血清リン値が「基準範囲内」でも骨痛が進行していることがあります。
骨の硬さは「コラーゲン線維」と「ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)」の組み合わせで決まります。リンは骨の無機質成分の主役であり、血中リン濃度が慢性的に低下すると、骨の石灰化(ミネラル沈着)が正常に進まなくなります。この状態が骨軟化症です。
骨軟化症では類骨(osteoid)が蓄積します。類骨とはミネラル沈着を待っているコラーゲン主体の骨基質のことで、石灰化されないまま蓄積した類骨は力学的に非常に脆弱です。この脆弱な骨に体重や筋肉の引張力が加わることで、骨膜への機械的刺激が増大し、びまん性の骨痛として感じられます。
特徴的なのは「押すと痛い(圧痛)」という所見です。
脊椎、骨盤、四肢の長管骨に圧痛を認める場合、骨軟化症を積極的に疑う根拠となります。骨粗鬆症による骨痛は多くが骨折後に生じるのに対し、骨軟化症の骨痛は骨折前から慢性的・持続的に存在する点が臨床上の重要な違いです。つまり「骨折なしの持続的骨痛=骨軟化症の可能性」が原則です。
成人の骨軟化症では、血清アルカリホスファターゼ(ALP)の上昇が比較的安定したマーカーになります。ただし肝疾患合併例では解釈に注意が必要で、骨型ALP(BAP)の分画測定が有用です。
FGF23(線維芽細胞増殖因子23)は骨細胞・骨芽細胞から分泌されるホルモンで、腎尿細管でのリン再吸収を抑制し、ビタミンD活性化を阻害することでリン恒常性を調節します。これは生理的には過剰なリン負荷を排泄するための保護機構です。
問題は、このFGF23が病的に過剰分泌されると起こります。
代表的な疾患がX染色体連鎖性低リン血性くる病/骨軟化症(XLH:X-linked hypophosphatemia)です。XLHではPHEX遺伝子変異によりFGF23が慢性的に過剰分泌され、患者の血清FGF23値は正常上限(約30pg/mL)の10倍以上に達することがあります。その結果、腎近位尿細管でのNaPi-IIa/IIcトランスポーターが抑制され、リンが大量に尿中に失われます。
同時にFGF23は腎臓の1α水酸化酵素(CYP27B1)を抑制し、活性型ビタミンD(1,25(OH)₂D)の産生を減少させます。活性型ビタミンDが低下すると腸管からのカルシウム・リン吸収がさらに低下し、骨石灰化を悪化させる悪循環が形成されます。これは使えそうです。
同様のFGF23過剰機序は、腫瘍性骨軟化症(TIO:Tumor-Induced Osteomalacia)でも起きます。TIOはFGF23産生腫瘍(多くはリン細胞性腫瘍)が原因で、腫瘍を摘出すると劇的に症状が改善します。2021年に保険適用となったブロスマブ(Crysvita®)はFGF23に対するヒト型モノクローナル抗体で、XLHの治療に用いられます。FGF23を中和することで血清リン値が回復し、骨痛・骨折リスクが有意に低下することが臨床試験(AXLES試験など)で示されています。
厚生労働省:ブロスマブ(クリースビータ)審査報告書(FGF23関連低リン血症の治療承認情報)
TIOは希少疾患ながら、診断まで平均2.5年から5年かかるとされています。これは厳しいところですね。
骨痛・筋力低下・疲労感という非特異的症状で発症するため、線維筋痛症や心因性疼痛、あるいは骨粗鬆症と誤診されるケースが多く報告されています。実際、TIO患者の一部は「精神的なもの」と片付けられて内分泌科への紹介が数年遅れたという報告もあります。
TIOが疑われる場合、腫瘍の局在診断が最大の課題となります。
原因腫瘍は数ミリから数センチの小型であることが多く、通常のCTやMRIで発見されにくい部位(鼻腔・副鼻腔・大腿骨内・足部など)に存在します。そのため、⁶⁸Ga-DOTATATE PET/CT(ソマトスタチン受容体シンチグラフィー)が腫瘍局在診断において感度・特異度ともに90%以上を示し、現在のゴールドスタンダードとなっています。
診断フローとして有用な指標をまとめると以下の通りです。
| 検査項目 | TIO/XLHで期待される変化 | 備考 |
|---|---|---|
| 血清リン | 低値(0.5〜0.8 mmol/L程度) | 軽度低値でも慢性経過なら注意 |
| 血中FGF23 | 高値(正常:10〜50 pg/mL) | Kainos法などで測定 |
| TmP/GFR | 低値(腎性リン漏出の指標) | 0.8 mmol/L未満で異常 |
| 1,25(OH)₂D | 低値または不適切な低値 | 低リンにもかかわらず上昇しない |
| ALP/BAP | 高値 | 骨軟化症の活動性を反映 |
CKD患者の骨痛はリン過剰(高リン血症)が主役です。これはXLHやTIOとは対照的な病態です。
CKDが進行するとGFRが低下し、リンの腎排泄が障害されます。高リン血症→PTH上昇(二次性副甲状腺機能亢進症)→骨吸収亢進という経路が骨痛の主体となります。CKD-MBD(慢性腎臓病に伴うミネラル・骨代謝異常)と呼ばれるこの病態では、骨の代謝回転が過剰に亢進した「高回転型骨症」と、石灰化障害を伴う「低回転型骨症(アデイナミック骨症)」の両者が存在します。
高回転型では線維性骨炎が生じ、骨膜・骨内膜の線維化が骨痛を引き起こします。低回転型では骨軟化症と類似した類骨蓄積が骨脆弱性・骨痛につながります。どちらも「骨痛」という症状は共通です。
ここが診断のポイントです。
CKD患者で骨痛を訴える際、単純に「CKD-MBD」と括るだけでは治療方針が定まりません。骨生検(腸骨稜生検)によるテトラサイクリン二重標識を用いた組織学的評価が治療選択の基準になりますが、実施できる施設は日本全国でも限られています。代替指標として、血清インタクトPTH(iPTH)が目安となり、透析患者では150〜300 pg/mLの範囲が管理目標とされています(KDIGO 2017)。
リン吸着薬(炭酸カルシウム、セベラマー、炭酸ランタンなど)による食事性リンのコントロールが骨痛改善に直結します。特にセベラマーは非カルシウム系吸着薬として心血管石灰化リスクを抑えながらリン管理が可能で、長期予後改善のエビデンスが蓄積されています。
薬剤が原因でリン代謝異常が生じ、骨痛につながるケースは教科書に載りにくく、現場でも気づかれにくい領域です。意外ですね。
最もよく知られているのが、抗HIV薬テノホビル(TDF:テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩)による近位尿細管障害(ファンコニ症候群)です。TDFは腎近位尿細管のミトコンドリア機能障害を引き起こし、リン・糖・アミノ酸・重炭酸塩の複合的な尿中漏出を生じます。結果として低リン血症→骨軟化症→骨痛・骨折リスク増大となります。TDF服用中のHIV患者で骨密度が年間2〜3%低下するという報告があり、長期服用例では骨痛の原因精査にリン代謝評価が必須です。
同様の問題が起きる可能性があるのが、フェリック・カルボキシマルトース(FCM:鉄剤静注製剤)です。
FCMは慢性鉄欠乏性貧血・炎症性腸疾患・心不全などで広く使用されますが、投与後にFGF23が急激に上昇し、リン排泄亢進→一過性〜遷延性低リン血症を引き起こすことが近年明らかになっています。2023年のEMAの安全性評価でも「FCM投与後の症候性低リン血症」に関する注意喚起が更新されました。反復投与例や栄養状態不良例では骨痛・骨折につながりうるため、投与後の血清リン測定が推奨されます。
また、抗腫瘍薬のソラフェニブ・スニチニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)も腎性リン漏出を引き起こすことが報告されており、がん治療中の骨痛を「骨転移」と決めつける前にリン代謝の評価が必要です。これが条件です。
現場の薬剤師・医師が「骨痛→骨転移orCKD-MBD」という固定観念から離れ、処方歴をひとつひとつ確認する姿勢が、リン代謝異常の早期発見につながります。薬剤起因性を念頭に置くことが原則です。