拒絶反応と症状の種類と診断方法

臓器移植後の拒絶反応には超急性、急性、慢性の3種類があり、それぞれ異なる症状と診断方法が求められます。発熱や腎機能低下など見逃せない症状とは?

拒絶反応と症状

📋 拒絶反応の基本事項
超急性拒絶反応

移植後24~48時間以内に発生し、既存抗体による血管内凝固を伴う重篤な反応

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急性拒絶反応

移植後3ヶ月以内に約30~40%の確率で発生し、発熱や腎機能低下を伴う

慢性拒絶反応

移植後3ヶ月以降に徐々に進行し、免疫抑制薬が効きにくい難治性の反応

拒絶反応の超急性症状と発生機序

 

 

超急性拒絶反応は移植後24~48時間以内に発生する最も重篤な拒絶反応の一つです。この反応は、レシピエント血中に既存するドナー抗原に対する抗体が移植直後に移植臓器の血管内皮上の抗原と結合し、補体古典経路の活性化を介して内皮傷害を引き起こすことで発生します。ABO式血液型不適合移植において凝集素価が高値の場合や、妊娠・頻回の輸血・過去の移植などにより移植前から抗ドナー抗体が存在する場合に起こりやすくなります。msdmanuals+3
内皮が傷害されると基底膜コラーゲンとの接触により血小板の粘着・凝集、凝固因子の活性化が開始され、最終的には移植臓器血管内凝固に至り、急速に拒絶されます。臨床症状としては移植臓器の急激な機能不全が主体となり、腎移植の場合は尿量減少や無尿、移植腎の腫大などが認められます。超急性拒絶反応の診断には移植前のクロスマッチ検査やドナー特異的抗体(DSA)検査が重要であり、予防的対応が中心となります。ims-itabashi+2
ABO血液型不適合腎移植における超急性拒絶反応を予測するために、抗血液型抗体(抗A、抗B抗体)を測定する必要があります。通常は赤血球を用いた凝集反応を用いて抗体価を確認し、拒絶反応のリスクの高い患者を事前に予測します。超急性拒絶反応は現在の医学では発症後の治療が極めて困難であるため、移植前の適切なスクリーニングと脱感作療法が重要な予防戦略となります。shingi.jst+1

拒絶反応の急性症状と臨床所見

急性拒絶反応は移植後3ヶ月以内に約30~40%の頻度で発生し、腎移植患者において最も注意すべき合併症の一つです。主な症状として、38℃以上の発熱(多くは微熱)、全身倦怠感、急激な腎機能の低下(血清クレアチニン値の上昇)、尿量減少、体重増加、血圧上昇、移植腎の腫れや圧痛などが挙げられます。肺移植の場合は息切れ、咳、運動能力の低下、血液中の酸素濃度低下、胸部レントゲン写真の異常などが特徴的です。takeda+5
急性拒絶反応は主にT細胞が関与するT細胞関連型拒絶反応(TCMR)として発生します。移植臓器を異物と認識した免疫系が、移植された臓器を破壊しようとする反応であり、免疫抑制薬を投与しないと1週間程度で移植された臓器は破壊されてしまいます。診断には血液検査による血清クレアチニン値のモニタリングが基本となり、確定診断には腎生検が必要です。腎生検では、尿細管炎や間質への炎症細胞浸潤、血管内皮炎などの組織学的所見が認められます。jbpo+5
看護観察のポイントとしては、バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・呼吸数)の変化、尿量・尿性状の変化、体重の増減(むくみの有無)、腎部(下腹部や背中)の痛みや圧痛、全身症状(倦怠感、食欲不振など)の観察が重要です。急性拒絶反応は免疫抑制薬による治療が効きやすいため、早期発見と迅速な対応が予後改善の鍵となります。msdmanuals+3
肝移植における拒絶反応では、胆汁の流れが悪くなることによる黄疸や、肝機能検査値の上昇も重要な所見となります。心臓移植では、微熱、全身のだるさ、体重増加(むくみ)、脈の乱れや血圧低下、息切れ、動悸、食欲低下、咳、嘔気、胸痛などが急性拒絶反応の症状として現れます。asas+2

拒絶反応の慢性症状と進行パターン

慢性拒絶反応は移植後3ヶ月以降に発生し、徐々に進行する難治性の拒絶反応です。血清クレアチニンが徐々に上昇し、尿蛋白が出現したり、血圧の上昇、貧血、むくみが進行するなど、急性拒絶反応とは異なる緩徐な経過を示します。慢性拒絶反応の特徴として、免疫抑制薬が効きにくく、現在の医学では十分にコントロールできないことが挙げられます。wikipedia+2
慢性拒絶反応の主な原因は、ドナーの細胞に特異的に反応する抗体(DSA:donor-specific antibodies)によるものです。ある報告によると、慢性拒絶反応の原因の約半数は薬の飲み忘れ(怠薬)によるものでした。そのため、処方された免疫抑制剤を規則正しく内服することが免疫抑制療法の基本にして秘訣と言えます。DSAが産生された場合、それに対する治療方法はありますが、十分な効果が得られないことがあります。semanticscholar+1
慢性拒絶反応の診断には定期的な血液検査と腎生検が重要です。症状が顕在化していない場合でも、計画的な腎生検(protocol生検)により定期的にモニタリングすることで、早期発見が可能となります。血液検査では血清クレアチニン値の緩徐な上昇、尿検査では蛋白尿の出現が重要な指標となります。jsn+3
慢性拒絶反応の病理学的特徴として、移植臓器血管の内膜肥厚による進行性の内腔狭窄があり、これにより血流が低下し、虚血、細胞死、最終的には移植臓器の機能不全に至ります。この血管病変は主に抗体介導性拒絶反応(ABMR:antibody-mediated rejection)によるものであり、T細胞関連型拒絶反応(TCMR)とは異なる病態です。慢性拒絶反応は長期的な移植臓器の生着率に大きく影響するため、定期的な外来通院と服薬アドヒアランスの維持が極めて重要です。pmc.ncbi.nlm.nih+2

拒絶反応の診断検査と血液マーカー

拒絶反応の診断には観血的検査と非観血的検査の2つのアプローチがあります。最も確実な診断方法は腎生検(組織生検)であり、拒絶反応の確定診断はこの検査でしかできません。腎生検では、尿細管炎、間質への炎症細胞浸潤、血管内皮炎などの組織学的所見を評価し、Banff分類に基づいて拒絶反応の重症度を判定します。twmu+3
非観血的検査としては、血清クレアチニン値のモニタリングが最も重要です。クレアチニンは筋肉の代謝産物であり、腎臓で濾過されて尿中に排泄されるため、腎機能の急性変化を鋭敏に反映します。ベースラインから上昇した時には、脱水による腎前性因子、急性拒絶反応や感染症による腎性因子、尿管狭窄や結石による腎後性因子の3つを鑑別する必要があります。特に急性拒絶反応は迅速な対応が必要であり、移植腎エコー検査も併用して総合的に評価します。medipress+1
近年では、ドナー由来細胞フリーDNA(dd-cfDNA:donor-derived cell-free DNA)や遺伝子発現プロファイル(GEP:gene expression profile)といった新しいバイオマーカーが拒絶反応の早期診断に活用されています。dd-cfDNAは移植臓器の細胞傷害を反映し、GEPは急性拒絶反応に対して88%の陰性的中率(NPV)を示すことが報告されています。これらを組み合わせることで、診断精度の向上が期待されています。pmc.ncbi.nlm.nih
外周血リンパ球亜群検査も拒絶反応の評価に有用です。T細胞関連型拒絶反応(TCMR)と抗体関連型拒絶反応(ABMR)では、好酸性球比例、リンパ球数、CD4陽性T細胞数などに特徴的な変化が認められます。尿細胞診を用いた尿中単核球細胞、CD8陽性細胞、CD25陽性細胞、HLA-DR陽性細胞の測定も、急性拒絶反応のモニタリングに有効な可能性があります。免疫抑制薬の血中濃度測定も重要であり、シクロスポリンやタクロリムスの濃度を適切に管理することで、拒絶反応と副作用のバランスを取ることができます。asas+3

拒絶反応の治療と免疫抑制療法の管理

拒絶反応の治療には免疫抑制療法が中心となり、複数の免疫抑制薬を組み合わせて使用します。主な免疫抑制薬には、ステロイド(プレドニゾロンなど)、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)、代謝拮抗薬(ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビンなど)、mTOR阻害薬(エベロリムス、シロリムスなど)、抗体医薬品(抗リンパ球グロブリン、抗胸腺細胞グロブリン、バシリキシマブなど)があります。med.nagasaki-u+2
急性拒絶反応に対しては、高用量ステロイドパルス療法が第一選択となります。ステロイド抵抗性の場合は、抗リンパ球グロブリン(ALG)や抗胸腺細胞グロブリン(ATG)などの抗体製剤を使用します。これらの薬剤はT細胞を強力に抑制することで、急性拒絶反応の進行を阻止します。移植直後は4~5種類の薬剤を組み合わせて強力に免疫を抑制し、全身状態や臓器機能が安定すると、薬剤の種類を減らし、それぞれの薬剤は時間をかけて減量していきます。asas+3
免疫抑制薬の管理において重要なのは、「少なすぎず、多すぎず」という原則です。免疫抑制が不十分であれば拒絶反応が発生し、過剰であれば感染症や悪性腫瘍のリスクが上昇します。そのため、血中濃度を測定して投与量を調節する治療薬物モニタリング(TDM:therapeutic drug monitoring)が実施されます。シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬は、腎毒性、神経毒性、高脂血症、高血圧などの副作用があるため、定期的なモニタリングが必要です。kango-oshigoto+4
日本臓器移植ネットワーク:免疫抑制薬の種類と作用機序についての詳細情報
慢性拒絶反応に対する有効な治療法は現在のところ限られており、予防が最も重要です。DSA産生を防ぐために、免疫抑制薬の規則正しい内服を継続することが基本です。遅発性の急性拒絶反応(移植後数年を経て過度の免疫抑制薬減量などによる拒絶反応)に対しては、急性拒絶反応に準じた治療が行われます。ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は内服薬で、難治性拒絶反応に対する治療薬として開発された免疫抑制薬であり、慢性拒絶反応の管理にも使用されます。pmc.ncbi.nlm.nih+3
免疫抑制療法は移植後一生涯継続する必要があります(一部の臓器移植を除く)。免疫抑制療法を中止すれば移植臓器は拒絶され、機能しなくなってしまうため、患者教育と服薬アドヒアランスの維持が極めて重要です。移植から時間が経つにつれて薬の量も減っていくため、薬の副作用や感染症の心配は少なくなりますが、定期的な外来通院と処方通りの服薬を継続することが、長期的な移植臓器の生着に不可欠です。ims-itabashi+3

 

 




【中古】 ヒト移植臓器拒絶反応の病理組織診断基準 第2版/日本移植学会編(著者)