ベンジルペニシリン(PCG)は青カビから分離された天然抗生物質で、ペニシリン系薬剤の原型です。スペクトラムは狭域ですが、感受性菌に対しては非常に強力な殺菌効果を発揮します。
主な適応疾患:
半減期が短いため、腎機能正常例では4時間ごとの点滴または24時間持続点滴での投与が必要です。欧米では梅毒治療の第一選択であった筋注用製剤が2021年に日本でも薬事承認され、長時間作用型のベンジルペニシリンベンザチンとして利用可能となっています。
ペニシリンGは電解質異常のリスクがあり、点滴製剤にはカリウムが含まれているため(1.7 mEq/100万単位)、大量投与時には高カリウム血症に注意が必要です。
アンピシリン(ABPC)はペニシリンGから安定性向上を目指して開発された合成ペニシリンです。腸球菌のEnterococcus faecalisやリステリアへの抗菌活性を持ち、感受性があれば大腸菌などの腸内細菌科やインフルエンザ桿菌にも有効です。
アンピシリンの主要適応:
アモキシシリン(AMPC)はアンピシリンの経口版といえる薬剤で、アンピシリンの経口薬と比べて経口吸収率が高く、内服の際は通常AMPCを選択します。溶連菌による咽頭炎、歯科処置の術前投薬、梅毒の治療などに適応します。
β-ラクタマーゼ阻害薬(クラブラン酸またはスルバクタム)との配合により、メチシリン感受性ブドウ球菌、インフルエンザ菌、Moraxella catarrhalis、Bacteroides属細菌、大腸菌、肺炎桿菌にも使用範囲が拡大されます。
ピペラシリン(PIPC)はグラム陽性菌に対する活性はペニシリンやアンピシリンに比べて若干劣りますが、グラム陰性菌に対する抗菌活性が大幅に強化されています。
ピペラシリンの特徴的な適応:
通常投与量は4g 6時間ごとの点滴静注で、アミノグリコシドとは相互作用により活性が低下するため、混合せずに時間をあけて投与する必要があります。
ピペラシリンに特有の副作用として胆汁うっ滞性黄疸による肝障害があり、その他のペニシリン系と同様の過敏反応、腎障害、血球減少、消化器症状にも注意が必要です。
ペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン系薬剤には、ジクロキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、フルクロキサシリン、オキサシリンがあります。これらは主にペニシリナーゼ産生メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対して使用されます。
選択基準:
多くの細菌はペニシリナーゼを産生してペニシリンを分解するため、黄色ブドウ球菌や大腸菌の多くは通常のペニシリンに耐性を示します。この問題を解決するために開発されたのがペニシリナーゼ抵抗性薬剤です。
ペニシリン系薬剤の副作用は多岐にわたり、投与前の詳細な問診と投与中の観察が重要です。
主要な副作用:
🔴 過敏反応
🧠 中枢神経毒性
⚡ 電解質異常
💊 消化器症状
特に梅毒治療では、Jarisch-Herxheimer反応と呼ばれる菌体成分放出による全身反応(発熱、咽頭痛、倦怠感、病変の一過性悪化)が治療開始数時間後に出現することがあり、患者への事前説明が重要です。