セフェム系抗菌薬は、βラクタム系薬に属する重要な抗菌薬群です。これらの薬剤は細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用し、ペニシリン結合タンパク質(PBP)に結合してペプチドグリカンの架橋形成を阻害します。
セフェム系抗菌薬の最大の特徴は、抗菌スペクトラムの違いによって第1世代から第4世代まで分類されることです。この分類は以下の特徴に基づいています。
重要な共通の特徴として、セフェム系抗菌薬は腸球菌には無効であり、基本的に嫌気性菌にも無効です(セフメタゾールCMZは例外)。これは臨床使用において必ず覚えておくべき制限事項です。
第1世代セフェム系抗菌薬は、グラム陽性球菌に対して強い抗菌活性を示します。代表的な薬剤には以下があります。
注射薬
経口薬
第1世代セフェム系の主要な適応症は以下の通りです。
🎯 主要適応症
セファゾリン(CEZ)は本邦においてMSSAの第一選択薬として位置づけられており、皮膚軟部組織感染症や骨関節感染症の治療に広く使用されています。経口薬のセファレキシン(CEX)は外来での軽度から中等度の感染症治療に便利な薬剤です。
歯科や皮膚科でケフラールやケフレックスなどの第1世代セフェム系抗菌薬が処方される頻度が高いのは、口腔内や皮膚の感染症ではグラム陽性菌が原因となることが多いためです。
第2世代セフェム系抗菌薬は、第1世代のスペクトラムを拡張し、グラム陰性菌のカバー範囲を広げた薬剤群です。特に注目すべきは、一部の薬剤が嫌気性菌に対しても活性を示すことです。
主要な第2世代セフェム系薬剤
第2世代セフェム系の臨床的特徴。
📊 適応症と特徴
セフメタゾール(CMZ)は、セフェム系の中で唯一嫌気性菌に対して確実な活性を示すため、腹腔内感染症や婦人科感染症において重要な選択肢となります。
第3世代セフェム系抗菌薬は、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を示し、多くの薬剤で髄液移行性を有することが特徴です。この世代は緑膿菌活性の有無により、さらに3.0世代と3.5世代に細分されます。
3.0世代(緑膿菌活性なし)
3.5世代(緑膿菌活性あり)
🧠 髄膜炎治療における重要性
第3世代セフェム系の最も重要な特徴の一つは、髄液移行性の良さです。髄膜炎の治療には第3世代以上のセフェム系抗菌薬が必要とされており、以下の病原菌に対して有効です。
SPACE(Serratia、Pseudomonas、Acinetobacter、Citrobacter、Enterobacter)と呼ばれる難治性グラム陰性菌に対しても、第3世代セフェム系は有効性を示します。
第3世代セフェム系の経口薬には以下があります。
第4世代セフェム系抗菌薬は、第1世代のグラム陽性菌カバーと第3.5世代の広域グラム陰性菌カバーを併せ持つ、最も広域なスペクトラムを有する薬剤群です。
第4世代セフェム系の代表薬
⚠️ 第4世代セフェム系の臨床的位置づけ
第4世代セフェム系は優れたスペクトラムを持つ一方で、使用には慎重さが求められます。カルバペネム系と並んで、耐性菌誘導のリスクが高い薬剤として位置づけられているためです。
ピボキシル基を持つ経口セフェム系の重要な副作用
経口第3世代セフェム系の多くはピボキシル基を有しており、以下の重篤な副作用リスクがあります。
🚨 低カルニチン血症による合併症
ピボキシル基を有する薬剤の代謝機序。
特に小児、特に乳幼児は血中カルニチンが少ないため、より注意深い監視が必要です。カルバペネム系のテビペネム ピボキシル(オラペネム)も同様のリスクを有します。
経口第3世代セフェム系の採用中止動向
近年、多くの医療機関で経口第3世代セフェム系抗菌薬の院内採用中止が進んでいます。これは以下の理由によります。
医療従事者は、これらのリスクを十分理解した上で、適切な薬剤選択を行う必要があります。セフェム系抗菌薬の各世代の特徴を理解し、患者の状態や感染症の種類に応じて最適な薬剤を選択することが、安全で効果的な感染症治療につながります。