グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は、世界で約4億人が罹患する最も一般的な赤血球代謝疾患です。G6PDは五炭糖リン酸回路の第一段階を触媒し、NADPHの産生を通じて還元型グルタチオンの維持に重要な役割を果たしています。
この酵素が欠損すると、赤血球内の抗酸化能力が著しく低下し、酸化ストレスに対する脆弱性が高まります。正常な赤血球では、G6PDがグルコース-6-リン酸を6-ホスホグルコン酸に変換する際にNADPHを産生し、これが還元型グルタチオンの再生に不可欠となっています。
🔬 発症メカニズムの詳細
疾患は伴性劣性遺伝(X連鎖性)で、男性に多く発症します。G6PD遺伝子には160を超えるミスセンス変異が報告されており、活性レベルに応じてクラスI(重症)からクラスV(正常)まで分類されています。
G6PD欠損症患者では、酸化ストレスを引き起こす薬剤により急性溶血性貧血が誘発されるため、以下の薬剤が禁忌とされています。
📋 主要禁忌薬一覧
抗マラリア薬
抗菌薬
その他の薬剤
🚨 注意すべき薬剤群
特に高濃度ビタミンC点滴療法では、抗酸化作用よりも酸化作用が強く現れるため、G6PD欠損症患者では溶血性貧血及び腎機能障害のリスクが高まります。
G6PD欠損症の診断には、適切な検査方法の選択と結果の解釈が重要です。特に高濃度ビタミンC点滴療法やマラリア治療前の事前スクリーニングでは必須の検査となります。
🔍 検査方法と基準値
G6PD活性定量検査
検査時の注意点
📊 検査結果の解釈
末梢血塗抹標本では、溶血エピソードの初期にbite cellやblister cell、ハインツ小体を有する赤血球が観察されることがありますが、これらは脾臓で除去されるため持続性はありません。
Care Start G6PD Biosensor Analyzerなどのポイントオブケア検査機器も利用可能で、迅速な診断が可能です。
G6PD欠損症患者の周術期管理では、酸化ストレスを最小限に抑える麻酔薬の選択と、溶血イベントの予防が重要となります。
🏥 麻酔薬選択の考慮事項
使用可能な麻酔薬
避けるべき薬剤
💉 周術期管理のポイント
小児患者では、アデノイド切除術や扁桃摘出術などの一般的な手術でも、適切な麻酔薬選択により安全な管理が可能です。ただし、緊急手術時にはG6PD欠損症の既往歴の確認が困難な場合があるため、疑わしい症例では保守的な薬剤選択を行うことが推奨されます。
G6PD欠損症患者の治療では、禁忌薬に対する適切な代替療法の選択が治療成功の鍵となります。特にマラリア治療や感染症治療では、効果を損なうことなく安全な薬剤選択が求められます。
💊 疾患別代替療法
マラリア治療
感染症治療
🌟 新たな治療アプローチ
患者教育と生活指導
アスピリンについては、低用量では比較的安全とする報告もありますが、高用量や長期使用では注意が必要です。個々の患者の重症度とリスク・ベネフィットを慎重に評価した上で使用を検討することが重要です。
治療効果の最大化と安全性の確保のため、G6PD欠損症患者では常に代替療法の選択肢を準備し、多職種連携による包括的な管理体制の構築が不可欠となります。
福岡県薬剤師会の情報センターによる詳細な禁忌薬情報
https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/_1635.html
MSDマニュアルによるG6PD欠損症の包括的解説
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-血液学および腫瘍学/溶血による貧血/グルコース-6-リン酸脱水素酵素-g6pd-欠損症