リスモダン(一般名:ジソピラミド)は、心筋への直接作用により活動電位のphase0立ち上がり速度を減少させる抗不整脈薬です。この薬剤はVaughan Williams分類のIa群に属し、ナトリウムチャネル遮断作用とカリウムチャネル遮断作用の両方を持っています。心臓の異常な興奮を抑えることで、脈の乱れを整える効果を発揮します。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
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心筋細胞において、リスモダンはナトリウムイオンの細胞内への流入を抑制し、心筋活動電位の立ち上がりを抑制します。この作用により、心房筋や心室筋での刺激伝導速度が抑制され、異常な電気信号の伝播が是正されます。プルキンエ線維においてはphase4の脱分極抑制作用があり、異常自動能を抑える効果も持っています。
参考)医療用医薬品 : リスモダン (リスモダンカプセル100mg…
心電図上では、リスモダンの投与により心房と心室、房室結節での不応期が延長し、ヒス-プルキンエ系伝導時間も延長します。この作用は、リエントリー(電気信号の再侵入)による不整脈の発生を防ぐメカニズムとして重要です。ただし、その作用の強さはキニジンよりも弱いとされています。
参考)不整脈の薬(抗不整脈)一覧
リスモダンは、他の抗不整脈薬が使用できないか、または無効の場合に適応となる医薬品です。具体的な適応症は、期外収縮(上室性、心室性)、発作性上室性頻拍、心房細動の3つです。静注製剤では、発作性頻拍(上室性、心室性)や発作性心房細・粗動など、緊急治療を要する不整脈にも使用されます。
参考)リスモダンカプセル50mgの基本情報(作用・副作用・飲み合わ…
期外収縮に対するリスモダンの効果は、心筋の異所性自動能や刺激伝導能を抑制することで発揮されます。期外収縮は心臓の正常な拍動のリズムに割り込んで生じる早期の収縮ですが、リスモダンはこの異常な興奮を抑えることで症状を改善します。軽症の拡張型心筋症で期外収縮が出現する際にも、不快な症状を軽減する目的で使用されることがあります。
参考)拡張型心筋症に対し、リスモダンだけの処方でよいか
発作性上室性頻拍や心房細動に対しても、リスモダンは心房筋の不応期を延長し、異常な電気回路の形成を抑制することで効果を示します。ただし、心房細動や心房粗動の除去を目的とする場合には、薬剤の効果や副作用に十分注意を払い、慎重に投与する必要があります。
参考)https://clinigen.co.jp/medical/.assets/rythmodan_R_guide_231220.pdf
リスモダンには、抗不整脈作用以外に抗コリン作用も存在します。この抗コリン作用の強さはアトロピンよりはるかに弱いものの、膀胱収縮反応に対する抑制作用はアトロピンよりも強いという特徴があります。そのため、排尿障害、口渇、複視などの副作用が出現することがあり、これらの症状が現れた場合には減量または投与中止を検討する必要があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00048846.pdf
抗コリン作用による副作用は、特に高齢者や前立腺肥大のある男性患者で顕著に現れやすい傾向があります。排尿障害は特に男性高齢者に多く報告されており、尿閉のリスクがある患者では使用に注意が必要です。また、閉塞隅角緑内障の患者では、抗コリン作用により眼圧が上昇するため、禁忌とされています。
参考)https://clinigen.co.jp/medical/.assets/rythmodan_p_pi_20250701.pdf
リドカインと同等の局所麻酔作用も持っており、持続時間はリドカインよりも長いことが知られています。この作用は不整脈治療には直接関与しませんが、薬剤の薬理学的特性として理解しておくことが重要です。
リスモダンは主として肝薬物代謝酵素CYP3A4で代謝されます。このため、CYP3A4を阻害する薬剤との併用により、リスモダンの血中濃度が上昇し、作用が増強される可能性があります。特にエリスロマイシンやクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬は、CYP3A4を強く阻害することが知られており、併用時には注意が必要です。
参考)https://www.japic.or.jp/mail_s/pdf/23-11-1-11.pdf
エリスロマイシンやクラリスロマイシンとの併用により、ジソピラミドの代謝が抑制され、血中濃度が上昇することで、低血糖やQT延長などの重篤な副作用が発現しやすくなります。実際に、ジソピラミドとエリスロマイシンの併用によりTorsade de pointesという致死的な不整脈が発生した症例も報告されています。したがって、これらの薬剤との併用時には、リスモダンの減量や頻回なモニタリングが推奨されます。
参考)http://www.akitajinfuzen.jp/archive/file/seminar/no16/seminar16-24.pdf
β遮断薬との併用も注意が必要です。両剤とも陰性変力作用(心収縮力を低下させる作用)と変伝導作用(刺激伝導を抑制する作用)を持つため、併用により過度の心機能抑制作用が現れることがあります。アテノロールとの併用では、リスモダンのクリアランスが減少することも報告されています。
参考)医療用医薬品 : ジソピラミド (ジソピラミド徐放錠150m…
リスモダンには通常のカプセル剤と徐放錠(Rythmodan R錠)の2つの剤形があり、それぞれ効果の持続時間が異なります。通常のカプセル剤は1日3回の服用が必要ですが、徐放錠は薬剤の放出を制御することで、より安定した血中濃度を維持できるという利点があります。
参考)医療用医薬品 : リスモダン (リスモダンR錠150mg)
投与開始時には、患者の感受性の個体差に留意し、少量から開始することが望ましいとされています。これは、リスモダンの効果や副作用の現れ方に個人差が大きいためです。また、心房細動や心房粗動、発作性頻拍の除去を目的とする場合には、薬剤の効果や副作用を慎重に観察し、無効の場合は漫然と投与を継続しないことが重要です。
興味深いことに、リスモダンは栄養状態の悪い患者では、特に低血糖の副作用が現れやすいことが指摘されています。これは、リスモダンがインスリン分泌を促進する作用を持つためであり、栄養摂取が不十分な状態では血糖値が過度に低下しやすくなります。このような患者では、投与開始前に栄養状態を評価し、必要に応じて栄養管理を行うことが推奨されます。
参考)https://clinigen.co.jp/medical/.assets/rythmodan_CAP_guide_231220.pdf
リスモダンの重要な副作用の一つに低血糖があります。この低血糖の発現機序は、膵β細胞のKATPチャネル(カリウムATPチャネル)を抑制し、インスリンの分泌を促進することによります。この作用は用量依存性であり、血中濃度が高くなるほど低血糖のリスクが増加します。
参考)全日本民医連
低血糖を起こしやすい患者の特徴として、高齢者、糖尿病患者、肝機能障害のある患者、透析を含む腎機能障害のある患者、栄養状態の悪い患者が挙げられます。特に腎機能が低下した患者では、リスモダンの排泄が遅延し、血中濃度が上昇しやすくなるため、低血糖の発現リスクが高まります。実際に、肝機能が正常で腎機能が低下した症例で低血糖が発症しやすい傾向が文献的に確認されています。
参考)https://www.jshp.or.jp/information/preavoid/45-9.pdf
低血糖の症状としては、めまい、空腹感、ふらつき、手足のふるえなどが現れます。これらの症状が出現した場合には、直ちに医師に連絡し、適切な処置を受ける必要があります。患者には低血糖の発現について十分な説明を行い、症状の早期発見と対応の重要性を理解してもらうことが大切です。
リスモダンの最も重篤な副作用として、心停止、心室細動、心室頻拍(Torsade de pointesを含む)、心室粗動などがあります。これらは催不整脈作用と呼ばれ、逆説的に不整脈を誘発または悪化させる現象です。特にTorsade de pointesは、QT延長を伴う特殊な心室頻拍で、失神や突然死の原因となりうる危険な不整脈です。
参考)https://med.sawai.co.jp/file/pr22_271.pdf
QT延長は、心電図上でQT間隔が延長する現象で、リスモダンのカリウムチャネル遮断作用によって引き起こされます。ジソピラミド300mg/日の内服により著明なQT延長に引き続いてTorsade de pointesを発症した症例が報告されています。このような致死的不整脈を予防するため、投与中は頻回に心電図検査を行い、PQ延長、QRS幅増大、QT延長などの異常所見がないか確認することが必須です。
参考)症例 ジソピラミドとエリスロマイシンの相互作用によりTors…
特にQT延長を起こしやすい患者として、スパルフロキサシン、モキシフロキサシン、ラスクフロキサシン(注射剤)、トレミフェン、アミオダロン(注射剤)などのQT延長作用を持つ薬剤を併用している患者が挙げられます。これらの薬剤との併用は禁忌とされており、併用によりQT延長作用が相加的に増強し、心室性頻拍のリスクが著しく高まります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00048847.pdf
房室ブロックや洞房ブロックなどの刺激伝導障害がある患者では、リスモダンの投与により刺激伝導障害が悪化し、完全房室ブロックや心停止を起こすおそれがあるため、高度の房室ブロックや高度の洞房ブロックのある患者には禁忌です。
リスモダンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能障害のある患者では血中濃度が上昇しやすく、副作用のリスクが高まります。特に透析患者を含む重篤な腎機能障害のある患者では、徐放錠(リスモダンR錠)の使用は禁忌とされています。これは、徐放性製剤では薬剤の血中濃度のコントロールが困難になり、重篤な副作用を引き起こす可能性があるためです。
参考)ジソピラミド服用中に低血糖を起した透析患者の1例
透析患者では、リスモダンの透析による除去が限定的であり、血中濃度が蓄積しやすい傾向があります。そのため、腎機能に応じた用量調整が必要であり、通常量よりも少ない投与量から開始し、血中濃度や臨床症状を慎重にモニタリングしながら調整することが推奨されます。
肝機能障害のある患者でも注意が必要です。リスモダンはCYP3A4で代謝されるため、高度な肝機能障害がある患者では代謝能が低下し、血中濃度が上昇する可能性があります。高度な肝機能障害のある患者では、徐放錠の使用は禁忌とされており、通常のカプセル剤を使用する場合でも慎重な投与が求められます。
定期的な臨床検査値(肝機能、腎機能、電解質、血液等)のモニタリングは、リスモダン投与中の患者管理において必須です。特に血清カリウム値の低下は、QT延長やTorsade de pointesのリスクを増大させるため、電解質異常の早期発見と補正が重要となります。
リスモダンには陰性変力作用(心収縮力を低下させる作用)があり、心不全を悪化させるおそれがあります。そのため、うっ血性心不全のある患者では、徐放錠の使用は禁忌です。静注製剤では、重篤なうっ血性心不全のある患者への投与が禁忌とされています。これは、催不整脈作用により心室頻拍や心室細動を起こしやすくなるためです。
心筋梗塞、弁膜症、心筋症などの基礎心疾患がある患者でも、リスモダンの投与には注意が必要です。これらの患者では心機能がすでに低下している場合が多く、リスモダンの陰性変力作用により、さらに心機能が悪化する可能性があります。投与する場合には、心機能を慎重に評価し、心電図、脈拍、血圧、心胸比などのパラメータを定期的にモニタリングすることが重要です。
参考)http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se21/se2129005.html
心不全症状(息切れ、浮腫、疲労感など)が出現または悪化した場合には、直ちに減量または投与中止を検討する必要があります。特に高齢者では、心機能予備能が低下しているため、より慎重な観察と用量調整が求められます。
リスモダン服用中は、めまいや低血糖などの副作用により、日常生活に支障をきたす可能性があります。特に高所作業や自動車の運転など、危険を伴う機械を操作する際には十分な注意が必要です。低血糖が起こると、判断力や反応速度が低下し、事故のリスクが高まります。
服薬指導において重要なポイントとして、PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導する必要があります。PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、穿孔などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるためです。
他の医師を受診する場合や、薬局などで他の薬を購入する際には、必ずリスモダンを使用していることを医師または薬剤師に伝えることが重要です。特に併用禁忌薬や併用注意薬が多数存在するため、薬剤の相互作用を避けるための情報提供が不可欠です。
参考)リスモダンカプセル100mgとの飲み合わせ情報[併用禁忌(禁…
体調がよくなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりしないことも大切です。不整脈の治療は継続的な管理が必要であり、医師の指示なしに中断すると、症状の再燃や悪化のリスクがあります。飲み忘れた場合の対応方法についても、あらかじめ患者に説明しておくことが推奨されます。
レインソング (モダンロマンスリクエストシリーズ フィリス A.ホイットニー)