻害薬の種類と心不全治療への適応

PDE3阻害薬は、急性心不全や慢性心不全の治療に使用される強心薬として重要な位置を占めています。主な医薬品として、ミルリノン(ミルリーラ)、オルプリノン(コアテック)、シロスタゾール(プレタール)、ピモベンダン、アムリノンなどが挙げられます。
参考)商品一覧 : ホスホジエステラーゼIII阻害薬

ミルリノンは注射剤として急性心不全や慢性心不全の急性増悪時に使用され、心筋収縮力を増強すると同時に血管抵抗を低下させる二つの心血管作用を持ちます。先発品のミルリーラ注射液10mgは薬価2206円、後発品のミルリノン注射液10mg「F」は1778円で提供されています。ドブタミンとの併用療法はより効果的であり、β遮断薬を使用している患者の急性または慢性心不全に推奨されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/72/5/72_256/_pdf

シロスタゾールは経口剤として間欠性跛行の治療や脳梗塞再発予防に使用されます。PDE3阻害により赤血球の変形能が向上し、収縮した血管をより容易に通過できるようになることで、末梢循環障害の改善に寄与します。プレタールOD錠100mgの薬価は30.2円で、多数の後発品が10.4~24.4円で供給されています。
参考)ホスホジエステラーゼ阻害薬 - Wikipedia

さらに、PDE3阻害薬は冠動脈バイパス術中のグラフト攣縮予防や急性大動脈解離における臓器保護にも使用されており、心臓血管外科領域での応用が広がっています。主な副作用としては、心臓陽性変力作用や血管拡張作用による頻脈、頭痛などが報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/22/6/22_6_363/_pdf/-char/en

ホスホジエステラーゼ阻害薬PDE4阻害薬の作用機序と臨床応用

PDE4阻害薬は、cAMPを特異的に分解するPDE4を選択的に阻害することで、細胞内cAMP濃度を増加させ、炎症性サイトカインの産生を抑制する薬剤です。アトピー性皮膚炎ではcAMP濃度が低下し、炎症性サイトカインが過剰になっていますが、PDE4阻害によりこの異常を是正できます。
参考)アトピー性皮膚炎の第4の外用薬(PDE4阻害薬)

ロフルミラストは経口PDE4阻害薬として、慢性気管支炎を伴う慢性閉塞性肺疾患COPD)患者の増悪リスク軽減に承認されています。アプレミラストは乾癬や乾癬性関節炎の治療に、クリサボロールはアトピー性皮膚炎の治療に承認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9731127/

モイゼルト軟膏は、日本で承認されたPDE4阻害外用薬で、アトピー性皮膚炎の第4の外用薬として注目されています。低分子薬で透過性に優れ、ステロイド外用薬と異なり使用量に上限がありません。PDE4は顆粒球、リンパ球、マクロファージなどの免疫細胞に存在し、炎症性サイトカインを調節しているため、寛解維持期の治療選択肢として有用です。
参考)301 Moved Permanently

オテズラ錠(アプレミラスト)は、ベーチェット病による口腔潰瘍とそれに伴う痛みを改善するため、PDE4の働きを抑えることで身体の免疫バランスを整え、炎症を抑制します。ただし、免疫細胞に作用するため、毛包炎やざ瘡などの皮膚感染症には注意が必要です。
参考)301 Moved Permanently

ホスホジエステラーゼ阻害薬PDE5阻害薬の種類と適応疾患

PDE5阻害薬は、肺血管平滑筋においてcGMP分解酵素であるPDE5を選択的に阻害することで、血管拡張作用を発揮します。肺動脈ではPDE5が70%、PDE2が30%を占めており、PDE5阻害薬の主要なターゲットとなっています。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/jyunkan/JY-13056.pdf

シルデナフィル(レバチオ、バイアグラ)は、世界で最初に臨床応用されたPDE5阻害薬です。レバチオは肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬として承認されており、レバチオ錠20mgの薬価は690.7円です。バイアグラは勃起不全治療薬として使用され、バイアグラ錠50mgは1150.2円、後発品は安価で提供されています。
参考)商品一覧 : ホスホジエステラーゼV阻害薬

タダラフィル(アドシルカ、ザルティア、シアリス)は、長時間作用型のPDE5阻害薬です。アドシルカは肺動脈性肺高血圧症に、ザルティアは前立腺肥大症に伴う排尿障害に、シアリスは勃起不全治療にそれぞれ適応があります。アドシルカ錠20mgは810.9円、ザルティア錠5mgは96.2円、シアリス錠20mgは1300.6円で、多数の後発品が16.9~516.3円で供給されています。
参考)Table: 勃起障害に対する経口ホスホジエステラーゼ5阻害…

バルデナフィル(レビトラ)は、内服後30~60分で効果を発揮する勃起不全治療薬です。口内崩壊剤も開発されており、より迅速な効果発現が期待できます。一般的な副作用には頭痛、ほてり、消化不良、鼻づまり、めまい、視覚異常があり、まれに持続勃起症や聴覚障害、視覚障害が報告されています。
参考)https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/26_ed_v3.pdf

ホスホジエステラーゼ阻害薬の副作用と注意点

PDE阻害薬の使用には、特に心血管系の副作用に注意が必要です。PDE5阻害薬では、潮紅、ほてり、低血圧、失神、動悸、胸痛などの循環器系副作用が5%以上の頻度で報告されています。まれに心不全、心筋梗塞、心突然死、頻脈、高血圧などの重篤な副作用も発生する可能性があります。
参考)https://med.toaeiyo.co.jp/products/tadalafil/pdf/tenpu-tdl.pdf

感覚器系の副作用として、霧視、眼充血、眼痛、結膜出血、視力低下などが1~5%未満の頻度で見られます。まれに非動脈炎性前部虚血性視神経症、網膜静脈閉塞、視野欠損、中心性漿液性脈絡網膜症などの重篤な視覚障害も報告されており、特に網膜色素変性症患者では注意が必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00069293.pdf

PDE5阻害薬の最も重要な禁忌は、硝酸薬および一酸化窒素(NO)供与剤との併用です。ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビドニコランジルなどとの併用は、降圧作用が増強され重篤な低血圧を引き起こす可能性があるため絶対禁忌とされています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00069292.pdf

抗高血圧薬との併用では相互作用により血圧低下が増強される可能性があり、CYP3A4阻害薬との併用では薬物代謝が遅延するため用量調整が必要です。高齢者や肝機能・腎機能低下患者では薬物代謝が遅れる可能性があるため、用量の調整が推奨されます。心血管疾患のある患者は、使用前に必ず医師と相談し、自己判断での服用を避けることが重要です。
参考)バルデナフィルの副作用❘ヒロクリニック

ホスホジエステラーゼ阻害薬の新規開発動向と将来展望

PDE阻害薬は、現在承認されている適応症以外にも、多くの新規治療領域で研究開発が進められています。中枢神経系疾患、特にアルツハイマー病などの神経変性疾患に対する治療薬としてPDE阻害薬が注目されており、2050年までに認知症患者数が現在の3倍になると予測される中で、新たな治療選択肢として期待されています。
参考)https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acschemneuro.0c00244

炎症性腸疾患(IBD)の治療においても、PDE4阻害薬、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル)、PDE3阻害薬(シロスタゾール)、PDE9阻害薬、PDE3/PDE4二重阻害薬など、複数のPDE阻害薬が研究されています。これらは、腸管の炎症を抑制し、潰瘍性大腸炎クローン病の症状改善に寄与する可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8732246/

下部尿路症状(LUTS)の治療においては、前立腺や膀胱平滑筋に作用するPDE阻害薬が研究されています。良性前立腺肥大症(BPH)による症状や過活動膀胱に対して、組織選択性の高い薬剤開発が進められており、副作用を最小限に抑えた治療が可能になると期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3162649/

タダラフィルは既に前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤として承認されており、血管拡張作用が排尿症状の改善に寄与することが示されています。しかし、他の前立腺肥大症治療薬との併用による臨床効果は国内では確認されておらず、今後の研究課題となっています。
参考)https://med.skk-net.com/information/item/TAD2405.pdf

PDE2A阻害薬TAK-915は、高活性・高選択的な新規化合物として開発され、認知機能改善薬としての臨床応用が期待されています。PDE2Aは脳部位特異的に発現しており、末梢への影響が少ないため副作用軽減の観点から魅力的な創薬標的とされています。
参考)https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/126652/files/180905-Mikami-8-1.pdf

現在、87種類のPDE阻害能を持つ薬剤が同定されており、そのうち85種類がPDE酵素を主要な標的としています。臨床試験では多数のPDE阻害薬が評価されており、新規分子や新たな適応症の開発が活発に進められています。PDE阻害薬は、既存の治療法では効果が不十分な患者に対する新たな治療選択肢として、今後ますます重要性が増していくと考えられます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1760738/

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ホスホジエステラーゼ阻害薬の概要では、PDE阻害薬の基本的な作用機序と主な医薬品について解説されています。
日本薬学会によるPDE阻害薬の解説では、各PDEファミリーの特徴と阻害薬の詳細について専門的な情報が提供されています。