紹介状がなくても、疼痛外来に患者を送れると思っていると痛い損をします。
「疼痛外来」と「ペインクリニック」は同じ意味で使われることが多いですが、厳密には設置形態が異なります。ペインクリニックは主に麻酔科医が主導し、神経ブロックを中心とした治療を行う外来を指します。一方、疼痛外来は整形外科・脳神経外科・リハビリテーション科など複数の科が設置する場合もあり、診療内容や対象疾患が施設ごとに大きく異なります。つまり「疼痛外来」という名称だけでは内容が分かりません。
医療従事者として患者を紹介する際は、その患者の痛みの性質(侵害受容性・神経障害性・心因性)を踏まえたうえで施設を選ぶことが重要です。たとえば帯状疱疹後神経痛や複合性局所疼痛症候群(CRPS)のように神経障害性疼痛が主体の場合、神経ブロックに精通したペインクリニック専門医がいる施設への紹介が有効です。一方、腰部脊柱管狭窄症などで心理社会的要因が絡む慢性疼痛の場合は、多職種チームによる集学的治療が提供できる施設の方が適切です。
札幌市内の代表的な疼痛外来・ペインクリニックの特徴を以下に整理します。
| 施設名 | 区 | 特徴・対応 | 専門医 |
|---|---|---|---|
| エメラルド整形外科疼痛クリニック | 北区(麻生) | バイオフィードバック・認知行動療法導入 | ✅ペインクリニック専門医 |
| 表参道ペインクリニック | 中央区 | 緩和医療・心の痛みにも対応 | ✅日本ペインクリニック学会専門医 |
| 北7条ごうだ整形外科 | 中央区 | MRI・造影レントゲン併用の神経ブロック | ✅整形外科専門医 |
| さっぽろ北口クリニック | 北区(札幌駅直結) | 痛み・しびれ治療センター設置、低侵襲手術対応 | ✅複数専門医在籍 |
| れいわ札幌クリニック | 中央区 | 整形外科+脳神経外科併設、脊椎外科手術対応 | ✅整形外科専門医 |
| 札幌医科大学附属病院 慢性疼痛センター | 中央区 | 集学的治療の中核施設、4週間入院プログラムあり | ✅多科多職種チーム |
患者の状態を把握してから紹介先を選ぶ。これが基本です。
参考:日本ペインクリニック学会認定専門医在籍施設の情報や専門医認定基準については、学会公式サイトを参照してください。
日本ペインクリニック学会(公式サイト)|専門医認定・施設情報
疼痛外来の中核をなす治療が神経ブロックです。神経ブロックとは、痛みを伝達する神経やその周辺に局所麻酔薬・ステロイドを注入し、痛みの伝達経路を遮断する方法です。その場限りの治療と誤解されがちですが、ブロックを繰り返すことで血流が改善し、痛みの悪循環が断ち切られ、注射後も効果が持続するケースが多くあります。これは使えそうな知識ですね。
代表的な神経ブロックの種類と適応は以下のとおりです。
さらに難治例では、より高度な治療が選択されます。脊髄刺激療法(SCS:Spinal Cord Stimulation)は、脊髄表面に電極を留置し微弱な電気刺激を加えることで痛みを和らげる方法です。1982年に国内承認された治療法で、CRPSや術後慢性疼痛など、通常の神経ブロックで効果が得られない難治性疼痛に対する選択肢として、札幌市内では新川新道整形外科病院・札幌禎心会病院などで実施されています。
脊髄刺激療法はペインクリニック専門医が施行できる治療です。一般クリニックでの実施は難しく、専門施設への紹介が必要な点を覚えておけばOKです。
また近年注目されているのがハイドロリリース(筋膜リリース)です。超音波ガイド下で筋膜の癒着部分に生理食塩水や局所麻酔薬を注入し、筋膜間の滑走性を回復させる方法で、慢性的な肩こりや腰痛に対して外来処置として広く普及しています。侵襲が低く即時的な効果が得られやすいため、初回介入として有用な選択肢です。
参考:神経ブロックの種類と保険適用については以下が参考になります。
福岡歯科大学医科歯科総合病院|ペインクリニックの治療・保険適用について
札幌における集学的慢性疼痛治療の中核施設が、札幌医科大学附属病院 慢性疼痛センターです。2002年(平成14年)に慢性疼痛外来を開設し、2018年(平成30年)1月に慢性疼痛センターへと発展しました。厚生労働省「慢性の痛み政策研究事業」において「痛みセンター連絡協議会」のメンバーとして全国24施設の一つに指定されており、北海道における慢性疼痛診療の要となっています。
同センターが提供するのは「集学的治療」です。具体的には、整形外科・リハビリテーション科・麻酔科(ペインクリニック)・神経精神科・泌尿器科・歯科口腔外科などの複数診療科、および医師・看護師・理学療法士・作業療法士・臨床心理士・薬剤師・ケースワーカーといった多職種が一体となって治療を行います。痛みの身体的要因だけでなく、心理的・社会的要因まで多角的に評価する点が大きな特徴です。
ここで医療従事者として重要な点があります。同センターの初診予約は、医療機関からの紹介のみが受付対象です。 患者本人からの申し込みは一切受け付けていません。これを知らずに患者に「自分で予約してみてください」と伝えると、患者が無駄足を踏む結果になります。厳しいところですね。
紹介の流れは以下のとおりです。
4週間の入院中は、月〜金のスケジュールで疼痛講義・理学療法・ガイダンス・面談が組み込まれており、単なる「鎮痛」ではなく「痛みと向き合う力の習得」を目的としたプログラムが展開されます。連携機関との定期カンファレンスも実施されるため、紹介後も情報共有が継続する点が医療連携上の強みです。
紹介元への情報フィードバックがある点は、紹介する側の医療従事者にとっても大きなメリットです。
参考:札幌医科大学附属病院 慢性疼痛センターの詳細情報はこちらから確認できます。
札幌医科大学附属病院 慢性疼痛センター|患者さんへ(初診予約・紹介方法)
慢性疼痛が「大げさ」「気のせい」と受け取られやすい時代は終わりつつあります。日本における慢性疼痛の有病率は成人の約22.5%と推計されており、患者数に換算すると約2,315万人に上ります。これは日本の就労人口に近い規模です。また慢性疼痛による年間経済損失は約2兆円にのぼるとも報告されており、医療・社会保障の両面で深刻な影響を及ぼしています。
さらに注目すべき数字があります。慢性疼痛を有する患者のうち、3分の2が「現在の治療に満足していない」というデータが示されています(Pain in Japan 2010調査)。痛みの保有期間も、10年以上持続するケースが22.3%に達しており、適切な治療先に誘導されていない患者が多数存在することが分かります。結論は「早期の専門外来誘導」です。
医療従事者にとって重要なのは、この段階で疼痛外来に紹介できるかどうかです。慢性疼痛は痛みだけでなく、身体活動の低下・睡眠障害・うつ状態・社会的孤立へと悪循環をたどるため、早期介入ほど集学的治療の効果が高くなります。
痛みの部位別データも紹介します。保有率が高い順に「腰(64.1%)」「肩(47.9%)」「膝(25.6%)」となっており、整形外科的疼痛が圧倒的に多いことが分かります。これらの患者が長期にわたって一般外来を繰り返し受診している場合、疼痛外来への紹介を検討するタイミングとなります。特に以下のような患者は、一般外来での対応限界を超えていることが多く、専門施設への誘導が望まれます。
これらの所見が揃っている場合は紹介を急ぐのが原則です。
参考:慢性疼痛の疫学・経済損失に関するデータはこちらで確認できます。
疼痛外来への紹介をより効果的にするために、紹介元医療機関の医療従事者が事前に行えることがあります。それが心理社会的評価ツールを用いた事前スクリーニングです。これはあまり知られていない実践的な知識です。
札幌医科大学慢性疼痛センターでは、患者受診時に以下の評価スケールを標準的に使用しています。
これらのうち、特にPCSは紹介前にも活用しやすいツールです。PCSは痛みに関する「反芻」「拡大視」「無力感」の3因子を評価する13項目の尺度で、合計スコアが30点以上の患者は痛みの心理的増幅が強く、通常の薬物療法や神経ブロックだけでは改善が見込みにくいことが多いです。このスコアが高い患者に対しては、紹介状にその旨を記載することで、受け入れ先の疼痛外来側もより迅速に治療方針を立てられます。
紹介前にPCSをスコアリングしておくと、情報共有の質が上がります。これは使えそうです。
また、Red Flagsの確認も重要な事前作業です。腰痛であれば、発熱・体重減少・夜間痛・安静時痛・50歳以上での新規発症などのRed Flagsが揃う場合は、悪性疾患・感染症・骨折などの除外が優先されます。Red Flagsを確認したうえで器質的疾患を除外した患者に対して、疼痛外来への紹介を検討するという順序が原則です。
紹介状に含めると受け入れ側が助かる情報は「既往歴・現在の内服薬・心理評価スコア・社会的背景(就労状況・家族環境)」の4点です。これらが揃っていると、初診での診察がスムーズになり、患者の負担も軽減されます。
参考:慢性疼痛診療ガイドラインでは評価ツールの詳細と推奨が示されています。
慢性疼痛診療ガイドライン(日本頭痛学会・他共同作成)|集学的治療・評価ツールの解説
患者が疼痛外来への紹介をためらう理由の一つが「費用への不安」です。ここを丁寧に説明できると、受診行動に直結します。
まず基本的な整理として、疼痛外来における治療のほとんどは保険適用となります。神経ブロック注射も保険診療の範囲内で実施可能で、自己負担3割の場合、一般的な神経ブロック(例:坐骨神経痛への硬膜外ブロック)は1回あたり2,000〜5,000円程度です。
ただし、施設の種類によって注意すべき点があります。200床以上の病院(紹介受診重点医療機関)を紹介状なしで受診した場合、初診時選定療養費として7,700円(税込)が別途発生します。 患者が「初診料だけ払えばいい」と思って紹介状なしで大病院を受診すると、この追加費用がかかります。これは事前に伝えておかないと患者の不信感につながりかねません。
例えば、エメラルド整形外科疼痛クリニックや表参道ペインクリニックのような中規模クリニックであれば、紹介状がなくても受診自体は可能で、選定療養費の加算はありません(ただし紹介状ありの方が優先されるケースがあります)。一方、札幌医科大学附属病院のような特定機能病院では、紹介状なしの初診で7,700円の追加負担が生じます。
また、2024年度診療報酬改定では、運動器の難治性慢性疼痛に対する集学的治療への評価として「慢性疼痛管理加算」が新設・整備されており、多職種チームによる介入の診療報酬上の根拠がより明確になっています。令和8年度改定でも「慢性疼痛管理加算」の対象拡大が議論されており、集学的治療を行う施設へのインセンティブが引き続き強化される方向にあります。
診療報酬の加算を受けるには施設基準の届出が必要です。紹介先施設がその届出を行っているかどうかも、紹介時の確認ポイントになります。
費用面での患者への説明ポイントをまとめると、「神経ブロックは保険適用・大病院は紹介状があると得・クリニックなら紹介状不要」この3点が基本です。患者が費用面の見通しを持てると、継続的な通院にもつながりやすくなります。
参考:慢性疼痛疾患管理料の算定要件については以下で詳細を確認できます。
今日の臨床サポート|B001-17 慢性疼痛疾患管理料の算定要件・対象疾患