「ツベルクリン反応が陰性でも、投与後に活動性結核を発症した報告が複数存在します。」

セルトリズマブペゴル(商品名:シムジア)の添付文書には、投与前に必ず確認すべき「警告」と「禁忌」が明確に規定されています。これを見落とすと、患者に重大な健康被害をもたらす可能性があります。
禁忌として規定されているのは以下の5項目です。まず「重篤な感染症(敗血症等)の患者」は症状を悪化させるおそれがあるため禁忌とされます。次に「活動性結核の患者」、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」、「脱髄疾患(多発性硬化症等)及びその既往歴のある患者」、そして「うっ血性心不全の患者」の5項目が該当します。
禁忌が5項目というのは基本です。
警告のレベルでは、結核・肺炎・敗血症を含む重篤な感染症が「致死的な経過をたどることがある」と明記されています。特に重要なのは、脱髄疾患(多発性硬化症等)の新たな発生もしくは悪化が、本剤を含む抗TNF製剤で報告されているという点です。脱髄疾患の既往歴のある患者は禁忌ですが、疑われる徴候を持つ患者や家族歴のある患者にも細心の注意が必要です。
悪性腫瘍については、本剤との関連性は明確ではないものの、抗TNF製剤の臨床試験で悪性リンパ腫・白血病等の発現頻度が対照群より高かったとの報告があります。これも警告に含まれる重要な情報です。意外ですね。
関節リウマチに対しては、「少なくとも1剤の抗リウマチ薬等の使用を十分勘案すること」と添付文書に明記されており、本剤に十分な知識と治療経験を持つ医師が使用することが求められます。乾癬疾患においても同様に、「光線療法を含む既存の全身療法の適用を十分に勘案すること」が警告として記されています。
これらの警告・禁忌は添付文書の最初のページに掲載されており、処方前に必ず確認が必要です。
参考情報として、PMDAの最新添付文書(2025年7月改訂)はこちらから確認できます。
PMDA 医療用医薬品情報(シムジア皮下注200mgシリンジ)|禁忌・警告の最新情報を確認できます
セルトリズマブペゴルの用法用量は、適応疾患によって導入期・維持期のスケジュールが異なります。これを混同すると、患者に最適な治療効果が得られなくなるリスクがあります。正確に把握することが重要です。
関節リウマチの用法用量は以下の通りです。
| 投与時期 | 用量 | 投与方法 |
|---|---|---|
| 初回・2週後・4週後(導入期) | 1回400mg | 皮下注射 |
| 5週目以降(維持期) | 1回200mg | 2週間間隔で皮下注射 |
| 症状安定後(変更可能) | 1回400mg | 4週間間隔で皮下注射 |
導入期の初回・2週後・4週後に400mgを投与するのが基本です。維持期への切り替え後は200mgを2週間ごとに投与しますが、症状が安定した場合に限り400mgを4週間ごとに変更することが認められています。
乾癬性疾患(尋常性乾癬・乾癬性関節炎・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症)の用法用量は関節リウマチとやや異なります。
つまり乾癬は最初から400mg/2週が原則です。
用法用量に関連する重要な注意点として、添付文書では「本剤と他の生物学的製剤の併用は安全性・有効性が確立していないため、避けること」と明記されています(7.1項)。また関節リウマチでは、「12週以内に治療反応が得られない場合は治療計画の継続を慎重に再考すること」(7.2項)、乾癬性疾患では「16週以内」(7.5項)が治療効果の判定目安となります。
さらに、アバタセプト(遺伝子組換え)との併用は行わないことが明確に規定されています(7.4項)。海外試験で効果の増強が示されず、感染症リスクのみが高まることが確認されているためです。
KEGG MEDICUSシムジア添付文書情報|用法用量の詳細および注意事項を参照できます
感染症リスクの管理は、セルトリズマブペゴル投与において最も重要な安全管理の一つです。特に結核に関しては、添付文書の1.2.2項(警告)と8.3項(重要な基本的注意)の両方にわたって詳細な指示が記載されています。
投与前に必ず実施すべきスクリーニングは以下の通りです。
これらを実施するのが原則です。
ここで注意すべきが、「ツベルクリン反応等の検査が陰性であっても、投与後に活動性結核が発症した事例が報告されている」という事実です。特に易感染状態の患者では偽陰性になりやすいため、X線検査が正常でスクリーニングが陰性であっても油断は禁物です。
以下の患者には原則として投与開始前に適切な抗結核薬を投与することが求められています。
投与中も結核の発現に十分注意し、定期的に胸部X線検査を行うことが必要です。患者には「持続する咳・消耗・体重減少・発熱等の症状が現れた場合はすぐに主治医に連絡するよう」指導することが求められます。
B型肝炎ウイルス再活性化リスクも見逃せません。HBs抗原陰性であってもHBc抗体またはHBs抗体が陽性の「既往感染者」においても、本剤を含む抗TNF製剤投与でB型肝炎の再活性化が認められています。投与中は肝機能検査値と肝炎ウイルスマーカーのモニタリングが必要です。
また、添付文書8.5項には「本剤投与中は生ワクチンの接種を行わないこと」と明記されています。不活化ワクチンは接種可能ですが、生ワクチン(BCG・水痘・麻疹風疹混合ワクチンなど)は感染症発現のリスクがあるため禁止です。これは患者への説明が不足しがちな点でもあります。
シムジア®適正使用ガイド(UCBCares Japan)|感染症スクリーニングの具体的な手順が記載されています
セルトリズマブペゴルは、他のTNF阻害薬とは根本的に異なる分子構造を持ちます。この構造的特徴が、臨床上の大きな違いを生み出しています。特に妊娠期の患者への投与を検討するうえで、この知識は欠かせません。
セルトリズマブペゴルは「ペグヒト化抗ヒトTNFαモノクローナル抗体Fab'断片製剤」に分類されます。具体的には、ヒト化モノクローナル抗体のFab'断片(抗原結合部分)のみを用い、これにポリエチレングリコール(PEG)を結合させた構造です。分子量は約90キロダルトンです。
Fc領域を持たないことの臨床的意義は以下のように整理できます。
胎盤通過性の低さが最大の特徴です。
添付文書9.5項(妊婦)では「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」(有益性投与)と規定されており、禁忌ではありません。「妊娠中に本剤を投与した患者において、臍帯血及び出生児血中への移行が認められた」との記載もありますが、他の生物学的製剤と比べて移行量は極めて少量です。
日本リウマチ財団の資料でも、セルトリズマブペゴルとエタネルセプトは「胎盤通過性が他の生物学的製剤より少ない」と特記されており、EULARはセルトリズマブペゴルについては「全妊娠期間を通じての投与継続を許容している」とされています。これは他のTNF阻害薬(妊娠30〜32週までが多い)と比べても特筆すべき点です。
授乳婦については添付文書9.6項で、「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」とされています。ヒト乳汁への移行が報告されていますが、乳汁中濃度は非常に低いことが知られています。
関節リウマチ・炎症性腸疾患罹患女性患者の妊娠についての手引き|TNF阻害薬の妊娠中の胎盤通過性と投与期間の考え方が詳述されています
添付文書第11条には「重大な副作用」が列挙されており、これらを熟知した上で定期的なモニタリングを実施することが、安全な投与管理の基本です。
重大な副作用一覧は以下の通りです。
これらを見落とさないことが必須です。
特定の背景を有する患者については、添付文書9.1項に詳細な注意事項が記載されています。高齢者(9.8項)については「感染症等の副作用の発現に留意し十分な観察を行うこと」とあり、一般的に免疫機能が低下していることから感染症発現リスクが高い点に注意が必要です。
B型肝炎ウイルスキャリアまたは既往感染者(9.1.6項)は、本剤投与でB型肝炎ウイルスの再活性化が認められており、投与前の検査(HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体)と投与中の定期的なモニタリングが必須となります。再活性化例の多くは他の免疫抑制薬との併用例であることも添付文書に記載されています。
間質性肺炎の既往歴のある患者(9.1.5項)は、「定期的な問診を行うなど注意すること」とされており、間質性肺炎の増悪・再発が起こりうる点を念頭に置かなければなりません。発熱・咳嗽・呼吸困難等の症状が現れた場合は速やかに胸部X線・CT・血液ガスを確認する必要があります。
自己注射に関する注意点も添付文書8.8項に明確に記載されています。投与開始時は必ず医療施設において医師によるか医師の直接の監督のもとで投与することが義務付けられています。自己投与への移行は、患者が「確実に投与できることを確認した上で」行うこととされており、十分な教育訓練が前提となります。使用済みの注射器(注射針一体型)を再使用しないよう患者への指導も求められています。
モニタリング頻度の目安として、投与開始後は少なくとも12週ごとの診察・血液検査による安全性評価が推奨されます。感染症、血球数、肝機能、必要に応じて肺の状態を確認するルーティーンを構築することが、副作用の早期発見につながります。
日本皮膚科学会:セルトリズマブペゴル使用上の注意(PDF)|皮膚科領域における安全使用のポイントを整理して解説しています