平胃散の成分と各生薬が持つ働きと注意点

平胃散に含まれる蒼朮・厚朴・陳皮・甘草・生姜・大棗の成分と薬理作用を医療従事者向けに詳しく解説。各生薬の有効成分や副作用リスク、処方時に見落とされがちな甘草の重複摂取問題まで、臨床で役立つ情報をまとめています。服薬指導に活かせる知識が揃っているでしょうか?

平胃散の成分と各生薬が持つ働き・注意点

平胃散の成分 3つのポイント
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6種類の生薬で構成

蒼朮・厚朴・陳皮・甘草・生姜・大棗の6生薬が組み合わさり、燥湿・行気・和胃の相乗効果を発揮します。

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甘草による偽アルドステロン症リスク

カンゾウを1日2.5g以上摂取すると低カリウム血症の禁忌リスクが高まります。他の漢方との重複処方に要注意です。

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厚朴の抗菌・抗炎症成分

厚朴にはマグノロールとホノキオールが含まれ、抗菌・抗炎症・鎮静・平滑筋弛緩など多岐にわたる薬理作用が報告されています。

平胃散を処方するだけで、意図せずカンゾウを過剰に摂取させてしまうことがあります。


平胃散の成分一覧と標準配合比率


平胃散(ツムラ79番)は1日7.5g製剤中に乾燥エキス3.25gを含有し、蒼朮4.0g・厚朴3.0g・陳皮3.0g・大棗2.0g・甘草1.0g・生姜0.5gという生薬量から抽出されています。 この配合比率は北宋時代の『太平恵民和剤局方』に収録された原典処方をほぼ忠実に再現したものです。kegg+1
各メーカーによって配合比率に微妙な差があります。たとえばコタロー平胃散エキス細粒(1日6.0g)ではソウジュツ4.0g・コウボク3.0g・チンピ3.0g・カンゾウ1.0g・ショウキョウ0.5g・タイソウ2.0gとツムラと同量ですが、 日本薬局方品の成分量は製品ごとに添付文書で確認することが原則です。



参考)医療用医薬品 : 平胃散 (商品詳細情報)


生薬(日局名) ツムラ79番(1日量) 役割
ソウジュツ(蒼朮) 4.0 g 君薬:燥湿健脾
コウボク(厚朴) 3.0 g 臣薬:行気除満
チンピ(陳皮) 3.0 g 臣薬:理気和胃
タイソウ(大棗) 2.0 g 佐薬:補脾和胃
カンゾウ(甘草) 1.0 g 使薬:調和諸薬
ショウキョウ(生姜) 0.5 g 佐薬:温中止嘔

つまり蒼朮が最大量の「君薬」です。



参考)伝統医薬データベース 平胃散 漢方方剤


平胃散の主成分・蒼朮(ソウジュツ)の薬理作用

蒼朮はキク科のホソバオケラまたはシナオケラの根茎を乾燥させた生薬で、精油成分としてヒネソール・β-オイデスモール・アトラクチロジンを含みます。 これらの成分が胃腸機能を回復させる核心的な役割を果たし、利胆作用・抗消化性潰瘍作用・血糖降下作用・抗炎症作用・抗腫瘍作用・抗菌作用・肝障害抑制作用・腸管免疫促進作用など、胃腸薬の枠を超えた多彩な薬理が報告されています。



参考)蒼朮の効能・副作用


臨床的に重要なのは「燥湿」作用です。これは胃内に停滞した余剰な水分(湿邪)を除去するはたらきで、胃もたれ・腹部膨満・食欲不振の改善に直結します。 水分代謝が乱れやすい梅雨時期や夏場の消化器症状に対し、蒼朮中心の平胃散が特に有効とされる根拠はここにあります。これは使えそうです。



参考)平胃散(へいいさん)


血糖降下作用については複数の基礎研究で示されているものの、臨床での降糖薬との相互作用は十分に解明されていません。糖尿病患者への処方時はモニタリングを怠らないよう留意しましょう。


平胃散の厚朴(コウボク)成分が持つ抗菌・鎮静作用

厚朴はモクレン科ホオノキ等の樹皮を基原とし、活性成分としてマグノロール(magnolol)とホノキオール(honokiol)を含みます。 この2成分は抗潰瘍・胃液分泌抑制・胃粘膜保護・鎮吐・抗菌・鎮静の各作用が報告されており、単なる「胀りを取る薬」という認識を超えた多機能な生薬です。



参考)https://www.qlife-kampo.jp/crude-drug/story5889.html


特にホノキオールの抗菌作用はHelicobacter pylori(ピロリ菌)に対する抑制効果も基礎研究レベルで示唆されています。 ただし現時点ではあくまで基礎研究段階であり、除菌療法の代替として扱うことは根拠不十分です。抗菌作用があるということですね。



参考)厚朴:行氣消脹,呵護腸胃健康的良藥


また厚朴の鎮静作用は機能性消化管障害(FD)に合併しやすい不安症状への補助的効果としても注目されており、半夏厚朴湯など他の厚朴含有処方と比較・選択する際の参考になります。



参考:厚朴の薬理作用と活性成分の詳細(Qlife漢方 生薬辞典)
https://www.qlife-kampo.jp/crude-drug/story5889.html

平胃散の陳皮(チンピ)成分・ヘスペリジンの注目作用

陳皮はウンシュウミカン等の成熟果皮を乾燥させた生薬で、フラボノイドの一種であるヘスペリジン(ビタミンP)を豊富に含みます。 ヘスペリジンにはビタミンC吸収補助・抗酸化・血管強化・血流改善の各作用が研究で報告されており、単純な「理気」(気の巡りを整える)薬に留まらない成分です。



参考)ヘスペリジン(ビタミンP、陳皮にも含まれる)|登録販売者試験


平胃散における陳皮の主な役割は、蒼朮・厚朴の燥湿作用を助ける「芳香化湿」と、気の停滞を解消して胃の蠕動運動を促進する「理気和胃」にあります。 胃の動きが滞って腹部膨満や吐き気が出る患者に対し、陳皮が実質的な消化管運動改善効果に貢献しているといえます。



ヘスペリジンは温度依存性が高く、熱水で煎じることで溶出率が大きく変わります。 エキス製剤では煎液と同等の溶出が保証されているため、エキス顆粒での服用が推奨される背景の一つになっています。これは覚えておけばOKです。



平胃散の甘草(カンゾウ)と偽アルドステロン症リスク

医療用漢方製剤148品目のうち、甘草を含有するものは109処方にのぼります。 平胃散にも1.0g/日(ツムラ79番)のカンゾウが含まれており、単剤では問題になりにくいものの、他の漢方薬との重複処方で1日トータルが2.5gを超えると、低カリウム血症のある患者に対して禁忌となります。



甘草の主成分であるグリチルリチン酸は偽アルドステロン症を引き起こし、高血圧・低カリウム血症(→代謝性アルカローシス)・四肢脱力・筋肉痛・ふらつきといった症状を引き起こします。 発症率は1日摂取量1gで1.0%・2gで1.7%・4gで3.3%・6gで11.1%と摂取量に比例して増加します。



複数漢方の重複処方は日常診療で十分起こりえます。 たとえば加味逍遙散(甘草1.5〜2g/日)+葛根湯(甘草2g/日)+小青竜湯(甘草3g/日)を同時処方すると1日の甘草量は6.5〜7gに達し、偽アルドステロン症の発生率は11%以上という高リスクになります。 厳しいところですね。



服薬指導では患者が自己判断で複数の漢方OTC薬を併用していないかを必ず確認することが重要です。甘草の重複摂取リスクを見落としやすいのは、製品名に「漢方」と明示されていないOTC(たとえば葛根湯配合の風邪薬)も含まれるためです。


参考:甘草含有漢方薬の偽アルドステロン症について(厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf
参考:漢方複数内服時の偽性アルドステロン症リスク解説
漢方の複数内服に注意!偽性アルドステロン症。

医療従事者が見落としやすい平胃散成分の独自視点:体質不適合と陰虚リスク

平胃散は温燥の処方であり、すべての消化器症状に使えるわけではありません。 構成生薬の蒼朮・厚朴・陳皮はいずれも辛温燥湿の性質を持ち、陰虚(体内の水分・栄養が不足した状態)・血虚の患者に長期投与すると「燥邪」が陰液をさらに消耗させ、口渇・口乾・便秘の悪化を招くリスクがあります。



参考)平胃散可改善燥濕運脾,腹瀉腹痛,嘔吐,沉重疲勞 - 雲端中醫…


特に高齢者や更年期女性では陰虚傾向を持つケースが多く、消化器症状が出たからといって即座に平胃散を選択するのは要注意です。 口渇・手足のほてり・舌が赤くて乾燥している所見があれば、同じ胃もたれでも六君子湯補中益気湯など補気・補陰寄りの処方を優先するのが漢方的選択です。これが原則です。



また妊婦への投与も「慎重投与」とされており、 特に温燥成分が子宮収縮に影響する可能性が否定できないため、妊娠初期には特に注意が必要です。薬局窓口での服薬指導では患者の体質と証を確認してから推奨するかどうかを判断する、という一手間が重要なポイントになります。



参考:平胃散の適応病態と証の解説(伝統医薬データベース)
伝統医薬データベース 平胃散 漢方方剤




【第2類医薬品】加味平胃散エキス〔細粒〕67 2g×12包入