アタザナビル併用禁忌:相互作用と薬剤選択の注意点

アタザナビルは抗HIV薬として重要な役割を果たしますが、CYP3A4を介した薬物相互作用により多数の併用禁忌薬が存在します。プロトンポンプ阻害剤やベンゾジアゼピン系睡眠薬、抗結核薬など、日常診療で頻用される薬剤との併用が制限されるため、医療従事者は適切な薬剤選択と患者指導が求められますが、具体的にどのような薬剤に注意が必要でしょうか?

アタザナビル併用禁忌

アタザナビル併用禁忌の重要ポイント
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CYP3A4を介した相互作用

アタザナビルはCYP3A4の基質であり強力な阻害剤として作用するため、併用薬の血中濃度上昇や本剤の効果減弱が生じる

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プロトンポンプ阻害剤との併用禁忌

胃内pH上昇により溶解性が低下し、アタザナビルの血中濃度が著しく低下するため全てのPPIが併用禁忌となる

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リトナビルによるブースト効果

リトナビル100mgとの併用でアタザナビルの血中濃度を維持し、治療効果を高めることができる

アタザナビルの作用機序とCYP3A4代謝

 

 

アタザナビルは、HIV-1プロテアーゼを選択的に阻害するアザペプチド系の抗ウイルス薬です。本剤はHIVウイルスの複製に必須なプロテアーゼ酵素を阻害することで、未熟なウイルス粒子の産生を抑制し、ウイルス増殖を防ぎます。

 

参考)レイアタッツ®/ATV

本剤の代謝において最も重要な点は、肝臓のシトクロムP450酵素CYP3A4が主要な代謝経路であることです。ヒト肝ミクロソームを用いた試験により、アタザナビルはCYP3A4による酸化的代謝を受けることが明確に示されています。さらに本剤自体がCYP3A4の強力な阻害剤として作用し、UGT1A1(ウリジン二リン酸グルクロン酸転移酵素1A1)の阻害作用も有するため、併用する他の薬剤の代謝に大きな影響を与えます。

 

参考)https://www.wam.go.jp/wamappl/bb11gs20.nsf/0/49256fe9001b533f49256dfa001c4a23/$FILE/siryou8_2.pdf

CYP3A4を介した相互作用は双方向性であり、CYP3A4を誘導する薬剤と併用するとアタザナビルの血中濃度が低下して治療効果が減弱し、逆にCYP3A4で代謝される薬剤と併用するとその薬剤の血中濃度が上昇して重篤な副作用を引き起こす可能性があります。この薬物動態学的特性が、アタザナビルに多数の併用禁忌薬が設定されている理由です。

 

参考)https://www.pmda.go.jp/files/000248129.pdf

アタザナビルと胃酸分泌抑制薬の併用禁忌

アタザナビルの最も重要な併用禁忌の一つが、プロトンポンプ阻害剤(PPI)との組み合わせです。
オメプラゾールランソプラゾールラベプラゾールエソメプラゾール、ボノプラザンフマル酸塩などの全てのPPIが併用禁忌に指定されています。

 

参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/information/files/2037/EPRAB1N01201-1.pdf

併用禁忌となる機序は、PPIによる強力な胃酸分泌抑制作用にあります。PPIは胃内pHを上昇させることで、アタザナビルの溶解性を著しく低下させます。その結果、消化管からの吸収が阻害され、アタザナビルの血中濃度が大幅に低下し、抗ウイルス効果が減弱するおそれがあります。実際の臨床データでも、PPI併用によりアタザナビルのAUC(血中濃度時間曲線下面積)とCmin(最低血中濃度)が顕著に低下することが報告されています。

 

参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf_merge/6013a5f09806e.pdf

なお、2025年3月にラベプラゾール製剤の添付文書改訂が行われ、アタザナビル硫酸塩が併用禁忌から削除される動きもありましたが、基本的には全てのPPIがアタザナビルとの併用禁忌として扱われています。配合剤であるアスピリン・ランソプラゾールやアスピリン・ボノプラザンフマル酸塩も同様に併用禁忌です。

 

参考)https://dsu-system.jp/dsu/335/1368/notice/3853/notice_3853_20250402150449.pdf

H2受容体拮抗薬ファモチジンなど)も胃内pHを上昇させるため、併用注意に分類されています。H2ブロッカーを使用する場合は、必ずリトナビルとの併用下でアタザナビルを投与し、可能な限り服用間隔をあけることが推奨されます。​

アタザナビルとベンゾジアゼピン系薬剤の相互作用

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中で、ミダゾラムトリアゾラムはアタザナビルとの併用が絶対禁忌となっています。これらの薬剤はCYP3A4で代謝される代表的な基質であり、アタザナビルの強力なCYP3A4阻害作用により、血中濃度が著しく上昇します。
参考)https://www.bms.com/assets/bms/japan/documents/RApatient1910.pdf

ミダゾラム(商品名:ドルミカム)は主に手術や検査時の鎮静に用いられる短時間作用型のベンゾジアゼピンです。トリアゾラム(商品名:ハルシオン)は不眠症治療に広く処方される超短時間作用型睡眠薬です。これらの薬剤の血中濃度が上昇すると、過度の鎮静作用、呼吸抑制、意識障害などの重篤な中枢神経系副作用が発現する危険性が高まります。

 

参考)https://www.med.or.jp/anzen/manual/pdf/jirei_11_02.pdf

ベンゾジアゼピン系薬剤の中でも、ロラゼパムやオキサゼパムなどグルクロン酸抱合で代謝される薬剤は、CYP3A4を介さないため比較的安全に使用できる可能性があります。ただし、患者の臨床状態を慎重に観察し、必要に応じて用量調整を行うことが重要です。

 

アタザナビルとリファンピシンの相互作用機序

抗結核薬であるリファンピシンは、アタザナビルとの併用が厳格に禁忌とされている薬剤の一つです。リファンピシンは肝臓のCYP3A4を強力に誘導する作用を持つため、併用によりアタザナビルの代謝が促進され、血中濃度が1/5以下にまで低下することが知られています。
参考)リファンピシン (Rifampicin):抗菌薬インターネッ…

結核とHIV感染症は合併することが多く、特に免疫不全が進行したHIV患者では結核の発症リスクが高まります。しかし、リファンピシンを含む標準的な結核治療とアタザナビルを併用することは不可能であるため、治療選択に困難が生じます。​
このような場合の対応として、以下の選択肢が考えられます。

 

  • アタザナビル以外のHIVプロテアーゼ阻害剤への変更(ただし多くのPIでリファンピシンは併用注意または禁忌)
  • リファンピシンの代わりにリファブチンを使用する結核治療レジメンへの変更
  • 非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)やインテグラーゼ阻害剤を用いたHIV治療レジメンへの変更

結核治療とHIV治療の両立は複雑な薬物相互作用を伴うため、感染症専門医による総合的な治療計画の立案が不可欠です。​

アタザナビルのリトナビルブースト療法における注意点

アタザナビルの治療効果を最大限に引き出すために、リトナビルとの併用投与が広く行われています。リトナビル(商品名:ノービア)自体もHIVプロテアーゼ阻害剤ですが、低用量(100mg)で併用することで、アタザナビルの血中濃度を高く維持する「ブースト効果」を発揮します。

 

参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00049885.pdf

リトナビルはCYP3A4を強力に阻害するため、アタザナビルの代謝を抑制し、血中濃度を上昇させます。このブースト療法により、アタザナビルの1日1回投与が可能となり、服薬アドヒアランスの向上につながります。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2973003/

標準的な用法・用量は以下の通りです:​

  • 抗HIV薬による治療経験のない患者:アタザナビル300mg + リトナビル100mgを1日1回併用、またはアタザナビル400mgを1日1回単独投与
  • 抗HIV薬による治療経験のある患者:アタザナビル300mg + リトナビル100mgを1日1回併用投与(推奨)

リトナビルを併用する場合の注意点として、リトナビル自体が多くの薬剤と相互作用を起こすため、併用禁忌・注意薬がさらに増加します。リトナビル100mgを超える用量で併用した場合の有効性と安全性は確立していないため、心伝導障害や高ビリルビン血症などの副作用リスクが高まる可能性があります。

 

参考)https://s3.pgkb.org/attachment/Atazanavir_PMDA_11_30_16.pdf

テノホビルジソプロキシルフマル酸塩との併用時は、アタザナビルの血中濃度が低下し、テノホビルの濃度が上昇するため、リトナビルの併用が特に重要となります。

 

参考)https://rctportal.mhlw.go.jp/detail/um?trial_id=UMIN000000849

アタザナビル併用時の患者指導と服薬管理のポイント

アタザナビル療法を安全かつ効果的に継続するためには、適切な患者指導と服薬管理が欠かせません。医療従事者が患者に伝えるべき重要なポイントを以下に示します。

 

参考)https://www.bms.com/assets/bms/japan/documents/RApatient1808.pdf

服薬タイミングの重要性
アタザナビルは必ず食事中または食直後に服用する必要があります。空腹時に服用すると吸収が不十分となり、十分な抗ウイルス効果が得られません。1日1回の服薬を同じ時間帯に継続することで、安定した血中濃度を維持できます。​
副作用のモニタリング
アタザナビルの特徴的な副作用として、総ビリルビン上昇による黄疸・黄疸眼があります。これはUGT1A1阻害によるビリルビン抱合の低下が原因であり、海外臨床試験では37%の患者で総ビリルビン上昇が報告されています。黄疸は美容上の懸念から、患者が治療継続を躊躇する要因となることがあります。

 

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/aidsr1999/6/4/6_4_520/_pdf

その他の主な副作用として、吐き気(6%)、アミラーゼ上昇(12%)、CK(CPK)上昇(7%)、好中球減少(5%)、ALT上昇(5%)などが報告されています。これらの副作用の早期発見のため、定期的な血液検査が必要です。​
併用薬の確認
患者が新たに薬剤を処方される際は、必ずアタザナビル服用中であることを医療従事者に伝えるよう指導します。市販薬やサプリメント、特にセイヨウオトギリソウ(St. John's Wort)を含む健康食品も、CYP3A4誘導によりアタザナビルの効果を減弱させるため併用禁忌です。

 

参考)https://www.covid19oralrx-hcp.jp/assets/pdf/pax51n007e-proper-usage-guide-integrated-version-20240520.pdf

アドヒアランスの維持
HIV治療において服薬アドヒアランスは極めて重要であり、自己判断での用量変更や中止は薬剤耐性ウイルスの出現につながります。飲み忘れた場合の対処法を事前に説明し、決して2回分を一度に服用しないよう指導します。​
薬剤師は処方監査時に併用禁忌・注意薬のチェックを徹底し、疑義照会を通じて安全な薬物療法に貢献することが求められます。

 

参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001409754.pdf

国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター:レイアタッツの併用禁忌・注意薬リストの詳細情報
PMDA:アタザナビル硫酸塩の使用上の注意改訂に関する公式文書