付着部炎の「触診が陰性でも、SpA患者の最大20%に超音波で活動性炎症が潜んでいます。
付着部炎(enthesitis)とは、腱・靱帯・関節包が骨に付着する部位、いわゆる「付着部(enthesis)」に炎症が生じる病態です。全身には100か所以上の付着部が存在し、アキレス腱の踵骨付着部や足底腱膜、肘外顆、膝蓋腱などが臨床的に特に重要な部位とされています。
この付着部炎は、脊椎関節炎(SpA)グループの疾患、特に強直性脊椎炎(AS)・乾癬性関節炎(PsA)の核心症状として位置づけられています。東大病院リウマチ内科の解説によれば「SpAで最初に認められる異常は付着部炎であり、SpAの滑膜炎は付着部炎の炎症が二次的に波及したものと考えられている」とされており、つまり炎症は関節の中(滑膜)から始まるのではなく、関節の外(付着部)から始まる点が関節リウマチと根本的に異なります。
これが基本です。
膠原病という広いカテゴリの中で付着部炎を起こすグループとして、強直性脊椎炎・乾癬性関節炎・反応性関節炎・炎症性腸疾患関連関節炎・掌蹠膿疱症性骨関節炎などが含まれるSpAが代表格です。一方で全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群など古典的な膠原病では、付着部炎よりも滑膜炎・関節痛が主体となる点を区別して理解しておく必要があります。
付着部そのものには特有の免疫微小環境があります。健常者でも反復する機械的負荷(テニス肘・ゴルフ肘など)によって付着部炎が起こりますが、SpA・PsAの付着部炎では機械的負荷がなくても炎症が生じます。乾癬のKöebner現象と同様に、「こすれる」刺激が引き金になるという仮説も存在します。
病態生理の核心は、IL-23→IL-17の経路です。機械的ストレスや上皮バリア障害(腸管・皮膚)をきっかけにPGE2・IL-23が活性化し、ILC3やγδT細胞からIL-17・TNFが放出されます。この流れが好中球などの免疫細胞を動員し、間葉系幹細胞の活性化を経て最終的に骨形成(骨棘・骨端増殖)へと至ります。IL-23が付着部炎の発現に、IL-17が増強に重要という点は、後述する生物学的製剤選択の根拠になります。
膠原病・リウマチ一人抄読会:腱付着部炎レビュー(病態・検出・治療の総合的解説)
付着部炎を伴うSpA・PsAと関節リウマチ(RA)は、ともに関節炎をきたす疾患ですが、その病態・解剖学的局在・遺伝的背景・治療反応性は大きく異なります。この鑑別を誤ると、適切な治療薬の選択に失敗し、患者の関節破壊が進行するリスクがあります。
まず解剖学的局在の違いが重要です。付着部炎(SpA・PsA)は関節外の付着部に炎症の主座があり、組織学的には線維軟骨が主体です。対してRAの滑膜炎は関節内の滑膜が主体です。骨髄への関与はSpAで著明(+++)、RAでは軽微(+)です。骨新生(骨棘形成)はSpAで顕著に見られますが、RAでは認めません。
遺伝的背景も異なります。SpAではMHC class Ⅰ遺伝子(HLA-B27)やIL-23R、ERAPlとの関連が報告されており、特にASではHLA-B27陽性率が90%以上に達します。これに対してRAはMHC class Ⅱ遺伝子との関連が主体です。また免疫活性化の種類でも、SpAは先天性免疫(γδT細胞・3型自然リンパ球)が中心で、RAは適応免疫との混合型という違いがあります。
治療反応性の違いも見逃せません。特に重要なのが以下の点です。
| 項目 | SpA(付着部炎) | RA(滑膜炎) |
|------|----------------|--------------|
| MTX(メトトレキサート) | 有用性のエビデンス乏しい(−) | 主力薬(++) |
| TNF阻害薬 | 有効(+++) | 有効(+++) |
| IL-17阻害薬 | 有効(+++) | 一部効果(+) |
| IL-6阻害薬 | エビデンス乏しい(−) | 主力薬(+++) |
| NSAIDs(PGE2抑制) | 付着部炎抑制に有効(+++) | 補助的(+) |
乾癬性関節炎では末梢多関節炎が主体であればMTXが使用されますが、付着部炎や体軸関節炎が主体の場合にはMTXは原則として使用しません。この点は日本整形外科学会や各専門施設のガイドラインでも一貫して強調されています。
MTXは付着部炎に無効、という点が基本です。
また臨床症状の違いとして、SpAでは疼痛が主体で腫脹は目立ちにくいのに対し、RAでは疼痛・腫脹がともに顕著です。さらにSpAは下肢優位の非対称性少関節炎という分布パターンも特徴的で、手指の対称性多関節炎を呈するRAとの見た目の違いが診断の手がかりになります。
東大病院アレルギーリウマチ内科:強直性脊椎炎(付着部炎・診断基準・治療詳細)
付着部炎の正確な評価は、治療方針の選択と疾患活動性のモニタリングに直結します。臨床現場では圧痛を確認する触診が最も手軽な評価法ですが、触診単独評価には大きな限界があることが2025年の大規模研究で示されました。
Arthritis & Rheumatology(2025年)に掲載されたDEUS(Defining Enthesitis on Ultrasound in SpA)研究では、11カ国20施設のSpA 413名を対象に、超音波(US)と理学所見の一致度を検証しています。この研究で特に注目すべきは次の事実です。理学所見が陰性であったSpA患者255名のうち、最大20%が超音波検査で活動性付着部炎(active enthesitis)を示していたことです。
つまり、触診で「問題なし」と判定されても5人に1人は炎症が潜在しているということです。意外ですね。
逆に、理学所見で付着部炎ありと判定されたSpA患者158名のうち、68.4%で超音波の「active enthesitis」が認められませんでした。つまり触診の陽性判定の多くが過大評価の可能性もあるわけです。特にアキレス腱付着部は超音波と理学所見の一致率が最も低い部位として報告されており、アキレス腱部の圧痛だけで付着部炎を確定するのはリスクを伴います。
臨床評価スコアとして、以下が代表的です。
- LEI(Leeds Enthesitis Index):両側肘外顆・大腿骨内顆・アキレス腱付着部の6か所を評価
- MASES(Maastricht Ankylosing Spondylitis Enthesitis Score):腸骨稜・仙腸関節・棘突起・アキレス腱など13か所
これらは超音波と組み合わせることで評価の精度が上がります。
画像検査については、超音波とMRIがそれぞれ異なる強みを持ちます。超音波検査は無症候性の付着部炎を含めた検出に優れており、身体所見より感度が高く(Ann Rheum Dis. 2012)、特に付着部のパワードップラー(PD)陽性所見とびらん所見はSpAの診断と有意に関連します。一方MRIは、STIR/脂肪抑制造影T1強調画像により骨髄浮腫(骨炎)・骨膜炎・腸骨の炎症性病変を広範に評価できる点が強みです。
超音波とMRIの組み合わせが理想的です。
付着部炎の有病率が過小評価されやすい理由として、①付着部は広範囲に存在し関節炎と誤認されやすいこと、②画像検査を使うと有病率が大幅に高くなること(触診では35%、超音波では約70%:PsA患者対象の報告)が挙げられています。日常の触診に加えて積極的に超音波を活用することが、見逃し防止につながります。
順天堂大学病院 膠原病・リウマチ内科:脊椎関節炎の臨床症状・検査・診断
付着部炎を伴うSpA・PsAの治療は、病変のドメイン(体軸・末梢関節・付着部炎・指趾炎・皮膚・爪)によって最適な薬剤が異なります。以下の治療選択のポイントを把握しておくことが実臨床で重要です。
ステップ1:NSAIDsの位置づけ
NSAIDs(特にCOX-2阻害薬)は付着部炎・体軸性SpAの第一選択です。PGE2の抑制を通じて付着部炎の発症を抑制する作用があります(ASAS-EULAR 2017推奨)。疼痛やこわばりを主訴とする場合、最大投与量まで使用し、反応が良好なら症状がある限り定期的な使用が推奨されています。まずNSAIDsというのが原則です。
ステップ2:局所ステロイド注射
仙腸関節炎・筋骨格系の炎症部位への局所注射は推奨されます(ASAS-EULAR推奨グレードB)。ただし長期全身投与は避けるべきとされており、副腎皮質ステロイドの全身投与はSpAの体軸病変には通常使いません。局所投与に限定するのが条件です。
ステップ3:csDMARDs(MTX等)の扱い
体軸性SpAのみの場合、スルファサラジンを含むcsDMARDsは通常投与しません。末梢性関節炎にはスルファサラジンの使用が考慮されますが、付着部炎や体軸関節炎にはMTX・レフルノミドも有効性のエビデンスが乏しいとされています。PsA患者へのアプレミラスト(PDE4阻害薬)は逆に有効で、約半数の患者で付着部炎の消退が報告されています(J Rheumatol. 2015)。これは使えそうです。
ステップ4:bDMARDs(生物学的製剤)
高疾患活動性(BASDAI ≥ 4 または ASDAI ≥ 2.1)でNSAIDs無効の場合、TNF阻害薬を第一選択として開始します。体軸病変・付着部炎が主体ならTNF阻害薬(インフリキシマブ・アダリムマブ・ゴリムマブ・セルトリズマブ・エタネルセプト)を、皮膚症状が問題ならIL-17阻害薬(セクキヌマブ・イクセキズマブ)やIL-23阻害薬を優先することがあります。
TNF阻害薬に反応しない場合は、①別のTNF阻害薬へのスイッチ、または②IL-17阻害薬への変更を検討します。IL-12/23共通のp40サブユニット抗体であるウステキヌマブや、JAK阻害薬(ウパダシチニブなど)も選択肢に入ります。
治療薬選択のポイントをまとめると以下の通りです。
- 🟢 付着部炎・体軸関節炎が主体 → NSAIDs → TNF阻害薬 → IL-17阻害薬
- 🟢 末梢多関節炎が主体(PsA) → NSAIDs → MTX・アプレミラスト → 生物学的製剤
- 🔴 MTXを付着部炎に単独使用 → 無効の可能性が高く、病態進行リスクあり
- 🔴 全身性長期ステロイド → axSpAには推奨されない
なお、SpA患者では禁煙指導も非常に重要です。喫煙者はTNF阻害薬を含む治療反応性が乏しいことが報告されており(Rheumatology. 2016)、生活指導として積極的に禁煙を促すことが推奨されています。
日本医事新報:脊椎関節炎(強直性脊椎炎・乾癬性関節炎)の治療アルゴリズム
付着部炎は「アキレス腱・足底腱膜の痛み」として教科書的に語られることが多いですが、実臨床では見落とされやすい病型・部位・パターンが複数存在します。ここでは教科書的な解説では拾い切れない視点を整理します。
🔹 皮膚病変なしのPsAによる付着部炎
乾癬性関節炎患者の5人に1人は、関節炎(付着部炎を含む)が先行して皮膚病変が後から出現します。さらに6人に1人は関節と皮膚が同時に発症します。このため皮膚所見がなくてもPsAを念頭に置く必要があり、外来診察時に足の裏・お尻・頭皮・爪などの見えにくい部位を積極的に確認することが診断につながります。見逃しがちな部位ですね。
なお乾癬の有無にかかわらず、爪病変(点状陥凹・爪肥厚・爪甲剥離)がある場合はPsAのリスクが高く、第一関節(DIP)の関節炎と合わせて確認するのが実践的なアプローチです。
🔹 指趾炎(ソーセージ指)との関連
SpAにおける指趾炎(dactylitis)は、腱鞘滑膜炎が主体とされていますが、指の付着部炎がその背景にあるとも考えられています。「腸詰め状の指」という外見が特徴的ですが、軽度例では腫脹が目立たず変形性関節症と誤認されることがあります。特に足趾では見落とされやすいため、「指全体が太い/張っている」という患者の訴えを軽視しないことが重要です。
🔹 掌蹠膿疱症性骨関節炎における胸鎖関節付着部炎
日本で比較的多い掌蹠膿疱症性骨関節炎(PPP-OA)では、胸鎖関節・前胸部の付着部に炎症が起こりやすく、「前胸部の骨の盛り上がり」や「胸や鎖骨周囲の痛み」として来院することがあります。骨シンチグラムが診断に有用で、扁桃腺炎・副鼻腔炎・歯根部膿瘍などの感染巣除去が劇的に症状改善につながることがある点が、この疾患特有の面白い側面です。感染巣との関係は見逃せません。
🔹 見えない部位の付着部炎と運動療法
脊椎・骨盤帯・棘突起・坐骨結節など、触診しにくい部位の付着部炎はスコアにも反映されにくい傾向があります。SpAのリハビリテーションとして、継続的な運動療法は疾患活動性の改善に有効であることがコクランレビューで示されています(Cochrane Database Syst Rev. 2008)。自宅での運動より、指導者のついた水中・地上運動が推奨度として高いとされており、単なる安静指示では付着部炎の長期的悪化につながりうる点も重要です。
動かす、という発想が基本です。
なお付着部炎に対する治療のエビデンスは、付着部炎を主要アウトカムとした臨床試験が少ないため全体的に限られています。これは今後の研究が最も求められている領域のひとつです。観察研究から得られた知見と病態生理の理解を組み合わせた、個別化した治療アプローチが現時点では最善策となります。
日本リウマチ学会:乾癬性関節炎(PsA)の疾患解説と診断のポイント

歯科医推奨 モンダミン ハビットプロ 1080ml HABITPRO 洗口液 マウスウォッシュ 子供 ノンアルコール 天然ミント アース製薬株式会社 医薬部外品 薬用 洗口液 X-9N 歯肉炎予防 出血予防 歯垢付着予防 口臭予防 口中浄化・爽快 (4本)