プロポフォールは短時間作用性の静脈麻酔薬として、全身麻酔の導入・維持および集中治療における鎮静に広く使用されています。本薬剤の最大の特徴は、その優れた薬物動態特性にあります。
プロポフォールの薬物動態は3相性に減衰し、各相の半減期は以下のようになっています。
血漿蛋白結合率は約97%と高く、分布容積は定常状態時で317Lと大きな値を示します。全身クリアランスは1.62L/分で、これらの特性により迅速な導入と覚醒が可能となっています。
プロポフォールの作用機序は、GABA_A受容体への結合によるクロライドチャネルの開口時間延長です。これにより中枢神経系の抑制が生じ、意識消失、健忘、筋弛緩効果を発現します。血管拡張作用もあるため、循環動態への影響も考慮が必要です。
プロポフォール注入症候群(PRIS)は、長期間のプロポフォール投与に伴い発生する稀だが致死的な合併症です。この症候群は特に集中治療領域での長期鎮静において注意が必要となります。
PRISの主要な症状と病態機序。
代謝性アシドーシス 🔬
ミトコンドリア機能障害により乳酸の蓄積が生じ、重篤な代謝性アシドーシスを呈します。血液ガス分析でpH低下とlactate上昇が認められます。
横紋筋融解症 💪
筋細胞の破壊によりCK(クレアチンキナーゼ)値が著明に上昇し、ミオグロビン尿を認めることがあります。急性腎不全の原因ともなります。
心筋障害 ❤️
不整脈、心機能低下、突然死のリスクが高まります。トロポニンの上昇や心電図異常が観察されます。
脂質代謝異常 📊
血清中性脂肪の著明な上昇(triglyceride > 500mg/dL)が特徴的な所見として挙げられます。
PRISのリスク因子として、以下が報告されています。
TCI(Target Controlled Infusion:目標血中濃度制御投与)機能は、プロポフォールの精密な投与管理を可能にする革新的な技術です。この機能により、従来の体重あたりの投与量設定から、目標血中濃度設定による個別化医療が実現されています。
TCI機能の仕組み ⚙️
TCI機能では、Marshモデルが組み込まれた専用シリンジポンプを使用します。このシステムは。
TCI投与の利点 📈
従来の投与法と比較して、TCI機能には以下の利点があります。
注意事項と制限 ⚠️
TCI機能使用時の重要な注意点。
プロポフォール投与時の安全管理は、合併症の早期発見と適切な対応により患者安全を確保する上で極めて重要です。
投与前の準備と確認事項 ✅
投与中の監視項目 📊
生体監視装置による連続的なモニタリング。
血液検査による定期的評価。
緊急時の対応プロトコル 🚨
PRIS疑い時の迅速な対応。
長期鎮静が必要な集中治療患者において、プロポフォールの連続投与はPRISのリスクを高めるため、適切な代替薬選択が重要な臨床判断となります。
代替薬選択の判断基準 🤔
プロポフォールから代替薬への変更を検討すべき状況。
主要な代替鎮静薬の特徴 💊
デクスメデトミジン
ミダゾラム
ケタミン
薬剤変更時の注意点 🔄
代替薬への移行時には以下を考慮。
長期鎮静患者では、daily sedation interruptionやprotocol-directed sedationなどの戦略も併用し、鎮静薬の総投与量を最小限に抑制することが推奨されています。
プロポフォールの臨床使用においては、その優れた薬理学的特性を活かしつつ、PRISをはじめとする重篤な合併症を予防するための適切な安全管理体制の構築が不可欠です。医療従事者は常に最新のエビデンスに基づいた知識を更新し、患者安全を最優先とした医療の提供に努める必要があります。