セルセプトの最も頻繁にみられる副作用は消化器症状で、下痢が12.0%の患者で報告されている。これらの症状は薬剤の作用機序に密接に関連しており、消化管の細胞増殖抑制により発現する。
主な消化器副作用:
消化器症状の管理では、まず症状の重篤度評価が重要である。軽度から中等度の下痢では、食事療法(低繊維食、BRAT食:バナナ、米、りんご、トースト)を推奨し、適切な水分補給を行う。重篤な下痢や血便が認められる場合は、腸絨毛萎縮の可能性を考慮し、速やかな医療機関受診が必要である。
症状が持続する場合は、服薬タイミングの調整(食後服用への変更)や分割投与の検討を行う。それでも改善しない場合は、一時的な投与中断や用量調節を慎重に行うが、移植臓器の拒絶反応リスクとのバランスを十分考慮する必要がある。
セルセプトによる免疫抑制により、様々な感染症リスクが増大する。特にサイトメガロウイルス(CMV)感染は25例中16例(64.0%)で副作用が発現し、CMV血症が9件と最も多い。
重要な感染症副作用:
感染症対策では、定期的な血液検査による早期発見が最重要である。CMVに対しては、PCR法によるウイルス量測定を月1-2回実施し、陽性化時は速やかにガンシクロビルなどの抗ウイルス薬投与を開始する。
BKウイルス腎症は尿検査でのデコイ細胞の検出や尿中BKウイルスDNA測定により監視する。腎機能低下を伴う場合は、腎生検による組織診断を検討し、セルセプトの減量や一時中断が必要となる場合がある。
また、患者・家族への感染予防教育も重要で、手洗いの徹底、人混みの回避、生ものの摂取制限などの指導を行う。発熱時の早期受診の重要性も十分説明する必要がある。
セルセプトは造血機能に影響を与え、血液系の副作用が出現する可能性がある。これらの副作用は感染症や出血のリスクを高めるため、適切な監視が必要である。
血液系副作用の種類:
血液系副作用の管理では、定期的な血算検査(週1回から月1回)を実施し、白血球数3,000/μL以下、血小板数75,000/μL以下、ヘモグロビン8g/dL以下では投与量の調整を検討する。
特に好中球数が1,500/μL以下に低下した場合は、重篤な感染症リスクが高まるため、セルセプトの一時中断や他の免疫抑制薬への変更を検討する。この際、移植専門医と血液専門医の連携による総合的な判断が重要である。
出血傾向がみられる場合は、血小板機能検査や凝固能検査を追加し、必要に応じて血小板輸血や凝固因子製剤の投与を行う。外科的処置を予定している患者では、事前に血液データの確認と必要な補正を行う。
セルセプト治療中には、多様な代謝異常や臓器障害が出現する可能性があり、これらは長期治療において特に重要な管理項目となる。
代謝・臓器系副作用:
代謝異常の管理では、定期的な生化学検査により肝機能(AST、ALT、総ビリルビン)、腎機能(クレアチニン、BUN、eGFR)、電解質バランス、脂質代謝をモニタリングする。特に高尿酸血症は痛風発作のリスクがあるため、尿酸値7.0mg/dL以上では尿酸降下薬の投与を検討する。
高脂血症に対しては、食事療法と併せてスタチン系薬剤の使用を検討するが、セルセプトとの薬物相互作用に注意が必要である。肝機能異常が持続する場合は、他の免疫抑制薬との相互作用や薬剤性肝障害を疑い、必要に応じて肝生検による精査を行う。
甲状腺機能低下症は免疫抑制状態で発症しやすく、TSH、fT4の定期測定により早期発見に努める。甲状腺ホルモン補充療法が必要な場合は、セルセプトの吸収への影響を考慮して服薬タイミングを調整する。
セルセプト治療では、皮膚症状や精神・神経症状といった全身性の副作用も重要な管理対象となる。これらは患者のQOLに直接影響するため、適切な対応が求められる。
皮膚・精神神経系副作用:
皮膚症状の管理では、日常的なスキンケア指導が重要である。乾燥肌に対しては保湿剤の使用を推奨し、感染性皮膚炎の場合は原因菌の同定と適切な抗生剤治療を行う。ざ瘡に対しては、免疫抑制状態を考慮した穏やかな治療(トレチノイン外用薬など)を選択する。
脱毛は患者の心理的負担が大きいため、ウィッグの使用や頭皮ケアについて具体的な指導を行う。また、紫外線による皮膚がんリスクの増加があるため、日焼け止めの使用と定期的な皮膚科受診を推奨する。
精神・神経症状については、器質性病変の除外が最優先である。意識障害やけいれんが出現した場合は、頭部CT・MRI検査、脳波検査を実施し、中枢神経感染症や代謝性脳症の可能性を精査する。認知機能低下がみられる場合は、神経心理検査による客観的評価を行い、必要に応じて認知症専門医への紹介を検討する。
精神症状に対しては、薬剤師との連携による服薬指導の充実と、臨床心理士によるカウンセリングの活用が効果的である。抗不安薬や抗うつ薬を使用する場合は、セルセプトとの薬物相互作用に十分注意し、肝代謝への影響を考慮した薬剤選択を行う。