セファゾリン副作用から適応菌種・アナフィラキシー対策まで

セファゾリンは多くの細菌感染症に使用される第一世代セファロスポリン系抗菌薬ですが、重篤なアレルギー反応を含む様々な副作用が報告されています。医療従事者が知っておくべき副作用の種類や発現頻度、投与時の注意点について詳しく解説します。安全な投与のためには、どのような対策が必要でしょうか?

セファゾリン副作用の種類と頻度

セファゾリンの主な副作用
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重篤な副作用

アナフィラキシーショック、急性冠症候群など生命に関わる反応が発現する可能性があります

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一般的な副作用

発疹、蕁麻疹、消化器症状などが0.1~5%未満の頻度で報告されています

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臓器障害

肝障害、腎障害、血液障害など各種臓器への影響に注意が必要です

セファゾリンは第一世代セファロスポリン系抗菌薬として周術期予防投与や感染症治療に広く使用されていますが、多様な副作用が報告されています。副作用の発現頻度は明確な調査が実施されていない製剤もありますが、既存の使用成績調査に基づくデータが蓄積されています。
参考)医療用医薬品 : セファゾリンNa (セファゾリンNa点滴静…

セファゾリンの重大な副作用とアナフィラキシー

 

セファゾリンの最も警戒すべき副作用はショックとアナフィラキシーで、発現頻度は0.1%未満とされていますが、生命を脅かす可能性があります。不快感、口内異常感、喘鳴、眩暈、便意、耳鳴、発汗などの初期症状が現れた場合、直ちに投与を中止し適切な処置が必要です。
参考)セファゾリンナトリウム注射用1g「日医工」の基本情報(作用・…

米国ではセファゾリンが現在最も多く特定されているアナフィラキシーの原因薬剤となっており、10,000手術あたり1回の頻度で発生していますが、見落とされていることも多いと報告されています。実際の症例では、セファゾリン投与から数分以内に皮膚の紅潮、顔面および口唇の腫脹、低血圧が認められ、皮内テストでも強陽性を示すケースがあります。
参考)https://www.apsf.org/ja/article/%E5%91%A8%E8%A1%93%E6%9C%9F%E3%81%AE%E9%81%8E%E6%95%8F%E7%97%87%EF%BC%9A%E6%82%A3%E8%80%85%E5%AE%89%E5%85%A8%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E8%AA%8D%E8%AD%98%E3%81%A8%E8%A9%95%E4%BE%A1/

民医連のセファメジンαによるアナフィラキシーショック症例報告
さらに注目すべきは、セファゾリンによるアレルギー反応に伴う急性冠症候群が頻度不明ながら報告されている点です。これは2023年に添付文書改訂で追加された重大な副作用で、アレルギー反応が心血管系に影響を及ぼす可能性を示唆しています。
参考)セファゾリンやダビガトラン、重大な副作用追加などで添付文書改…

セファゾリンの血液・臓器障害系副作用

血液系の副作用として、無顆粒球症、溶血性貧血、血小板減少、汎血球減少などの血液障害が頻度不明で報告されています。これらは骨髄機能抑制や免疫学的機序により発現し、発熱、貧血症状、点状出血などの症状を伴います。​
肝障害も重大な副作用の一つで、全身倦怠感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる黄疸などの症状が現れることがあります。肝機能検査値の上昇を認めた場合、早期に投与中止を検討する必要があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00061892.pdf

腎障害については、BUN上昇や血清クレアチニン上昇が0.1~5%未満の頻度で報告されており、特に高度の腎障害患者では用量調節が必要です。腎不全患者に大量投与すると痙攣などの神経症状を起こすことがあるため、慎重な投与が求められます。
参考)https://www.chemixjp.co.jp/chemixwp/wp-content/uploads/2024/08/260054_6132401D1100_1_02.pdf

セファゾリンの過敏症反応と皮膚症状

過敏症状としては、発疹、蕁麻疹、紅斑が0.1~5%未満の頻度で発現し、そう痒、発熱、浮腫は0.1%未満とされています。これらは軽症から中等症のアレルギー反応を反映しています。​
重篤な皮膚症状としては、Stevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死融解症(TEN)、急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)などが頻度不明ながら報告されています。高熱とともに皮膚や粘膜の紅斑・水疱、皮膚の緊張感・灼熱感・疼痛などが認められた場合、直ちに投与を中止し適切な処置が必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063069.pdf

セフェム系抗菌薬ジェネリック医薬品に含まれる類縁物質が原因でアナフィラキシー反応が生じた症例も報告されており、製造過程での品質管理も重要な要素となっています。
参考)セファゾリンナトリウムのジェネリック医薬品に含まれる類縁物質…

セファゾリンの消化器・呼吸器系副作用

消化器系副作用としては、悪心・嘔吐が0.1~5%未満、食欲不振・下痢が0.1%未満の頻度で報告されています。偽膜性大腸炎は頻度不明ながら重篤な副作用として知られており、腹痛、頻回の下痢、血便などの症状が現れた場合、速やかに投与中止と適切な処置が必要です。​
間質性肺炎とPIE症候群は各0.1%未満の発現頻度ですが、重大な副作用として位置づけられています。発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常、好酸球増多などを伴う間質性肺炎やPIE症候群があらわれた場合、投与を中止し副腎皮質ホルモン剤の投与などの適切な処置を行います。
参考)セファゾリンNa点滴静注用1gバッグ「NP」の効果・効能・副…

菌交代症として口内炎やカンジダ症が0.1%未満で発現し、ビタミンK欠乏症状(低プロトロンビン血症、出血傾向等)やビタミンB群欠乏症状(舌炎、口内炎、食欲不振、神経炎等)も報告されています。これらは腸内細菌叢の変化により引き起こされる二次的な影響です。
参考)https://www.ltl-pharma.com/common/pdf/product/cefamezin/cefamezin_md.pdf

セファゾリン投与時の独自視点による安全管理

セファゾリンの安全な投与のためには、従来行われてきた皮内テストの限界を理解することが重要です。日本化学療法学会は2004年に抗菌薬の皮内反応試験の中止を提言し、厚生労働省も製薬企業に対して添付文書改訂を指示しました。皮内テストはアナフィラキシー発現の予知としての有用性に乏しく、十分なエビデンスがないとされています。
参考)全日本民医連

亀田総合病院における抗菌薬皮内テスト廃止の経緯
皮内テスト廃止後の安全対策として、投与前の問診の徹底が最も重要となります。既往歴、アレルギー歴、特にペニシリン系抗菌薬に対する過敏症歴の確認が必須です。本人または家族に気管支喘息、発疹、蕁麻疹などのアレルギー症状を起こしやすい体質がある患者では、特に慎重な投与が求められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9233131/

投与開始後の患者観察の重要性も強調されています。抗菌薬投与開始時から5分間の観察と記録を確実に実施し、アナフィラキシー発生時の救急マニュアルを整備することで、迅速な対応が可能になります。セファゾリン投与から数秒~数分で「口の中が熱い、全身が熱い」といった訴えや血圧測定不能などの症状が出現した症例も報告されており、初期対応の迅速性が予後を左右します。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000145871.pdf

ペニシリンアレルギーラベルを持つ患者におけるセファゾリン使用については、最近の研究で大部分の患者が安全に使用できることが示されています。ペニシリンアレルギー歴のある未確認患者が周術期にセファゾリンに曝露された場合の反応頻度は0.1%と非常に低く、交差反応のリスクは限定的とされています。ただし、個別の評価とアレルギー専門医へのコンサルテーションが推奨されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7970387/

投与速度の調整も副作用軽減に寄与します。静脈内注射は緩徐に行い、急速投与や大量投与は避けるべきです。筋肉内投与はやむを得ない場合にのみ行い、同一部位への反復注射は避け、神経走行部位を避けることが重要です。
参考)http://www.taiyopackage.jp/pdf/_rireki/CEFAZOLIN%20SODIUM%5Bnp%5D_inj_L.pdf

高齢者では生理機能の低下により副作用が発現しやすく、ビタミンK欠乏による出血傾向があらわれることもあるため、用量並びに投与間隔に留意し患者の状態を観察しながら慎重に投与します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063070.pdf

相互作用についても注意が必要で、ワルファリンカリウムとの併用では腸内細菌によるビタミンKの産生抑制により抗凝固作用が増強される可能性があり、利尿剤(フロセミド等)との併用では腎障害が増強されるおそれがあります。
参考)医療用医薬品 : セファゾリンNa (セファゾリンNa点滴静…

セファゾリンの適応菌種と使用上の注意

セファゾリンはブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、大腸菌、肺炎桿菌、プロテウス・ミラビリス、プロビデンシア属に感性を示す菌種に対して適応があります。適応症は敗血症感染性心内膜炎、皮膚感染症、骨髄炎、関節炎、呼吸器感染症尿路感染症、腹膜炎、胆嚢炎婦人科感染症など多岐にわたります。
参考)医療用医薬品 : セファゾリンナトリウム (商品詳細情報)

周術期予防投与では、執刀30分~1時間前以内の投与が最も手術部位感染(SSI)発生率が低いとされています。手術時間が長い場合や出血量が多い場合は術中再投与を考慮し、セファロスポリン系薬では8時間毎の再投与が推奨されます。投与期間は術後24時間以内が基本で、不必要な長期投与は耐性菌の発現リスクを高めます。
参考)http://www.gekakansen.jp/201508_guideline.pdf

日本では2019年に主要な抗菌薬サプライヤーの問題によりセファゾリンの重大な供給不足が発生しましたが、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症の治療において第一選択薬としての重要性が再認識されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8532967/

投与に際しては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめることが重要です。抗菌薬の適正使用は医療安全と感染制御の両面から医療従事者に求められる責務です。
参考)医学書院/週刊医学界新聞 【〔寄稿〕亀田総合病院は,いかにし…