メトホルミンの副作用は主に消化器系に集中しており、投与初期に多く見られます。最も頻度の高い副作用は下痢で、750mg/日群では30.8%、1,500mg/日群では48.1%の患者に認められています。
主要な副作用とその発現頻度は以下の通りです。
これらの消化器症状は通常軽度から中等度で、継続投与により改善する傾向があります。症状が持続する場合は、投与量の調整や投与方法の変更を検討する必要があります。
消化器症状以外の副作用として、発疹やかゆみなどの皮膚症状、倦怠感、めまい・ふらつきなども報告されています。また、長期投与によりビタミンB12の吸収阻害が起こる可能性があるため、定期的な検査が推奨されます。
乳酸アシドーシスはメトホルミンの最も重篤な副作用であり、頻度は稀ですが致命的となる可能性があります。この病態は体内で糖新生が抑制されることにより、乳酸が蓄積して血液が酸性になる状態です。
乳酸アシドーシスの初期症状として以下が挙げられます。
重篤な場合には脱水、意識障害、昏睡状態に至る可能性があります。これらの症状は非特異的であるため、メトホルミン投与中の患者では常に乳酸アシドーシスの可能性を念頭に置く必要があります。
乳酸アシドーシスの発症リスクが高い状況として、腎機能障害、肝機能障害、心不全、脱水状態、過度のアルコール摂取、重篤な感染症などがあります。特に腎機能障害患者では、メトホルミンの排泄が遅延し血中濃度が上昇するため、定期的な腎機能検査が必要です。
メトホルミンには複数の禁忌事項があり、患者の安全性を確保するために厳格に遵守する必要があります。主要な禁忌事項は以下の通りです。
絶対的禁忌:
相対的禁忌:
年齢に関しては、20歳未満または75歳以上の患者への投与は安全性が確立されておらず、慎重な検討が必要です。特に高齢者では腎機能の生理的低下により、乳酸アシドーシスのリスクが増加する可能性があります。
造影剤使用時の特別な注意として、ヨード造影剤を用いた検査前後ではメトホルミンの投与を一時中止する必要があります。検査前日から中止し、検査後48時間は投与を再開せず、腎機能を確認してから再開することが推奨されています。
メトホルミンは多くの薬物と相互作用を示すため、併用薬の確認と適切な管理が重要です。相互作用は主に乳酸アシドーシスのリスク増加と血糖降下作用の増強・減弱に分類されます。
乳酸アシドーシスリスクを増加させる薬物:
血糖降下作用を増強する薬物:
血糖降下作用を減弱させる薬物:
これらの相互作用により、メトホルミンの効果が予期せず変化する可能性があるため、併用薬の開始・中止時には血糖値の注意深いモニタリングが必要です。特にスルホニルウレア剤との併用では低血糖のリスクが著明に増加するため、患者への十分な説明と定期的な血糖測定が重要です。
メトホルミンの副作用管理では、予防的アプローチと早期発見・対応が鍵となります。実臨床における効果的な管理戦略を以下に示します。
投与開始時の管理戦略:
メトホルミンは低用量から開始し、段階的に増量することで消化器症状を軽減できます。初回投与は250mg×1日1回から開始し、1-2週間ごとに250mgずつ増量する方法が推奨されます。食後投与により胃腸症状の軽減が期待でき、Tmaxも食前投与の1.5時間から食後投与の3.4時間に延長されることで、副作用の軽減につながります。
定期的モニタリングの重要性:
乳酸アシドーシスの早期発見には、定期的な検査が不可欠です。推奨される検査項目と頻度は以下の通りです。
患者教育と自己管理支援:
患者への適切な教育により、重篤な副作用の早期発見が可能になります。教育すべき内容として、乳酸アシドーシスの初期症状(持続する下痢、倦怠感、筋肉痛、呼吸困難)の認識、脱水予防のための水分摂取、アルコール制限の重要性が挙げられます。
また、体調不良時や他科受診時には必ずメトホルミン服用の旨を申告するよう指導し、特に造影検査や手術予定がある場合の事前相談の重要性を強調する必要があります。
副作用発現時の対応:
軽度の消化器症状では投与継続しながら経過観察し、重篤な症状や乳酸アシドーシスが疑われる場合は直ちに投与中止と専門的治療が必要です。特に、血中乳酸値が5mmol/L以上、またはpH<7.35の場合は緊急対応が求められます。
日本医師会による糖尿病診療ガイドライン
https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20180404_2.pdf
日本糖尿病学会の薬物療法に関する詳細情報
https://www.jds.or.jp/modules/important/