パンデミックとエピデミックの違いと感染拡大段階

パンデミックとエピデミックは感染症流行の規模が異なります。エピデミックは特定地域での流行、パンデミックは世界的大流行を指す用語ですが、具体的な違いや対策はご存じでしょうか?

パンデミックとエピデミックの違い

感染症流行の段階別特徴
🦠
エピデミック(流行)

特定地域や集団で予想を超えて感染症が増加した状態。地理的範囲は限定的だが通常より著しく罹患率が高い。

🌍
パンデミック(世界的大流行)

エピデミックが国境を越えて複数の国や大陸に拡散し同時流行している状態。制御が困難な段階に達している。

🏥
アウトブレイク(集団感染)

特定の期間・場所・集団において予想以上に感染が急速に拡大した状態。エピデミックの前段階で規模は比較的小さい。

パンデミックの定義と規模

 

 

パンデミックは「新たな疾病が世界的に広がること」をWHO(世界保健機関)が定義しています。具体的には、エピデミックが同時期に世界の複数の地域で発生している状態を指し、国境を越えて複数の国や大陸に拡散・同時流行した段階がパンデミックです。WHOの緊急事態対応責任者によると、パンデミックの一般的な定義は「国から国へと感染が広がっている状態で、その広がりを制御できない状態」とされています。newton-consulting+2
2025年5月の第77回世界保健総会では「パンデミック緊急事態」が新たに定義されました。これは国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)のうち、感染症によるもので、複数の国への広範囲なまん延リスクが高く、保健制度の対応能力を超える状態を指します。重要な点として、パンデミックは明確な感染者数や重症度で定義されているわけではなく、地理的な拡散の程度を示す意味合いが強い用語です。sp-jp.fujifilm+1
過去のパンデミック事例としては、1817年から始まったコレラの世界的流行が7回記録されており、1918年のスペイン風邪では米国だけでも甚大な被害が発生しました。これらの歴史的事例は、感染症が制御不能な状態で世界規模に拡大する危険性を示しています。pmc.ncbi.nlm.nih+2

エピデミックの特徴と範囲

エピデミックは「一定の地域にある種の感染症が通常の期待値を超えて罹患する、またはこれまでは流行がなかった地域に感染症がみられる予期せぬ状況」と定義されます。WHOによると、エピデミックは明らかに正常な数値を超えた症例が地域や社会で発生していることを指す言葉です。感染症の最初の急増したコミュニティよりも広い地域に拡大した状態で、持続的に広がる可能性があることを示唆します。jagh+2
エピデミックの重要な特徴は、予測が困難である点です。エンデミック(風土病)が予測可能な常在的状況であるのに対し、エピデミックは一定の期間に限られた予期せぬ現象として発生します。エピデミックの規模が大きくなった状況はアウトブレイクと呼ばれ、複数の地域で同時発生するとパンデミックに移行します。jagh+1
医療従事者にとって重要なのは、エピデミックへの対策が一層困難である点です。通常の感染症対策はエンデミックを前提として計画されますが、エピデミックでは予想される流行のインパクトを軽減する減災対策や、迅速にエピデミックを判断する方策の開発が求められます。jagh
国際保健用語集(一般社団法人日本国際保健医療学会)
エンデミック・エピデミック・パンデミックの定義と使い分けについて詳細な解説が掲載されています。

 

パンデミックとエピデミックの感染拡大速度の違い

感染症の流行は段階的に広がる傾向があり、拡大速度に明確な違いがあります。最初に起こるアウトブレイクは特定の区域や集団において通常予測される以上に症例数が増加する状態で、比較的限定的な範囲での突発的発生を指します。この段階では感染の制御が比較的容易であり、早期介入によって拡大を防止できる可能性が高くなります。newton-consulting+1
エピデミックへの移行は、感染が最初のコミュニティよりも広い地域に拡大した時点で起こります。この段階では複数の国にわたって感染が蔓延する可能性があり、制御が困難になり始めます。感染拡大の順序として「outbreak(アウトブレイク)→ epidemic(エピデミック)→ pandemic(パンデミック)」という流れが一般的です。dennetsu+2
パンデミックの段階では、国境を越えた広範囲での同時流行が発生し、制御が極めて困難な状況に達します。WHOは感染症の感染力や流行状況に応じて6つのフェーズに分類しており、フェーズ6がパンデミックの段階です。この段階では異なる地域において市中レベルでのアウトブレイクが発生し、世界規模での協調的な対策が必要となります。manegy+2

パンデミックとエピデミックにおける医療対策の相違点

エピデミックとパンデミックでは、必要とされる医療対策の規模と内容が大きく異なります。エピデミックの段階では、特定地域での流行を制御するため、地域医療機関による集中的な対応が中心となります。日本では感染症が指定感染症として扱われる場合、患者は指定医療施設での入院治療が基本となり、医療機関での院内アウトブレイク防止が重要な課題です。mdpi+1
パンデミックの段階では、医療提供体制全体が逼迫する危険性があり、より包括的な対策が求められます。COVID-19パンデミックの経験から、医療機関は入院患者の急増に備えた体制強化、感染防止対策の徹底、限られた医療資源の効率的配分が必要であることが示されました。日本の事例では、医療機関への受診行動を適切に誘導し、医療崩壊を防ぐための政策が重要でした。pmc.ncbi.nlm.nih
感染症サーベイランスもパンデミック対策の重要な要素です。感染症危機対応時には、迅速な情報に基づく公衆衛生対策上の意思決定のため、複数のサーベイランスを実施し、体系的かつ継続的なリスク評価を行う必要があります。平時から感染症の異常な発生を早期探知するシステムを整備し、発生状況や患者の発生動向を持続的に収集・分析する取組が不可欠です。cas+1
国立感染症研究所 感染症サーベイランスデータ
日本における感染症発生動向の詳細なデータと分析結果を提供しています。医療従事者向けの重要な情報源です。

 

パンデミックからエンデミックへの移行プロセス

パンデミックからエンデミック(地域流行)への移行は、感染症対策の最終目標の一つです。エンデミックは特定の地域で普段から継続的に病気が発生する状態を指し、感染症が制御可能な範囲内で一定の罹患率を維持している状況です。重要な点として、エンデミック化は感染症が無害になることを意味するのではなく、予測可能で管理可能な状態になることを示します。kitaharahosp+2
専門家の見解によると、パンデミックから最初に脱却する国は、高いワクチン接種率と感染者が獲得した自然免疫の効果が組み合わさっている必要があります。WHOは来年末までに世界人口の70%へのワクチン接種率達成を目指しており、この段階に達すれば疫学的に大きく異なる状況になると予測しています。移行は各地域で異なり、自然感染による免疫獲得者数とワクチン配分量に左右されます。reuters
COVID-19の事例では、2021年から2023年の間にエンデミックへの移行が始まると多くの専門家が予測していました。ただし、新型コロナウイルスは変異を続ける可能性があり、最新の流行株に対応したワクチンの定期接種が必要になる見通しです。エンデミック移行後も、ワクチン接種率の低い地域では感染急増のリスクが残り、医療従事者は長期的な監視と対策の継続が求められます。newsweekjapan+2
PLOS Pathogens - SARS-CoV-2のパンデミックからエンデミックへの移行
SARS-CoV-2がエンデミックに移行する際の疫学的・免疫学的考察について詳細な研究論文が公開されています。

 

用語 地理的範囲 予測可能性 医療対応 具体例
エンデミック 特定地域に限定 予測可能 ⭕ 通常の医療体制で対応可能 マラリア(風土病)、季節性インフルエンザ
アウトブレイク 特定の場所・集団 予測困難 ❌ 集団感染対策が必要 院内感染、学校でのノロウイルス集団発生
エピデミック 地域や複数の地域 予測困難 ❌ 地域医療体制の強化が必要 SARS(2003年)、季節外れのインフルエンザ流行
パンデミック 世界規模・複数大陸 予測困難 ❌ 国際的な協調対応が必須 COVID-19、スペイン風邪、コレラの世界的流行

感染症の流行段階を正確に理解することは、医療従事者にとって適切な対策を講じる上で不可欠です。エピデミックとパンデミックの違いは単なる用語の問題ではなく、必要とされる医療資源の規模、国際協力の必要性、公衆衛生政策の方向性を決定する重要な判断基準となります。

 

また、意外な事実として、2025年の国際保健規則(IHR)改正により「パンデミック緊急事態」という新しい定義が導入されました。これは従来のPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)をより明確化したもので、複数の国への広範囲なまん延リスク、保健制度の対応能力の超過、社会経済的な重大な混乱という4つの基準すべてに該当する状態を指します。この新定義により、国際的な対応の優先順位付けがより明確になることが期待されています。mhlw
医療従事者は平時から感染症サーベイランスシステムの理解を深め、異常な感染拡大の早期探知に貢献することが求められます。エピデミックの段階で適切な介入を行うことで、パンデミックへの移行を防ぐことが可能となり、結果として医療体制への負担を大幅に軽減できます。

 

 




現代思想(2020 5(vol.48-7) 特集:感染/パンデミック