発作中に尿酸降下薬を飲むと、痛みがさらに長引くことがあります。
急性痛風発作の本態は「尿酸値が高い」ことそのものではなく、関節内に沈着した尿酸ナトリウム(MSU)結晶に対して引き起こされる急性炎症反応です。MSU結晶がマクロファージに取り込まれると、細胞内でNLRP3インフラマソームが活性化し、カスパーゼ-1を介してIL-1βが大量産生されます。このIL-1βが強力な炎症増幅因子となり、好中球を関節内へと大量動員することで、あの激烈な発赤・腫脹・疼痛が生じます。
つまり痛風発作は「IL-1βを軸とした好中球性関節炎」です。この理解が、薬剤選択の根拠に直結します。
発作のトリガーは、尿酸値の急激な上昇だけでなく、急激な低下によっても起こりえます。これが、発作中に尿酸降下薬を新規開始してはいけない理由のひとつです。また、夏場は脱水による尿酸排泄低下が重なり、発作が最も多く起こる季節とされています。夜中から明け方にかけて発症しやすく、救急受診に至るケースも珍しくありません。
発作の自然経過は7〜14日で自然軽快することが多いですが、適切な薬物治療を早期に開始すれば期間を大幅に短縮できます。放置や不適切な対処は炎症の遷延化を招くため、迅速な介入が原則です。
日本痛風・尿酸核酸学会の「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」では、急性期治療薬としてNSAIDs・コルヒチン・ステロイド(経口グルココルチコイド)の3剤が挙げられています。重要なのは、この3剤に臨床的な優劣を示すエビデンスは現時点で存在しないという点です。使い慣れた薬剤を、患者の合併症・禁忌・腎機能に応じて選択することが推奨されています。
日本では実臨床上NSAIDsが最もよく使われますが、これはエビデンスによる優位性ではなく、使い慣れているという臨床的な慣習の面が強いといえます。
NSAIDsについては、NSAIDsパルス投与法が基本です。ナプロキセン(ナイキサン)であれば300mgを3時間ごとに3回、1日に限って投与するという方法が代表的です。ロキソプロフェン(ロキソニン)であれば腎機能が保たれていることを前提に240〜360mgまでの高用量短期投与が行われます。激痛が軽減した後も関節炎が完全に鎮まるまでは通常量での服用継続が必要で、早期に中止しすぎると再燃するリスクがあります。
ただし、NSAIDsは以下の状況では使用を避けるべきです。慢性腎臓病(CKD)・消化性潰瘍の既往・心血管イベントリスクが高い症例・抗凝固薬使用中の患者が該当します。これらの場合、ステロイドへの切り替えが求められます。
ステロイド(プレドニゾロン)はNSAIDsが禁忌・無効な症例で選択します。プレドニゾロン換算で20〜30mg/日を投与することが一般的で、欧州リウマチ学会(EULAR)は3〜5日間投与を、米国リウマチ学会(ACR)は5〜10日間または2週間程度での漸減を推奨しています。2週間以上の投与後に急に中止すると副腎不全が起こるため、漸減が必須です。糖尿病患者や足白癬などの感染症を併発している場合には、血糖値の悪化・感染拡大リスクがあるため使用に注意が必要です。
参考情報(治療の4つのターム・ガイドライン要点)。
痛風発作の効果的な治療と指導(川崎市立川崎病院 田口博章先生・富士薬品)
コルヒチンは鎮痛薬ではありません。チューブリンに結合して微小管の形成を阻害し、好中球の関節内遊走を抑制することで炎症カスケードを制御する薬剤です。つまり、痛みを直接消すのではなく、炎症を増幅する細胞機能を止める薬です。
有効性を発揮するためには「タイミング」が極めて重要で、発症から12時間以内の投与開始が推奨されています。この時間を過ぎると効果が著しく落ちるとされており、24時間以降の投与では急性期治療としての有効性がほぼ期待できません。予兆(前兆)が現れた段階ですぐに1錠(0.5mg)服用するのが理想的です。これが原則です。
用量については、かつて日本では「1日3〜4mgを6〜8回に分割」という高用量投与が承認用量として記載されていましたが、現在は海外のRCTに基づく低用量レジメンが広く推奨されています。AGREE試験(Arthritis Rheum. 2010)では、高用量投与(合計4.8mg以上)と低用量投与(合計1.5mg)で疼痛改善効果はほぼ同等でありながら、低用量群では消化器副作用(下痢・嘔気・腹痛)が有意に少なかったことが示されています。これは使えそうです。
現在の推奨低用量レジメンは「初回1mg、1時間後に0.5mg追加、合計1.5mg」です。
腎機能低下例では特に注意が必要です。eGFR 60mL/分未満では連続投与が推奨されず、eGFR 30mL/分未満では使用非推奨とされています。CYP3A4阻害薬(クラリスロマイシン等のマクロライド系抗菌薬・シクロスポリン・アタザナビルなど)との併用では血中濃度が著しく上昇し、骨髄抑制・横紋筋融解症・多臓器不全といった重篤な副作用リスクがあります。骨髄抑制と横紋筋融解症はまれですが、命に関わります。
コルヒチンは3剤の中で唯一、痛風発作の「予防投与」および「発作予感時の頓用」が保険適用となっている点も覚えておきたいポイントです。
参考情報(コルヒチンの作用機序と用量についての詳細)。
痛風発作に対するコルヒチンの効果と用量(ひろつ内科クリニック)
多くの医療従事者が直感的に「尿酸値を下げる薬を早めに使えば早く治る」と考えがちです。しかし、これは大きな落とし穴です。
ガイドラインでは「発作中に尿酸降下薬を新規開始しないことを原則とする」と明記されています。理由は、血清尿酸値の急激な変動が発作の増悪・遷延化を招くからです。発作中に尿酸降下薬(アロプリノール・フェブキソスタット〈フェブリク〉・ベンズブロマロン・ドチヌラドなど)を開始すると、関節内の尿酸ナトリウム結晶の再溶解・移動が起こり、新たな炎症反応が誘発されます。
一方、すでに尿酸降下薬を服用中の患者が発作を起こした場合は、中断してはいけません。研究でも、発作時に尿酸降下薬を中断すると発作の遷延・悪化リスクが増すことが示されています。中断によって尿酸値が急上昇し、それがまた発作を悪化させるという悪循環が生じます。既投与は継続が原則です。
患者への説明でも注意が必要です。「薬を飲んでいたのに発作が起きた」という訴えに対して、尿酸降下薬を「疑わしい薬」と見なして自己中断を推奨してしまうと、逆効果になります。尿酸降下薬開始直後の数か月は発作が起こりやすいことを事前に丁寧に説明しておくことが、治療継続と患者信頼の維持につながります。
整理するとシンプルです。「発作中に新規開始はしない。でも、すでに飲んでいる人は止めない。」この2点だけ覚えておけばOKです。
医療従事者であれば「痛み止めを出しておく」場面は多いはずです。しかし、痛風発作患者にアスピリンを含む薬剤を処方・服用継続させることは、発作を悪化させるリスクがあります。これは意外と見落とされやすいポイントです。
アスピリンは服用量によって尿酸への作用が異なる特殊な薬剤です。常用量(1〜2g)では尿細管における尿酸の再吸収抑制を阻害して血清尿酸値を上昇させます。大量(5〜10g)では逆に尿酸排泄促進作用が現れます。痛風発作時の問題は、発作中に血清尿酸値が変動すること自体が炎症を増悪・遷延させる点にあります。厳しいですね。
低用量アスピリン(75〜100mg/日)を循環器疾患予防目的で長期服用している患者は珍しくありません。このような患者が痛風発作を起こした場合、アスピリンを急に中断することも尿酸値の変動を引き起こすため、勝手に中断させるのも問題です。循環器科との連携と包括的な判断が求められます。
また、市販の「バファリン」シリーズのうちアスピリン含有製品(バファリンA・バファリンライト等)については、患者に「痛いから市販の痛み止めを飲んだ」という状況で使用されているケースがあります。薬剤師・医師ともに、来院時に市販薬・サプリメントを含めた現在の服薬状況を確認するのが実務上の重要なポイントです。
発作の場において処方・服薬確認リストを持参する、または「電子お薬手帳」アプリ(eお薬手帳、お薬手帳プラス等)を活用して患者の全服薬情報を一元管理する習慣をつけると、このようなリスクを回避しやすくなります。
参考情報(アスピリンと痛風発作の関係・薬剤師向け解説)。
DIクイズ:痛風患者が避けた方がよい鎮痛薬(日経メディカル)