リハビリを続けても、再発率が下がらないケースが約4割に上ることが報告されています。
予防医学は「一次・二次・三次」の3段階に分類されます。この枠組みはLeabell(1958年)が提唱したもので、現在も世界中の医療教育で使われる基本概念です。
一次予防は、病気がまだ発症していない段階で原因を取り除く取り組みです。ワクチン接種、禁煙指導、生活習慣改善などが該当します。二次予防は、無症状または初期段階での早期発見・早期治療が目的で、がん検診や健康診断がその代表例です。
三次予防は、すでに疾病が発症・確定診断された後の段階に対応します。つまり三次予防です。具体的には、機能障害の進行を防ぐリハビリテーション、合併症管理、社会復帰支援などが含まれます。「治療後にどう生きるか」を支える医療行為全般が三次予防に当たります。
重要なのは、三次予防は「治す」ことより「維持・回復・再発防止」を主眼としている点です。急性期治療が終わった後のフェーズを担う医療従事者にとって、最も日常的に関わる予防の概念といえます。
| 分類 | 対象段階 | 主な目的 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 一次予防 | 発症前 | 発症そのものを防ぐ | ワクチン、禁煙、食生活改善 |
| 二次予防 | 発症初期・無症状期 | 早期発見・早期治療 | がん検診、健康診断、スクリーニング |
| 三次予防 | 疾病確定後 | 再発防止・機能維持・社会復帰 | リハビリ、合併症管理、就労支援 |
三次予防の中身は疾患によって大きく異なります。疾患ごとに整理すると理解が深まります。
🫀 循環器疾患(心筋梗塞・脳卒中)
心筋梗塞後の心臓リハビリテーションは、再発リスクを約25〜30%低下させると報告されています(日本心臓リハビリテーション学会)。退院後の運動療法、服薬管理、食事指導を組み合わせた包括的プログラムが三次予防の核となります。
脳卒中においては、麻痺した機能を補う「代償的アプローチ」と、神経可塑性を利用して機能そのものを回復させる「回復的アプローチ」の両輪でリハビリを進めます。発症後3〜6か月が機能回復の黄金期とされており、この期間の三次予防の質が長期予後を大きく左右します。
大腿骨近位部骨折の場合、術後リハビリが不十分だと1年以内に約20%が再骨折するとのデータがあります。これは三次予防の失敗ともいえます。転倒予防プログラムの導入や、骨粗しょう症治療薬の継続管理が三次予防の具体策です。
変形性膝関節症では、体重管理と筋力強化が三次予防の中心です。体重を1kg減らすと膝関節への負荷が約4kg軽減されるとされており、数字で伝えることが患者の行動変容を促します。
うつ病の再発率は高く、初発後の再発が約50%、2回目の再発後は約75%に上るとされています。三次予防として、維持療法(薬物療法の継続)と精神科リハビリテーション(デイケア、就労移行支援)が有効です。
統合失調症では、地域生活支援(ACT:包括型地域生活支援プログラム)が三次予防の代表的なモデルです。入院期間を短縮し、地域での自立した生活を維持することを目標とします。
糖尿病の三次予防は、合併症(網膜症・腎症・神経障害)の進行を防ぐことが主目的です。HbA1cを7%未満に維持することで、細小血管合併症のリスクが約35〜40%低下するとされています。栄養指導・運動療法・薬物療法の継続管理が三次予防の実践そのものです。
三次予防というと、リハビリや薬物療法に意識が向きがちです。しかし社会復帰支援も三次予防の核心です。
WHO(世界保健機関)の「ICF(国際生活機能分類)」では、健康状態を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つで捉えます。三次予防の最終ゴールは「参加」、すなわち社会への復帰です。身体機能が回復しても、仕事・家庭・地域社会への参加ができなければ、三次予防は完結しないとも言えます。
就労支援の観点では、がん患者の約3人に1人が治療後に仕事を失うか職場環境が悪化するとのデータがあります(国立がん研究センター)。医療ソーシャルワーカー(MSW)との連携や、「がん・就労両立支援」制度の活用が求められます。これは使えそうです。
医療従事者が「退院後の生活設計」まで視野に入れて支援することで、再入院率の低下と患者QOLの向上が同時に実現できます。
参考:厚生労働省「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会報告書」
厚生労働省|がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会報告書(就労支援・三次予防の制度的背景を確認できます)
三次予防は、一人の医療従事者で完結しません。多職種連携が前提です。
IPW(Inter-Professional Work)の枠組みでは、医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・管理栄養士・薬剤師・MSWがそれぞれの専門性を持ち寄ります。脳卒中後のリハビリを例にとると、PT(理学療法士)が歩行機能を担い、OT(作業療法士)が日常生活動作(ADL)を、ST(言語聴覚士)が嚥下・言語機能を担当します。縦割りではなく、カンファレンスを通じた横断的な情報共有が三次予防の質を左右します。
多職種連携を妨げる最大の障壁は「情報の分断」です。電子カルテや連携パスの活用が不十分だと、退院後の三次予防が途切れるリスクがあります。地域連携パス(クリティカルパスの退院後版)を整備した病院では、脳卒中患者の在宅復帰率が有意に改善したとの報告があります。
多職種連携の質が高いほど、三次予防の成果が上がります。これが原則です。
参考:日本リハビリテーション医学会「脳卒中リハビリテーション診療ガイドライン」
日本リハビリテーション医学会|脳卒中リハビリテーション診療ガイドライン(多職種連携・三次予防の具体的エビデンスを確認できます)
三次予防で最も費用対効果が高いアプローチの一つが、患者教育によるセルフマネジメント支援です。意外ですね。
慢性疾患患者の再入院を防ぐ上で、患者自身が自分の状態を管理できるかどうかが決定的に重要です。糖尿病の自己血糖測定、心不全患者の体重・浮腫管理、COPD患者の呼吸リハビリ自主トレーニングなど、いずれも患者が毎日自分でモニタリングし、異常を早期に察知する力を養うことが三次予防の実践です。
スタンフォード大学が開発した「慢性疾患セルフマネジメントプログラム(CDSMP)」では、6週間の集団教育プログラムにより、参加者の入院率が約16%低下したと報告されています。日本でも同様のプログラムが各地で導入されています。
患者教育において医療従事者が意識すべきポイントは以下の通りです。
患者に「自分の健康を管理する力」をつけてもらうことが、三次予防の最終形です。医療従事者は「治療者」から「支援者・コーチ」へと役割を拡張する視点が求められます。
参考:国立健康・栄養研究所「セルフマネジメント支援と慢性疾患管理」
国立健康・栄養研究所|セルフマネジメント支援の理論と実践(三次予防における患者教育の根拠となる情報が掲載されています)
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