モノアミンとは、アミノ基を一つ持つ神経伝達物質の総称です。主にセロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミンの5種類が含まれます。これらはさらにカテコールアミン(ドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)とインドールアミン(セロトニン)に分類されます。カテコールアミンはカテコール核を持ち、セロトニンはインドール核を持つという構造的特徴があります。これらの神経伝達物質は、脳内において複数の神経核から投射され、中枢神経系の広範な領域で機能しています。
参考)モノアミン - 脳科学辞典
神経科学においてモノアミンは、神経伝達物質または神経修飾物質として働きます。生体アミンはアセチルコリンとモノアミンに大別され、モノアミンには上記の5種類が含まれるという分類体系が確立されています。この分類は医療従事者が神経伝達物質を理解する上で基本的な枠組みとなっています。
参考)モノアミン酸化酵素(MAO) - ヘルスケアプランナー検定
アセチルコリンは、コリンとアセチルCoAから、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)の作用により合成される神経伝達物質です。この合成反応は神経終末で行われ、合成されたアセチルコリンはシナプス小胞に貯蔵されます。アセチルコリンは運動神経の神経終末、交感神経と副交感神経の神経節、副交感神経の神経終末、交感神経の汗腺における伝達物質として機能しています。
参考)中枢神経系のお話し
アセチルコリンの分解は、コリンエステラーゼ(AChE)の作用でコリンと酢酸に分解されます。特徴的なのは、アセチルコリンは自己受容体を持たないが蓄積性はないという点です。中枢神経系では、前脳基底部のマイネルト基底核などがアセチルコリン作動性神経核として知られており、大脳皮質への投射を通じて覚醒や認知機能に重要な役割を果たしています。
参考)中枢神経系のお話し
モノアミンとアセチルコリンは、中枢神経系において異なる神経核から投射されます。アセチルコリン系は大脳皮質(前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉)に分布し、前脳基底部のマイネルト基底核が主要な神経核となっています。一方、モノアミン系では、アドレナリン系が大脳辺縁系(帯状回、扁桃体、海馬、側坐核)に、セロトニン系が前脳基底部に、ドパミン系が髄質に、ノルアドレナリン系が間脳に、ヒスタミンが脳幹に分布しています。
これらの神経伝達物質の分布パターンは、それぞれの生理機能と密接に関連しています。上行性脳幹網様体賦活系の実体は、モノアミン・アセチルコリン作動性ニューロンであり、感覚情報による脳幹網様体の活性化を通じて覚醒状態の維持に関与しています。この神経系の複雑な相互作用が、睡眠覚醒サイクルや認知機能の調節において重要な役割を果たしています。
参考)https://www.yodosha.co.jp/bookdata/9784758107303/9784758107303_contents.pdf
アセチルコリン受容体は、ムスカリン受容体(代謝調節型)とニコチン受容体(イオンチャネル型)の二つに大別されます。ムスカリン受容体はM1からM5までの5種類が存在し、それぞれ異なる組織分布と機能を持ちます。M1受容体は脳(皮質、海馬)、腺、交感神経に、M2受容体は心臓、後脳、平滑筋に、M3受容体は平滑筋、腺、脳に分布しています。M2受容体は細胞機能を抑制し、M3受容体は促進するという対照的な作用を示します。
モノアミンの受容体システムはより多様です。モノアミン系神経伝達物質の作用は複数の受容体サブタイプを介して発現され、それぞれの受容体は異なる細胞内シグナル伝達経路と結合しています。また、モノアミンとアセチルコリンの神経系は相互に調節し合う関係にあります。例えば、GABA神経はアセチルコリンやモノアミンの神経系を抑制しており、この相互作用が脳機能の微細な調節を可能にしています。
参考)神経伝達物質と受容体、トランスポーター
モノアミンの合成経路は、それぞれの神経伝達物質によって異なります。カテコールアミンは共通の前駆物質からチロシン→L-DOPA→ドパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンという段階的な合成経路を経ます。セロトニンはトリプトファンから5-ヒドロキシトリプトファンを経て合成されます。これらの合成には複数の酵素が関与し、各ステップが厳密に制御されています。
参考)https://www-yaku.meijo-u.ac.jp/Research/Laboratory/chem_pharm/09jugyou/4.%20serotoninmonoamin.pdf
一方、アセチルコリンの合成はより単純で、コリンとアセチルCoAからコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)により一段階で合成されます。この酵素の活性は、アセチルコリン作動性神経の機能を評価する指標として用いられます。合成されたアセチルコリンは速やかにシナプス小胞に取り込まれ、神経刺激により放出されます。この合成と放出の迅速性が、アセチルコリンの神経伝達における特徴の一つです。
モノアミンの主要な分解酵素は、ミトコンドリア外膜に組み込まれたモノアミンオキシダーゼ(MAO)です。MAOには2種類のアイソザイムがあり、MAO-Aはノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニンを基質とし、MAO-Bはドパミン、ヒスタミンを基質とします。細胞内ではMAOにより酸化的脱アミノ化反応で代謝され、細胞外ではカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)によりメチル化されます。
参考)http://pharmacol.pha.nihon-u.ac.jp/sozai/picture/autonomic.pdf
アセチルコリンの分解は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)により速やかに行われます。この酵素はシナプス間隙に存在し、放出されたアセチルコリンをコリンと酢酸に加水分解します。分解速度が極めて速いため、アセチルコリンの作用は時間的・空間的に限定されます。分解されたコリンは再取り込みされ、再びアセチルコリンの合成に利用されるというリサイクル機構が存在します。
モノアミンは中枢神経系において、覚醒、情動、運動制御などの広範な生理機能に関与します。ドパミンは運動制御と報酬系に、ノルアドレナリンは覚醒と注意に、セロトニンは情動と睡眠に、ヒスタミンは覚醒と炎症反応に関与します。末梢では、アドレナリンは副腎髄質から分泌され、交感神経系の活性化に伴い血管収縮、心拍数増加、血糖上昇などの作用を示します。
アセチルコリンは、中枢神経系では記憶、学習、覚醒に重要な役割を果たします。末梢神経系では、副交感神経の主要な神経伝達物質として、心拍数低下、血管拡張、消化液分泌促進、気管支収縮、縮瞳、排尿促進などの作用を示します。運動神経終末では骨格筋の収縮を引き起こし、随意運動に必須の役割を果たしています。このようにアセチルコリンは、自律神経系と体性神経系の両方で中心的な役割を担っています。
モノアミン神経系の異常は、うつ病、統合失調症、パーキンソン病などの神経精神疾患の発症に関与します。モノアミン仮説では、ノルアドレナリン、セロトニン、ドパミンの不足がうつ病を発症させるとされています。現在使用されている抗うつ薬の多くは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)など、モノアミンの再取り込みを阻害して神経伝達を増強する作用機序を持ちます。
参考)気分障害(うつ病・双極性障害・気分変調症など)の発症原因 -…
アセチルコリン神経系の機能低下は、アルツハイマー病の主要な病態の一つです。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬であるドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンは、アセチルコリンの分解を阻害することで認知機能の改善を図ります。また、モノアミンとアセチルコリンの両方の神経系を標的とする多剤併用療法や、両方の酵素系を阻害する二重阻害薬の開発も進められています。
参考)https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/14756366.2020.1842390?needAccess=true
モノアミンとアセチルコリンの神経系は、単独で機能するのではなく、複雑な相互作用ネットワークを形成しています。例えば、ノルアドレナリン神経は、セロトニンを抑制する縫線核へ投射したり、マイネルト基底核に投射してアセチルコリンによる大脳皮質の賦活作用を増強したりします。また、セロトニンはラット前頭葉のアセチルコリン分泌を制御する機構を持っています。
参考)マウス視床下部モノアミン, アセチルコリンおよびギャバ神経系…
睡眠覚醒制御においては、モノアミン・コリン作動性システムが中心的な役割を果たします。覚醒の開始には先行的にアセチルコリンの活性度が上昇し、その後モノアミン系が活性化します。視床下部においても、モノアミン、アセチルコリン、GABA神経系が協調的に働き、摂食行動、体温調節、睡眠覚醒などの生理機能を調節しています。この相互作用の理解は、睡眠障害や神経精神疾患の治療戦略を考える上で重要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/iwateshigakukaishi/17/3/17_153/_pdf/-char/ja
モノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害薬は、モノアミンの分解を阻害することで神経伝達を増強します。MAO-A阻害薬は抗うつ作用を、MAO-B阻害薬はパーキンソン病の治療に用いられます。セレギリン(エフピー)やラサギリン(アジレクト)などのMAO-B阻害薬は、ドパミンの分解を抑制し、パーキンソン病の運動症状を改善します。ただし、これらの薬剤をSSRIやSNRIと併用すると、セロトニン症候群のリスクがあるため注意が必要です。
参考)認知症の治療薬テキスト
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は、アルツハイマー病の認知機能改善に広く使用されています。ドネペジルは強い生理活性、AChEに対する高い選択性、長い作用時間により1日1回投与を可能にした、最も完成度の高いAChE阻害薬です。近年では、MAOとAChEの両方を阻害する二重阻害薬の開発が進められており、神経変性疾患に対するより効果的な治療法として期待されています。これらの薬剤は、複数の病態メカニズムに同時にアプローチできる利点があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10653629/
モノアミンとアセチルコリンの脳内動態を測定する技術として、マイクロダイアリシス法が広く用いられています。この方法では、生きた動物の脳に極細のプローブを挿入し、細胞外液中の神経伝達物質濃度を連続的に測定できます。マイクロダイアリシス法により、薬物投与や行動変化に伴うモノアミンやアセチルコリンの放出動態をリアルタイムで観察することが可能です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/d50aa96d9354176ce95accb4f7f9439273087eae
高速液体クロマトグラフィ/質量分析法(LC/MS)を用いた測定も発展しています。FRIT-FAB方式LC/MSによるラット脳内アセチルコリンの測定法が開発され、微量のサンプルから高感度・高選択的な定量が可能になりました。これらの分析技術の進歩により、モノアミンとアセチルコリンの神経系における役割の解明が進み、新たな治療薬の開発や疾患メカニズムの理解に貢献しています。生体サンプルでのアミンの定量的な分析には、高速液体クロマトグラフィが標準的な手法として確立されています。
参考)FRIT-FAB (Fast Atom Bombardmen…
脳科学辞典のモノアミンの項目では、モノアミンの分類、構造、生合成、受容体について詳細な解説があります
中枢神経系のアセチルコリン系とアドレナリン系の解説ページでは、神経伝達物質の合成、作用、受容体の分布が図表とともに分かりやすく説明されています
モノアミントランスポーターの薬理学では、神経伝達物質の再取り込み機構と抗うつ薬の作用機序について詳述されています