ドルミカム(一般名:ミダゾラム)は、急性閉塞隅角緑内障の患者には絶対禁忌です。本剤の抗コリン作用により眼圧が上昇し、症状を悪化させる危険性があるためです。眼科的評価が不十分な患者に対しては、事前に緑内障の有無を確認することが重要です。
参考)医療用医薬品 : ドルミカム (ドルミカム注射液10mg)
重症筋無力症の患者も禁忌対象となります。ドルミカムの筋弛緩作用により、重症筋無力症の症状を著しく悪化させる可能性があるためです。筋力低下や呼吸筋の機能不全が既に存在する状態では、本剤投与により致命的な呼吸抑制を招く危険があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00063837.pdf
ショック状態、昏睡状態、バイタルサインの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者への投与も禁忌です。これらの病態では、ドルミカムが呼吸抑制や血圧低下などの症状をさらに悪化させ、生命に危険を及ぼす可能性があります。循環動態が不安定な患者では、少量の投与でも重篤な副作用を引き起こすリスクが高まります。
参考)https://medical.maruishi-pharm.co.jp/medical/media/dormicum_kanzya_230221.pdf
HIVプロテアーゼ阻害剤との併用は絶対禁忌とされています。具体的には、リトナビルを含有する製剤(ノービア、カレトラ)、ネルフィナビル(ビラセプト)、アタザナビル(レイアタッツ)、ホスアンプレナビル、ダルナビルを含有する製剤が該当します。これらの薬剤は薬物代謝酵素CYP3A4に対する競合的阻害作用により、ミダゾラムの血中濃度を著しく上昇させ、過度の鎮静や呼吸抑制を引き起こします。
参考)ミダゾラム|催眠剤・抗不安剤|薬毒物検査|WEB総合検査案内…
エファビレンツ(HIV逆転写酵素阻害剤)およびコビシスタットを含有する製剤も併用禁忌です。これらの薬剤もCYP3A4を阻害することで、ドルミカムの代謝を遅延させ、予期せぬ長時間の鎮静状態を引き起こす危険性があります。HIV感染症患者の処置時には、抗ウイルス薬の使用状況を必ず確認する必要があります。
参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/file/70000/information/22-639.pdf
ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッドパック)も併用禁忌に追加されています。
COVID-19治療薬として広く使用されるようになったため、内視鏡検査や処置を受ける患者における新たな注意点となっています。薬剤相互作用による重篤な呼吸抑制のリスクを回避するため、これらの薬剤を服用中の患者には代替の鎮静法を検討する必要があります。
参考)https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/guide/ph/581120_1124401A1095_1_47G.pdf
ドルミカムの最も重大な副作用として、無呼吸、呼吸抑制、舌根沈下が挙げられます。頻度は0.1〜5%未満ですが、発現した場合には速やかな対応が求められます。呼吸抑制は急速静注時に特に起こりやすく、投与速度の管理が極めて重要です。
参考)ドルミカム注射液10mgの基本情報(副作用・効果効能・電子添…
呼吸機能が既に低下している患者では、さらにリスクが高まります。肺気腫や胸水を有する患者、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では、通常量の投与でも重篤な低酸素血症を引き起こす可能性があります。そのため、これらの患者には投与量の減量や、より慎重な観察が必要とされます。
参考)No.485「内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を受けた患者が低…
ドルミカム投与時には、パルスオキシメーターによる酸素飽和度の連続的なモニタリングが必須です。呼吸抑制が発生した場合は、刺激による覚醒、頭部後屈やあご先挙上法による気道確保、酸素投与を実施します。これらの対応で不十分な場合は、拮抗剤であるフルマゼニル(アネキセート)を静注して覚醒させる必要があります。ただし、フルマゼニルの半減期(約50分)がミダゾラムより短いため、多量投与後は再鎮静が起こる可能性に注意が必要です。
参考)https://www.ips2010.jp/sedative.html
高齢者へのドルミカム投与には特別な注意が必要です。高齢者では薬物の代謝・排泄機能が低下しているため、作用が増強・遷延する傾向があります。通常の成人量の半量程度から開始し、患者の反応を慎重に観察しながら用量を調節することが推奨されます。
参考)http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~syounika/jdpt/reguratori/check/pdf/15/5_midazoramu.pdf
肝機能障害患者では、ミダゾラムの代謝が遅延し、排泄が遅れるため作用が強く長く現れる危険性があります。肝硬変患者では血中濃度が健常者の2〜3倍に達することもあり、投与量の減量が必須です。また、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)などの処置では、基礎疾患として肝障害を有する患者が多く、特に慎重な投与が求められます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca1981/10/3/10_3_276/_pdf
腎機能障害患者においても、ミダゾラムの代謝産物の排泄が遅延するため注意が必要です。衰弱患者や脳に器質的障害のある患者では、中枢神経系への感受性が高まっており、少量でも過度の鎮静を引き起こす可能性があります。これらの患者群では、投与前の全身状態の評価と、投与中の綿密なモニタリングが不可欠です。
参考)381 ミダゾラム④(消化器内視鏡3)|社会保険診療報酬支払…
ドルミカムはベンゾジアゼピン系薬剤であり、GABA~A~受容体に作用して鎮静効果を発揮します。GABA~A~受容体はα、β、γサブユニットから構成される5量体で、ベンゾジアゼピン結合部位はαサブユニットとγ2サブユニットにまたがって存在します。ドルミカムがこの結合部位に作用すると、GABA~A~受容体のGABAに対する親和性が増加し、Cl^-^チャネルの開口が促進されて細胞の過分極が引き起こされます。この結果、神経細胞の興奮性が抑制され、鎮静、抗不安、健忘、筋弛緩作用が発現します。
参考)http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/publication4-1_20161125.pdf
α1GABA~A~受容体は鎮静、前向性健忘、抗痙攣作用を媒介し、α2GABA~A~受容体は抗不安、筋弛緩作用を媒介することが知られています。ドルミカムの特徴として、作用発現が静脈注射後1〜2分と速やかで、作用時間が30〜60分程度と比較的短いことが挙げられます。分布半減期は6〜15分、排泄半減期は1.5〜5時間です。
参考)ドルミカムのみによる意識下静脈内鎮静法 - 原田歯科医院
ドルミカムの安全使用には、適切な設備と監視体制が必須です。添付文書の警告欄には「呼吸及び循環動態の連続的な観察ができる設備を有し、緊急時に十分な措置が可能な施設においてのみ用いること」と明記されています。具体的には、自動血圧計、パルスオキシメータ、心電図モニターの装着が必要です。また、救急カートや気道確保器具、拮抗剤(フルマゼニル)を常に準備しておくことが求められます。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=51314
内視鏡検査における使用では、0.02〜0.03mg/kgをできるだけ緩徐に投与することが推奨されています。患者の年齢、感受性、全身状態、目標鎮静レベル、併用薬を考慮して投与量を決定し、過度の鎮静を避けることが重要です。急速投与は呼吸抑制のリスクを高めるため、必ずゆっくりとした速度で投与します。検査前の絶食管理(最低4時間前から絶食、2時間前から絶飲)も、誤嚥性肺炎のリスク軽減のために重要です。
拮抗剤フルマゼニル(アネキセート)は、GABA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に競合的に結合し、ミダゾラムの作用を速やかに拮抗します。通常0.2mgを静脈内投与し、必要に応じて0.1mg単位で追加投与します。ただし、ベンゾジアゼピン系薬剤の連用患者では、フルマゼニル投与により離脱症状(痙攣発作、不安、興奮など)を誘発する可能性があるため注意が必要です。また、三環系抗うつ剤を併用している患者では、フルマゼニルによりベンゾジアゼピンの作用が低下すると、抗うつ剤の中毒作用が増強する危険性があります。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/2280/
ドルミカムによる鎮静は、意識消失を目指すものではなく、患者の意識を保ちながら恐怖心を取り除き、治療への協力が得られる程度を目標とします。過度に深い鎮静は、開口困難や誤嚥、頻繁な気道確保の必要性など、処置の妨げとなります。適切な鎮静レベルの維持には、Modified Observer's Assessment of Alertness/Sedation(MOAA/S)スコアなどの評価ツールを用いた継続的な評価が有用です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11633862/
依存性形成もドルミカムの重要な問題です。連用により薬物依存が発現し、投与量の急激な減少や中止により痙攣発作、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想などの離脱症状が出現することがあります。長期使用を避け、投与を中止する際は徐々に減量するなど慎重な対応が必要です。
心疾患患者では、心室頻拍や心室性頻脈が発現することがあり、投与中は循環動態の変化に十分注意が必要です。極めてまれですが、アナフィラキシーショックや心停止といった重篤な副作用の報告もあり、初回投与時には特に警戒が必要です。悪性症候群(無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗、発熱)が発現した場合は直ちに投与を中止し、体冷却、水分補給、ダントロレンナトリウム投与などの全身管理を行います。
医療従事者は、ドルミカムの禁忌事項を正確に理解し、投与前のスクリーニングを徹底することが求められます。患者の既往歴、併用薬、全身状態を詳細に評価し、禁忌に該当しないことを確認した上で、適切な監視体制のもとで使用することが、安全な医療提供の基本となります。