バルプロ酸を飲んでいる患者にBIPMを投与すると、てんかんが"治まるどころか悪化"します。
ビアペネムの略語「BIPM」は、一般的名称「Biapenem」の先頭4文字に由来します。 日本化学療法学会が発行する「抗微生物薬略語一覧表」でも公式略語として収載されており、カルバペネム系のなかでイミペネム(IPM/CS)・パニペネム(PAPM/BP)・メロペネム(MEPM)・ドリペネム(DRPM)と並んで統一表記が定められています。kegg+3
現場では処方箋・指示書・カルテのいずれにもBIPMが使われます。略語が統一されている理由は、薬剤名の読み間違い・書き間違いによるインシデント防止のためです。つまり「略語は共通言語」が原則です。
日本感染症学会のサーベイランスシステム(JANIS)でも抗菌薬コードとしてBIPMが登録されており、施設をまたいだ耐性菌データの集計でも同一略語が使われています。 略語が統一されていることで、感受性データの比較やアンチバイオグラムの作成が格段に楽になります。これは実務上の大きなメリットです。
参考)https://janis.mhlw.go.jp/section/master/antimicrobialdrugcode_zen_ver4.2_202301.xls
| 一般名 | 略語 | 商品名 |
|---|---|---|
| ビアペネム | BIPM | オメガシン® |
| メロペネム | MEPM | メロペン® |
| ドリペネム | DRPM | フィニバックス® |
| イミペネム/シラスタチン | IPM/CS | チエナム® |
| パニペネム/ベタミプロン | PAPM/BP | カルベニン® |
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BIPMはペニシリン結合蛋白(PBP)に高い親和性で結合し、細菌の細胞壁合成(ムレイン架橋形成)を阻害することで殺菌作用を発揮します。 特にMSSAではPBP1・4、大腸菌および緑膿菌ではPBP2・4に高い親和性を示します。結論は「PBP結合による細胞壁合成阻害」が基本です。
参考)ビアペネム (Biapenem):抗菌薬インターネットブック
好気性グラム陽性菌・陰性菌、嫌気性菌に対して幅広い抗菌スペクトルを持ちます。 イミペネム・メロペネムをはじめセフタジジム・オフロキサシン・ゲンタマイシンに耐性を示す緑膿菌に対しても強い抗菌力を示す点が特徴です。 意外ですね。pins.japic+1
BIPMはDHP-1(ヒト腎デヒドロペプチダーゼ-Ⅰ)に対しメロペネムよりも安定であり、他の添加物なしで単一製剤として使用できます。 イミペネムがシラスタチンとの合剤でなければDHP-1に分解されてしまうのとは対照的です。これは使いやすさの面で大きなポイントです。pins.japic+1
✅ BIPMの抗菌スペクトルのポイント
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00048597.pdf
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00048596.pdf
カルバペネム系のなかでBIPMだけが主に糸球体濾過により排泄されるという特徴があります。 他の4剤(IPM/CS・PAPM/BP・MEPM・DRPM)は糸球体濾過と尿細管分泌の両方が関与しています。これが「BIPMは腎機能障害患者に使いやすい」と言われる根拠です。
参考)カルバペネム系抗菌薬はどうやって使い分ける?【比較と使い分け…
腎障害のメカニズムは尿細管上皮への影響と考えられています。 糸球体濾過が主排泄経路のBIPMは、尿細管への負荷が相対的に少ないため、腎機能低下患者や高齢者への投与時に同系統の中で選択肢に挙がりやすいです。
注意点として、BIPMの腎機能低下時の具体的な用量調整データは、サンフォードや感染症プラチナマニュアルにも記載がない場合が多いとされています。 実際に投与する際は添付文書の最新情報を必ず確認することが必須です。用量調整は個別対応が条件です。
💡 腎機能低下時に関連する確認ポイント
BIPMを含むカルバペネム系抗菌薬全般は、抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウム(デパケン®・バレリン®・ハイセレニン®等)と併用禁忌です。 理由は、カルバペネム系がバルプロ酸の血中濃度を著明に低下させるためです。痛いですね。
てんかんを管理している患者にBIPMを投与すると、バルプロ酸の血中濃度が急落し、けいれん発作が誘発されるリスクがあります。 血中濃度が治療域を下回るまで数時間〜1日程度かかる場合もあり、「今のところ問題ない」と思っていたら翌朝に発作、というケースが起こりえます。georgebest1969.typepad+1
中枢神経系副作用については、イミペネムで最も多く報告されており(投与中の3%にてんかん発作)、メロペネムは0.07%と報告が少ないです。 BIPMはメロペネムやドリペネムと同様に中枢神経への安全性が高いとされています。 ただし、あくまでも「イミペネムより低い」であり、ゼロではないことを覚えておく必要があります。igakukotohajime+1
⚠️ 入院患者の持参薬確認で必ずチェックすべき薬剤(BIPM投与前)
| チェック対象 | リスク内容 |
|---|---|
| バルプロ酸ナトリウム(デパケン®等) | 血中濃度急落→けいれん発作誘発 |
| 他のカルバペネム系薬 | 重複投与・過剰投与のリスク |
| 腎毒性のある薬剤(アミノグリコシド系等) | 腎機能低下を助長する可能性 |
参考)302 Found
BIPMは「IPM/CSとMEPMの中間的な特性を有する」と表現されることが多いです。 腎毒性・中枢毒性ともにIPM/CSより低く、抗グラム陽性菌活性がMEPMより高い水準にある、という位置付けです。
しかし現実として、カルバペネム系5剤の臨床効果における差はほとんどないとされています。 感染症の専門家のなかには「5種類同じスペクトラムの薬剤を施設内に置いても、メリットがあるのは製薬会社だけだ」という意見もあるほどです。これは使えそうな視点です。
では「中間的特性」のBIPMを選ぶ積極的な理由はどこにあるのでしょうか。一つの現実的な答えは、「腎機能低下患者への使いやすさ(糸球体濾過優位の排泄)」と「単一製剤であること(DHP-1安定性)」の組み合わせが施設の方針や患者背景と合致する場面です。 BIPMを選ぶ理由は「患者背景との適合」が条件です。pins.japic+1
✅ BIPMが選択肢として挙がりやすい患者背景の例
抗菌薬適正使用(AMS)の観点から、BIPMの使用実績や感受性データは施設内のアンチバイオグラムに継続的に記録していくことが重要です。JANISへの報告においても略語BIPMで統一することで、全国規模での耐性動向の比較が可能になります。 略語の統一は単なる記法の問題ではなく、感染症サーベイランスの精度に直結するのです。
参考:カルバペネム系薬の薬剤別特性に関する詳細は以下の薬剤師向け専門記事が参考になります。
カルバペネム系抗菌薬はどうやって使い分ける?比較と使い分け(薬剤師メモ)
カルバペネム系5剤の腎排泄経路・PBP親和性・中枢毒性の違いが詳しく比較されています。
参考:BIPMを含む抗微生物薬略語一覧の公式資料はこちら
抗微生物薬略語一覧(薬事日報)
BIPMを含むカルバペネム系全剤の略語が一覧化されており、研修・教育資料としても使いやすいPDFです。
参考)https://www.yakuji.co.jp/pic/2009/others/po09siru1.pdf