エンドルフィン効果と分泌促進による鎮痛作用

エンドルフィンは脳内で作られる内因性オピオイドとして強力な鎮痛作用や多幸感をもたらします。その分泌メカニズムと臨床応用の可能性、医療従事者が知るべき効果的な活用法とは?

エンドルフィンと効果

エンドルフィンの主な効果
💊
鎮痛効果

モルヒネの6倍以上の強力な鎮痛作用を持ち、痛みの伝達を効果的に抑制します

😊
多幸感と気分高揚

ドーパミン神経系の活性化を通じて幸福感や満足感をもたらします

🛡️
抗ストレス作用

ストレス状況下で分泌され、心身の緊張を緩和し精神的安定性を高めます

エンドルフィンは脳内で生成される内因性オピオイドペプチドであり、神経伝達物質として機能します。その構造は31個のアミノ酸から構成され、特にβ-エンドルフィンが生理活性において最も重要な役割を果たしています。脳内麻薬または脳内モルヒネとも呼ばれるこの物質は、外部から投与される麻薬性鎮痛薬と類似した作用を示しながらも、体内で自然に産生されるため副作用がほとんどありません。

 

参考)エンドルフィン - Wikipedia

エンドルフィンは視床下部弓状核のニューロンで産生され、プロオピオメラノコルチン(POMC)という前駆体から切り出されます。ストレス時には視床下部からCRFが分泌されると、下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とβ-エンドルフィンが1:1の割合で同時に放出される仕組みになっています。この分泌メカニズムは、生体が危機的状況に対応するための防御反応として進化してきたものです。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7796446/

エンドルフィンの主要な作用機序はμ-オピオイド受容体を介したものです。この受容体に結合することで、脊髄や視床などの求心性痛覚伝導路を抑制するとともに、脳幹から脊髄後角に至る下行性痛覚抑制系を賦活化させます。さらに、中脳腹側被蓋野のμ受容体に作用してGABAニューロンを抑制することにより、ドーパミン神経系のドーパミン遊離を促進し、多幸感をもたらします。

 

参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2011/113041/201118011B/201118011B0019.pdf

エンドルフィンの鎮痛効果は極めて強力で、モルヒネの6倍以上の鎮痛作用を持つとされています。この強力な鎮痛効果は、脊髄後角におけるサブスタンスPの放出抑制を介したシナプス前抑制機序によるものであることが研究で明らかにされています。また、δ受容体を介した鎮痛作用機序も存在し、複数の経路を通じて痛みを制御しています。

 

参考)【心療内科 Q/A】「やる気を20倍高めてくれる脳内物質・『…

エンドルフィンによる鎮痛メカニズム

 

 

 

エンドルフィンの鎮痛作用は多層的なメカニズムによって実現されています。第一に、脊髄レベルでの痛覚情報伝達の遮断があります。エンドルフィンは脊髄後角においてμ受容体およびδ受容体に作用し、一次求心性神経からの痛覚伝達物質であるサブスタンスPの放出を抑制します。このシナプス前抑制によって、痛み刺激が脊髄から上位中枢へ伝わることが効果的にブロックされます。

 

参考)https://kaken.nii.ac.jp/en/file/KAKENHI-PROJECT-26861247/26861247seika.pdf

第二に、下行性痛覚抑制系の活性化があります。視床下部弓状核から中脳の中心灰白質(PAG)への投射を介して、エンドルフィンは下行性の痛覚制御システムを強化します。この経路は特に慢性疼痛の管理において重要な役割を果たし、長期的な鎮痛効果の維持に寄与しています。

 

参考)https://mdu.repo.nii.ac.jp/record/2915/files/33602_A000260_honbun.pdf

第三に、炎症性疼痛に対する特異的な効果も報告されています。動物実験では、エンドルフィンが後根神経節でのCGRP陽性細胞の活性を有意に減少させ、脊髄後角のグリア細胞活性も抑制することが確認されています。この抗炎症作用と鎮痛作用の相乗効果により、急性炎症モデルにおいても持続的な疼痛行動の抑制が得られます。

 

参考)https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21591906/21591906seika.pdf

臨床的な観点から特に注目すべきは、エンドルフィンが神経障害性疼痛に対しても効果を示す点です。神経障害性疼痛では、持続的な疼痛刺激により腹側被蓋野でβ-エンドルフィンが持続的に遊離され、GABA神経上のμオピオイド受容体を介した調節機構が働きます。この内因性の鎮痛システムの理解は、難治性疼痛の新たな治療戦略の開発につながる可能性があります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/142/1/142_22/_pdf

エンドルフィンとドーパミンの相互作用

エンドルフィンとドーパミンの相互作用は、脳の報酬系において極めて重要な役割を果たしています。この2つの神経伝達物質が同時に分泌されると、エンドルフィンがドーパミンの幸福感を10倍から20倍にも増強することが明らかになっています。このシナジー効果により、単なる快感を超えた強烈な多幸感や満足感が生じます。

 

参考)【幸せホルモン】セロトニンの分泌で心も体も幸せな毎日を - …

神経回路レベルでのメカニズムとして、エンドルフィンが中脳腹側被蓋野(VTA)のμ受容体に作用してGABA神経を抑制することで、ドーパミン神経の活動が脱抑制されます。このプロセスによってドーパミンの放出が増加し、大脳辺縁系や前頭前野への投射を通じて、動機づけや報酬予測、意思決定といった高次機能が強化されます。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC348707/

この相互作用は、運動による気分改善のメカニズムとしても重要です。継続的な運動やランニングによって「ランナーズハイ」と呼ばれる状態が誘発されますが、これはエンドルフィンとドーパミンの同時分泌によるものです。約20分間の運動でピークに達し、その後12時間にわたって幸福感が持続するという報告もあります。

 

参考)https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/a36428538/workout-happy-hormone-20210522/

行動嗜癖との関連も指摘されています。βエンドルフィンが腹側被蓋野の抑制系回路であるGABA含有ニューロンのμオピオイド受容体に作用すると、GABA神経系が抑制され、結果としてドーパミン神経系の活動が増強されます。この機序は報酬系の活性化を通じて、特定の行動の反復を促進する基盤となっています。

 

参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E8%A1%8C%E5%8B%95%E5%97%9C%E7%99%96amp;mobileaction=toggle_view_desktop

エンドルフィン分泌を促進する方法

エンドルフィンの分泌を促進する方法は多岐にわたり、医療現場での非薬物療法として活用できる可能性があります。最も効果的な方法の一つは有酸素運動です。ウォーキング、ランニング、サイクリング、水泳などの心肺機能を高める運動は、エンドルフィンの分泌に特に効果的であり、安静時と比較して3倍から5倍の分泌量増加が報告されています。​
運動強度と持続時間も重要な要素です。
セロトニンの分泌には一定のリズムを繰り返すリズム運動が効果的で、20~30分をピークに分泌されますが、疲れない程度の運動が推奨されます。エアロバイクを15分漕ぐ、軽いウォーキングなど、簡単に続けられる運動から始めることができます。

 

参考)エンドルフィンで幸せになろう! “脳内麻薬”エンドルフィンと…

食事による刺激も有効な方法です。辛いものを食べることでエンドルフィンが分泌されるほか、ダークチョコレートの摂取も効果があるとされています。甘味物質の摂取が下行性痛覚調節系に影響を与えることも研究で示されており、味覚刺激と鎮痛効果の関連が注目されています。

 

参考)エンドルフィンと幸福感の関係

リラクゼーション技法も有効です。深呼吸、瞑想、ヨガ、マッサージ、鍼治療などは、肉体や精神を癒すことでエンドルフィンを分泌させます。特に鍼麻酔の劇的な鎮痛効果はエンドルフィンの分泌によることが明らかにされ、鍼治療に対する科学的評価が高まっています。

 

参考)脳内麻薬・エンドルフィン

熱刺激による方法として、適度な温度のお湯での入浴も推奨されます。ただし、高血圧や心臓疾患のある患者では注意が必要です。また、笑うことやコメディを見ることなど、精神的に楽しい経験もエンドルフィン分泌を促進します。​

エンドルフィンの臨床応用と医療における役割

エンドルフィンの臨床応用は、慢性疼痛管理から精神疾患治療まで幅広い可能性を持っています。内因性オピオイドであるβエンドルフィンはモルヒネの20倍ともいわれる強力な鎮痛作用を持ちながら副作用が全くないため、遺伝子治療による臨床応用が研究されています。体外衝撃波を用いてPOMC(プロオピオメラノコルチン)前駆体を遺伝子導入する方法により、長期間にわたる持続的な鎮痛効果が動物実験で確認されています。​
分娩時の疼痛管理においても重要な役割を果たします。出産時の妊婦には通常の3倍から6倍のエンドルフィンが分泌され、分娩時の痛みを自然に抑制しています。この生理的な鎮痛メカニズムの理解は、産科領域における和痛分娩の最適化に貢献しています。

 

参考)分娩時におけるβ-エンドルフインの分泌と和痛効果 (助産婦雑…

精神疾患、特にうつ病の治療において運動療法の有効性が注目されていますが、その主要なメカニズムの一つがエンドルフィンの分泌です。運動によって分泌されるエンドルフィンがストレスを和らげ、セロトニンとの相乗効果で抑うつ症状を改善します。ランニングなどの有酸素運動は、薬物療法や心理療法と併用できる効果的な非薬物療法として位置づけられています。

 

参考)うつ病の回復を助ける食事・運動・生活習慣とは?|名古屋,心療…

炎症性疾患への応用も研究が進んでいます。喘息モデルでの研究では、β-エンドルフィンがNrf-2経路を介して抗炎症作用、抗酸化作用、抗アポトーシス作用を発揮することが明らかになっています。これらの多面的な作用により、気道炎症の抑制と気道リモデリングの改善が期待されています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10390559/

心血管疾患との関連も報告されています。β-エンドルフィンは動脈硬化プラークの進展と不安定化に寄与することが示されており、μオピオイド受容体拮抗薬が動脈硬化の予防と治療に有用である可能性が示唆されています。この発見は、循環器領域における新たな治療戦略の開発につながる可能性があります。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7142353/

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度予測においても、血漿β-エンドルフィン濃度が予測バイオマーカーとして有望であることが報告されています。ただし、臨床応用には大規模コホートでの検証が必要とされています。

 

参考)CareNet Academia

エンドルフィンとストレス応答の関係性

エンドルフィンは生体のストレス応答において中心的な役割を果たしています。ストレスや侵害刺激により産生され、鎮痛と鎮静に働くだけでなく、神経炎症の制御やエネルギー代謝の調節にも関与しています。このストレス応答システムは、生体が危機的状況に適応し生存確率を高めるために進化してきた重要な防御機構です。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9567582/

重傷を負った患者が意外に痛みを自覚していない現象や、臨死患者が安らかな死に顔である理由も、極限状態で大量に分泌されるエンドルフィンによるものと考えられています。このような状況下では、通常の数倍から数十倍のエンドルフィンが分泌され、強力な鎮痛作用と精神安定作用を発揮します。​
慢性ストレスへの適応においても重要です。持続的なストレス状況下では、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の活性化に伴ってACTHとβ-エンドルフィンが同時に放出され、身体的・精神的ストレスの両方に対処します。このバランスが崩れると、うつ病や不安障害などの精神疾患のリスクが高まることが知られています。​
皮膚のCRF-POMC系を介したストレス応答も注目されています。紫外線照射や炎症性サイトカイン投与により、ケラチノサイトやメラノサイト、線維芽細胞でCRFとPOMC遺伝子の発現が増加し、局所的なストレス応答が誘導されます。この機序は、皮膚の恒常性維持と修復プロセスにおいて重要な役割を果たしています。

 

参考)皮膚のCRF—POMC系を介したストレス応答機構

運動によるストレス軽減効果の主要なメカニズムもエンドルフィンの分泌です。有酸素運動によって血圧が正常化するのは、β-エンドルフィンの作用によるものと考えられています。運動後の爽快感や精神的ストレスの解消も、運動中に安静時の3倍から5倍に増加したエンドルフィンの作用によるものです。

 

参考)ストレスが身体に与える影響

参考情報:エンドルフィンの作用機序と臨床応用に関する詳細
Roles of β-Endorphin in Stress, Behavior, Neuroinflammation, and Brain Energy Metabolism(β-エンドルフィンのストレス、行動、神経炎症、脳エネルギー代謝における役割に関する包括的レビュー)
参考情報:脊髄後角におけるβエンドルフィンの鎮痛機序の研究成果
脊髄後角におけるβエンドルフィンの鎮痛機序の解明(サブスタンスP放出抑制を介した前シナプス性鎮痛作用の詳細な解説)
参考情報:POMC前駆体を用いた遺伝子治療研究
21591906 研究成果報告書(体外衝撃波を用いたPOMC遺伝子導入による長期鎮痛効果の研究)

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