セリアック病の症状と治療薬の最新動向

セリアック病は小麦に含まれるグルテンによる自己免疫疾患で、多様な症状を呈します。グルテン除去食が主な治療法ですが、新薬開発も進んでいます。医療従事者が知るべき最新の診断・治療情報とは?

セリアック病の症状と治療薬

セリアック病の診療ポイント
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多様な症状

消化器症状から全身症状まで幅広い臨床像を呈する

🥖
グルテン除去食

現在の標準治療で1-2週間で症状改善が期待できる

💊
新薬開発

TG2阻害薬や免疫調節薬など複数の治療薬が臨床試験中

セリアック病の消化器症状と全身症状

セリアック病は小麦、大麦、ライ麦に含まれるグルテンに対する自己免疫反応により、小腸の粘膜に慢性炎症を起こす疾患です。臨床像は極めて多彩で、典型的な症状パターンは存在しません。

 

消化器症状

  • 慢性下痢(最も一般的)
  • 腹痛・腹部膨隆
  • 脂肪便(悪臭を放つ蒼白で体積の大きい便、便中脂肪量7-50g/日)
  • 食欲不振・嘔吐
  • 体重減少(重度の場合は低体重まで進行)

全身症状

  • 鉄欠乏性貧血(約70%の患者に見られる)
  • 骨粗鬆症骨軟化症(ビタミンD・カルシウム欠乏による)
  • 慢性疲労・筋力低下
  • 舌炎・口角炎・アフタ性潰瘍
  • 関節痛・皮膚症状

特に注目すべきは、無症状の患者や栄養欠乏の徴候のみを呈する患者も存在することです。小児では発育不良、筋緊張低下、筋萎縮が特徴的で、成人では月経異常や不妊症も報告されています。

 

セリアック病の診断と検査方法

セリアック病の診断には統一された基準がなく、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。

 

血清学的検査

  • 抗組織トランスグルタミナーゼ抗体(anti-tTG)
  • 抗筋内膜抗体(EMA)
  • 抗脱アミド化グリアジンペプチド抗体(DGP)

組織学的検査
小腸生検(十二指腸)により絨毛萎縮の程度を評価します。Marsh分類が用いられ、Stage 3以上で典型的なセリアック病の組織像とされます。グルテン除去食開始から3-6ヶ月後の再生検により、組織学的改善を確認することが推奨されています。

 

遺伝子検査
HLA-DQ2またはHLA-DQ8の存在を確認します。一般人口の30%がこれらの遺伝子型を有していますが、セリアック病を発症するのは約3%のみです。これらの遺伝子型を持たない場合、セリアック病は基本的に除外されます。

 

鑑別診断
過敏性腸症候群として誤診されるケースが多いため、慢性的な消化器症状を有する患者では積極的にセリアック病を疑うことが重要です。

 

セリアック病のグルテン除去食療法

現在のセリアック病治療の中核はグルテン除去食(Gluten Free Diet: GFD)です。小麦、ライ麦、大麦を完全に除去し、生涯にわたって継続する必要があります。

 

グルテン除去食の効果

  • 症状改善:通常1-2週間で消化器症状が改善
  • 組織学的改善:3-6ヶ月で小腸絨毛の回復
  • 抗体価低下:症状軽快とともに血清抗体価が正常化

実践上の注意点
グルテンは予想以上に多くの食品に含まれており、患者教育が極めて重要です。

  • 明らかなグルテン含有食品:パン、パスタ、うどん、ビール
  • 隠れたグルテン:市販スープ、ソース、アイスクリーム、ホットドッグ、調味料

栄養士による指導
専門的な栄養指導により、他の栄養素の不足を防ぎながらグルテン除去食を継続することが必要です。患者支援団体(Beyond Celiac、Celiac Disease Foundationなど)への参加も推奨されています。

 

治療抵抗性の対応
約20-30%の患者でグルテン除去食のみでは症状が持続します。この場合、難治性セリアック病(Refractory Celiac Disease: RCD)を考慮し、プレドニゾロンなどのコルチコステロイドや免疫抑制薬の使用を検討します。

 

セリアック病の新薬開発と治療薬

セリアック病に対する薬物療法は現在、活発に研究開発が進められており、複数の製薬企業が新薬候補を臨床試験段階に進めています。

 

武田薬品工業の開発パイプライン

  • ZED1227/TAK-227:トランスグルタミナーゼ2(TG2)阻害薬。TG2はグルテンから免疫原性ペプチドを産生する酵素で、これを阻害することで免疫反応を防ぐ
  • TAK-062:グルテン分解酵素。胃通過前にグルテンを分解し免疫反応を抑制
  • TAK-101:免疫調節薬。グリアジンタンパク質をカプセル化したナノ粒子製剤で免疫寛容を誘導

中外製薬の取り組み
バイスペシフィック抗体「DONQ52」を開発中です。HLA-DQ2.5/グルテンペプチド複合体とT細胞受容体の結合を阻害し、25種類以上のグルテンペプチドをカバーできる革新的な治療法として期待されています。

 

海外企業の動向

  • グラクソ・スミスクライン:TG2阻害薬「GSK3915393」
  • アムジェン:抗IL-15抗体「AMG714」
  • ロシュ:免疫調整薬の開発

これらの新薬により、将来的にはグルテン除去食と併用、または代替する治療選択肢が提供される可能性があります。

 

セリアック病患者の栄養管理と長期予後

セリアック病では小腸粘膜の炎症により、様々な栄養素の吸収障害が生じます。適切な栄養管理は症状改善と合併症予防に不可欠です。

 

栄養欠乏症とその対策

  • 鉄欠乏:最も頻繁にみられる。経口鉄剤投与、重篤な場合は静注鉄剤
  • ビタミンD・カルシウム不足:骨粗鬆症の原因。ビタミンD3製剤とカルシウム補充
  • 葉酸欠乏:巨赤芽球性貧血の原因。葉酸製剤投与
  • 脂溶性ビタミン(A、D、E、K):必要に応じて補充療法

骨代謝異常への対応
セリアック病患者の約70%で骨密度低下が認められます。ビスフォスフォネート製剤、デノスマブなどの骨粗鬆症治療薬の適応を検討します。

 

長期的な合併症
適切な治療を行わない場合、以下のリスクが増大します。

予後改善のポイント
早期診断と厳格なグルテン除去食の継続により、多くの患者で良好な予後が期待できます。定期的な栄養状態評価、骨密度測定、血清抗体価のモニタリングが重要です。

 

近年、日本でも食生活の欧米化に伴いセリアック病患者が増加傾向にあるとされており、医療従事者の疾患認識向上と適切な診療体制の構築が求められています。

 

セリアック病の診療における詳細なガイドライン情報
MSDマニュアル プロフェッショナル版 - セリアック病