プラークとアテロームは、動脈の内膜に蓄積・沈着した堆積物を指す医学用語であり、実質的には同じ病変を表しています。マクロファージや脂質、カルシウム、結合組織などが構成成分となり、動脈硬化の中心的な病態を形成します。
参考)アテローム
医学的には「アテローム性プラーク(atherosclerotic plaque)」あるいは「粥腫(じゅくしゅ)」として呼ばれ、いずれも粥状(お粥のようにドロドロとした)の脂質性物質を含む隆起性病変を意味します。この粥状の性質から、日本語では「粥腫(じゅくしゅ)」という訳語が使われています。
参考)https://www.saimiya.com/images/stories/kensin/knowledge/knowledge13.pdf
臨床現場では「プラーク」という用語が最も頻繁に使用され、病理学的な文脈では「アテローム」が好まれる傾向があります。しかし、これらは基本的に同じ病変を指しており、使い分けは主に専門分野や文脈の違いによるものです。
参考)アテローム性動脈硬化 - 04. 心血管疾患 - MSDマニ…
プラークは中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜病変で、複雑な構造を持っています。主な構成成分には、脂質コア(主にコレステロールエステル)、マクロファージから変化した泡沫細胞、平滑筋細胞、炎症細胞(リンパ球、好中球など)、結合組織、カルシウム沈着が含まれます。
参考)アテローム血栓症における血栓形成機序
プラークの表層は線維性被膜(fibrous cap)で覆われており、この被膜が内部の脂質コアと血流を隔てる重要な役割を果たしています。線維性被膜の厚さや強度は、プラークの安定性を決定する重要な因子となります。
参考)プラーク破綻 | 一般社団法人 日本血栓止血学会 用語集
時間が経過するにつれて、プラーク内にカルシウムが蓄積し、石灰化が進行します。このプラーク内石灰化は、動脈硬化の進行度を示す指標として臨床的に重要です。また、プラーク内には新生血管が形成されることがあり、これがプラーク内出血の原因となり、不安定化を促進します。
参考)http://www.igaku.co.jp/pdf/1302_resident-01.pdf
アテローム性動脈硬化(粥状動脈硬化)は、動脈の内側に粥状の隆起であるプラークが発生し、それが進行した状態を指します。つまり、プラークはアテローム性動脈硬化の本体であり、両者は密接不可分の関係にあります。
参考)コレステロールと血管プラーク
動脈硬化には複数のタイプがありますが、一般的に「動脈硬化」といえばアテローム性動脈硬化を指します。細動脈硬化や中膜石灰化硬化といった他のタイプも存在しますが、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な心血管イベントを引き起こす主要な病態は、アテローム性動脈硬化です。
参考)【動脈硬化】 メタボが血管の老化現象を加速する
プラークの形成は動脈硬化の初期段階から始まり、数十年かけて徐々に成長します。沈着が進むと次第に動脈内腔の狭小化を来し、末梢側の血流障害を起こします。この慢性的な進行が狭心症などの虚血性疾患の原因となります。
参考)動脈硬化 - 06. 心臓と血管の病気 - MSDマニュアル…
プラーク破綻は急性冠症候群や脳梗塞の主要な発症機序であり、線維性被膜の破裂またはびらんによって引き起こされます。破裂しやすい不安定プラークは、脂質コアが大きく、線維性被膜が薄く、マクロファージやリンパ球などの炎症細胞浸潤が顕著であることが特徴です。
参考)http://j-ca.org/wp/wp-content/uploads/2016/03/4311_byo_so4.pdf
プラーク破綻には「プラーク破裂(plaque rupture)」と「プラークびらん(plaque erosion)」の2つのタイプがあります。プラーク破裂は線維性被膜が破れて脂質コア成分が血液と直接接触するもので、プラークびらんは線維性プラークの表層がびらん性変化を起こして血栓が形成されるものです。
被膜が破綻すると血液がプラーク内へ流入し、プラーク内で強く発現している組織因子が血液と直接接触することで血小板と凝固系が急激に活性化されます。その結果、血管を閉塞する血栓が形成され、心筋梗塞や脳梗塞といった致命的な心血管イベントが発生します。プラーク破綻部の血栓は、血小板に加えて多量のフィブリンから構成されることが病理学的研究で明らかになっています。
プラークは安定プラークと不安定プラークに分類され、この区別は臨床的に極めて重要です。安定プラークは表面が滑らかで硬く、線維成分に富み、退縮するか変化なく経過するか、数十年かけてゆっくり成長して最終的に狭窄を引き起こします。
参考)不安定プラークとは|心カテブートキャンプ
一方、不安定プラークはちょっとした刺激で破綻しやすく、自然に生じるびらん、亀裂、破綻に対して脆弱です。重要な点は、不安定プラークは血行動態的に有意な狭窄を引き起こすかなり前から、急性の血栓症、閉塞、梗塞をもたらす可能性があることです。
一般的な誤解として、狭窄率の高い病変が必ずしも不安定プラークであるとは限りません。実際には、狭窄率75%以下の比較的軽度の狭窄病変でも不安定プラークである可能性が十分にあり、これが突然の心筋梗塞の原因となることがあります。したがって、狭窄の程度だけでなく、プラークの性状を評価することが臨床的に重要です。
参考)頸部エコーでわかることは?プラークについて説明
不安定プラークの特徴として、薄い線維性被膜(65μm未満)、大きな脂質コア(プラーク体積の40%以上)、マクロファージの高密度浸潤、プラーク内新生血管の増加、プラーク内出血などが挙げられます。これらの所見は血管内イメージング技術(血管内超音波、光干渉断層法など)によって評価可能です。
参考)https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis03/
プラーク形成には複数の危険因子が関与しており、脂質異常症(特に悪玉コレステロールであるLDLの上昇)が最も重要です。LDLコレステロールが高い場合、アテローム性プラークができやすくなり、動脈硬化が進行します。
参考)https://matsuiclinic.com/atherosclerosis/
その他の主要な危険因子には、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満、家族歴、座位時間の長い生活習慣などがあります。これらの危険因子は内皮機能障害を引き起こし、一酸化窒素の産生を阻害し、接着分子、炎症性サイトカイン、走化性タンパク質の産生を刺激します。
動脈硬化の予防には、これらの修飾可能な危険因子をコントロールすることが重要です。具体的には、生活習慣の改善(禁煙、適度な運動、食習慣の改善)、脂質異常症や高血圧、糖尿病などの生活習慣病に対する薬物療法(スタチンなどの脂質低下薬、降圧薬など)、抗血小板薬による血栓形成の抑制などの多面的なアプローチが推奨されます。
参考)血管炎症の制御による心血管病の抑制と血栓症の病理
近年、プラークの安定化を目指した治療戦略が注目されています。炎症を抑制することでプラークの不安定化を防ぎ、プラーク破綻による急性心血管イベントのリスクを低減することが可能です。また、血管内イメージング技術の進歩により、プラークの性状評価や治療効果の判定がより正確に行えるようになってきています。
参考)血管内イメージングによる冠動脈ステント留置後長期成績の予測
アテローム血栓症における血栓形成機序の詳細な病理学的解説(日本血栓止血学会誌)
アテローム性動脈硬化の形成機序と治療法(MSDマニュアル プロフェッショナル版)
不安定プラークと安定プラークの臨床的評価(京都大学医学部附属病院 脳神経外科)